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近江米新品種「みずかがみ」とは? 高温に強い滋賀県オリジナル品種の特徴と産地の取り組み栽培のコツ

近江米新品種「みずかがみ」とは? 高温に強い滋賀県オリジナル品種の特徴と産地の取り組み栽培のコツ
出典 : Takasah/PIXTA(ピクスタ)

みずかがみは2013年に新しいブランド米としてデビューして以来、猛暑の年でも高い品質を保つことで注目されています。温暖化が進む日本での水稲栽培で、今後重要となる高温登熟性の強い品種について、みずかがみの成功例をもとに特徴と展望をまとめます。

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温暖化により米の収穫期にも夏日を観測することのある昨今、高温登熟障害が水稲農家を悩ませています。そこで、高温登熟性に優れ、外観品質や食味もよいとされる近江米の新品種「みずかがみ」について、特徴や作付けの現況、導入のメリットなどを解説します。

近江米の新品種「みずかがみ」とは?

近江米 琵琶湖畔にひろがる水田

biwakoblue / PIXTA(ピクスタ)

滋賀県は古くから水稲栽培の盛んな地域です。コシヒカリをはじめキヌヒカリや日本晴など、さまざまな品種を栽培しており、この地で生産される米は近江米と称されています。

その滋賀県が生んだブランド米「みずかがみ」が2013年にデビューし、消費者だけでなく水稲農家からも注目されています。まずは、栽培する側の観点で、みずかがみが注目されるポイントについて解説しましょう。

猛暑でも安定した収量・品質を保つ、高温登熟性に優れた品種

みずかがみは滋賀県農業技術振興センター栽培研究部で育成された品種で、地方番号は「滋賀73号」、系統番号は「大育2520」です。

2003 年に「大育1744」(後の滋賀66号)を母、「滋賀64号」を父として交配し、何年もかけてその後代の改良を重ね、2010年度に滋賀73号の地方系統番号を付されました。

開発の背景には、1990年代以降、温暖化により主に西日本で夏から秋にかけて異常高温となることが増え、それに伴って水稲の高温登熟障害が多発したことがあります。

主な症状としては白未熟粒の発生による玄米の白濁化が見られます。そのほか粒張りが悪くなったり胴割れ米の割合が増えたりして結果的に外観品質が下がり、収量の減少や検査等級の低下につながります。

※水稲の高温障害については、こちらの記事の「高温が作物に障害を発生させるメカニズムとは?」の項、「その症状、高温のせいかも? 高温障害が発生しやすい主な作物とその症状」の「水稲」の項もご参照ください。

出穂した「みずかがみ」

Takasah / PIXTA(ピクスタ)

高温登熱障害は、出穂後20日間の日平均気温が27℃以上の条件で多く発生します。そのため、出穂の早い早生品種の方が発生しやすく、もともとキヌヒカリやコシヒカリなど、早生品種の作付けが多かった滋賀県では深刻な被害を受けました。

このような課題克服のため、滋賀県は温暖化による気候の変化に対応できる品種の育成に取り組み、その結果、みずかがみの育成に成功しました。

みずかがみは高温登熟性に優れる早生品種で、外観品質も食味も非常によく、高温の年でも品質や収量を高く保てるといった特徴があります。印象的な名前は一般公募したもので、滋賀県にある琵琶湖の美しい湖面が連想されることから選ばれました。

コシヒカリとの違い

みずかがみの特徴は、高温登熟性に優れる点だけではありません。

2003~2010年に滋賀73号(以下、みずかがみと表記)を高温登熟性検定ハウス内で育成した際の結果を、同じ早生品種であるコシヒカリとの違いを比較し、キヌヒカリを参考にしてまとめた滋賀県農業技術振興センターの資料があります。

出典:滋賀県農業技術振興センター「高温登熟性に優れる水稲新系統『滋賀73号』の育成」

開花した「みずかがみ」

Takasah / PIXTA(ピクスタ)

この資料によると、同じ早生でもみずかがみはコシヒカリよりもさらに出穂期、成熟期がそれぞれ数日早いことがわかります。草型は、稈長に対して穂長が長く、中間型のコシヒカリよりもキヌヒカリに近い偏穂重型です。

