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「びらとりトマト」成功の秘訣とは? 高収益を叶えた平取町のトマトブランド化事例

「びらとりトマト」成功の秘訣とは? 高収益を叶えた平取町のトマトブランド化事例
出典 : gontabunta / PIXTA(ピクスタ)

年間販売額が40億円を超える大人気ブランドの「びらとりトマト」は、農業技術の支援や町を挙げた就農支援により発展・成功してきました。この記事では、その具体的な内容をご紹介していきます。

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「びらとりトマト」とは、主に北海道平取町で栽培されているトマトの人気ブランドで、年間販売額が40億円を超えるまでに成長しています。そこで今回は、なぜ「びらとりトマト」がここまで成功したのか、その秘訣に迫ります。

北海道平取町の農業を盛り上げる特産物「びらとりトマト」とは?

びらとりトマト

びらとりトマト
出典:株式会社PR TIMES(株式会社 東急ストア ニュースリリース 2021年6月22日)

まずは、びらとりトマトの特徴や人気となっている理由について紹介します。加工品ブランドなどについても詳しく解説しているので、ぜひチェックしてください。

糖度4%以下は出荷NG!甘くて味わい深い「びらとりトマト」の特徴

びらとりトマトはすべて桃太郎系の品種です。糖度の平均は5~6%と甘みも強く、実が締まっていて日持ちがいいという特徴があります。そもそもトマトは暑さと湿気が苦手です。北海道の中でもさらに冷涼な気候である平取町の環境は、トマト栽培に適しており、美味しいトマトが育つ条件がそろっているのです。

びらとりトマトは選果場で1つずつ糖度を測定して、4%以下のものは出荷しないなど、厳しい基準があります。一方、糖度が8.5%以上のものになると高糖度トマトとして化粧箱入りで販売されます。このように独自の基準を設けることでびらとりトマトのブランド強化を図ってきました。

トマトジュースなど、「ニシパの恋人」ブランドの加工商品も人気

びらとりトマトは、その加工品も「ニシパの恋人」という名前でブランド化し、人気を博しています。ニシパとはアイヌ(北海道の先住民族)語で、紳士、旦那、金持ちという意味です。

ニシパの恋人というネーミングは、ニシパが健康な体を保つために真っ赤に熟れたトマトを毎日食べ、恋人のように愛してしまった、というストーリーに由来します。展開されている商品としては、トマトジュースやトマトピューレ、ミートソースなどです。

「ニシパの恋人」のトマトピューレを入れた「北海道豆と挽肉・野菜のトマトカレー」

JA全農の「みのりみのるプロジェクト」の2016年「ホクレン大収穫祭 in銀座三越」で提供された「ニシパの恋人」のトマトピューレを入れた「北海道豆と挽肉・野菜のトマトカレー」
出典:株式会社PR TIMES(ホクレン農業協同組合連合会 ニュースリリース 2016年9月30日)

なぜ成功した? 平取町が一大トマト産地になるまでの道のりと背景

現在、JAびらとりでは100ha以上でトマトのハウス栽培を行っており、これは北海道の大玉トマト栽培面積の約4割に当たります。そこで、ここではなぜ平取町がこのようなトマトの一大産地になったのか、その道のりや背景を紹介します。

年間販売額は40億円以上!北海道最大のトマト産地である平取町

平取町の位置

suzumeclub / PIXTA(ピクスタ)

平取町は北海道日高地方に位置し、令3年8月現在の人口4,703人、農家戸数401戸、耕地面積が4,827haと農業の盛んな町です。

出典:平取町地域担い手育成センター「トマトの里・北海道平取町で農業をはじめよう!」「びらとり町のご紹介」

また、北海道の中でも降雪量が少なく、夏に冷涼な気候はトマトの栽培に適しており、平成30年にはトマト農家の戸数が164戸、栽培面積は114haまで拡大しました。

出典:平取町「平成30年度町政執行方針」

びらとりトマトは部会で生産スケジュールを決めています。3月10日定植の加温による半促成栽培からはじまり、7月1日定植のハウス雨よけ夏秋どり栽培(抑制栽培)まで、9種類の作型で栽培することを取り決めているのです。これにより、5月上旬~11月中旬の長期間にわたる安定した出荷を可能としました。

トマトの年間販売額は平成23年から継続して40億円を達成しており、これは平取町の農作物販売額の約6割を占めます。出荷先は道内が約15%、近畿圏が約45%、関東圏が約40%となっており、道内外の消費者に対して認知を広げています。

出典:
株式会社誠文堂新光社(カルチベ – 農耕と園藝ONLINE)「自根で育てた「桃太郎」を「びらとり」から全国へ」
北海道日高振興局「すごいっしょ!ひだか」所収「第3回 知ってる?!ひだかのトマト」
独立行政法人農畜産業振興機構 野菜情報 2014年9月号「産地紹介:北海道 JA平取町 北の大地から届けます『びらとりトマト』の生産・販売状況について」

「びらとりトマト」栽培の経緯と、北海道随一のトマト産地として発展できた背景

平取町の水田

kiki / PIXTA(ピクスタ)

平取町では元々米の栽培が盛んでしたが、1972年に減反政策が進められたことをきっかけに6軒の農家がビニールハウスでのトマト栽培を始めました。冷涼な気候と昼夜の寒暖差、地元農家の熱心な取り組み、さらに好景気という後押しもあって栽培面積と出荷量は着々と増えていきます。

