みどりの食料システム戦略とは? もらえる補助金と取り組み例
「みどりの食料システム戦略(通称:みどり戦略)」では、従来の農林水産業を見直し、イノベーションによる生産力向上と持続性の実現を目標としています。本記事では、みどり戦略とは何かを分かりやすく説明し、農家としてみどり戦略に取り組むメリットとデメリット、補助金や具体的な事例を解説します。
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目次
「みどりの食料システム戦略(みどり戦略)」とは?
にしやひさ / PIXTA(ピクスタ)・biscuit / PIXTA(ピクスタ)
「みどりの食料システム戦略(以下、「みどり戦略」)」とは、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立を革新的な方法(イノベーション)で実現するために、2021年に国が策定した政策方針です。
みどり戦略が打ち出された背景には国内外の農業を取り巻くさまざまな課題があります。
日本の農林水産業は、深刻化する担い手の減少や高齢化などの影響を受けて、生産基盤のぜい弱化や地域コミュニティの衰退が顕在化しつつあります。さらに、近年では温暖化による気候変動や自然災害の頻発などが生産現場に与える影響も深刻化しています。
世界に目を向けると、SDGsや環境保全を重視して経済と環境をイノベーションで両立させる動きが始まっており、日本でも国際環境交渉や諸外国の農薬規制の拡がりに的確に対応していくことが求められています。
これらの問題を解決し、国外の動きにも対応するためには、持続可能な食料システムを構築することが急務となっているのです。
みどり戦略の主な目標設定(KPI)
みどり戦略では、「2050年までにめざす姿」として農林水産業におけるCO2(二酸化炭素)排出量ゼロを掲げ、さらに農業や食品製造業、食品企業、林業、漁業それぞれのめざす姿を具体的に示しています。
そのうち農業に関するものとして、以下のような目標(KPI)が掲げられています。
- 化学農薬の使用量(リスク換算)を50%低減
- 化学肥料の使用量を30%低減
- 有機農業の取り組み面積を25%まで拡大
出典:農林水産省「みどりの食料システム戦略トップページ」所収「みどりの食料システム戦略パンフレット(閲覧用)」(3ページ:みどりの⾷料システム戦略(概要))
みどり戦略の4つのステージ
みどり戦略では、目標を達成するための具体的な取り組みを、「調達」「生産」「加工・流通」「消費」という4つのステージに分けて例示しています。
出典:農林水産省「みどりの食料システム戦略 トップページ」掲載の「みどりの食料システム戦略(具体的な取組)」よりminorasu編集部作成
1.調達
みどり戦略における「調達」のステージでは、資材・エネルギー調達における脱輸入・脱炭素化・環境負荷軽減を推進します。具体的には、持続可能な資材・エネルギーの調達、地域・未利用資源の一層の活用、資源をリユース・リサイクルする技術や体制の確立を進めます。
「調達」の取り組みとして、例えば以下のようなものが期待されています。
- 地産地消型エネルギーシステムを構築する取り組み
- 食品残渣や汚泥などから肥料成分を回収し活用する取り組み
2.生産
みどり戦略における「生産」のステージでは、イノベーションなどによる持続的生産体制の構築を推進します。
具体的には、高い生産性と持続性を両立できる生産体系への転換や、農機の電化・水素化など脱炭素燃料化の推進、農地・森林・海洋へのCO2の大量・長期貯蔵、環境負荷を軽減する作物の品種開発などを進めます。
「生産」の取り組みとしては、例えば以下のようなものがあります。
- スマート技術導入によるピンポイント農薬散布や施肥管理
- バイオ炭の農地投入技術
「スマート技術導入によるピンポイント農薬散布や施肥管理」とは、ほ場の画像データなどをAIが分析して生育状況を見える化し、最適な場所に最適な量の肥料や農薬を散布する「可変施肥(散布)」と呼ばれる技術です。
可変施肥は、最先端の栽培管理支援システムを使えばドローンなどを使わずスマホで手軽にできるため、導入しやすくなりました。
▼可変施肥については、こちらの記事をご覧ください。
また、バイオ炭の農地への投入というのは、バイオマスの活用方法の1つで、バイオ炭を土壌に撒くことで土壌が改良され、作物の収量アップにつながります。これは二酸化炭素を土壌に閉じ込めることになり、みどり戦略で大きな目標とされているCO2排出削減に貢献できます。
▼バイオ炭については、こちらの記事をご覧ください。
3.加工・流通
みどり戦略における「加工・流通」のステージでは、ムリ・ムダのない持続可能な加工・流通システムの確立を目指しています。
具体的には、無理なく持続できる輸入食料・原材料への切り替え、AIなどを活用した加工・流通の適正化と合理化、長期保存・長期輸送に適した包装資材の開発などを進めます。
「加工・流通」の取り組みとして、例えば以下のようなものがあります。
- 需給予測システム、マッチングによる食品ロス削減
- 非接触で人手不足にも対応した自動配送陳列
4.消費
