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伊万里きゅうりのV字回復|前編:ベテラン農家の知恵×「技」を生かした成功体験と問題点の把握

伊万里きゅうりのV字回復|前編:ベテラン農家の知恵×「技」を生かした成功体験と問題点の把握
出典 : JA伊万里きゅうり部会

陶磁器で名高い伊万里市はきゅうり産地としても知られています。産地存続が危ぶまれるほどの状況だった11年前に就農し、V字回復の機運をつくったのがJA伊万里きゅうり部会に所属するEVER GREENの中山道徳さんです。前編では、ベテラン農家の知恵と技を吸収して独り立ちしたストーリーをお聞きします。

EVER GREEN園主 中山道徳(なかやま みちのり)さん プロフィール

11年前、自動車整備士として務めていた会社を退職し、父が手がけていた佐賀県伊万里市のきゅうり農家を継承。環境制御を取り入れた新農法の採用や土耕栽培から養液栽培への転換など、さまざまな革新をもたらし、農林水産省「農業電化推進コンクール」では大賞を獲得した。

EVER GREEN園主 中山道徳(なかやま みちのり)さん(右)

EVER GREEN園主 中山道徳(なかやま みちのり)さん(右)
写真提供:JA伊万里きゅうり部会

きゅうり産地としての存続が危ぶまれる中での挑戦

佐賀県のJA伊万里きゅうり部会は、最盛期は売上高6億7,000万円を達成し、きゅうりの産地として名を馳せていました。しかしその後、きゅうり栽培の存続が危ぶまれるほど売り上げが落ち込んだ時期があったと中山さんは語ります。

売り上げが落ち込んでいた11年前のJA伊万里きゅうり部会

EVER GREEN園主 中山道徳さん(以下敬称略) 私が務めていた会社を辞めて就農した11年前が、まさにそのような状況で、JA伊万里きゅうり部会の売上高は3億9,000万円まで落ち込んでいました。原因はやはり、農業全体の課題ともいえる「農家の後継者不足と高齢化」だったと聞いています。

跡継ぎがいなければ田畑は休眠状態となり、ともすれば宅地化して二度と田畑に戻らないというケースが増えています。日本の少子高齢化の波は、産地存続の危機にまで及んでいました。

「きゅうりは儲からない」という意識が蔓延し高齢化

中山 私がきゅうり栽培を始めた際には、ネガティブな情報を何度も耳にしました。「きゅうりは儲からないから、やめたほうがいい」という地元農家の声です。

儲からないという意識が蔓延しているから、なおさら若い担い手も集まりません。JA伊万里きゅうり部会の中には「胡青会」という青年部会があるのですが、私が入会したときは、全員が50代~60代でした。

まさに高齢化する農業問題そのものの様相ですが、中山さんは「自分にとっては、これが逆に追い風になった」と語ります。

ベテラン農家の教えを吸収し、1年目から収量30tを達成

中山 「高齢化」といっても、見方を変えれば自分以外は全員ベテラン農家で、きゅうり栽培の名人達に囲まれていたようなものです。若手がいないJA伊万里きゅうり部会に「20代の若手が入ってきた!」と評判になり、随分とかわいがってもらいました。

中山 「高齢化」といっても、見方を変えれば自分以外は全員ベテラン農家で、きゅうり栽培の名人達に囲まれていたようなものです。若手がいないJA伊万里きゅうり部会に「20代の若手が入ってきた!」と評判になり、随分とかわいがってもらいました。

中山 農家を一軒一軒訪ねてノウハウを学ばせてもらいました。そしてそれぞれのノウハウのよいところを自分なりに組み合わせて、きゅうり栽培に挑戦してみました。

すると1年目からいきなり、10a当たり30tの収量を達成できたのです。当時の平均収量が18tだったので、周囲のきゅうり農家を驚かせる結果となりました。

きゅうりは一度作付けすると、30日後には毎日収穫できるようになります。つまり毎日出荷して収益を得られる作物なのです。

中山 あれほど「きゅうりは儲からない」といわれていましたが、「やり方次第で、きゅうりは儲かるじゃないか」と思いました。この成功体験が、本格的なきゅうり栽培を始めるきっかけとなったのです。

きゅうりは一度作付けすると、30日後には毎日収穫できる

きゅうりは一度作付けすると、30日後には毎日収穫できる
写真提供:JA伊万里きゅうり部会

成功体験で気づいた地域農業の2つの問題点

中山さんは、1年目のきゅうり栽培の成功体験を通じて、JA伊万里きゅうり部会が抱える2つの問題点に気づいたといいます。そして「きゅうり産地存続の危機を招いた原因は、少子高齢化だけではなかった」と語ります。

問題点-1. 受け継がれた慣行農法への依存

農業先進国であるオランダやアメリカでは、科学的なデータに基づいて改善を重ねる栽培方法が主流です。それに対し日本の農業は、営々と続いた慣行農法に頼っている部分が多くあると中山さんはいいます。

中山 例えば、日本のきゅうり農家の一般的な収量は、10a当たり20t未満であるのに対し、オランダのきゅうり農家の収量は、その4倍の80tです。

なぜこれほどまでに差がついたのかといえば、オランダでは早くから科学技術による生産性の向上やオートメーション化を図っていたからです。しかし日本は、いまだに先祖代々受け継いだ慣行農法にこだわっている農家が多いのが現実です。

問題点-2. ノウハウが共有されないために発生した収量格差

中山 もう1つの問題点は、日本の農家の職人気質な面が裏目に出てしまったことです。各農家が長年培った経験を活かし、それぞれの方法で土を作り、独自の技を培っているのですが、それが共有されていないのです。

栽培のノウハウが産地全体に共有・蓄積されないと、収量を上げて儲かる農家とそうではない農家の格差が生まれます。この収量格差が、産地としての衰退を招いた原因の1つだといいます。

ノウハウの共有が収量を上げることは、周囲のベテラン農家から栽培の技を学び、そのノウハウを組み合わせることで成功した中山さん自身の体験が証明していました。

中山さんはベテラン農家のノウハウを学びつつ、新しい仕立て方などの新技術をとりいれている

中山さんはベテラン農家のノウハウを学びつつ、新しい仕立て方などの新技術をとりいれている
写真提供:中村道徳さんInstagram

後編では、ベテラン農家の知恵と技を学んだ中山さんが、農業にサイエンスを積極果敢にとりいれて収量を上げ、その知見を共有し地域農業を牽引していこうという取り組みを詳しくお聞きします。

※後編へ続く

松崎博海

松崎博海

2000年より執筆に携わり、2010年からフリーランスのコピーライターとして活動を開始。メーカー・教育・新卒採用・不動産等の分野を中心に、企業や大学の広報ツールの執筆、ブランディングコミュニケーション開発に従事する。宣伝会議協賛企業賞、オレンジページ広告大賞を受賞。

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