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適期収穫稲刈りに最適な時期はいつ? 適期収穫を実践するためのポイントと最新技術artswai / PIXTA(ピクスタ)

稲刈りに最適な時期はいつ? 適期収穫を実践するためのポイントと最新技術

丹精込めて育てた水稲を良質米として収穫するために、稲刈りの適切な時期を確認しておきましょう。収穫の遅れや早刈りは、胴割米や未熟米などの品質低下を招く恐れがあります。収穫シーズンを迎える前に、本記事で収穫適期の正しい予測方法をおさらいしておきましょう。

目次

稲刈り時期の見誤りは、米の品質低下や収量減につながるリスクとなります。近年は猛暑などの異常気象の影響もあり、収穫適期の判断に悩む農家は多いでしょう。収穫のベストタイミングを逃さないためのポイントを解説します。

早い or 遅いとどうなる? 稲刈りの時期が品質に与える影響

収穫時期は米の出来栄えに影響するfreeangle / PIXTA(ピクスタ)

良質な米を収穫するためには、稲刈りの適期をしっかり見極めることが大切です。収穫が早すぎたり遅すぎたりすると、米の出来栄えや収穫量に大きく影響します。

早刈り・刈遅れで未熟米が多くなる

高温障害による白未熟粒
高温障害による白未熟粒
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

収穫が適期より早すぎた場合や、逆に早生品種などで刈遅れた場合に、未熟米の割合が多くなります。未熟米は、成熟しきっていない粒のことで、緑色が残っているものは青米とも呼ばれます。

未熟米が多くなると、籾すりの際に出るくず米の量が増え、最終的な収量が少なくなる恐れがあります。また、米の水分量が多いため、乾燥作業に手間や時間がかかることも考慮に入れなければなりません。

収穫が遅いと胴割れ米に

収穫が適期より遅すぎると、米の色艶が悪くなり、亀裂が入る胴割れ米が発生しやすくなります。胴割れは、水分量が減り乾燥することで起きる現象で、精米時に米粒が割れやすくなり仕上がりや食味が悪くなります。

稲刈りの適期を見極める方法

籾の色づき度合いは収穫適期を見極める手掛かりYoshi / PIXTA(ピクスタ)

水稲は、生育状況を分析することで、大体の収穫適期を予想することができます。具体的な予測方法とポイントを確認しましょう。

収穫適期の予測は、出穂期からの積算温度が基本

水稲の収穫適期は、出穂期からの積算温度を目安に予測するのが基本です。積算温度とは、平均気温を加算した値のことです。出穂とは穂から1粒以上の籾が確認できる状態のことで、40~50%の水稲で出穂が見られたら出穂期と見なします。

一般的に、水稲は出穂から45日程度経過し、積算温度が1,000℃に到達したタイミングが刈り取り時期とされます。必要な積算温度は品種によって異なるため、栽培している品種の積算温度を確認しておきましょう。

こしいぶきなどの早生品種なら、出穂から35日頃、積算温度は950~1,000℃を目安とします。コシヒカリなどの中生品種は、出穂からおよそ40日後頃、積算温度が1,000~1,050℃になる頃が適期です。晩生品種の新之助などは、出穂から50日頃、積算温度が1,050~1,100℃に達した段階で収穫を行います。

籾の色づき度合いは収穫適期を見極める手掛かり
出典:新潟地域振興局農林振興部 「 【新潟地域】 稲作技術情報 No.5」、 岡山県「備南広域農業普及指導センター発! 営農技術情報(作物編) 所収備南広域農業普及指導センター「営農技術情報(作物編)適期収穫で、良質米の生産を! 」よりminorasu編集部作成

出穂期から登熟期にかけて気温が高温傾向だった場合は、積算温度を50℃程度低めに設定し、早めの収穫予定を立てるようにしましょう。

都道府県の農政部などが、出穂期以降の積算温度や生育調査をもとに、品種別の収穫適期の目安予測を定期的に提供しています。

実際の刈取日予測は、各自治体が出穂期以降の積算温度や生育調査をもとに、品種別の予測を定期的に提供していますので、必ず確認してください。

「籾の黄化」を基準に判断する方法は、気候の影響を受けにくく精度が高い

黄化率は緑色の部分がない籾の割合を目視で確認するlove18love / PIXTA(ピクスタ)

