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【農業経営に求められる戦略視点とは】第6回 戦場(事業環境)の選択④ 農業における競争とは?

【農業経営に求められる戦略視点とは】第6回 戦場(事業環境)の選択④ 農業における競争とは?
出典 : maramicado / PIXTA(ピクスタ)

これまでは、戦場(事業環境)の中でも市場、特に顧客側を中心に見てきました。今回は、自社と競合の「競争」について取り上げます。ビジネスにおける競争は、必ずしもスポーツ等の競争と同じではありません。農業というビジネスにおける競争について整理し、その上で、競争に対する向き合い方について考えていきます。

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事業における競争とは?

現代社会において、あらゆる競争には勝敗を決める「ルール」が存在します。そのルールは様々です。

事業における競争には、「ルール」がある

ビジネスで勝敗を決めるルール

資料提供:株式会社コーポレイトディレクション

ではビジネスで勝敗を決めるルールとは何でしょうか?

それは、「顧客に選ばれるかどうか?」が数あるルールの中で重要な位置づけです。顧客ニーズに応える重要性はこれまでの回でも取り上げてきました。

なぜなら、「顧客に選ばれるかどうか?」が勝敗を決めるルールで戦っているからです。

そして、顧客の需要が有限であり、かつ提供者が複数いる場合、「顧客に選ばれる」ための競争が発生します。これがビジネスにおける競争の基本構造です。

「誰が競合なのか?」は、「誰を顧客とするか?」次第

では、誰が競争相手(競合)なのでしょうか?それは、誰を顧客とするか次第です。

前回取り上げた6次産業化が分かりやすい例です。同じ立地で同じ作物を作っていたとしても、作物を出荷する(一次産業)のか、作物を加工する(二次産業)のか、観光農園として運営する(三次産業)のかによって、顧客が変わり、競合相手も変わります。

競争環境は、「顧客獲得を競う他社=競合」だけでなく、「材料の仕入先・顧客=交渉者」も見る

ビジネスにおける競争は、「顧客に選ばれるかどうか?」のルールの下で行われると述べました。

加えて、このルールで勝ち続けるためには、商品を「なるべく安く作り」「高く買ってもらう」必要があります。つまり事業を継続するために利益を生み出す必要があります。

競争環境を整理する枠組みとしての「ファイブフォースモデル(5Fモデル)」

ファイブフォースモデル 5Fモデル Five Forces model

Unique Creative Arts - stock.adobe.com

本稿では、競争環境を整理するための枠組みとして「ファイブフォースモデル」(以下、5Fモデル)をご紹介します。

なお、5Fモデルを使うには、「顧客が誰か?」と、「どの範囲を業界とするか?」を決めておくことが前提となります。後者は実際には結構難しく、まずは、主に作っていらっしゃる作物単位を1つの業界と捉えてよいと思います。

5Fモデルは、競争環境を5つの要素で整理しています。

ファイブフォースモデルの5つの要素

資料提供:株式会社コーポレイトディレクション

このモデルを使う利点は、競合として認識するための視野を拡げてくれる点にあります。

つまり、作物を作っている近隣農家のみを競合と認知するのではなく、新規参入しようとしている異業種の事業者や、今までは顧客だった納入先が競合になってしまう可能性等について目をむけるきっかけになります。

視野を拡げるためには、「今後の変化」も考慮に入れることも重要です。そこで「時間軸」も加えて整理すると良いでしょう。

時間軸を加味した5Fモデル

資料提供:株式会社コーポレイトディレクション

農業の業界プレイヤーは、今後より一層、ドラスティックに変わってくる可能性があります。農業という産業が事業として潜在性があるからこそではある一方、既存事業者としてしっかり変化に対応していかなくてはなりません。

変化に対応するためには、日々の運営より少し視野を広げて競争環境を見ることが大事です。

注)5Fモデルに関しては、モデルの用途や利点欠点等について様々な議論がある枠組みです。しかしながら、競合を整理する基本的な枠組みとしてとても分かりやすいため、ご紹介しました。

農業における競争環境とは?

世の中にある様々な業界の中で、農業は特徴的な業界といえるかもしれません。(なお、ここからは野菜を前提として論じます。)

農業の競争環境の特徴「競争がない?」

野菜価格安定制度 指定野菜14品目

出典:独立行政法人農畜産業振興機構「指定野菜の生産・流通・消費動向(令和2年7月)」よりminorasu編集部作成
画像:R-DESIGN / PIXTA(ピクスタ)

まず、農業という業界の大きな特徴として、事業の運営を下支えする国/自治体の制度が充実している点にあります。例えば、野菜価格安定制度は、指定する野菜の市場価格が大きく下落した場合、国は生産者に補助金を交付し、経営を支援します。

さらには、農協の存在があります。農協は規定されている品質規格に達することができれば、基本的に全量買い取りしてくれます。これは異業種から見れば結構すごいことで、無限の需要家がいるような印象を受けます。

このように特徴的な制度や需要家がいる中では、「競争なんて起こらないのでは?」という「?」が浮かんで然るべきです。

この「競争なんて起こらない?」に対する私の見解は、
「農家によってYESにもNOにもなる。ただし、長期的にはNO(競争は起こる)」
です。以下、少し長いですが説明です。

確かに、需要のリスクを回避できるため、野菜価格安定制度や農協への出荷を最大限に活かせば、競争という意識を持つ必要はあまりないのかもしれません。

では、「農協への全量買い取りがあるので競合を意識して作物に特徴を持たせなくてよいか?」「価格が下落したら補助金の交付を受ければ大丈夫か?」というとそれは危険です。