みどり戦略における「消費」のステージでは、環境にやさしい持続可能な消費拡大と食育促進を目指しています。具体的には、食品ロスの削減、消費者と生産者の交流・相互理解の推進、日本型食生活の総合的な推進、建築の木造化・木質化の推進などを進めます。
「消費」の取り組みとして、例えば以下のようなものがあります。
- 外見重視の見直し等、持続性を重視した消費の拡大
- 国産品に対する評価向上を通じた輸出拡大
実施農家を認定する「みどりの食料システム法」
みどり戦略の実現に当たっては、農家はもちろん食料調達・生産・加工・流通・消費の関係者が一丸となって、環境負荷低減に取り組んでいくことが求められます。
2022年4月22日、みどり戦略の実現のために、「環境と調和のとれた食料システム確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律」(以下、「みどりの食料システム法」)が成立し、同年7月1日に施行されました。
みどりの食料システム法では、みどり戦略を実現するために、食料システムの関係者で共有すべき基本理念を定めるとともに、農家(生産者)や事業者による環境負荷低減に向けた取り組みを後押しする認定制度を設けています。
環境負荷低減を図る取り組みに関する計画の認定を受けることで、さまざまな支援を最大限受けられるようになります。
▼みどりの食料システム法について詳しく知りたい方は、こちらの記事も参照してください。
補助金も! みどり戦略を活用する農家のメリット
みどりの食料システム法の認定を受けることにより、農業者には主に次の5つのメリットがあります。
- 「みどりの食料システム戦略推進交付金」の対象になる
- 農業改良資金などの無利子・低利子融資が受けられる
- 「みどり投資促進税制」で所得税・法人税の負担が軽くなる
- 農地転用許可などの行政手続きが簡単になる
- 国庫補助金の採択で優遇される
以下、それぞれのメリットについて解説します。
「みどりの食料システム戦略推進交付金」が受け取れる
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「みどりの食料システム戦略推進交付金」は、みどり戦略の実現に向けた取り組みを支援するために制定されました。各地域において、環境負荷の低減と持続的発展に向けて地域ぐるみで行うモデル地区となる取り組みを支援します。
交付金の対象となるのは7つの事業であり、農業者に大きく関わるのはそのうちのひとつ、「グリーンな栽培体系への転換サポート」です。
「グリーンな栽培体系」とは、化学農薬・化学肥料の使用量を適正化することや、有機農業の取り組み面積を拡大することと、温室効果ガス削減のための栽培技術、省力化のための先端技術などを組み合わせた栽培体系のことです。
こうした栽培体系に転換するための地域ぐるみの活動に対して交付金が支給されます。そのため、交付対象となる事業実施主体の要件は、以下の構成員を含むこと、さらに組織の協定や規定などについて一定の要件を満たすことが必要です。
農業経営を行う個人・法人や農業関係団体(以下、農業者)、実需者、農機メーカー、農薬メーカー、肥料メーカー、ICTベンダー、農業協同組合の営農指導事業担当、市町村、都道府県などにより構成されていること。
特に、普及組織としての都道府県、農業協同組合の営農指導事業担当、農業者は必ず含まれていること。
出典:農林水産省「みどりの食料システム戦略トップページ」所収「みどりの食料システム戦略推進交付金交付等要綱」(50ぺージ)
農業改良資金などの無利子・低利子融資が受けられる
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みどりの食料システム法の計画認定を受けると、環境負荷低減に取り組む農家などの生産者や、技術提供などを行う事業者は、通常よりも有利な借入条件で融資を受けられます。
農家の場合、土づくりや化学肥料・化学農薬の使用適正化、温室効果ガスの排出量削減などに向けた計画が認定されると、必要な設備などへの資金繰り支援が受けられます。
この支援の対象となれば、日本政策金融公庫により無利子で借り入れできる「農業改良資金」などの償還期間が延長される、といった措置が取られます。
「みどり投資促進税制」で機械や建物への特別償却が適用される
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みどりの食料システム法の計画認定を受けた農家は、化学肥料・化学農薬の使用適正化を目的として機械・施設などを導入する場合に、 機械などには32%、建物には16%の特別償却の適用を受けられます。
これは、環境負荷低減に取り組む農家や事業者の設備投資を促進するために、みどりの食料システム法に基づいて2022年に創設された「みどり投資促進税制」によるものです。
ただし、対象は化学肥料・化学農薬の削減に取り組む場合に限る点と、対象の機械は国が基盤確立事業で認定したものに限る点に注意が必要です。
みどり投資促進税制についてさらに知りたい方は、パンフレットを参照してください。
農林水産省「みどりの食料システム法について」所収「みどり投資促進税制」
農地転用許可などの行政手続きが簡単になる
pp7 / PIXTA(ピクスタ)
