客土とは? 農地整備における目的・効果と、土壌別の実施方法
客土とは、既存のほ場や土地に新たな土を搬入し、土壌改善を図る方法です。客土により、作物の品質や機械の作業効率などの向上が期待できます。本記事では、農業における客土の目的や効果、実施方法、費用の目安について解説します。
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目次
農業における「客土(きゃくど)」とは?
農地整備における客土とは、ほかの場所から良質な土をほ場に運び入れて土壌を改良する技術のことです。
客土は、作土が浅い耕地や不適切な土壌特性を持つ耕地、漏水性の高い水田や老朽化した水田などに適用されます。客土によって、作物の根の発育促進や水分・養分の保持能力向上が期待でき、収量増加にもつながります。最近では、土壌汚染の復旧にも活用されています。
客土と盛土の違い
客土は、土壌の質を改善するために他所から適切な土を持ち込んで、農作物の生育に適した環境を整えることが目的です。
一方、盛土は土地の形状を整えるために土を盛り上げる工法です。主に建設現場で用いられ、地形の調整や土地の有効利用、建設基盤の整備が目的です。
つまり、客土は土壌改良が目的であるのに対し、盛土は地形調整が主な目的となります。
客土を行う3つの目的と期待できる効果
土壌改善には、排水対策や天地返し、有機物・土壌改良剤の投入などの方法がありますが、土壌の抜本的な改善をめざすのであれば、客土を検討してみましょう。ここでは、客土を行う目的と効果について紹介します。
1. 土壌の物理性を改善する
土壌を構成する土の層
Volha - stock.adobe.com
客土によって土壌の物理性が改善されると、作物の根張りが良好になったり、機械による農作業の効率アップが期待できます。土壌の物理性とは、土壌の保水性・排水性・通気性による緻密度を表します。
心土破砕や暗渠(あんきょ)施工の実施が難しい場合でも、客土を行うことで効果的な土壌改善が可能です。
客土で土壌の物理性を改善する場合、栽培する作物に適した土壌選びが重要です。客土に使用する土壌を選ぶ際は、土壌のpHとEC(電気伝導度)を確認し、栽培する作物に適した値かどうか確認しましょう。
2. 作土厚を確保する
客土によってほ場1枚当たりの土壌量が増えるため、栽培する作物に適した作土厚(作土深)を確保できます。作土厚が確保できれば根を十分に張れる領域が広がり、作物の増収にもつながります。
一方、農業機械の接地圧や降雨などによる土壌流亡によって客土後に作土厚が薄くなる可能性がある点には注意が必要です。
作土厚の確保を目的に客土を行う際は、数回に分けて作業を行い、石灰やりん酸肥料・有機物を施用するのが土壌改善のポイントです。また、作土下(心土層)に礫層・耕盤層が存在する場合は礫層の破砕と破砕後の除礫が有効ですが、客土が選択される場合もあります。
3. 作土の土性を改善する
作土の土性改善を目的として客土を行う事例も見られます。土性とは、砂・シルト・粘土の粒径組成(重量%)によって示される土壌の区分です。物理性・化学性と密接な関連性があるため、農業では重要な土壌性質として位置づけられています。
例えば、粘土の含有量が増えれば保肥力が高まりますが、一方で、砂壌土や砂土の割合が減るため排水性・通気性が低下します。客土による土性改善の効果を高めるには、ほ場の土性区分を見極めたうえで改善目標となる粒径を決め、客土する土壌を選ぶことが大切です。
【事例】北海道で稲作を可能にした客土の例
開拓された石狩平野の田園
田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)
客土によって土壌を改善した事例として、北海道石狩地方が挙げられます。「ななつぼし」や「ゆめぴりか」など、有名な水稲品種を栽培する石狩地方ですが、もともとは稲作に不向きな泥炭地だったのです。
第二次世界大戦後、日本は深刻な食料不足に直面していました。この問題を解決するために、国の主導で北海道石狩地方での稲作開発プロジェクトが始まりました。
広大な泥炭地を改善するために、主に以下の作業が行われました。
- 客土による土壌改善
