【水稲】穂いもちの特徴と対策は? いもち病を見分けて収量を守る防除方法
水稲の重要病害である「いもち病」の中でも、病害が穂に発生する「穂いもち」は、稔実が悪くなったり不完全米が増加したりして、収量や品質を大きく低下させます。穂いもちを発生させないために、感染源となる葉いもち発生時からの適切な体系防除を整えましょう。
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「穂いもち」は、収量に直接関わる稲穂や籾に被害が出るため、発生前の予防や早期防除が不可欠です。そこで本記事では、穂いもちの主な原因となる葉いもちの早期発見や、ほかの病害との見分け方といった防除のポイントについて、被害の様子がわかる写真を交えて解説します。
水稲の重要病害「穂いもち」とは?
G-item / PIXTA(ピクスタ)
水稲栽培での代表的な病害が「いもち病」です。このうち、穂の部分に発生するものを「穂いもち」といいます。いもち病は発生箇所や時期により、穂いもち以外にも「苗いもち」「葉いもち」などに分けられ、それぞれ有効な防除対策が異なります。
なお、穂いもちは、発生部位によって「枝梗いもち」「節いもち」「穂くびいもち」「籾いもち」などと呼ばれます。この呼び分けには、防除対策などに影響する違いはありませんが、水稲農家同士や営農指導員との間で話題になることもあるので、覚えておくとよいでしょう。
いもち病の病原は糸状菌(かび)で、低温・高湿度の条件を好みます。そのため、気温が20〜25℃程度と比較的低く、降雨などにより稲が長時間濡れたままの状態が続くと周囲に伝染します。
rogue / PIXTA(ピクスタ)
特に出穂直後〜1週間ほどが最も感染しやすく、すでに葉いもちなどが発生している水田で出穂直後に降雨が続くと、籾や穂首、枝梗に感染・発生します。ただし、葉いもちが未発生でも、保菌していて穂いもちが発生する場合もあるため、油断はできません。
穂いもちが発生すると稔実が阻害されて不稔になったり、不完全米が増加したりするため、水稲の病害の中でも減収の被害が大きいとされています。ただし、穂いもち以外のいもち病は、それほど深刻な減収にはつながりません。
また、出穂後の日平均気温の積算温度が350 ℃を超えてからは、感染しても収量にはあまり影響がないため、いもち病では出穂直後の穂への感染を防ぐことが最重要です。
発生を見逃さない! いもち病の症状と、他病害との見分け方
Yoshi/PIXTA(ピクスタ)
穂いもちの発生初期に適切な防除を行い、被害の拡大を防ぐためには、まず病害を特定することが重要です。症状の似た病害と見分けるポイントも含め、特徴を把握しておきましょう。
【画像でみる】 水稲における穂いもち被害の特徴
先述したように、穂いもちは感染した場所によって異なる症状が表れます。例えば「枝梗いもち」は、枝梗が褐変して枯死し、不稔になります。症状が進むと、次第に穂全体が灰白色になっていきます。
「節いもち」は、葉節に発生した病斑がスポンジ状になって黒くへこみ、そこから折れて倒伏することもあります。
穂くびに感染したものを「穂くびいもち」といい、出穂直後に感染した場合は、穂くびから先への水分・養分の補給ができず白穂になります。中期以降に感染した場合は、稔実が非常に悪くなるため注意が必要です。
籾に感染する「籾いもち」の場合、出穂後早期の感染では穂が白っぽくなって枯死し、後期に感染すると枯死はしないものの、不完全米が増えます。
穂いもちによる白穂。白くなった部分の籾は不稔となる
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
穂いもちが多発したほ場。ところどころに白っぽい穂が混じる
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
症状による穂いもち診断のポイント
穂いもちの症状は、穂首の節などに黒褐色の病斑ができ、その病斑よりも上部が白く枯死するのが特徴です。下葉や止め葉に葉いもちの病斑がある場合はわかりやすいものの、葉の症状が見られない場合もあり、注意が必要です。
新潟県 農事組合法人上関ふぁーむ様
■栽培作物
米・そば
▷生育ムラ・病気・刈り取り適期の確認
▷ザルビオとドローンなどの最新機器を活用し、農業の効率化を図りたい
▷病害アラートで発生にすぐ気づくことができ、いもち病への早期対処が可能に
▷生育マップを活用した可変施肥により、収量がアップ
▷生育ステージ予測機能を利用し、収穫タイミングの正確性向上
同様に、穂が枯れたり変色したりする病害や虫害もあるので、よく観察して違いを見極めましょう。以下、穂が枯れる病害や虫害の代表的な症状の特徴を挙げます。
もみ枯細菌病
イネもみ枯細菌病
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
穂軸は変色せず、籾だけが白っぽく変色するのが特徴です。
ごま葉枯病
イネごま葉枯病
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
葉にごま粒のような丸みを帯びた小斑を生じ、その周囲が黄色く変色するのが特徴です。症状が進むと、穂がアメ色に変色します。
紋枯病
イネ紋枯病 止葉の病斑
