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米(稲)の収量を増やす方法は? 倒伏を防ぐ栽培のコツと、技術開発の最新動向

米(稲)の収量を増やす方法は? 倒伏を防ぐ栽培のコツと、技術開発の最新動向
出典 : freeangle / PIXTA(ピクスタ)

水稲栽培を始めたものの、思うように収量が上がらないという場合には、栽培管理の行程でいくつか見直すべきポイントがあるかもしれません。この記事では、収量を増やすための栽培管理のコツや、収量減を招く倒伏を防ぐ方法について詳しく解説します。

水稲の収量を増やすには、まず幼穂生育期の施肥のやり方など、日々の栽培管理の改善が重要です。本記事では、水稲の収量アップにつながる栽培管理のコツとともに、収量アップのためのアグリテックや遺伝子組み換え技術など、先端技術に関する最新動向をご紹介します。

米(稲)の収量減|原因の1つは「倒伏」にある

水稲の倒伏

Yoshi / PIXTA(ピクスタ)

水稲の収量増の方法として、まず思いつくのは肥料の施用ではないでしょうか。確かに、適切に施肥をすれば収量は増えるはずですが、施肥のタイミングや量を間違えると水稲の徒長につながり、かえって減収の原因となる倒伏が発生しやすくなってしまいます。

「倒伏」とは、収穫前に水稲が根元から折れて倒れてしまうことで、台風などの天候の影響もありますが、水稲が徒長することによって発生しやすくなります。

倒伏すると、折れた部分から養水分を吸収しにくくなってしまうため穂が育たず、収量減や品質低下を招きます。さらに穂が水に浸かると、籾が発芽したり病害虫に侵されたりして、収穫できなくなることもあるのです。

徒長の要因は、施肥のタイミングや量以外にも日照不足が考えられます。特にコシヒカリなど倒伏しやすい品種では、徒長を防ぎ、根元の節間が短く根張りのよい丈夫な水稲に育成するための栽培管理が必須です。

コツを押さえて収量増! 水稲を倒伏させない栽培管理のポイント

ここでは、倒伏しにくい丈夫な水稲を生育するという観点に絞って、栽培管理のポイントを解説します。

秋耕は、根張りをよくする「耕深15cm」を確保

秋耕

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安定した収量や品質を確保するうえで、秋耕は重要です。秋耕で稲わらやもみ殻をすき込むことにより、春までに土壌中の有機物が増え、地力のアップが期待できます。また、このときに肥料を施用して土作りをすることで、根の活着が促進され、丈夫な水稲に生育しやすくなります。

特に、秋耕を深さ15cm以上で行うことで、根域が広がって根張りがよくなり、生育が安定します。これにより、倒伏せずに登熟の向上が可能です。秋耕では土壌中の虫や雑草の種子を深く埋め込むため、病害虫の防除や除草の効果がある点もポイントです。

こうした多くのメリットを活かすために、秋の暖かいうちに15cmの深耕を行うよう心がけましょう。

丈夫な健苗を育成する「薄播き」と、過剰分げつを防ぐ「小苗植え」

水稲の播種

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昔から「苗半作」といわれるように、苗作りは水稲の生育を左右する重要な行程です。太い健苗を生育させるためには、育苗箱への播種量を乾籾で1箱当たり130~150gの薄播きにするとよいでしょう。催芽籾重の場合は、この1.25倍にしてください。

田植え

刃ライム / PIXTA(ピクスタ)

田植えの際は、1株当たり約4~5本の小苗植えがおすすめです。10a当たり150g播きで18箱、130g播きで20箱を目安にするとよいでしょう。

1株当たり6~8本の大苗植えの場合、過剰分げつとなって茎が細くなる傾向にあり、倒伏しやすくなります。

また、葉が茂りすぎると根元が日陰となり、節間が徒長し倒伏しやすくなるので、特に早期に葉が茂りやすい大型の長稈品種は注意しましょう。

茎を太く、かつ、1穂当たりの着粒数を増加させる、田植え後の「深水管理」

深水管理の目的は、行う時期によって異なります。

田植え直後~活着するまでの間は、「水は外気温の影響を受けにくい」という性質を利用して、暑さや寒さから苗を保護する目的で行われます。この場合、苗丈の3/4(約7~8cm)ほどの深さに水を張り、苗が活着してしっかり根を張るまで1週間ほど続けます。