- 土中の水の排水整備
- 水路の確保
この事業が進められた結果、不毛地帯であった石狩地方に広域におよぶ豊かな水田地帯が誕生したのです。
そして、2024年現在も石狩地方の空知郡雨竜町では、地区ごとに客土が行われており、農地拡大に向けた取り組みが続いています。
出典:国土交通省北海道開発局「北海道を豊穣の大地に-泥炭を克服した篠津地域泥炭地開発」
NHK 北海道 NEWS WEB「雨竜町で田植え前に「客土」 田んぼに良質の土混ぜ土壌改良」
客土工法の主な種類
川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)
客土は、ほ場と土壌の環境に応じて適切な工法が変わります。客土で採用される4つの工法について解説します。
上乗せ客土
上乗せ客土とは、既存のほ場の上に外部の土壌を重ねる工法です。目標とする作土厚をスムーズに実現できますが、作土厚が増えた分だけほ場の高さが増します。そのため、水路・畦を中心に客土を実施する区画全体の整備を行なう必要があります。
土壌の浅い位置に耕盤層がある場合は、排水に影響を来したり土壌流亡の原因になったりする可能性があります。そこで、客土前に心土破砕を実施しておくのが有効です。
出典:農研機構「技術紹介パンフレット|診断に基づく小麦・大麦の栽培改善技術導入支援マニュアル」よりminorasu編集部作成
排土客土
排土客土とは、ほ場内の土壌の一部を撤去したあとに、新たな土壌を運び込む工法です。土壌診断の結果と栽培作物の特性を踏まえて、撤去する土壌の深さを決めます。
有害物質などで土壌が汚染されている場合は、少なくとも根圏以上の深さの土壌を撤去するのが客土の効果を高めるポイントです。撤去した土壌を処分する場所の確保も必須です。
埋込客土
埋込客土とは、削り取った作土をほ場内に埋め込んでから、外部から持ち込んだ新しい土壌を上乗せする工法です。富山県で、カドミウムに汚染された農地を復元する工事の際に採用された工法として知られています。
外部の土壌を入れる前に、作土を埋め込む穴を掘った際に発生した土で耕盤層を作ります。撤去した土壌の廃棄が難しい場合の選択肢となりますが、地下水位が高いほ場では施工が困難です。
また、ほ場が高くなるため上乗せ客土と同様に区画整備が必要となります。
土層反転
土層反転とは、作土層と下層土を反転させたり混和したりして土壌改善を図る工法です。深耕・心土破砕と組み合わせて実施する場合もあります。混層耕と呼ばれることもあり、客土で使用する土壌を十分に確保できない場合の選択肢となります。
土壌に応じた客土の実施方法
春の北海道厚沢部町でほ場の客土作業をする風景
川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)
客土を実施する際は、ほ場の性質や状態を踏まえて、適切な土壌を選ぶことが重要です。ここでは5つの土壌の特性を紹介しつつ、客土の具体的な実施方法も解説します。
砂土
砂土とは、砂の含量が85%以上かつ粘土含量が0~15%でザラザラした手触りの土壌です。土壌生成が十分に進んでいない状態で海岸沿いの砂丘・砂地にある場合は、砂丘未熟土と呼ばれることもあります。
排水性・通気性などの物理性に優れている反面、保水性・保肥性といった化学性の点では劣ります。化学性を補うために、養分が多く粘土質の土壌を10a当たり5~10t客土するのが効果的です。生物性を向上させるために、有機物・堆肥も併せて施用します。
重粘土
重粘土とは、粘土の含量が45%以上の土壌で、柔らかく粘り気があるのが特徴です。地下水に飽和されたグライ土や灰色低地土を含む場合もあります。
保肥力は高めですが、通気性・透水性が悪いので湿害・干ばつのリスクは高くなります。土壌pHが強く表土も薄いため、作物栽培には適さないといわれています。
土壌の物理性を確保するため、砂土・山土を10a当たり10~20t客土します。併せて、有機物の施用や心土破砕の実施・排水設備の整備などで総合的な土壌改善を実施します。
老朽化水田
老朽化水田とは、鉄やマンガンなどの塩基類が土壌から溶脱して水稲の生産が困難になった水田のことです。畦畔からの漏水でも養分の溶脱が発生する場合があります。
