【水稲】穂いもちの特徴と対策は? 適期防除で収量12%アップを実現する方法
水稲の重要病害である「いもち病」の中でも、病害が穂に発生する「穂いもち」は、稔実が悪くなったり不完全米が増加したりして、収量や品質を大きく低下させます。穂いもちを発生させないために、感染源となる葉いもち発生時からの適切な体系防除を整えましょう。
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目次
「穂いもち」は、収量に直接関わる稲穂や籾に被害が出るため、発生前の予防や早期防除が不可欠です。そこで本記事では、穂いもちの主な原因となる葉いもちの早期発見や、ほかの病害との見分け方といった防除のポイントについて、被害の様子がわかる写真を交えて解説します。
水稲の重要病害「穂いもち」とは?
G-item / PIXTA(ピクスタ)
水稲栽培での代表的な病害が「いもち病」です。このうち、穂の部分に発生するものを「穂いもち」といいます。いもち病は発生箇所や時期により、穂いもち以外にも「苗いもち」「葉いもち」などに分けられ、それぞれ有効な防除対策が異なります。
なお、穂いもちは、発生部位によって「枝梗いもち」「節いもち」「穂くびいもち」「籾いもち」などと呼ばれます。この呼び分けには、防除対策などに影響する違いはありませんが、水稲農家同士や営農指導員との間で話題になることもあるので、覚えておくとよいでしょう。
いもち病の病原は糸状菌(かび)で、低温・高湿度の条件を好みます。そのため、気温が20〜25℃程度と比較的低く、降雨などにより水稲が長時間濡れたままの状態が続くと周囲に伝染します。
rogue / PIXTA(ピクスタ)
特に出穂直後〜1週間ほどが最も感染しやすく、すでに葉いもちなどが発生している水田で出穂直後に降雨が続くと、籾や穂首、枝梗に感染・発生します。ただし、葉いもちが未発生でも、保菌していて穂いもちが発生する場合もあるため、油断はできません。
穂いもちが発生すると稔実が阻害されて不稔になったり、不完全米が増加したりするため、水稲の病害の中でも減収の被害が大きいとされています。ただし、穂いもち以外のいもち病は、それほど深刻な減収にはつながりません。
また、出穂後の日平均気温の積算温度が350 ℃を超えてからは、感染しても収量にはあまり影響がないため、いもち病では出穂直後の穂への感染を防ぐことが最重要です。
発生を見逃さない! いもち病の症状と、他病害との見分け方
Yoshi/PIXTA(ピクスタ)
穂いもちの発生初期に適切な防除を行い、被害の拡大を防ぐためには、まず病害を特定することが重要です。症状の似た病害と見分けるポイントも含め、特徴を把握しておきましょう。
【画像でみる】 水稲における穂いもち被害の特徴
先述したように、穂いもちは感染した場所によって異なる症状が表れます。例えば「枝梗いもち」は、枝梗が褐変して枯死し、不稔になります。症状が進むと、次第に穂全体が灰白色になっていきます。
「節いもち」は、葉節に発生した病斑がスポンジ状になって黒くへこみ、そこから折れて倒伏することもあります。
穂くびに感染したものを「穂くびいもち」といい、出穂直後に感染した場合は、穂くびから先への水分・養分の補給ができず白穂になります。中期以降に感染した場合は、稔実が非常に悪くなるため注意が必要です。
籾に感染する「籾いもち」の場合、出穂後早期の感染では穂が白っぽくなって枯死し、後期に感染すると枯死はしないものの、不完全米が増えます。
穂いもちによる白穂。白くなった部分の籾は不稔となる
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
穂いもちが多発したほ場。ところどころに白っぽい穂が混じる
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
症状による穂いもち診断のポイント
穂いもちの症状は、穂首の節などに黒褐色の病斑ができ、その病斑よりも上部が白く枯死するのが特徴です。下葉や止め葉に葉いもちの病斑がある場合はわかりやすいものの、葉の症状が見られない場合もあり、注意が必要です。
同様に、穂が枯れたり変色したりする病害や虫害もあるので、よく観察して違いを見極めましょう。以下、穂が枯れる病害や虫害の代表的な症状の特徴を挙げます。
もみ枯細菌病
イネもみ枯細菌病
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
穂軸は変色せず、籾だけが白っぽく変色するのが特徴です。
ごま葉枯病
イネごま葉枯病
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
葉にごま粒のような丸みを帯びた小斑を生じ、その周囲が黄色く変色するのが特徴です。症状が進むと、穂がアメ色に変色します。
紋枯病
イネ紋枯病 止葉の病斑