環境負荷の低減に取り組むモデル地区としてみどりの食料システム法の計画認定を受けた場合、各種行政手続きが簡単になります。
具体的には、必要な施設整備などに関する農地転用許可や、補助金等交付財産の目的外使用の承認などを申請する際の手続きがワンストップ化できます。
これは、みどりの食料システム法の「みなし規定」によるものです。ただし、この措置は地域ぐるみの活動を行うモデル地区にのみ適用されるもので、農家個人には適用されません。
出典:農林水産省「みどりの食料システム法について」所収「みどりの食料システム法の認定制度等について(令和6年(2024年)11月)」
国庫補助金の採択で優遇される
みどりの食料システム法による計画認定を受けると、先述した「みどりの食料システム戦略推進交付金」や「強い農業づくり総合支援交付金」など、さまざまな国庫補助金の採択において優遇されるメリットがあります。
「強い農業づくり総合支援交付金」を含む、補助金・交付金についてさらに知りたい方は、こちらの記事も参照してください。
▼農業関連の補助金について、網羅的に知りたい方は、「komeny」内の以下の記事をご覧ください。
デメリットはある?みどり戦略の注意点
みどり戦略のデメリットとしては、認定を受けるための栽培法は慣行法に比べて、農薬や化学肥料の使用量を減らす分、収量や品質に影響を及ぼす恐れがあることが挙げられます。
特に、有機農業については、栽培技術が確立されておらず指導できる人が極めて少ないという問題を抱えています。
また、栽培時の環境負荷を低減するために新たな技術を導入する際には、コストがかかる点も見逃せません。さらに、特例税制が受けられるのは、認定された計画に記載のある機械などのみであることにも注意が必要です。
【事例】みどり戦略の対象となる農家の取り組みとは?
みどり戦略の対象となる取り組みには、みどりの食料システム戦略推進交付金に関する地域の取り組みと、みどりの食料システム法の認定制度に関する地域または生産者の取り組みがあります。
実際にみどり戦略に取り組んでいくためには、作付けしている作物にどのような環境負荷低減対策が適用できるかをまず知るところから始めることをおすすめします。
農林水産省がみどり戦略の実現に向けて現場への普及が期待される技術を取りまとめている「みどりの食料システム戦略技術カタログ」から、参考になるみどりの食料システム法の認定制度に関する生産者の取り組み例を紹介します。
出典:農林水産省「みどりの食料システム法について」所収「みどりの食料システム法の認定制度等について(令和6年(2024年)11月)」よりminorasu編集部まとめ
みどりの食料システム法の認定制度では、国が示した基本方針に沿って、農林水産業の生産者やモデル地区となる地域が環境負荷低減事業活動実施計画を作成し、都道府県・市町村から認定されれば、支援を受けることができます。
対象となる生産者の取り組み類型は、「土づくりと化学肥料・化学農薬の使用低減」「温室効果ガス削減」「⽔耕栽培と化学肥料・化学農薬の使⽤低減」など多岐にわたります。
土づくりと化学肥料・化学農薬の使用低減
生産者向け計画認定の取り組み類型のうち、「⼟づくりと化学肥料・化学農薬の使⽤低減」に該当する取り組みとは、例えば次のようなものが挙げられます。
- 農作業スケジュール管理アプリによる農薬・肥料の削減(作物全般)
- 堆肥、緑肥等有機物の施⽤による⼟づくり (緑肥を活⽤した⽔稲栽培での肥料の使⽤削減)(水稲)
- 土壌改良資材と薬剤散布適期連絡システムを基本としたイネ稲こうじ病の総合防除対策(水稲)
出典:農林水産省「「みどりの食料システム戦略」技術カタログ」所収「現在普及可能な技術「みどりの⾷料システム戦略」 技術カタログ〜現在普及可能な新技術〜(Ver.4.0)」
温室効果ガスの排出量削減に寄与する設備の導入
みどりの食料システム法の生産者向け計画認定のうち、「温室効果ガスの排出量の削減に資する事業活動」に該当する取り組みとは、具体的に次のようなものが挙げられます。
- 自動運転田植機(水稲・温室効果ガスと労働生産性)
- 水田の中干し延長によるメタン発生量の削減(水稲)
- バイオ炭の農地施用(水稲、野菜、果樹など)
出典:農林水産省「「みどりの食料システム戦略」技術カタログ」所収「現在普及可能な技術「みどりの⾷料システム戦略」 技術カタログ〜現在普及可能な新技術〜 (Ver.4.0)」
上記は、環境負荷低減のための事業活動のごく一部です。実施計画を策定する際は、各地域の食料システム基本計画を踏まえたうえで、みどりの食料システム戦略技術カタログなどを参考にしてください。
metamorworks / PIXTA(ピクスタ)
国内外の農業をとりまく状況の変化に対応するために策定された「みどり戦略」の目標設定を達成するためには、生産力向上と持続性の両立を可能にするイノベーションの実現が必要です。
この実現に向けて、国では交付金・融資条件の優遇・行政手続きの簡素化など、さまざまな後押しをしています。この機会をチャンスと捉え、経営規模の拡大やブランド化、地域ぐるみでの産地形成などに取り組むとよいでしょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。