近年は、登熟期に当たる夏が猛暑になることが多くなり、積算温度による予測だけでは正確な収穫適期が判断しにくくなっています。そこで用いられているのが、黄化した籾の割合を調べる方法です。黄化した籾が85~90%になった状態が、刈り取り始めの目安になります。

黄化率は、目視で確認します。穂軸から枝が9本ほど生えているものを10本用意し、上位3~4本目の枝の籾が全て黄化しているかを見ます。10本中8本がその基準をクリアできていれば、刈り取り始めのサインです。

反対に、まだ黄化していない緑色の籾の割合(帯緑色籾歩合)から、収穫適期を調べることもできます。収穫適期となる帯緑色籾歩合は、籾全体の15%が目安です。

籾の水分率・玄米の整粒歩合でさらに予測精度を上げる

米の整粒歩合検査YUMIK / PIXTA(ピクスタ)

上記の予測方法に加え、籾の水分率や玄米の整粒歩合を確認することで、適期予測の精度を上げることができます。

収穫に適した籾の水分は、25%前後です。籾水分は、積算温度50℃で約1%低下することがわかっています。出穂期が曖昧な場合でも、その時点での籾水分がわかれば、25%に到達する積算温度を計算して収穫日を予測することもできます。

玄米による判定は、試し刈りして適期を確認する方法です。収穫した水稲を乾燥させた上で、脱穀・籾すりを行い、整粒歩合を調べます。整粒歩合70%が収穫のタイミングの目安です。(地域、品種などによって異なります。ご自分の地域の基準をご確認ください。)

収穫期を早めた場合における乾燥調整作業のコツ

籾乾燥機Mai / PIXTA(ピクスタ)

収穫した水稲は速やかに乾燥作業を済ませるのが鉄則です。特に台風など天候不良の影響でやむを得ず早刈りした場合や、極端な高温下で早生品種を収穫した場合は、収穫後の乾燥作業を丁寧に行いましょう。

早刈りの米は水分量が多いため、カビなどが発生しやすく、放置すると品質低下を招きます。水分量25%の籾は6時間程度(籾温度25℃)で、変質や変色を起こしたヤケ米になりやすくなることがわかっています。

水分量が30%以上の高水分籾を乾燥する場合は、乾燥ムラが出ないようにあらかじめ5~6時間の送風を行いましょう。乾燥機への張り込み量は6~7割にしておくと、さらにムラを起こしにくくなります。籾の水分量が19%以下になるまでは、送風温度は40℃以下に設定しておきます。

また、早刈りの水稲は収穫作業にも注意が必要です。コンバインで収穫する場合、水分が多い籾は損傷を受けやすいため、エンジンの回転数は低く設定します。刈り取り条数は小さくして、穀物流量が増えすぎないようにしましょう。

コンバインによる脱穀Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)