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
止め葉や葉鞘に病斑が見られ、穂は止め葉から枯れます。
虫害による白穂の症状
ニカメイチュウによる白穂
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ニカメイチョウ(ニカメイガ)の食害による白穂の症状です。穂が軸から枯れきっていて、手で引っぱると簡単に抜け、穂の根本には食害痕が見られます。
葉いもちとの体系防除! 水稲を守る、効率的な穂いもち対策
穂いもちを早期に効率的に防除するうえでは、葉いもちを含めた体系的な防除対策がポイントになります。以下では、具体的な対策について解説します。
耕種的防除|過剰施肥や密植は避けよう
いもち病に耕種的防除は有効です。穂いもち防除のために実践したい耕種的防除のポイントを4つ紹介します。
適切な施肥管理
いもち病の原因菌は、窒素過剰の環境によって発生が助長されます。穂いもちの防除のためには、病原菌の好む環境をつくらないことも大切です。また、病原菌に触れても発病しない健苗に生育することも、予防の基本です。
そのためにも、作物の抵抗力低下の要因となる窒素過剰な環境にならない「可変施肥」が適しています。可変施肥とは、地力や生育状況にあわせて最適な施肥量にコントロールする施肥方法です。可変施肥で窒素量を適正化することで、過剰施肥の防止による病害予防はもちろん、養分不足による生育不良も防ぐことができます。
可変施肥は、高額な農機を持っていなくても手軽に始めることができます。
▼可変施肥の方法は以下の記事をご覧ください。
密植を避ける
密植をすると風通しが悪くなり、過湿環境となります。高い湿度もいもち病の発生を促進するため、定植時には株の生長も見越して適度な間隔を取りましょう。
無病の種籾を使用する
種籾は、できるだけ無病のものを入手しましょう。自家採種する場合は、前年に病害虫の発生していないほ場から種籾を取り、種子消毒を徹底する必要があります。
▼種籾消毒についてはこちらの記事をご覧ください。
いもち病が発生したほ場のわらや籾をすべて処分する
罹病株を処分しても、その周囲に病原菌の胞子や菌糸が広がっている可能性があります。目視では感染していないように見えても、いもち病が発生したほ場のわらや籾は、すべてほ場の外へ持ち出し、地域のルールに沿って適切に処分しましょう。
G-item / PIXTA(ピクスタ)
化学的防除|いもち病は農薬の予防的な散布による対策が重要
穂いもちは、上位葉や止め葉に発生した葉いもちが主要な感染源となるため、葉いもちも含めた体系的な防除が必要です。
前作で葉いもちが発生した水田では、耕種的防除を行うほか、適期の農薬散布で感染の拡大を防ぎます。特に、上位葉に葉いもち病斑が確認できている場合は、出穂前に農薬を散布して、止め葉や次葉での発生を抑えましょう。さらに、出穂前後に農薬を散布することで、出穂初期の穂いもちへの感染を予防することが重要です。
いもち病に登録のある農薬
葉いもちから穂いもちへの感染を防除する対策を体系的に考えるため、葉いもち・穂いもちに絞って使用する農薬の例を挙げます。
なお、ここで取り上げる農薬は2024年9月12日現在、水稲のいもち病に登録のあるものです。実際の使用にあたっては、使用時点での登録状況を農薬登録情報提供システムで確認し、ラベルをよく読んで用法・用量を守ってください。
2024年9月12日現在、穂いもちだけに登録のある農薬はありませんが、葉いもち・穂いもち・苗いもちのいずれも、「いもち病」に登録のある農薬を利用できます。しかし、適用が異なる場合や、葉いもちだけに適用がある場合などもあるので、葉いもち・穂いもち・苗いもちそれぞれの適用を必ず確認し、適切に使用しましょう。
例えば「フジワン粒剤」は、葉いもちに対しては初発の7〜10日前までに、穂いもちに対しては出穂10~30日前までに、合わせて2回以内の湛水散布を行います。ただし、使用は収穫の30日前までにします。
「コラトップ粒剤5」では、葉いもちに対しては初発の10日前~初発時までに、穂いもちに対しては出穂30日前~5日前までに、合わせて2回以内散布を行います。
また「ノンブラスフロアブル」や「ビームゾル」、「ブラシンフロアブル」などは、葉いもち・穂いもちの区別なく、決められた期間・回数を守ればどちらにも使用できます。さらにノンブラスフロアブルやブラシンフロアブルは、もみ枯細菌病やごま葉枯病との同時防除も可能です。
農薬による防除時期
効果的な散布の具体的なタイミングは、地域や品種、その年のいもち病の発生状況などにもよります。
防除の適期判断に活用できる情報として、発生予察情報が挙げられます。農林水産省や地方自治体は、天候や生育状況をもとに有害動植物の防除に役立つ情報を発信しています。特に、警報や注意報などが発表されている病害虫には注意が必要です。
