どうすれば働き手を増やせる?~雇用力を高め、優秀な人材を増やす3つのポイント~
「人がなかなか集まらない」「採用したけれどすぐやめてしまう」。昔から多くの農家を悩ませている問題が“人材不足”です。そこで、第一次産業専門の求人情報サイト『第一次産業ネット』を運営する株式会社Life Lab (ライフラボ)代表取締役 西田祐紀さんに、農業の人材募集のポイントを聞きました。
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目次
※この記事は、取材および執筆時の情報を基にしています。
本記事中の「第一次産業ネット」は、2022年4月リニューアルされ、「農業ジョブ」となっております。
今は売り手市場、優秀な人材の獲得競争になっている
農業の求人は売り手市場、優秀な人材の取り合いが始まっている
出典:Bignai / PIXTA(ピクスタ)
第一次産業専門の求人情報サイト『第一次産業ネット』を運営する株式会社Life Lab (ライフラボ)代表取締役 西田祐紀さん は、「農業=低賃金」という根強い印象からの慢性的な人材不足の状況が変わり始めているといいます。現在は大企業の参入や大規模農家 の拡大で様変わりし、「雇用できているところはできている」そうです。
そこで、西田さんに最近の「農家の雇用状況」について伺いました。
株式会社Life Lab 代表取締役 西田裕紀 さん(以下役職・敬称略) 農家が人材不足であることについては相変わらずですが、ここ5~6年は、「新たな売り手市場」が始まって、優秀な人材の取り合いになっている状況です。というのも、農業とは異なる分野の企業が新事業として参入したり、農業経営 に成功し法人化した農家がさらに経営拡大に挑戦したりするなどして、新たな人材取得に乗り出しているからです。
こうした状況を受けて、一般企業並みの給与を出したり、ボーナスまで出したりする法人も現れ、農業を職業とするサラリーマンとしてしっかり働ける環境が整ってきました。
雇用環境が整った農家が出現する一方で、大多数を占める小規模農家では、依然として人材雇用が難しい状況が続いています。今後はそうした大規模農家 との雇用格差がいっそう広がり、優秀な人材が吸い取られ、一般農家における人手不足がさらに加速することも予想されるのではないでしょうか。
西田 もともとある農地面積で今後も農業を行っていくのであれば、人手は家族や近隣農家の協力、パートなどの求人でまかなえるので、急いで対応すべき課題にはならないと思います。
今、人材不足で最も頭を悩ませているのは、より出荷量を増やし、さらに収益を高め、農業経営を安定させたいと考えている事業主だと思います。
早い離職の原因となる「ミスマッチ」はなぜ起きるのか?
実際に農場に足を運んでもらうことで雇用のミスマッチを防ぐ
出典:elise / PIXTA(ピクスタ)
農業で経営規模を拡大しようとすれば、農地を増やし、新たに人を雇用する必要があります。
農繁期にだけ必要な人手であれば、西田さんが述べたようにパートやアルバイトで用が足りますが、経営拡大に伴って必要となる人材には、新たな農地や事業の担い手として育ってもらわなければなりません。
ここで大きな壁となるのが、人材の定着です。辞めないで続けて働いてくれる人材を見つけるには、どうしたらいいのでしょうか?
人数確保を優先し、応募者と会わないで決めてしまう
西田 これまで多くの人材募集に関わってきましたが、よくあるのが、事業主が応募者と会いもせずに採用を決めてしまうケースです。
例えば、我々の募集サイトを通じて応募してきた人に事業主がすぐさま電話をし、よく検討しないまま「あなたに決めたから、とりあえず来てくれ」という話をしてしまうことがあります。その結果、雇用後しばらくした後にミスマッチであることが互いにわかり、辞めていくことが往々にしてあるのです。
ほしい人材の要件を明確化できていない
西田 「なんかいい人送ってきてよ」と依頼してくる事業主もいます。そこで「社長が考える“いい人”とは、どのような人材ですか?」と質問すると、曖昧で答えられないこともよくあります。
経営者に組織を考える余裕がない
農家の人材雇用を難しくさせる要因の1つとして、人材確保・育成の方針や採用プロセスを曖昧にしたまま募集を進めているという実態が見えてきました。
しかし、さらなる要因として、事業主自身が農作業に多くの時間を費やさなければならない現場の実情があると、西田さんは語ります。
西田 多くの農家は、家族で作業を分担し合い、なんとか経営が成り立っている状態です。事業主も当然、農作業の主力として従事し、人材募集の細々としたことまで頭を回すゆとりがないというのが実情なのです。
雇用力を高めるポイント-1.〈会社のビジョンを明確にする〉
こうした実情を踏まえ、どうすれば雇用力を高められるのか。3つのポイントを西田さんに挙げてもらいました。
出典:Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)
西田 もし自分がどこかの会社へ就職するとして、「入りたい!」と思える魅力ある条件とはどのようなものでしょうか?