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
止め葉や葉鞘に病斑が見られ、穂は止め葉から枯れます。
虫害による白穂の症状
ニカメイチュウによる白穂
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ニカメイチョウ(ニカメイガ)の食害による白穂の症状です。穂が軸から枯れきっていて、手で引っぱると簡単に抜け、穂の根本には食害痕が見られます。
葉いもちとの体系防除! 水稲を守る、効率的な穂いもち対策
穂いもちを早期に効率的に防除するうえでは、葉いもちを含めた体系的な防除対策がポイントになります。以下では、具体的な対策について解説します。
いもち病は、農薬の予防的な散布による対策が基本
穂いもちは、上位葉や止め葉に発生した葉いもちが主要な感染源となるため、葉いもちも含めた体系的な防除が必要です。
前作で葉いもちが発生した水田では、わらなどの残さの処分や、窒素過多にならないよう適切な施肥管理をするなどの耕種的防除を行うほか、適期の農薬散布で感染の拡大を防ぎます。
特に、上位葉に葉いもち病斑が確認できている場合は、出穂前に農薬を散布して、止め葉や次葉での発生を抑えましょう。さらに、出穂前後に農薬を散布することで、出穂初期の穂いもちへの感染を予防することが重要です。
効果的な散布の具体的なタイミングは、地域や品種、その年のいもち病の発生状況などにもよります。地域の発生予察情報をこまめに確認し、適期に散布しましょう。
hamahiro/PIXTA(ピクスタ)
葉いもち・穂いもち対策に使える農薬の例
いもち病の防除対策は、苗いもち・葉いもち・穂いもちに分けて考えられます。本記事では、葉いもちから穂いもちへの感染を防除する対策を体系的に考えるため、葉いもち・穂いもちに絞って使用する農薬の例を挙げます。
なお、ここで取り上げる農薬は2022年6月6日現在、水稲のいもち病に登録のあるものです。実際の使用にあたっては、必ず使用時点での登録を確認し、ラベルをよく読んで用法・用量を守ってください。
地域によっては、農薬の使用について定められている場合がありますので、ほ場の管轄の自治体にも問い合わせましょう。農薬の登録は、以下のサイトで検索できます。
農薬登録情報提供システム
2022年6月6日現在、穂いもちだけに登録のある農薬はありません。葉いもち・穂いもち・苗いもちのいずれも、「いもち病」に登録のある農薬を利用できます。
とはいえ、適用が異なる場合や、葉いもちだけに適用がある場合などもあるので、葉いもち・穂いもち・苗いもちそれぞれの適用を必ず確認し、適切に使用しましょう。
例えば「フジワン粒剤」は、葉いもちに対しては初発の7〜10日前までに、穂いもちに対しては出穂10~30日前までに、合わせて2回以内の湛水散布を行います。ただし、使用は収穫の30日前までにします。
「コラトップ粒剤5」では、葉いもちに対しては初発の10日前~初発時までに、穂いもちに対しては出穂30日前~5日前までに、合わせて2回以内散布を行います。
また「ノンブラスフロアブル」や「ビームゾル」、「ブラシンフロアブル」などは、葉いもち・穂いもちの区別なく、決められた期間・回数を守ればどちらにも使用できます。さらにノンブラスフロアブルやブラシンフロアブルは、もみ枯細菌病やごま葉枯病との同時防除も可能です。
過剰施肥や密植は避けよう! 耕種的防除も有効
農薬の使用と併せて耕種的防除を行うと、より効率的な防除が可能です。そこで最後に、穂いもち防除のために実践したい耕種的防除のポイントを紹介します。
適切な施肥管理
いもち病の原因菌は、窒素過剰の環境によって発生が助長されます。穂いもちの防除のためには、病原菌の好む環境をつくらないことも大切です。また、病原菌に触れても発病しない健苗に生育することも、予防の基本です。
そのためにも、作物の抵抗力低下の要因となる窒素過剰な環境にならないよう、土壌診断に基づく適切な施肥管理がとても重要です。これは、すべての病害虫の防除に共通していえることです。
▼水稲の追肥についてのこちらの記事もご覧ください。
密植を避ける
密植をすると風通しが悪くなり、過湿環境となります。高い湿度もいもち病の発生を促進するため、定植時には株の生長も見越して適度な間隔を取りましょう。
無病の種籾を使用する
種籾は、できるだけ無病のものを入手しましょう。自家採種する場合は、前年に病害虫の発生していないほ場から種籾を取り、種子消毒を徹底する必要があります。
▼種籾消毒についてはこちらの記事をご覧ください。
いもち病が発生したほ場のわらや籾をすべて処分する
罹病株を処分しても、その周囲に病原菌の胞子や菌糸が広がっている可能性があります。目視では感染していないように見えても、いもち病が発生したほ場のわらや籾は、すべてほ場の外へ持ち出し、地域のルールに沿って適切に処分しましょう。
G-item / PIXTA(ピクスタ)
穂いもちは、水稲に発生する病害の中でも、とりわけ収量や品質への被害が大きいといわれます。しかし、感染源となる葉いもちとの体系的な防除対策を講じることで、効果的な防除が可能です。
耕種的防除と農薬散布を併せて行うことで穂いもちの発生を防ぎ、稲穂の豊かな実りを守りましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。