田植え後の深水管理

Yoshi / PIXTA(ピクスタ)

分げつ期に行う深水管理では、過剰分げつの発生を抑え、草丈がやや短く茎の太い株に生育することを目的とします。これにより穂数はやや少なくなるものの、穂着粒数を増やしつつ登熟の向上が期待できます。特に、コシヒカリのような倒伏しやすい品種に有効です。

この時期の深水管理では、10~15cmの水深で15~25日ほど続け、最高分げつ期から穂首分化期の頃に終わらせます。茎の機能を向上させると同時に、白未熟粒の発生を抑える効果も期待できます。

ただし、深水管理は十分な用水量や畦の高さがあり、なおかつ水田の保水力が高いなど、水田の条件が揃わないとできない点には注意が必要です。

基肥の窒素は削減。出穂期の15~20日前に「穂肥」を施用

田植え前に施用する基肥は、7月下旬頃までに苗が大きく生育するために使われます。従来は、初期生育をよくして分げつを促すため、基肥をある程度施用することが推奨されていました。

ところが、その結果、過剰分げつを起こして節間が弱くなり、倒伏しやすくなることがわかりました。そのため現在では、基肥の窒素を従来の半分〜3/5程度に削減し、ゆっくり分げつを促すことを奨めている地域もあります。

水稲 幼穂形成期

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茎の中に穂ができ始める幼穂形成期になったら、追肥が必要です。これを「穂肥」といいます。穂肥は量やタイミングが難しく、少ないと穂が育たず、多いと水稲の第4節間が伸びて倒伏しやすくなってしまいます。

穂肥の適期は、倒伏に強い品種であれば出穂期前23~20日、コシヒカリのような倒伏に弱い品種は出穂期前15日が基本です。早すぎると籾数は増えるものの倒伏しやすくなり、遅れると籾数は少なくなりますが倒伏しにくくなります。

幼穂形成期を知るには、葉の色が淡くなってくるのが出穂期前20日頃なので、そこからおおよその適期を判断できます。より正確に幼穂形成期を知るには、平均的な生育の株の主幹を抜き取り、カッターなどで根元を割いて幼穂の生育を確認しましょう。

コシヒカリの場合は、幼穂が1mmなら出穂期25日前、8mmなら18日前、20mmで15日前、80mmで10日前が目安です。

効率的な作付け計画で高収益化を実現。収穫期をずらす「作期分散」という考え方

水稲の生育ステージ

ここからは、施肥と倒伏防止以外の視点から、収量を増やすための栽培方法について解説します。

管理しているほ場の中で米の品種を1種類に限り、同じ工程で栽培すると、すべて同時期に収穫することになります。

この場合、収量に対して作業の人員やスペースなどが足りなければ、適期収穫ができず、刈り遅れによる品質低下や収量減を招きかねません。また、異常気象や病害虫などが発生した際、すべてのほ場に同様の被害が及ぶ危険性もあります。

これを避けるため、収穫時期の異なる品種を複数作付けしたり、直播と移植を組み合わせたりして、収穫時期をずらす方法を「作期分散」といいます。

例えば、移植栽培でコシヒカリを作付けしていた場合、ほ場の一部を早生品種とし、ほかの一部をコシヒカリの直播にすると、これまでの収穫期よりも前に早生品種の収穫が始まります。そして、移植コシヒカリの収穫後に直播コシヒカリの収穫が始まる、といった具合に収穫適期が拡大します。

これにより作業が分散し、効率よく適期に収穫できます。また、機械の稼働率も上げられるため、少ない機械でも多くの米を収穫・乾燥でき、コストパフォーマンスの向上にもつながります。