穂数はコシヒカリよりも少ないものの、収量は同程度です。耐倒伏性と葉いもちに対する耐病性はコシヒカリよりも強く、穂発芽性は「極難」で、穂発芽しにくい点も優れています。

品質の点で見ても、みずかがみの方がコシヒカリに比べ整粒歩合は明確に高く、外観品質も優ります。食味も、コシヒカリと同程度もしくはやや優る「極良」食味です。

これらの結果は、まだみずかがみとして販売を始める前の比較であり、実際に作付けした結果とは異なるかもしれません。ただ、2013年に一般栽培が始まってからも改良を続けており、その品質が少しずつ信頼を得て作付面積を順調に伸ばしていることは確かです。

収穫期を迎えた「みずかがみ」

収穫期を迎えた「みずかがみ」

味はどう? みずかがみの食味ランキング評価

滋賀県産米の特A評価

出典:一般社団法人日本穀物検定協会「米の食味試験」所収
「平成元年産からの特Aランク一覧表」
「ランク別表」よりminorasu編集部作成

前項で、高温登熟性検定ハウス内での育成結果では食味も「極良」であったということに触れましたが、一般に流通してからの評価はどうでしょうか。

参考として、一般的な「おいしいお米」のランク付けとして広く知られている一般財団法人日本穀物検定協会の食味ランキングを見ると、みずかがみは平成27(2015)年産から平成29(2017)年産までは3年連続で特A、平成30年度はAとなったものの、令和元年(平成31年・2019年)産は同産地のコシヒカリと並んで特AをW獲得するなど、例年高い評価を受けています。

令和2(2020)年産は惜しくもAとなってしまいましたが、6年間で4回の特Aを獲得しており、比較的品質が安定しているといえます。令和3(2021)年産米も猛暑を乗り越えて特Aを奪還できるか、結果に期待しましょう。

出典:一般社団法人日本穀物検定協会「米の食味試験」所収
「平成元年産からの特Aランク一覧表」
「ランク別表」

みずかがみの作付面積と、普及に向けた滋賀県の取り組み

デビュー以来、みずかがみは改良を重ねながら滋賀県内での作付面積を順調に増やしてきました。その概要と普及に向けた具体的な取り組みについて解説します。

滋賀県における主要品種の作付面積推移

滋賀県における水稲作付面積は、みずかがみが発売される前の2010年には全体で33,100haありました。それが2020年には31,100haとなっています。

品種別の内訳を見ると、2010年はコシヒカリが38.5%、キヌヒカリが23.9%で合わせて62.4%を占めていたのが、2020年にはコシヒカリが33.9%、キヌヒカリが19.8%、合わせて53.7%に減っています。その代わりにみずかがみが10.6%と1割以上を占め、既存の「秋の詩」「日本晴」の品種を抜いて第3位になりました。

これは、みずかがみを滋賀県のブランド品種として定着させるため、県が作付け拡大を推進している成果でもあります。

みずかがみの栽培が始まった2013年の作付面積は169haでしたが、2014年には1,120ha、2016年 2,300ha、2018年 2,751haに増え、7年目の2019年には約3,200haに達しています。

出典:滋賀県「しがの農林水産業について」 所収 「しがの農林水産業令和3年度(2021年度) 3滋賀県の概要・あらまし」

着実に実績を伸ばしている県の普及への取り組みとブランディング戦略について、次に紹介します。

作付面積の拡大を実現した、積極的な技術提供と支援体制

滋賀県では、県で育成したみずかがみの生産拡大に向け、地域の指導機関や農家、関係団体などと積極的な推進活動を続けています。

しかし、取り扱う農家が増え、それぞれが独自に栽培をすると品質や食味が異なってしまう可能性があり、ブランドの維持が困難になりかねません。また、出荷もばらばらに行っていては、需要が増えてもブランドとしてまとまった量の確保ができなくなってしまいます。

そこで滋賀県は、ブランドイメージを統一するため、イメージカラーやパッケージデザインを共有できるように、色指定やデザインの情報をインターネット上で提供しています。

みずかがみのパッケージデザイン

みずかがみのパッケージデザイン
出典:ソーシャルワイヤー株式会社(ここ滋賀マルシェ事務局 ニュースリリース 2018年11月2日)