企業としての知名度がある、経営が安定している、高給が見込める、手当や福利厚生がしっかりしている、就職後の将来像が望める、企業としてのビジョンに共感できるなど、人によって会社に求める条件はさまざまでしょう。
そうした条件の1つひとつを、自身の農業経営に当てはめてみてください。
すべてを満たせなくてもいいんです。将来は名物となるブランド農産物を手がけたい、飛び地でもいいから農地を増やしたいなど、なんでもかまいません。
そのビジョンを明確にすれば、そこに共感し、一緒に志そうという意思を持った人材が集まってきます。
農閑期に自分の農業経営を見つめ直す、1人で悩まない
西田 大切なのは、経営者として、自身の農業経営を見つめ直し、今後の方針と自らが持つ強みをはっきりさせることです。比較的余裕が生まれる農閑期を有効利用して、そうした“見つめ直し”の時間をつくることも方法の1つかもしれません。
1人で考え込まず、家族やほかの従業員とゆっくり話し合ってみてもいいかもしれません。あるいは我々のような求人情報を取り扱う会社を利用し、ヒヤリングや取材に応じるだけでも、自身の農場の魅力を客観視するよい機会になると思います。
こうしてビジョンを明確にすることで、ほしい人材の要件や、採用プロセスにかける時間、さらには採用の判断基準も明確になってきます。
会社のビジョンと農場の特長を具体的に書くことで人材は集まりやすくなる
出典:「第一次産業ネット」ホームページ
雇用力を高めるポイント-2.〈自分の右腕となるパートナーの育成〉
先に述べたように、多くの事業主は農作業の主力として従事しなければならないため、経営者としての時間を持てないのが実情です。例えば、規模を拡大するといっても、農地を取得するための交渉や事務手続きなどが必要となります。拡大した農地に対応した農機の購入なども必要になってくるでしょう。
事業主自身がこうした作業をするとなると、今後のビジョンを深く考えたり、それを実現するための経営戦略を打ち立てるための時間はなかなか取れないことになります。
ではどうしたらよいのでしょうか。西田さんは「『自分の右腕』となるパートナーを見つけることがポイントだ」といいます。
西田 これからの農業に必要なのは、事業主と働き手の間に立ち、組織的管理ができる、あるいは人材育成できるようなマネジメント力のある人間です。もし、自身の農業経営を拡大するために人を募集するとすれば、直接の働き手よりもそうした人材を先に雇い入れるという方法があります。
「自分の右腕」として、自分とスタッフの中間でマネジメントできる人間を雇用し、組織化を進め、事業主を現場から解放し、経営者としての判断や意思決定がしやすい環境をつくる。その流れが、経営を好転させ、従業員の教育や成長環境を整え、やがて優秀な人材を雇用する環境創出につながる道筋を生み出すというわけです。
別のいい方をすれば、経営パートナーの雇用です。
農業にはない別の視点からさまざまな意見を聞きつつ、いかに組織管理や人材投資への意識を養い、自分の右腕となる人材を育てるかが、経営拡大のポイントになるのではないでしょうか。
右腕となる人材を育てることが、やがて優秀な人材を雇用する環境創出につながる
出典:「第一次産業ネット」ホームページ
雇用力を高めるポイント-3〈今いる社員のやりがいを大切に〉
雇用を考える場合、どうしても新しく雇いたい人材のことだけに頭が行きがちになります。しかし、「実は、現在いる従業員がいかにやりがいをもって幸せに働いているかが、雇用力を高める重要なポイントになる」と西田さんはいいます。
西田 私は、雇用がなかなか進まないと嘆く事業主の方にこう聞くことがあります。
「あなたは自分の息子さんを、自分の会社に入れたいですか?」と。そこで多くの場合、ハッとした顔をされるのです。
そうした方には「もし、自分の家族を入れたくないと思う会社であるのなら、良い人材の採用や定着は難しいと思いますよ」と助言をするようにしています。
会社の雰囲気が悪い。今いる従業員が辞めたがっている。だからとりあえず人を募集しなければ。そうした流れでは、募集が仮に成功したとしても、結局は同じように人が辞めていく結果になります。
まずは、今いる人材が意欲を持って成長し、活躍できる組織づくりが先決です。
「この会社、好きだな」「やっぱり農業っていいよね」と思って働き続けてもらえる環境づくりを行ってください。今いる従業員の働く環境を充実させることこそが、雇用力を高め、新しい人材が定着する土台だと思います。
では、具体的な環境改善として、何をすればいいのでしょうか?
