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トマトの“青枯病”を徹底防除! 有効な対策と病害の見分け方を詳しく解説

トマトの“青枯病”を徹底防除! 有効な対策と病害の見分け方を詳しく解説
出典 : 写真提供 HP埼玉の農作物病害虫写真集

青枯病は高温期に発生する土壌病害で、トマトをはじめ多くの作物を侵します。一度発生すると急速に進行し、防除が非常に困難なため、予防と発生時の早期対応が重要です。発生を繰り返さないためにも、この記事を参考にして確実に対処しましょう。

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近年、温暖化により夏場の地温が上がり、高温で発生しやすい青枯病の被害が拡大しています。特に施設トマト栽培農家では注意すべき病害です。この記事では、類似した症状のかいよう病との見分け方にも触れながら、予防と防除のポイントを解説しますので参考にしてください。

「青枯病」とは? 収量に大きな被害をもたらすトマトの病害

青枯病 発病株 トマト・ナス・ピーマン・ミニトマト

青枯病 発病株 トマト・ナス・ピーマン・ミニトマト
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

青枯病は、ラルストニア・ソラナセアラムという土壌中に生息する細菌を病原とする、土壌伝染性の細菌病です。トマト以外にもナス科のナス、ピーマン、ジャガイモや、インゲン、イチゴ、大根など33科200種以上の作物に感染します。

罹患した株は、発生初期の3日間ほどで晴天の日中に先端の葉から広がり、次第に下位葉まで萎れます。夜間や曇りの日には回復をみせますが、症状の進行が早く、数日後には萎れたまま回復しなくなります。そのまま株全体が褐色になって(褐変といいます)、枯死します。

多くの病害は葉が黄化したり病斑が見られたりしますが、この病害はそうした病徴がなく、青いまま突然萎れて枯れてしまいます。そのため、青枯病と呼ばれます。

この症状は、株の茎や根の内部に入り込んだ菌が、水分や養分の通る「道管」の中で増殖し、道管が詰まり、水分を葉まで吸い上げられなくなることで起こります。

そのため、罹患株の茎を切断すると、道管などが集まった「維管束」が褐変しており、茎を水に浸すと「菌泥」という細菌の集まった白濁液が噴出します。

minorasu(ミノラス)の画像

トマト 青枯病 導管部が黒褐変
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

発生した青枯病は、高温時には進展が早く、低温時には進展が緩慢です。そのため、発見が遅れる場合があります。日中、十分に灌水しているのに元気がない株があったら注意して観察し、周囲に感染することのないように、後述する対策を確実に行いましょう。

青枯病の原因と、発生しやすい条件

青枯病の病原細菌は、適した条件の土壌中であれば、宿主がなくても数年間生存します。ただし、水分が20%以下の乾燥土壌では、10日間以上生存できません。また、青枯病は火山灰土よりも保水性の高い砂土や粘質土、かつ酸性土壌よりも中性土壌で多く発生するといわれます。

生育適温は25~37℃と高く、地温が20℃を超えると発生し始めます。そのため、露地では地温が高くなる6~7月から発生し始め、夏の間に多発します。ハウスの促成栽培や抑制栽培では育苗の時期に高温になるため、苗床で感染し、定植後に拡大する例も少なくありません。

第一感染源は土壌に生存している病原細菌で、トマトが植えられると根の周りで増殖し、センチュウなどによる食害痕や農作業による根の傷口などから内部に侵入します。

罹病株は内部で増殖した病原細菌を根から排出し、その細菌が第2次感染源として、土壌中を水とともに近隣の株まで移動します。また、生長すると隣り合う株の根が接触することで、徐々に感染が広がることもあります。

最近では、収穫や剪定の際に使用したハサミを介して、罹病株から健全株に病原菌が伝搬されることが指摘されています。この場合は、抵抗性品種を台木にして、土壌からの感染を防いだ場合でも感染が広がるため、十分な注意が必要です。

ハサミを使ったトマトの収穫作業

Princess Anmitsu / PIXTA(ピクスタ)

【診断のポイント】 類似症状を示す「かいよう病」との見分け方

同じ立枯性の細菌病害である「かいよう病」も、トマト栽培において注意すべき病害です。確実な防除対策をして被害を防ぐには、特徴を捉えて早期に的確な判断をすることが不可欠です。