また、生産を拡大してもブランド米として均一な品質の米を一定量集荷できるように、みずかがみの生産農家に丁寧な「みずかがみ」栽培マニュアルを作成し、誰にでも参照できるようにしています。

出典:近江米振興協会『「みずかがみ」栽培マニュアル2019』

2019年のマニュアルでは、みずかがみ栽培・生産の概況や消費者からの評判、キヌヒカリに比べ粗収入が大きいこと、収量目標などの説明のあと、土壌の管理から栽植、施肥、病害虫の対策や重機の取り扱い方まで、詳しい情報を提供しています。

また、2019年時点におけるみずかがみの生産要件は、以下の5つです。なお、この要件は見直される場合があるので、今後、栽培を始める際には最新のマニュアルを確認してください。

1.環境こだわり農産物の認証を受けること
2.全量種子更新し、自家採種は行わないこと
3.種子を第三者に譲渡しないこと
4.1.85mm以上の網目で調整すること
5.出荷にあたっては農産物検査を受検すること

この要件のうち、1の「環境こだわり農産物の認証」とは、滋賀県独自の認証制度です。次の項で詳しく説明します。

普及と高品質化を後押しする「環境こだわり農産物認証制度」

みずかがみ普及と品質保持に向けた取り組みの1つとして、「環境こだわり農産物認証制度」があります。

これは、琵琶湖とその周辺の美しい自然環境を有する滋賀県が、農薬や化学肥料の使用を慣行栽培の50%以下に抑え、琵琶湖や周辺の環境に配慮した栽培方法で生産された農産物を認証する制度です。

この基準に基づく栽培方法を、品種特性を熟知した普及指導員が農家に直接技術指導することで、食味・品質の高位安定化や他品種との差別化を実現できます。「びわ湖にやさしい」というフレーズもブランドのイメージアップにつながり、実際に、消費者からの高い評価も獲得しています。

みずかがみから抽出した米エキスを配合した「みすかがみコスメ」も誕生。県外では、滋賀県の往訪発信拠点「ここ滋賀」(東京・日本橋)で販売されている

みずかがみから抽出した米エキスを配合した「みすかがみコスメ」も誕生。県外では、滋賀県の往訪発信拠点「ここ滋賀」(東京・日本橋)で販売されている
出典:株式会社PR TIMES(湖の国のかたち ニュースリリース 2018年12月12日)

他産地で栽培するなら? みずかがみ以外の高温登熟性に優れた品種の例

温暖化が進むにつれ、日本各地で9月以降も真夏日が続くことが増えている近年、みずかがみのような高温登熟性に優れた品種の育成は全国的に喫緊の課題として各地で取り組まれています。

また、既存の品種についても、地域別に栽培されている品種について、2016~2017年度に次世代作物開発研究センターで高温登熟性の強弱を調べ、高温登熟性標準品種としてまとめられています。

出典:農研機構「北海道を除く全国の水稲高温登熟性標準品種の選定」

この調査では、67品種・系統の高温登熟性を"強"~"弱"の5段階で評価しており、全国的に多く作付けされている「コシヒカリ」「あきたこまち」「ひとめぼれ」や「はえぬき」の高温登熟性はほぼ“中”に分類されています。

そして、例えば寒冷地北部・中部の極早生・早生では「ふさおとめ」、晩生・極晩生では「笑みの絆」が高温登熟性の強い品種とされ、暖地の極早生・早生では「なつほのか」、中性では「おてんとそだち」が強い品種とされています。

夏 登熟期を迎えた水稲

hiroshi / PIXTA(ピクスタ)

水稲の登熟期に高温が続く年が増え、米の収量や品質の低下が全国的に深刻な問題となっています。高温登熟性が強く品質・食味のよい品種の育成が急がれる中、滋賀県が育成したみずかがみに大きな期待が寄せられています。

滋賀県の細やかな推進方針によって、その品質が守られながら生産量が拡大しており、その栽培方針は県内の農家はもちろん、県外の農家にとっても大いに参考になるでしょう。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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