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「世界基準の品質」のネギが販路を拓く。世界市場をめざす朝倉物産の経営戦略

「世界基準の品質」のネギが販路を拓く。世界市場をめざす朝倉物産の経営戦略

朝倉物産株式会社の「ねぎドレッシング」は、テレビで紹介されたこともあり、多くのファンに愛される逸品です。こだわりのネギを惜しみなく使った商品を生み出した朝倉物産 代表取締役の花田さんに、軸となる戦略についてお話を伺いました。

朝倉物産株式会社 代表取締役 花田信一(はなだ しんいち)さんプロフィール

朝倉物産株式会社 代表取締役 花田信一さん

朝倉物産株式会社 代表取締役 花田信一さん
写真提供:朝倉物産株式会社ホーム太陽と緑の大地 あさくら農園より」

ネギ農家の2代目として農業を継ぎ、朝倉物産株式会社として法人化。国内で3番目にグローバルGAP認証を取得するなど、栽培環境からこだわった高品質のネギを百貨店やスーパーを中心に直接取引で販売している。自園のネギを自社工房「Speranza(スペランツァ)」で加工した「ねぎドレッシング」は、国内だけでなく海外にも出荷されている。

「儲かる農業」のために必要な「農業知識」と「価格決定権」

花田さんがネギ農家の2代目として就農したのは1985年のことでした。元々農業を継ぐつもりはなかったものの、花田さんの父が倒れたことをきっかけに「自分が農業を継ぐしかない」と、就農を決意しました。

しかし、農業については素人の自分が、ネギ農家として「儲かる農業」を営むためには、ただがむしゃらに取り組むだけではダメだと感じていたそうです。

農家の営業や経営のためには、農業の知識が欠かせない

朝倉物産株式会社 代表取締役 花田信一さん(以下 役職・敬称略) 私は「農業がやりたい」と思って就農したわけではありませんでした。だからこそ根性だけでは継続は難しく、利益にもつながらないと思っていました。

それならば農業ができる人を雇って、自分は営業や経営に徹しようと考えたのです。

しかし、実際に農家の経営をやってみると、農業の知識がなければ効果的な営業を行うことも難しく「自分も経営者として、ネギ栽培の知識を学ぶ必要があると実感した」と花田さんは言います。

直接販売で「儲かる農業」をめざす

花田 ネギ栽培に取り組むうちに、丹生込めて栽培した品質の高い作物であっても、相場に左右される市場に出荷しているだけでは「納得できる値段で売るのは難しい」と感じるようになりました。

花田さんは、自分たちの努力を「利益」という結果につなげるためには、価格決定権を握れる直接販売がベストだと考えました。

そこで、早速ネギの直接販売をめざして営業活動を始めますが、初めはなかなか直接販売の契約には至らなかったといいます。

法人化によって直販というハードルを乗り越える

朝倉物産株式会社 収穫後 調整・出荷を待つネギ

収穫後 調整・出荷を待つネギ

一農家が高単価で直接販売を行う難しさ

当時の朝倉物産は、まだ法人化しておらず、花田さんは、一農家として営業活動に奔走していました。

花田 私たちは、高品質のネギを栽培できるからこそ、それに見合う高単価で販売したいと考えていました。そこで、スーパーや百貨店でも高単価で仕入れてもらえるように交渉していました。

しかし、高単価かつ新規取引となると、実際に売れるかどうか見通しが立ちにくいことも事実です。そのため、スーパーや百貨店などの営業先からは、よい返事がもらえない日々が続きました。

法人化によって営業先の信頼を獲得し、直接販売を実現

花田 どうしたら高単価かつ新規取引でも仕入れてもらえるのかを営業先にも相談してみました。すると「法人化されている相手であれば、信頼性が高まる」とアドバイスをもらったのです。「なるほど」と思い、早速法人化に向けて動き出しました。

花田さんは、法人化したことで従業員を雇いやすくなり、生産性や品質の向上にもつながったといいます。そして、法人化によって組織の信頼性が高まり、ついに直接販売の契約を獲得できるようになりました。

朝倉物産株式会社ホームページ内「ねぎお取り扱い店」

朝倉物産株式会社 法人化では従業員の働きやすさを重視し、長く勤務する従業員を確保

法人化では従業員の働きやすさを重視し、長く勤務する従業員を確保

「世界基準の品質」という他社にない強みが販路を拓く

農業で利益を上げるために、花田さんが重視していたのは「販路拡大」と「品質と生産性の向上」だといいます。中でも販路拡大については、「国内基準で満足していたら、よりよい結果を出せない」と考えていました。