全国の水稲の刈取最盛期【2022年実績】

2022年産の水稲の刈取最盛期を地方別にまとめました。対平年差、対前年差、出穂最盛期からの日数を都道府県別に記載していますので、参考にしてください。

実際の刈取日予測は、各自治体が出穂期以降の積算温度や生育調査をもとに、品種別の予測を定期的に提供していますので、必ず確認してください。

北海道・東北(2022年)
刈取
最盛期
対平年差対前年差出穂最盛期からの日数
北海道9月27日-2日+5日61日
青森県10月3日±0日+5日61日
岩手県10月5日±0日+6日61日
宮城県10月1日±0日+3日59日
秋田県10月2日±0日+6日60日
山形県10月2日±0日+3日58日
福島県10月10日±0日+2日61日
関東(2022年)
刈取
最盛期
対平年差対前年差出穂最盛期からの日数
茨城県9月15日+2日+2日49日
栃木県9月23日±0日-1日54日
群馬県10月22日±0日-1日64日
埼玉県9月27日+2日-1日50日
千葉県9月2日-1日±0日44日
東京都10月3日-2日-1日51日
神奈川県9月30日-1日+1日51日
中部(2022年)
刈取
最盛期
対平年差対前年差出穂最盛期からの日数
新潟県9月20日±0日+2日47日
富山県9月15日±0日±0日45日
石川県9月10日-1日-1日46日
福井県9月11日±0日-1日43日
山梨県10月3日±0日-2日58日
長野県9月29日-1日-2日55日
岐阜県10月3日±0日±0日44日
静岡県9月22日+1日±0日48日
愛知県10月8日+2日±0日51日
近畿(2022年)
刈取
最盛期
対平年差対前年差出穂最盛期からの日数
三重県9月4日+1日+1日44日
滋賀県9月14日-1日-1日47日
京都府9月22日-3日-1日53日
大阪府10月11日-1日±0日50日
兵庫県9月27日-3日-1日49日
奈良県10月14日±0日±0日52日
和歌山県9月20日+1日±0日46日
中国(2022年)
刈取
最盛期
対平年差対前年差出穂最盛期からの日数
鳥取県9月29日+1日-2日54日
島根県9月18日-1日-2日51日
岡山県10月10日+1日±0日51日
広島県9月25日-1日-1日52日
山口県9月22日-1日-2日46日
四国(2022年)
刈取
最盛期
対平年差対前年差出穂最盛期からの日数
徳島県-早期栽培8月22日-2日-8日39日
徳島県-普通栽培9月9日-1日-3日42日
香川県10月2日±0日-1日42日
愛媛県9月20日-4日-5日39日
高知県-早期栽培8月7日-1日±0日37日
高知県-普通栽培10月2日-3日±0日47日
九州・沖縄(2022年)
刈取
最盛期
対平年差対前年差出穂最盛期からの日数
福岡県9月30日-3日-2日41日
佐賀県10月9日-1日±0日43日
長崎県10月10日-2日±0日48日
熊本県10月8日-2日±0日49日
大分県10月14日-3日-3日50日
宮崎県-早期栽培7月30日-2日-3日37日
宮崎県-普通栽培10月14日+1日±0日54日
鹿児島県-早期栽培8月4日-2日-1日42日
鹿児島県-普通栽培10月15日-3日-1日53日
沖縄県-第一期稲6月27日+4日+5日39日
沖縄県-第二期稲11月23日+9日+8日40日
出典:農林水産省「作物統計調査|確報 |令和4年産作物統計(普通作物・飼料作物・工芸農作物)」内「水稲の耕種期日(最盛期)一覧表(都道府県別)(平成30年産~令和4年産)」よりminorasu編集部作成

最新技術を利用した効率的な収穫期予測

アプリによる稲の収穫適期診断 イメージYoshi / PIXTA(ピクスタ)

収穫適期を見極めるには、水稲の生育状況を的確に判断できる経験や技術が必要です。目視による細かい確認作業も多く、労力や時間もかかります。こうした農家の負担を減らすため、最新技術を活用した適期の予測方法が開発されています。

「ザルビオ」の「生育ステージ予測」で刈り遅れなく!

水稲の生育ステージ(BBCHスケール:植物すべての生育段階を二桁の数字で表す方法)
水稲の生育ステージ(BBCHスケール:植物すべての生育段階を二桁の数字で表す方法)
画像提供:BASFジャパン株式会社

独・BASF社が提供している「ザルビオ(xarvio)フィールドマネージャー」の「生育ステージ予測」は、地域・品種・天候などの情報をAIが解析して、生育ステージを予測する機能です。

ザルビオ(xarvio)フィールドマネージャーの生育ステージ予測
ザルビオ(xarvio)フィールドマネージャーの生育ステージ予測
画像提供:BASFジャパン株式会社