かいよう病の病原は、罹病植物の残渣(ざんさ)とともに土壌中に生存する細菌です。土壌感染のほか、種子感染や接触感染によって広がります。トマトのみに感染し、菌の生育適温が25~27℃と比較的高温のため、青枯病と似たような時期に発生します。

トマトにかいよう病が発生すると、特に晴天時、生長点付近の上位の葉が萎れます。この症状は青枯病と似ていますが、かいよう病の場合は、それ以外にも多様な症状が見られます。

かいよう病では、初期には上位から中位の葉に脱水による葉脈間の褐変が現れ、中期にかけては小葉の巻き上がりや下位葉の黄化、枯れ込みが発生します。これらの症状が見られたら、かいよう病と判断していいでしょう。

防除対策としては、発病株を抜き取り施設外で処分します。かいよう病については、育成中でも有効な農薬があるので、それを散布します。

なお、生長点の萎れや脱水症状による褐変が見られても、数日間症状の進行がない場合は、天候などを原因とする生理障害の可能性もあります。

トマト かいよう病 茎の黒褐変

トマト かいよう病 茎の黒褐変
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

適用農薬はある? トマトの青枯病に有効な6つの防除対策

青枯病の発生を確認したら、まずは罹患株を周りの土ごとほ場や施設の外に持ち出し、焼却などにより処分することが重要です。

周囲の株に感染していないかを注意深く観察し、発見次第取り除くことで、感染拡大を防ぎます。ただし、取り除く際は、隣の株の根を傷つけないように注意深く作業しましょう。

そのうえで実行すべき、効果的な6つの防除対策について詳しく解説します。

1.排水対策を含む適切なほ場管理

青枯れ病の病原菌は、水分を含む土壌で長く生存し、水とともに土壌中を移動します。そのため、ほ場に水があふれないように排水をすることが大切です。排水性の悪いほ場の場合は、畝を高くしたり、暗きょを設置したりするなどの対策を行いましょう。

2.農薬による防除は土壌消毒でのみ可能

現状、トマトの成育中に使用できる青枯病に有効な農薬はありません。

一度感染すると、病原菌は数年にわたって土壌中に存在している可能性が高いのが特徴です。できる限り連作を避け、数年は宿主とならない作物を栽培するといいでしょう。どうしても連作する場合は、次作の播種前に土壌消毒が必要です。

土壌消毒には、太陽熱消毒や、米ぬかやふすまを用いた土壌還元消毒、「クロルピクリン錠剤」や「バスアミド微粒剤」などの土壌くん蒸剤を使用した薬剤消毒があります。ただ、青枯病の病原菌は土壌深層まで分布しているため、これらの消毒では十分な効果が得られない場合があります。

一般的な土壌消毒をしても青枯病が発生してしまう場合は、糖蜜を利用した土壌還元処理を行いましょう。50cm程度の深層部まで消毒が可能で、一定の効果があるといわれています。

やり方は、10a当たり40~50缶分(1缶18L)の糖蜜を水で3倍に希釈し散布したあと、湛水状態まで灌水し、表面をビニールで被覆しハウスを密閉します。この方法は効果が高いものの、原料の糖蜜が10a当たり約10万円と高価であることや、希釈に液肥混入機を要することが課題です。

そこで、特別な機材を使わずに高い効果が得られる方法として、糖含有珪藻土や糖蜜吸着資材を用いた土壌還元消毒法が挙げられます。

この方法は新潟県農業総合研究所や和歌山県の農業試験場の研究によって実証されており、新潟の研究では深さ60cmの土壌でも、青枯れ病やネコブセンチュウの密度を減らす効果が確認されました。

出典:
新潟県 農業総合研究所研究成果情報(令和元年度)「糖含有珪藻土または糖蜜吸着資材を用いた土壌還元消毒法による土壌病害虫の防除」
和歌山県 農業試験場 研究報告第7号 「糖含有珪藻土を用いた土壌還元消毒によるトマト青枯病の防除」