各種制度が活用できるのには条件があり、活用できない状況が続くことがあり得ます(補助金交付がなされない市況価格が続いた場合、等)。

今後市況が安定し続ける保証はなく、加えて、コストサイドでは、原料高騰、人件費増、等、生産にかかるコストは上昇が見込まれます。その際に、何らかの競争力を持っていないと経営は苦しくなるでしょう。

長期視点でこの先の日本を見ると、各種制度や需要家が今と変わらないかというとそれは想定しにくいです。

例えば、野菜価格安定制度であれば補助金の交付額が減額される可能性があるでしょう。
農協に目を向ければ、全量買い取りは社会全体の需要次第でしょうし、全量買い取りであったとしてもその品質規格水準は相当高いものになるかもしれません。

農協も日々品質向上に取り組んでいるはずであり、規格として求める水準も高くなっていくはずです。

後述するように無理に競争を仕掛ける必要はないのですが、現行の制度や需要家に安住せず、独自の強みを磨くことをおすすめします。

農協の選果場。規格が定められている

route134 / PIXTA(ピクスタ)

空間軸と時間軸で、農業の競争環境を考察する

そもそも農業に競争があるのかという点について少し長くなりましたが触れて参りました。では、「競争環境に向き合う農家」における競争環境を考察してみます。

5Fモデルと時間軸で農家単体の目線レベルで脅威について洗い出してみました。

農業の5Fモデル 農業ビジネスにおける脅威の存在

資料提供:株式会社コーポレイトディレクション

時間軸を加味した農業の5Fモデル

資料提供:株式会社コーポレイトディレクション

やや汎用的に整理しているため、各要素とも広めに表現しておりますが、各農家においては、今生産している作物を「業界」と捉えて、同じく生産している農家、出荷先、資材・原材料について考えていくとよいでしょう。

農業にかかわる業界動向をいくつかご紹介します。

買い手企業側の農業進出例として、ローソンファームの取り組みがあります。小売事業を主とするローソンは、自社が農業にかかわることによって、総菜やカット野菜などの原材料調達に活用しています。

加えて、ローソンが持つデータ管理のノウハウ等、小売事業で培った強みを農業に活かすことによって、効率的な生産管理、優れた品質管理につながっているようです。

また同社は、ローソンファーム事業が消費者へ向けた企業PRとしての価値を持つことも期待しています。

このように売り手/買い手間の流通マージンカット以上の強みを活かそうとしています。

もう一事例ご紹介します。技術を活用した新規参入の例です。センサーやデータ、マニュアル活用によって、新規就農の障壁を下げようとする、Happy Quality社の取り組みです。

昨今の技術革新は、農業に適用できることも多くあり、今後の農業業界において、活用の如何が重要な競争力になる可能性があります。

マクロ的な構造や変化に注目することは大事ではあるのですが、「自社に影響の出る話なのか?」について、考慮すべきことなのかどうかを見極めましょう。

競争に対する向き合い方

前項では、農業の競争環境を整理してきました。では、様々な角度から競争に向き合わなければならない中で、どのようなスタンスで向き合うと良いのでしょうか?

競争に対する向き合い方は、「競合の強みに対して真正面から挑まない」こと

競争に対する向き合い方で最も大事なのは、「勝てそうなところを見極めて戦うこと」です。

これは、ビジネスに限らず戦略における原則です。無理に戦いを挑む必要性は全くありません。しなくてよい競争は回避すべきです。

ただし、「受動的に何もしない」ことは、競争を回避していることではありません。何もしないことは、競争環境が変化/激化した際に対応できないためです。能動的に競争を回避し、勝てるべき場所を見つけ、勝てると時に勝つという姿勢が求められます。

真正面から挑まない工夫とは、どのようなものがあるでしょうか?農業においては次のような方法が考えられます。

顧客(販路)を変える
作物を変える
競争関係ではなく、協業関係になる、等

加えて、何で競合との違いを生み出すのかも明確にするのが大事です。つまり、付加価値(品質等)で違いを生むのか?それとも安さで違いを生むのかを明確にすることが大事になります。

ここでは、付加価値を高めつつ、単独ではなく地域でブランド化することによって、競争力を高める取り組みをご紹介します。

地域でブランド化する取り組みが顕著なのは、所謂、果物の業界です。嗜好品としての意味合いが強く、品質向上とともにブランディング活動を行うことによって、付加価値の向上余地が期待できるためです。

地域ブランディングとしては、長野県の取り組みが参考になります。行政・農協等関係団体・大学・農家が連携して競争力のあるオリジナル品種の開発、品質の安定性担保、PRを進めています。

みかん、イチゴ等は、地域ごとにブランド化した取り組みが盛んです。地域ごとに協業し、地域間で競争する代表例と言えるでしょう。

まとめ

今回は、あまり馴染みのない競争環境について、概念から農業への適用について触れて参りました。
競争を仕掛けることを推奨しているわけではないことは、感じていただけたかと思います。

今回のまとめのポイントとしては、「農業経営には、能動的に競争を回避し、勝てるべき場所を見つけ、勝てると時に勝つという、意図を持った姿勢が求められる。そのためには自分の事業の競争環境を不安的に見ること。」を挙げます。

次回は、農業における規模の経済性について考えていく予定です。

<前回までの連載>

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芳賀正輝

芳賀正輝

株式会社コーポレイトディレクション マネージングコンサルタント。 東京工業大学工学部卒。同大学大学院社会理工学研究科修士課程修了。工学修士(経営工学)。外資系化学メーカーBASFコーティングス株式会社、株式会社星野リゾートを経て、現在に至る。

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