土壌の透水性が高い一方で遊離酸化鉄が非常に少ない状態となるため、土壌に硫化水素が残存して根に障害を引き起こします。下葉の枯れ上がりが多くなる「秋落ち」という現象も発生し、減収となりがちです。
土壌改善では鉄分・塩基成分やCECの高い粘土の補給に加えて、山土を10a当たり15~20t客土します。畦畔からの漏水対策として客土を実施する場合もあります。
泥炭地
泥炭地(泥炭土壌)とは、植物の遺体が十分に分解されないまま堆積した土壌です。水分が多く、わずかな力が加わるだけで排水され、地盤沈下が起こりやすい性質を持っています。
有機物は多いものの、土壌pHが強く窒素も多く放出されるため、作物栽培には適さないとされています。作物の栽培に当たっては、土壌の排水対策とともに、作土厚が5~15cmになるように鉱質土壌の客土が必須です。
生育不良土壌
以下のような土壌は、作物の生育が不良になりやすい土壌です。
- 緻密度が高すぎて根が十分に張れない土壌
- 微生物が少なくて有機物が分解されにくい土壌
- 土壌pHが強酸性・アルカリ性を示す土壌
- 水はけが悪い土壌
物理性・化学性・生物性のバランスが取れるよう、水田土壌や山土を中心に客土するのが効果的です。
客土の入手方法と費用(単価)の目安
u.yoshifusa / PIXTA(ピクスタ)
客土に使用する土は、農業土木工事を行う建設会社で購入可能です。農業資材の販売店で売られている土は、家庭菜園向けに調合されていることから、農業事業体としての土壌改善には不向きなため注意が必要です。
建設会社から土壌を購入する場合の価格相場は、以下のとおりです。
土の種類 | 1平方m当たりの税別価格 |
---|---|
黒土 | 4,000円〜5,000円程度 |
赤土 | 2,000円~5,000円程度 |
出典:株式会社英建「参考価格」、株式会社田中建設「建設発生土・各種土壌の価格表」、本多採土「土専門店が『良質な土』をお届けします!」よりminorasu編集部まとめ
購入した土壌をほ場へ配達してもらう場合、配達距離や土の搬入量に応じた送料が加算されます。また、土壌の搬入後の整地作業に関連する費用も別途考慮する必要があります。そのため、客土を実施する前には費用の見積もりを行うのがおすすめです。
農地整備で客土を行う際の注意点
農地整備のために客土を行う際は、手続き上で注意すべき項目があります。ここでは、客土を行う前に把握しておきたい注意点を解説します。
農地改良の届出を行う
genzoh / PIXTA(ピクスタ)
客土を行う際は原則として、農業委員会に「農地改良の届出」を提出する必要があります。客土を行う方法によっては、届出だけでなく農業委員会からの許可も必要です。
ただし、農業委員会が定める工事期間や客土する土の高さ・土質などの要件を満たしていれば、届出不要になる場合もあります。
客土による農地改良の届出で必要な申請書類や手続き方法は、自治体や事業計画によって異なります。トラブルを防ぐためにも、届出前に自治体に問い合わせて相談してください。
出典:市町村の農地改良の届出について
富津市「農地の埋立」
さいたま市「農地改良について(土の搬入を伴うもの)」
半田市「農地改良届」
経費計上の可否を確認する
genzoh / PIXTA(ピクスタ)
客土で必要な土壌の購入費や工事費は、必要経費として計上することが可能です。
客土の勘定科目は、「土地改良費」に該当します。土地改良費は10a当たり1万円未満であれば、全額経費として計上できます。
客土で発生した必要経費の計上方法で不安がある場合は、税理士や会計士、もしくは国税庁に問い合わせるといいでしょう。
出典:公益社団法人 日本農業法人協会「農業の会計に関する指針」所収「農業法人標準勘定科目」
周南市「農業収入の必要経費」
客土は、ほ場の土壌改善に有効な施策の1つです。栽培している作物に適切な土壌で客土を行えば、生産性の改善が期待できます。
客土に必要な費用は、土壌の種類や量、工事費用によって変動します。ほ場の状態に適した客土を行うためにも、事前の土壌診断と費用の見積もりを行ってください。
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