品種と作付け日を登録するだけで、水稲の作業適期を決めるために重要な、幼穂形成期・穂ばらみ期・出穂期・成熟期などの、その時点での予測日がわかります。

収穫適期が近づくと、刈り遅れにならないよう通知してくれます。

xarvioのご案内はこちら

黄化籾率を自動判定できる! 山田錦の刈取り適期診断アプリ

兵庫県では、スマホの写真撮影で黄化籾率を自動判定するアプリが開発されました。アプリは、兵庫県立農林水産技術総合センターと京都大学が、県内で生産が盛んな酒米「山田錦」の栽培のために企画しました。

専用トレーに乗せた籾をアプリで撮影すると、黄化籾率と刈り取り適期が表示されるしくみになっています。

出典: 兵庫県立農林水産技術総合センター
「『山田錦』の黄化籾率と刈取り適期を推定するスマートフォン向けアプリ『Grains Cam』」
「令和元年度 令和元年度 県立農林水産技術総合センター 試験研究成果紹介パネル作成一覧|酒米「山田錦」の刈取り適期診断アプリの開発」

黄化籾率の確認は、従来の目視でのやり方だと誤差や個人差が生じてしまいがちです。こうしたアプリが他品種用にも開発されれば、判定の精度が上がり、農家の労力も軽減されるでしょう。

アプリによる稲の収穫適期診断 イメージ
山田錦 玄米と精米後の酒米
出典:株式会社 PR TIMES(天山酒造株式会社 ニュースリリース  2020年10月30日)

ドローンを活用! 稲刈り適期の見極めをさらに容易に

水稲の収穫適期の正確な判断には、生育状況の観察が欠かせません。九州沖縄農業研究センターでは、ドローンを活用したより効率的な生育診断方法を研究しています。

研究では、赤外線などを感知するマルチスペクトルカメラを搭載したドローンを活用しています。水稲のほ場を撮影し、撮影データをもとに水稲の植生を可視化した「NDVI指数」マップを作成しました。

※ NDVI指数=正規化植生指数(Normalized Difference Vegetation Index)

出典:
農研機構 九州沖縄農業研究センター 2019年の成果情報「圃場単位の生育診断を効率的に行うためのドローンを利用した広域リモートセンシング技術」
農林水産省「スマート農業推進フォーラム2020|ほ場単位の生育診断が可能な汎用型ドローンを利用した広域リモートセンシング」
農林水産省 YouTube公式チャンネル「スマート農業推進フォーラム2020(ほ場単位の生育診断が可能な汎用型ドローンを利用した広域リモートセンシング)」

こうしたドローンの技術はリモートセンシングと呼ばれ、他地域でも実証実験が行われています。今後、実用化がさらに進めば、収穫適期の判定のほか、追肥の判断や収量の予想などにも活用できるでしょう。

衛星データを活用した収穫適期デジタルマップ

青森県のブランド米「青天の霹靂」
青森県のブランド米「青天の霹靂」
出典:株式会社 PR TIMES(青森県 ニュースリリース 2017年10月27日)

青森県のブランド米「青天の霹靂」の収穫には、衛星データをもとに収穫適期を視覚化したデジタルマップが活用されています。

これは、青森県産業技術センターが開発したもので、マップ上の水田を収穫までの生育段階ごとに色分けし、適期が一目でわかるようになっています。マップはスマホアプリでいつでもどこでも確認することができ、多くの地元農家が活用しているそうです。

出典:青森県産業技術センター
「組織体制|農林部門|農業総合研究所|スマート農業推進室||衛星画像を利用したブランド米の適期収穫衛星画像を活用した『青天の霹靂』の生産支援」「スマート農業の研究情報」 所収「衛星データで、おいしいお米を作る 『青天ナビ』」

生育状況を視覚化するという目的は、ドローンとあまり変わりませんが、衛生データならドローンより広範囲のデータを取得しやすくなります。特に大規模な稲作を行っている農家での活用が期待できるでしょう。

衛星データによる水田デジタルマップのイメージScharfsinn / PIXTA(ピクスタ)

稲刈りは、収穫適期を必ず確認して計画するようにしましょう。収穫適期の判断には生育状況の丁寧な観察が不可欠です。本記事で紹介した判断方法も参考に、水稲の現状を多角的に分析し、稲刈りに最適な時期を的確に見極めてください。