出典:農林水産省「病害虫発生予察情報」
また、栽培管理システムの活用も、防除の適期判断に有効です。栽培管理システムでは、自身のほ場の天候や作付け品種を考慮した予測をAIが行います。
次章では、いもち病を含む病害の適期防除を可能にする「xarvio®(ザルビオ)フィールドマネージャー」を例に挙げ、栽培管理システムによる防除方法を解説します。
AI解析で病害リスクを予測!いもち病の防除には栽培管理システムを活用しよう
栽培管理システムでは、地域の気象データや病害の抵抗性データから病害リスクを予測できます。ザルビオの「病害アラート」は、ほ場ごとの天候や作付け品種などのデータをもとに病害リスクを計算するため、ほ場ごとに最適な防除ができるようになります。
ザルビオは病害リスクを低・中・高で予測する
画像提供:BASFジャパン株式会社
ザルビオは、4日先までの病害リスクを予測して、リスクの高さをランプの色(赤・黄・青)で示します。また、病害リスクが高まった際は通知で知らせてくれます。病害リスクの上昇を確認したらほ場を見回り、病害の発生を見つけたら早期に対策を講じましょう。病害リスクに合わせて予防的な防除を行うこともできます。
近年、地球温暖化により豪雨や猛暑などの異常気象が頻発しており、防除をはじめとした作業適期の見極めが難しくなっています。長年農業を営んでいる方でも、異常気象の中で適期を正確に判断するのは難しいのではないでしょうか。
ザルビオのような栽培管理システムを利用すれば、これまで培った知見や経験に加えて、データを活用した客観的な判断ができるようになります。
収量12%アップ&見回りがほとんど不要に⁉︎ 栽培管理システムの活用事例
ザルビオの病害アラートを活用して、いもち病をはじめとする病害の防除を行う新潟県・上関ふぁーむの活用事例をご紹介します。
上関ふぁーむは新潟県の最北に位置する山間地である岩船郡で水稲とそばを栽培している(左:渡辺さん、中:伊藤代表、右:伊藤さん)
上関ふぁーむは、水稲25ha、そば10haのほ場を保有する農業組合法人です。高齢化によりリタイアした農家のほ場を引き受け、ほ場面積を拡大しています。しかし、面積拡大に伴い労力が不足したことから、効率的な管理方法を模索します。解決策として、他サービスの10分の1程度のコストで利用できるザルビオを導入しました。
ザルビオを導入してしばらく経ったある日、初めて病害アラートの通知が届いたそうです。
伊藤代表「ザルビオから病害アラートが来ました。半信半疑だったけども、通知が来てたので、JAの指導員に電話して一緒に見てもらいました。近くで見ると確かに斑点があって、生理障害だったと思います。植えてから1週間~10日ぐらいの小さな苗だったのですが、それがなぜ遥か上空から撮った写真ではわかるかが不思議でしたね。」
渡辺さん「結局、そのときはいもち病でやられてしまったんですよね。ただ、結果的に病害アラートの予測が当たっていたので、確かにすごいなと思いました。」
いもち病の被害にはあったものの、病害アラートの精度に驚いたといいます。また、初回は病害を防ぐことはできなかったものの、現在は病害アラートを活用することで防除適期の判断と省力化につながっているようです。
伊藤代表「検知の精度が高いので、病害アラートが出たときだけ目視確認しに行けばよく、通常時の見回りはほとんど不要で省力化が図れています。」
現在、上関ふぁーむでは、「病害アラート」と併せて生育状況を予測する「生育マップ」と、作業適期を予測する「生育ステージ予測」を活用することで、収量が15%もアップしたそうです。
ザルビオのような栽培管理支援システムは、防除時期の見極めに有効であり、省力化も期待できます。防除の見回りが大きな労力になっている方、雑草や病害などの被害で悩んでいる方に最適なツールといえるかもしれません。
穂いもちは、水稲に発生する病害の中でも、とりわけ収量や品質への被害が大きいといわれます。しかし、感染源となる葉いもちとの体系的な防除対策を講じることで、効果的な防除が可能です。
栽培管理システムを活用することで、効果的な農薬散布が可能になり、穂いもちの早期の発見・防除が容易になります。
ザルビオの病害アラートは、病害の早期発見に役立てることができるため、万が一作物が病害にあったとしても、被害を最小限に抑えられます。
ザルビオは会員登録無料です。まずは一度、最先端の栽培管理支援システムをお試しください。
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minorasuをご覧いただきありがとうございます。
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ご回答ありがとうございました。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。