効果的な水稲用除草剤の使い方を解説! 有効成分一覧&おすすめ商品も紹介

梅雨に入るとどの水田にも水が張られますが、その後も雑草は生えてくるので、防除する必要があります。防除に使う水稲用の除草剤はさまざまな種類があり、使い方や施用する時期も異なります。この記事では、水稲用除草剤の種類や施用上のポイント、注意点、有効成分と効果などを解説します。
水田やほ場に生える雑草は、梅雨から夏にかけて一気に繁殖します。放置すると養分を奪うだけでなく、病害虫の温床になってしまうため適切な防除が必要です。まずは以下より、水稲用除草剤の種類から解説していきます。

水田で繁茂したイヌホタルイ(7月上旬)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
水稲用除草剤の種類について
まず、水稲用の除草剤の分類を解説します。
処理時期による違い
水稲用の除草剤は、処理時期によって「初期除草剤」「一発除草剤」「中・後期除草剤」の大きく3つに分けられます。時期ごとに適した除草剤が変わるので、それぞれの違いを紹介します。
初期除草剤
初期除草剤には、発芽したばかりの雑草をそれ以上展開させない効果があり、主にノビエの防除を目的としています。
散布適期は、土壌処理の場合は代かき後~田植え7日前まで、田植え後の雑草防除の場合は田植え後約5日までです。
残効期間は10~25日程度と短く、初期除草剤だけでは雑草のとりこぼしが発生するので、後述する中期・後期除草剤と組み合わせて使用します。
また、田植直後の苗はまだ弱く薬害が出やすいことにも注意しましょう。

mofukun / PIXTA(ピクスタ)
一発除草剤
一発除草剤は、残効期間が30~50日と長く、適用雑草の範囲も広いため、現在最もよく使われている種類の除草剤です。初期除草剤と中期除草剤の役割を併せ持つため「一発除草剤」と呼ばれます。
このうち、田植え時~田植え後約7日までに使用するものが「初期一発除草剤」、田植え後約14日までに使用するものは「初中期一発除草剤」です。
雑草の発生が少ない水田ならば初期一発除草剤、平均的な水田ならば初中期一発除草剤を使用します。
雑草の発生量自体が少なく、難防除雑草の発生がない水田では、一発除草剤だけで十分な除草効果が得られます。
中期・後期除草剤
田植え後15日以降に使用できる除草剤で、雑草の発生が多い水田や、初中期除草剤処理後に発生するヒエ類などが見られる場合などに使用します。
地域によって、雑草の発生時期を考慮し、初期除草剤、初中期一発除草剤と組み合わせた体系処理が推奨されているので調べてみるとよいでしょう。
有効成分による違い
雑草には、その生態分類である一年生雑草・多年生雑草、植物分類であるイネ科雑草・広葉雑草など、さまざまな種類があります。そのため、すべての雑草に効く除草剤は存在しません。多様な雑草を1成分で除草するのは難しいからです。
まず押さえるべき有効成分は以下2種類となり、組み合わせるのがベターです。
●水田の代表的な雑草であるヒエ以外の雑草を除草する母剤成分
●ヒエを枯らすことに特化したヒエ剤といわれる成分
また、母剤やヒエ剤の有効成分について以下に補足します。
スルホニルウレア系剤
スルホニルウレア系剤は、生育停止や生育抑制をして枯らす効果があります。
テフリルトリオン
テフリルトリオンという成分は、新芽の白化現象を起こして枯らす効果があります。
オキサジクロメホンやフェントラザミド
ヒエ剤のオキサジクロメホンやフェントラザミドなどの有効成分は、生育停止と生育抑制が主な効果です。
主な有効成分とその効果一覧
主な有効成分名と、その効果について紹介します。効果というのは、雑草の枯死を指しますので、枯死する前の主な症状を紹介します。
生育抑制・生育停止作用などが広く望める成分

カヤツリグサ科の「クログワイ」
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
広葉雑草やカヤツリグサ科雑草など、多くの雑草について出芽前から出芽後~生育初期にかけて高い効果が望めます。
▼ALS阻害(アミノ酸合成阻害による生育停止・抑制)系
・スルホニルウレア系(ベンスルフロンメチル、ピラゾスルフロンエチルなど)
・トリアゾロピリミジン系(ベノキススラムなど)
・新規ALS阻害剤(ピリミスルファン、プロピリスルフロン)
・ピリミジニルカルボン酸系(ピリミノバックメチル)
▼植物色素生成阻害(白化作用)系
・トリケトン系(テフリルトリオン)
・ビシクロオクタン系(ベンゾビシクロン)
▼光活性化による毒物生成(茎葉部褐変)系
・オキサゾリジンジオン系(ペントキサゾン)
・ピラゾール系(ピラクロニル)
特定の雑草により効果が望める成分

水田で発生し始めたイヌビエ
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ALS阻害剤の中にはノビエなど特定の雑草への効果が低かったり、ある程度育った雑草には効果が薄かったりするものがあります。そのため、各雑草を対象とした成分と合わせて施用することもあります。
▼一年生雑草、ノビエ対象成分
シハロホップブチル、ピリミノバックメチルは、ある程度生長したノビエにも効果が期待できます。またトリアジン系のシメトリンも利用されています。
▼多年草雑草、ホタルイ類対象成分
土壌処理剤はホタルイの発生初期なら効果があります。それ以降の場合、ホタルイの2葉期までは、ブロモブチド、ベンゾビシクロンは安定した効果が期待できます。
▼広葉雑草対象、茎葉処理成分
ホルモン剤の2,4-PA(2,4-D)やMCPA、MCPB、ダイアジン系のベンタゾンなどで効果が期待できます。またALS阻害剤のプロピリスルフロン、メタゾスルフロン、フルセトスルフロンなども効果が期待できます。
水稲用除草剤の選び方
前作の雑草の発生状況・種類に応じて、まずは必要な有効成分の入った初中期一発剤を選びましょう。そのあと、初期に発生する雑草や初中期除草剤処理後に発生する雑草を考慮し、初期除草剤と中期・後期除草剤を選定します。
農薬によっては使える地域や水田の土壌に制限がかかっている場合があります。その点も確認しましょう。
農薬の効果を十分に発揮する使い方のポイント
除草剤の効果を最大限に発揮させるためには、初期除草剤、一発除草剤、中期・後期除草剤を組み合わせた体系処理がおすすめです。
そのためには、どの雑草をいつのタイミングで防除するかが重要です。以下より使い方のポイントについて紹介していきます。
田面を均平に整え、適切な水深を保つ