なお、ここで紹介した農薬は、2022年4月現在、トマトと青枯病に登録のあるものです。実際に使用する際には必ず使用時点での登録を確認し、ラベルをよく読んで用法・用量を守りましょう。また、地域によって農薬の使用について決まりが定められている場合があります。確認のうえで使用してください。

なお、トマトとミニトマトは登録や適用表情報が異なる場合があるので、別々に調べましょう。

農薬登録情報提供システム

3.ハサミ・移植コテなど、作業に用いた道具は消毒を徹底

トマトの摘果・枝葉整理

hamayakko / PIXTA(ピクスタ)

収穫や剪定の際に、感染株から健全株に感染することを防ぐため、剪定に使用したハサミやナイフを1株ごとに洗浄・消毒する対策も重要です。

消毒には、群馬県や栃木県の農業試験場による研究で、かいよう病に対する防除効果が実証されている「ケミクロンG」500倍や「70%エタノール」などを用いるとよいでしょう。

ただし、資材用の消毒液はトマトの農薬登録がないため、トマトに直接かからないように十分注意してください。

出典:
栃木県農業試験場「トマトかいよう病に対する各種消毒資材の防除効果」
農研機構 平成13年度研究成果情報(群馬園芸試験場・農業試験場)「刃に消毒液が自動噴霧されるハサミによるトマトかいよう病防除」

また、栃木県の出典でも効果が実証されている、ハサミ自体が発熱し熱消毒を行う「熱ハサミ」は市販されています。ほ場の規模が大きく1株ごとの消毒が現実的でない場合には、活用を検討するとよいでしょう。

4.抵抗性品種を台木として用いる接ぎ木栽培も効果的

トマトの幼苗接ぎ木

satyrenko - stock.adobe.com

土壌消毒と併せて、青枯病の抵抗性品種を台木にして、接ぎ木栽培を行うのも効果的です。青枯病に強い抵抗性を持つトマト品種には、「BF興津101号」や「LS-89号」があります。また、この2種はトマト萎ちょう病(レースJ2)にも高い抵抗性があることがわかっています。

出典:農研機構「青枯病抵抗性台木利用によるトマト萎ちょう病 の防除」

接ぎ木による防除では、剪定や収穫などの作業時に起こりがちな、傷口からの接触感染は防げません。しかし、抵抗品種を接ぎ木することで、接触感染により発病した株が、根から病原菌を土壌に排出することも防げるので、感染拡大の防止につながります。

5.マルチや敷きわらで地温の上昇を防止しよう

トマト ハウス 敷きわら

Ystudio/PIXTA(ピクスタ)

青枯病は25℃以上の高温下で発生が激しくなるため、特に8月頃の高温期に定植する冬春トマトの抑制栽培では、定植後のほ場の地温低下対策が重要です。具体的には、マルチや敷きわらを用いて地温の上昇を防ぐ対策が有効です。

6.トマトの病害抵抗性を高める、アミノ酸系肥料の施用も検討を

アミノ酸の一種であるヒスチジンを根部処理すると、植物の病害抵抗性を高め、青枯病の発病を抑制できるという研究結果があります。青枯病菌を直接防除するのではなく、作物の病害抵抗力を利用した青枯病防除剤の素材として期待されており、実用化が進められています。

出典:農研機構「L-ヒスチジンの根部処理によるトマト青枯病抑制効果」

青枯病の病原菌はもともと土壌に一定数存在するもので、トマトの連作を繰り返すことで密度が高くなり、発生が促されます。

有効な農薬がない現状では、土壌消毒などで病原菌の密度を下げることと並行して、土壌改良剤を用いて地力を維持したり、トマト自体の抵抗力を高めて発症を抑えたりしましょう。このように菌と共存することは、理想的な解決方法ともいえるでしょう。

トマトの青枯病は、発生後にトマトに直接散布する農薬がない防除の困難な病害です。特に施設栽培のトマトにおいては脅威といえるでしょう。

しかし、青枯病を防除する有効な方法を見つけるため、各研究機関が試験を重ね、いくつか効果のある手段が見つかっています。土壌消毒や抵抗性品種を利用した接ぎ木、ほ場の排水性の向上など、できる対策を組み合わせて青枯病からトマトを守りましょう。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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