1982年にはJAびらとり主導で野菜集出荷施設を建設して共同選果を始めます。これにより選別作業の省力化が実現し、さらに栽培面積の拡大へとつながりました。トマト栽培が始まった頃は棚持ちがよくなく、廃棄量の少ない品種が優先されていましたが、実がしまっていて日持ちがいい桃太郎の試験栽培を開始します。

桃太郎 トマト

yasu / PIXTA(ピクスタ)

1991年には桃太郎に品種を統一し、1992年に販売額が5億円を達成します。1993年には農家の数が100戸を超え、栽培面積も20haを超えました。初めは道外への出荷が伸び悩んでいましたが、予冷庫を作って実の鮮度保持に努めたり、通常よりも遅い時期に生産する抑制栽培の規模を拡大したり、地道な努力を重ねたのです。

また、その後も農作物の表示にかかる制度の認証や新たな就農者の受け入れ、栽培技術のマニュアル化を行った結果、栽培面積は100haを超え、販売額が40億を超える北海道で随一のトマト生産地となりました。

出典:独立行政法人農畜産業振興機構 野菜情報 2014年9月号「産地紹介:北海道 JA平取町 北の大地から届けます『びらとりトマト』の生産・販売状況について」

「びらとりトマト」は農家の熱意と地域のサポートで結実したブランド

先ほど紹介したように、平取町では新たな就農者を積極的に受け入れています。そこで最後に、町を挙げて行われている就農支援の取り組みについて詳しく紹介します。収入などについても解説しているので、気になる方はぜひチェックしてください。

トマトの栽培技術を教わる

YUMIK / PIXTA(ピクスタ)

平取町のトマト農家は儲かる?! 未経験でも不安なく就農可能な、充実のサポートシステム

平取町では、新規でトマト農家になってくれる夫婦を毎年2戸募集しています。応募に当たっては専門的な知識は必要なく、農家実習と実践栽培の研修を2年間行い、安定経営が可能になるまでトマト農家の栽培技術が学べます。

研修では、1年目に受け入れ農家のもとで6~8ヵ月間農作業を学び、トラクターの操作を習得する研修も受講します。研修2年目には実践農場でトマト栽培を行い、指導を受けながらすべての作業を自ら行うのです。過去にはこの研修で27組が移住して新規就農を叶えており、研修からの就農率は85%にも上ります。2年間の研修後は、平均年収1,200万円以上の経営も可能です。

地域でも新規の就農者をとても好意的に受け入れているため暮らしやすく、収穫後の11~2月にはまとまった休みを取ることもでき、メリハリのある生活を送れます。

出典:平取町地域担い手育成センター「トマトの里・北海道平取町で農業をはじめよう!」
「就農までの道のり」
「実践農場」
「トマト農家の仕事」

トマト産地としての発展に寄与。まだある、平取町の「移住・就農したくなる」補助制度

平取町をトマト産地として発展させるため、町としてもさまざまな補助制度を設けています。

その1つが、新規の参入者への補助金です。自己資金が500万円以上あることが条件とはなりますが、就農時に500万円を上限とした整備費用を助成してくれるため、負担が大幅に軽減されます。

出典:平取町地域担い手育成センター「トマトの里・北海道平取町で農業をはじめよう!」
「研修生への支援対策」

また、各農場の近くには家族で暮らせる3LDKの住宅が用意されており、4年間月2万円の家賃で借りることが可能です。

さらに平取町のトマト栽培では、大型の選果設備を完備した販売システムが整っており、共同の育苗施設や土壌を診断する施設、営農を指導する体制など支援システムも充実しています。

平取町には地域担い手育成センターや農業支援センターといった施設もあり、専門スタッフが農業や生活環境に関する相談、あるいは質問にメールや電話で親切に対応しています。また、新規の就農者や地域の農家で作る支援組織が各地区にあり、就農から生活までさまざまなアドバイスをするなど、町ぐるみで受け入れ態勢を整えていることが魅力です。

※詳細は、平取町地域担い手育成センター「トマトの里・北海道平取町で農業をはじめよう!」をご覧ください。

日本で農業の担い手が減少している中、平取町が行っているこれらの取り組みはトマト産業の発展に大きく寄与しているだけではなく、今後は地域全体の発展や盛り上がりにも大きな役割を果たしていくでしょう。

平取町 すずらん群生地

Masasi Chisaka / PIXTA(ピクスタ)

今回は、びらとりトマトがなぜブランド化に成功し、平取町がどのようにトマトの一大産地となったのか、その理由について紹介しました。平取町は元々トマト栽培に適した地域ですが、農家の地道な努力と手厚いサポート体制が成功の大きな要因となったのです。

平取町では常に新たな就農者の受け入ることにより、技術を受け継ぐ担い手が不足するという大きな問題もクリアしています。びらとりトマトは今後も長期的な発展に期待が持てるブランドといえるでしょう。

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百田胡桃

百田胡桃

県立農業高校を卒業し、国立大学農学部で畜産系の学科に進学。研究していた内容は食品加工だが、在学中に農業全般に関する知識を学び、実際に作物を育て収穫した経験もある。その後食品系の会社に就職したが夫の転勤に伴いライターに転身。現在は農業に限らず、幅広いジャンルで執筆活動を行っている。

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