業務評価とインセンティブを明確に
西田 従業員を評価する際に基準となる数字をしっかり設けることも、1つの方法だと思います。例えば、「豊作のときはボーナスをあげる」と従業員に公表したとします。
しかし、その豊作とは収量がいくら、全体の収益がいくらといった基準を明確にしなければ、経営者と従業員との間に解釈の差が出てしまい、逆に「成果を出したのにボーナスが出ない」という不満やモチベーションの低下を招くことにもなりかねません。
キャリアパスを示す
西田 何年勤めれば給与が上がるか、責任ある立場になればどのくらい手当が付くか、といった数字を明確化するのも、将来設計がしやすい会社として評価され、人材を定着しやすくする組織づくりに役立ちます。
社員のモヤモヤを聞き取る
西田 こうした環境改善について、従業員と話し合う場を定期的に設け、悩みやモヤモヤを解決する手助けをするなど、経営陣と従業員同士のコミュニケーションをより深めていく試みも大切だと思います。
ワークライフバランスの改善に手を着けるにしても、まずは社員の実際の悩みやモヤモヤを聞き取っておくといいでしょう。そのうえで、自分の会社に合った休日設定、有給休暇制度に落とし込めば、従業員から「働きやすい会社」と思ってもらえるようになるでしょう。
「よい雇用」のためには、経営者としての視点、右腕となるパートナーの確保、そして今いる社員のやりがいを顕在化させることが土台になると西田さんは訴えます。農閑期などに時間を取って、改めて取り組んでみてはいかがでしょうか。
株式会社Life Lab(ライフラボ)について
農業分野でも多くの求人実績を上げている「第一次産業ネット」
出典:「第一次産業ネット」ホームページ
「未来の農業をつくる」という理念に基づき、農林水産業に特化した人材事業を通じて、これからの第一次産業を担う人材と事業者を応援する会社。
求人情報サイト運営のほか、人材紹介、派遣事業を展開。農業専門のクラウド勤怠管理システムサービスも提供しています。
株式会社社Life Lab、「第一次産業ネット」のホームページもご覧ください。
株式会社社Life Lab ホームページ
第一次産業ネット ホームページ
西田裕紀さんプロフィール
株式会社Life Lab 代表取締役 西田裕紀(にしだひろのり)さん
マッチングシステムを活用できる事業での起業を考えていたときに、農業の求人を見て農業求人の事業化を考え始め、リサーチを開始する。全国の農業法人を訪ね歩き、ニーズや現実を見て回る。
2005年に株式会社Life Labを設立、農業求人サイトの運営をスタート。求人する側の農業法人や農家のビジョンを伝えるコンテンツを充実させることに注力し、一次産業界では民間トップクラスの掲載数・求職登録者数を誇る求人サイトに成長させている。
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松崎博海
2000年より執筆に携わり、2010年からフリーランスのコピーライターとして活動を開始。メーカー・教育・新卒採用・不動産等の分野を中心に、企業や大学の広報ツールの執筆、ブランディングコミュニケーション開発に従事する。宣伝会議協賛企業賞、オレンジページ広告大賞を受賞。