海外でも評価されるものは、長く愛される

花田 農業に限らず、全ての産業にいえることですが、10年、20年と長い期間、需要があり続けるものは、国内だけではなく海外でも評価されていることがほとんどです。例えば、TOYOTAの車やCanon、Nikonのカメラ、UNIQLOや無印良品の衣料品などが挙げられます。

花田さんは、国内で長く愛されている製品は、海外でも愛されていると感じたといいます。

花田 多くのお客様に長きにわたって愛していただくためには、朝倉物産のネギにも、海外でも通用する「世界基準の品質」が必要だと考えました。

ターゲットを明確にして、品質で勝負

花田さんは、高単価なネギを販売するターゲットを「食にこだわりがあり、購買条件を満たすものであれば高価でも購入する人、またはそれだけの経済的余裕がある人」として絞り込みました。

食にこだわりがある人や、食にお金をかける経済的余裕がある人は、すでに国内外の付加価値の高い作物を知っている可能性があります。そういったターゲット層に選んでもらうためには、競合商品よりも高品質なネギを提供できなければなりません。

花田 高単価での販路開拓、販路拡大のためには、世界に通用するクオリティのネギ栽培が不可欠でした。

朝倉物産株式会社 採れたてのネギを新鮮な状態で出荷できる設備を整備している

採れたてのネギを新鮮な状態で出荷できる設備を整備している

グローバルGAP認証を取得し、世界基準のネギ栽培を実現

世界基準のネギを栽培するために、朝倉物産はグローバルGAP認証を国内で3番目に取得し、栽培環境の整備に力を入れています。

花田 これまでも高品質な作物を栽培するために、栽培環境の保全や、栽培を持続できるしくみづくりが重要と考え、独自で工夫して取り組んでいました。

しかし、海外でも対応できる品質のネギを作るのであれば、これまでの環境整備の取り組みだけではなく、海外でも認められた基準をクリアすることが必要だと考えたのです。そこで、グローバルGAP認証取得に向けて動き始めました。

グローバルGAP認証を取得することで、品質の向上はもちろん、生産工程が明確化され、生産性の向上や資材コストの削減につながります。

朝倉物産株式会社 農機を使いやすくするために整備されたほ場周辺の様子

農機を使いやすくするために整備されたほ場周辺の様子

花田 グローバルGAP認証を獲得するに当たって、国内ではまだ認証獲得に取り組んでいる農家が少なかったこともあり、手探りで取り組むことになりました。クリアしなければならない条件も多く大変でしたが、世界基準をめざすに当たって必要な取り組みだったと感じています。

品質の高さを支える独自の生産技術

朝倉物産株式会社 日光をふんだんに浴びた、みずみずしいネギ

日光をふんだんに浴びた、みずみずしいネギ
写真提供:朝倉物産株式会社ホームページ「太陽と緑の大地 あさくら農園より」

花田さんが「儲かる農業」をめざすために、販路拡大とともに重視していたのは「品質と生産性の向上」です。どのような取り組みを行い、品質と生産性の向上を実現させたのでしょうか。

季節ごとの日射状況に合わせたまき溝作り

ネギ栽培の中でも葉ネギの栽培では、ほ場に15cmほどの間隔でまき溝を作って播種する方法が一般的です。

しかし、朝倉物産では、まき溝の間隔をあえて広めにとり、季節ごとの日射状況に合わせて、ネギ1本1本にしっかりと日光が当たるほ場作りをしています。

まき溝の間隔を広く取ることで、ほ場当たりの収量は減りますが、たくさん日光を浴びた高品質のネギを栽培できるといいます。

朝倉物産株式会社 実際のほ場の様子

実際のほ場の様子

水害の多い地域でもネギ栽培に適したほ場を維持

朝倉物産のある福岡県朝倉市は、市内各地に筑後川やその支流・分流が流れており、豪雨による川の氾濫や洪水被害が多い地域の1つです。場合によってはほ場ごと水没することもあり、その度に大きな損失が生じてしまいます。

花田 朝倉市を始めとした筑後川流域で農業をするとなれば、水害対策は必須です。対策としてほ場を分散させる農家が多いですが、それだけでは収量減は免れません。

長く付き合いのある取引先であれば、水害による出荷量の減少を受け入れてくれるかもしれません。しかし何も対策をしなければ、取引が継続できなくなった場合に対応できなくなります。

そこで、朝倉物産株式会社では、ほ場に排水用のポンプを設置し、水害時でもネギ栽培に適した水はけのよいほ場を維持できる対策を取っています。

朝倉物産株式会社 ほ場の排水ポンプ

ほ場の排水ポンプ

さらにほ場の灌水量を制限し、空気を多く含んだ軽い土壌でネギ栽培を行っています。耐水性の高いネギの性質を生かし、適度な負荷を与えることで、水害対策だけではなく、よりおいしいネギの栽培にもつながると花田さんは語ります。