トゥラミーン / PIXTA(ピクスタ)
代かきを丁寧に行って田面を均等にすることと、水管理をしっかり行うことが大事です。除草剤は水の中で拡散するので、土壌が露出していたりすると、十分な効果が発揮されません。
除草剤の効果を最大限に活用するためには、丁寧な代かきをして、田面を均平にすることを意識しましょう。
適切な時期に散布する
除草剤ごとに、効果が期待できる雑草の葉齢が異なります。効果が発揮できる時期を過ぎると効果が出にくくなってしまうので、雑草の生育を見ながら散布適期を逃さないようにしましょう。
状況に応じて複数回の散布を行う
多年生雑草が多い場合、一回の処理では効かないことがあります。その場合は、残効期間の長さを考慮し、複数回の処理を検討します。
水稲の浅植えに注意する
水稲苗の生長点は茎の地際近くにあります。そのため基部がきちんと土中に入らず浅植えだと、除草剤の薬害がでやすくなります。浅植えにならないように、植え付け深度に注意しながら、丁寧な代かきをしましょう。
降雨前の散布は避ける
茎葉部から吸収される除草剤の場合、散布液が乾くまで数時間は降雨を避ける必要がある製品もあります。処理日は天気予報を事前に確認し、数日雨が降らない日を選びましょう。
おすすめの水稲用除草剤
移植水稲において、水田除草の体系処理に使われる主な水稲用除草剤を以下の表にまとめています。
ただし、地域ごとに自治体の営農部署やJAから、難防除雑草の対策などを含め、体系処理に用いる農薬の例が示されていますので、必ず確認してください。
また、この表では粒剤を挙げていますが、フロアブル剤、顆粒剤、ジャンボ剤、豆つぶ剤などの剤型があります。水田の広さや水量などによっては省力化につながるので、適した剤型を選んでください。
初期除草剤
時期 | 散布量 | 使用方法 | |
---|---|---|---|
ソルネット1キロ粒剤 | 植代後~移植前7日 | 1kg/10a | 湛水散布 |
ホクコーメテオ1キロ粒剤 | 移植時 植代後~移植前7日 移植直後~ノビエ1葉期 ただし、移植後30日まで | 1kg/10a | 田植同時散布機で施用 湛水散布 |
ピラクロン1キロ粒剤 | 移植時 植代後~移植7日前又は移植直後~ノビエ1.5葉期 ただし移植後30日まで | 1kg/10a | 田植同時散布機で施用 湛水散布又は無人ヘリコプターによる散布 |
初中期一発除草剤
時期 | 散布量 | 使用方法 | |
---|---|---|---|
バッチリ1キロ粒剤 | 移植時 移植直後~ノビエ2.5葉期 ただし、移植後30日まで | 1kg/10a | 田植同時散布機で施用 湛水散布又は無人ヘリコプターによる散布 |
アッパレZ1キロ粒剤 | 移植時 移植直後~ノビエ3葉期 ただし、移植後30日まで | 1kg/10a | 田植同時散布機で施用 湛水散布又は無人ヘリコプターによる散布 |
ベンケイ1キロ粒剤 | 移植時 移植直後~ノビエ3葉期 ただし、移植後30日まで | 1kg/10a | 田植同時散布機で施用 湛水散布又は無人ヘリコプターによる散布 |
ウィナー1キロ粒剤75 | 移植時 移植直後~ノビエ2.5葉期 ただし、移植後30日まで | 1kg/10a | 田植同時散布機で施用 湛水散布又は無人ヘリコプターによる散布 |
中後期除草剤
時期 | 散布量 | 使用方法 | |
---|---|---|---|
アトトリ1キロ粒剤 | 移植後14日(稲5葉期以降)~ノビエ4葉期 ただし、収穫45日前まで | 1kg/10a | 湛水散布又は無人ヘリコプターによる散布 |
ワイドショット1キロ粒剤 | 移植後15日~ノビエ4葉期 ただし、収穫45日前まで | 1kg/10a | 湛水散布又は無人ヘリコプターによる散布 |
ナイスミドル1キロ粒剤 | 移植後14日~ノビエ4葉期 ただし、収穫60日前まで | 1kg/10a | 湛水散布 |
バサグラン粒剤 | 移植後15~55日 ただし、収穫60日前まで | 3~4kg/10a | 落水散布又はごく浅く湛水して散布 |
水稲用の除草剤施用に当たっては、前作での雑草の状況を考慮し、田植え前から幼穂形成期までとりこぼしのないよう、除草剤と処理時期を組み立ててください。

杉山麻佑
高校卒業後、農業系の短大に進学。果樹について学び、短大卒業後は苗や種を扱う企業に就職。 現在は、お茶農家でもあるパートナーの仕事を手伝いつつ、フリーランスのWebライターとして活動中。また、自身もハーブ畑を管理するなど、精力的に農業に携わっている。