熊本県では実際に、地域の水田を集約化して大規模栽培を行っている農家で、収穫期の遅い業務加工向け多収米など異なる品種の組み合わせと、同じ品種でも移植・直播を分けることで作期分散し、9月初旬~11月中旬までの3ヵ月以上にわたり収穫を行っている事例があります。

アグリテックで米の収量を増やす! スマート農業の導入事例

収穫量マッピングのイメージ

収穫量マッピングのイメージ
出典:株式会社PR TIMES(ヤンマーホールディングス株式会社 ニュースリリース 2020年6月2日)

近年、水稲栽培でも農地集約による大規模化が進んでいます。このような大規模な水田ほど効果を発揮するのが、「スマート農業」の技術です。以下では、最先端技術による収量アップの可能性について見ていきましょう。

なにができる? 水稲栽培におけるスマート農業技術の活用

スマート農業とは、ロボット技術や情報通信技術(ICT)などの先端技術を活用し、農作業の省力化や精密化、高品質な作物の生産量・収量増などを図る取り組みのことです。水稲栽培においてもこうした取り組みは見られ、さまざまな形で実用化されています。

例えば「水管理システム」は、水田にセンサーを設置することで適切な水分量に自動調整したり、ほ場の水管理をスマートフォンやタブレットから遠隔操作したりできます。

また「ドローンリモートセンシング」は、ドローンの空撮画像から作物の生育状況を緻密に分析します。そのデータをもとに生育ムラに応じた施肥量を計算してくれるため、施肥計画に活かせるのみならず、収量・食味の均質化や安定化が可能です。

そのほか、GPSを活用した自動操舵システム搭載のトラクターや田植え機、コンバインなども登場しています。その一例が、次項でご紹介するIoTコンバインです。

「IoTコンバイン」の導入で細やかな栽培管理を実現。収量・品質を向上させた事例

株式会社クボタは独自のクラウドシステム「KSAS(ケーサス:Kubota Smart Agri System)」を開発し、営農支援を行っています。KSASでは、同社から会員に向けて情報発信したり、会員が同社の機器を通して情報を集積したりできます。

そのKSASの一部であるIoTコンバインは、国内農地の5%が導入しているともいわれており、日本の新しい農業を牽引しています。

このコンバインは収集と同時に、内蔵センサーで単位面積当たりの収量・タンパク質含有率・水分量を測定します。そして、そのデータをクラウドで解析し、同じKSASの一部である乾燥機での乾燥工程に活かしたり、翌年の田植えの施肥量を調整したりします。

田植え機やトラクターなどをKSASで揃えることで、各工程でデータを共有・蓄積でき、さらに精密な栽培管理が可能になるでしょう。

実際に、IoTコンバインの導入後3年で収量が15%アップした事例もあるそうです。今後、スマート農業の技術が収量や品質の向上にもたらす影響は、より一層強まることが予想されます。

多収を実現した「遺伝子組み換えイネ」も登場。技術開発の最新動向

稲の遺伝子(イメージ)

ipopba - stock.adobe.com

収量増に関わる技術としては、遺伝子組み換えも日々進化を続けています。

名古屋大学の研究チームは2021年2月、遺伝子組み換えによって養分吸収のしくみを強化したイネで、収量が3割以上アップしたとの研究結果を発表しました。同論文はイギリスの科学誌『ネイチャー・コミュニケーションズ』に掲載され、各ニュースサイトなどでも取り上げられています。

実際に、この遺伝子組み換えイネが商業栽培可能となるためには、生物多様性への影響評価や食品としての安全性評価などを受ける必要があり、まだまだ実用には遠い状況です。

とはいえ、将来的にこの技術が水稲を含めたさまざまな農産物の収量増を実現する可能性もあり、今後の農業への大きな影響が期待されます。

稲の登熟度のチェック

Yoshi / PIXTA(ピクスタ)

米(稲)の収量アップは、多くの水稲農家にとって切実な希望といえます。

施肥の調整や収穫期の分散、最新技術の活用などによって、安定的に高い収量を得られる方法を確立していきましょう。

大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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