朝倉物産株式会社 土が柔らかく乾燥しているため、収穫時の負担も減る

土が柔らかく乾燥しているため、収穫時の負担も減る

花田 水害の多い地域だからこそ、損害を未然に防ぎ、収量を確保できる環境整備は欠かせません。そのための投資は、必要経費だと考えています。

朝倉物産株式会社 土を盛り地面との段差を大きくすることも水害対策となっている

土を盛り地面との段差を大きくすることも水害対策となっている

農業ビジネスの可能性を広げたオリジナルの「ねぎドレッシング」

朝倉物産では、自社で栽培したネギを使ったドレッシングの製造・販売を行っています。「あさくら農園より」と題した自社ホームページ上には料理が得意な従業員が考案したドレッシング活用レシピが公開されています。

この朝倉物産の「ねぎドレッシング」は、多くのメディアから注目されており、農業ビジネスの新たな可能性を生み出しているのです。

朝倉物産株式会社 新鮮なネギを使ってドレッシングを製造

新鮮なネギを使ってドレッシングを製造

「ねぎとレッシング」誕生のきっかけは顧客のアイデア

花田 ドレッシング製造のきっかけは、取引先のレストランが、私たちの栽培したネギを使ってドレッシングを手作りしていたことです。「独自に作ってみたけれど、もっとおいしくできるはず」といわれ、素人ながらに私たちも商品開発を始めました。

試行錯誤を繰り返し、試作品が完成しましたが、朝倉物産株式会社がめざしているのは「世界基準の品質」です。それに足るクオリティになっているかは、自分たちでは判断がつきませんでした。

一流ホテルの料理長が味を評価

そこで花田さんは、国内有数の一流ホテルに宿泊し、そのホテルの料理長にドレッシングの味を評価してもらえないか打診してみたといいます。

花田 一流ホテルのシェフが味を認め、料理に使えると判断したものであれば、私たちも自信を持って販売できます。さらに「一流シェフが認めた」という付加価値を得ることもできます。

飛び込みで依頼をしたため、ホテルの料理長からは断られることも覚悟していましたが、快く対応していただき、試作品の味を見ていただくことができました。

試食に応じたシェフからは、高い評価をもらうことができ、自信を持って「ねぎドレッシング」の販売をスタートできたと花田さんは語ります。

自社の通信販売で新たな顧客を獲得

朝倉物産の「ねぎドレッシング」は、収穫後の新鮮なネギを使い、ほ場近くの自社工房で製造されます。高品質かつ新鮮なネギを使ったドレッシングは、さまざまな料理との相性がよく、百貨店だけでなく通信販売でも多く販売されています。

朝倉物産株式会社ホームページ内「ねぎドレッシングお取扱店」
朝倉物産株式会社 ショップサイト

朝倉物産株式会社 ホームページでは従業員が考案したレシピを見ることができる

ホームページでは従業員が考案したレシピを見ることができる
写真提供:朝倉物産株式会社ホーム太陽と緑の大地 あさくら農園より」「ねぎドレレシピ」

これまでスーパーや百貨店との取引が主であった朝倉物産にとって、自社の通信販売で、消費者への直接販売を実現したことは、農業ビジネスの可能性を広げることにつながったのではないでしょうか。

海外展開を成功させるための挑戦

世界基準の品質での生産・販売を軸に農業に取り組んでいる朝倉物産では、商品の海外出荷も行っています。

花田 主にイタリアのレストランに「ねぎドレッシング」を出荷しています。取引先の紹介で海外の日本製食品展示会に参加したり、イタリアやフランスのレストランを回ったりして、地道な営業活動を行い、新たな販路を獲得しました。

ゆくゆくはアメリカの大手スーパー「ホールフーズマーケット」での商品展開をめざしています。

朝倉物産株式会社の「ねぎドレッシング」

朝倉物産株式会社の「ねぎドレッシング」
写真提供:朝倉物産株式会社ホーム太陽と緑の大地 あさくら農園より」

朝倉物産は、「世界基準の品質」という、競合(competitor)にはない、自社(company)の高付加価値型の強みを軸に、潜在顧客(customer)を明確にすることで、販路を拓き利益がでる農業を実現しています。

そして、独自の生産技術とマネージメントを着実に積み上げることで、その戦略を支えています。戦略とマネージメントの両輪が朝倉物産の農業ビジネスを大きく成長させた重要なポイントだといえるのではないでしょうか

福馬ネキ

福馬ネキ

株式会社ジオコス所属。「人の心を動かす情報発信」という理念のもと、採用広告を中心にさまざまな媒体で情報発信を手がける株式会社ジオコスにてライターを務める。

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