【いもち病の農薬一覧】農薬散布時期と防除方法についても解説

水稲の代表的な病害「いもち病」は、収穫量や品質に大きな影響を与えるため、確実な防除が求められます。この記事では、生育時期ごとの処理方法や有効な農薬を解説します。あわせて、紋枯病の防除と併用する方法も紹介します。
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水稲のいもち病とは?特徴と発生原因
水稲栽培において、最も代表的といえる病害が「いもち病」です。いもち病とは、いもち病菌というカビの寄生によって発生する非常に感染力の強い病害です。
発病すると、水稲の葉が枯れ、もみの稔実(ねんじつ)を阻害されるだけでなく、感染した水稲が新たな感染源となって被害が拡大してしまう恐れもあります。
いもち病は水稲のどの部位にも感染し、発生した場所によって「苗いもち」「葉いもち」「穂首いもち」「節いもち」などと呼び方を変えます。発生場所によって、それぞれの特徴が異なります。
いもち病の発生過程は、まずいもち病菌の被害にあった藁や胞子などが長距離飛散し、水稲に付着して繁殖します。
いもち病の発生には温度が大きく影響し、高湿で低温、特に夏に気温が低く長雨が続くような年は発生しやすい傾向があるとされています。
窒素肥料の使い過ぎもいもち病発生の原因と考えられており、いもち病と同じく糸状菌(カビ)による「紋枯病」と併せての対策が必要です。窒素肥料の使用過多は、水稲の抵抗力を弱め、葉が生い茂ることで密度を増し、一層いもち菌に感染しやすい環境を作り出してしまうのです。
いもち病の基本的な予防対策

Yoshi/PIXTA(ピクスタ)
いもち病の予防には、耐病性品種を選び、病原菌が発生しづらい環境を作る基本的な対策である「耕種的防除」と殺菌剤などの農薬を使用した「化学的防除」があります。それぞれについて詳しくご紹介します。
耐病性品種を選び、定期的な種子更新を行う
耕種的防除の代表的な方法は、「耐病性品種」を選ぶことです。耐病性品種とは、病害に対して初めから抵抗をもつように改良された品種のことで、特定の病害に対して免疫力があります。
しかし、水稲の場合、産地によって、食味・品質・収量など独自の特性を持った品種を栽培していることが多く、各産地では、毎年の「種子更新」が奨励されています。
健全な水稲を栽培するためにも、品種固有の特性を維持するためにも、各地域の生産組合・採種組合などから入手した純粋な種子(種もみ)を使います。
補植用取り置き苗は早めに除去する
「補植用取りき苗」とは、機械植えの場合に連続して株が欠落した部分ができてしまったとき、そこに栽培するためにほ場の一部に取り置いておく苗のことです。
しかし、この補植用取り置き苗は、苗が密集していて露がつきやすく、いもち病の温床になる可能性が高いという問題があります。そのため、補植作業を終えたら放置せず、ただちに除去しましょう。
処分の際は、畦畔に裏返すだけでは不十分です。万が一菌が付着していた場合、被害が拡大する恐れがあるので、土壌に埋めるなどの処分が適切です。また、発病していないことを確認し、発病していた場合は周囲の苗に感染していないかを目視で確認しておきましょう。
施肥基準を守る
窒素肥料の使用過多も、いもち病を発生させてしまう要因です。施肥の際に窒素を多く含んでしまうと、いもち病が発生しやすくなります。反対に、肥料内の窒素を減らすことができれば、いもち病の予防につながります。
施肥基準を守り、窒素肥料や緑肥などの過用を行わなければ、いもち病の被害を最低限に抑えられるでしょう。施肥は多すぎても少なすぎても悪影響です。それぞれに合った、施肥基準の順守を心がけましょう。
罹病した藁は早期に埋没・焼却する
万が一いもち病にかかってしまった場合は、罹病した藁の早期埋没・焼却を徹底しましょう。いもち病に感染した藁をそのままにしておくと、周囲にも病害が拡大してしまいます。発見次第すぐに処理することで、被害の拡大を最小限に抑えることができます。病害に感染してから治療するよりも、まずは病害を予防することが大切です。
いもち病に有効な農薬一覧と防除方法

hamahiro / PIXTA(ピクスタ)
次に、いもち病に有効な農薬についてご紹介します。耕種的防除(発病に適した環境条件を排除すること)を行っていても、いもち病や紋枯病に感染してしまう可能性は残ります。
そこで、いもち病を発生させない”予防”の観点と、いもち病が発生した際の拡大をくい止める”応急処置”の観点からの農薬による化学的防除の方法を紹介しましょう。
※ここで紹介する農薬は、2025年7月3日現在、水稲のいもち病に登録のあるものです。実際の使用に当たっては、使用時点での作物に対する農薬登録情報を確認し、ラベルをよく読み、使用方法や使用量を守ってください。
種子消毒におすすめの農薬一覧(液剤・乳剤・水和剤)
「化学的防除」の代表的な例として、「種子消毒」が挙げられます。特に、種子消毒をすることで育苗期の種子伝染性病害を効率的に防除できるため、生産性を安定させることにもつながります。また、作業効率もよく、種もみを全体的にムラなく消毒できるため、高い防除効果も期待できます。
水稲の種子消毒に登録のある代表的な農薬は、次の通りです。
- スポルタック乳剤
- いもち病やばか苗病に対して効果があり、100倍に希釈して種もみを10分間浸漬処理します。種子消毒の基本薬剤として広く使われています。
- テクリードCフロアブル
- いもち病や紋枯病など複数の病害に同時防除が可能です。200倍に希釈して24時間浸漬します。薬剤消毒籾を長期間保存しても、安定した防除効果を保ちます。
- ベンレートT水和剤20
- いもち病やごま葉枯病など、広範囲な病害に効果があります。20倍に希釈し、10分間種子浸漬で使用します。抗菌スペクトラムが広く、薬害の心配が少なくなっています。
また、種子消毒には処理剤を利用しない「サーモシード」という方法もあります。サーモシードとは、種子に高温蒸気熱処理をすることで、種子伝染性病害を防除する技術のことです。農薬のコストを抑えたい方にはおすすめの方法です。
育苗箱処理剤でおすすめの農薬一覧(粒剤)

masy/PIXTA(ピクスタ)
できるだけ作業負担を減らすためには、「育苗箱処理剤」を使用するとよいでしょう。育苗箱処理剤は、育苗段階から病害虫対策を行うことができるため、防除適期を逃すことなく安定した効果が期待できます。基本的には播種〜田植え時までに防除を行うのが一般的ですが、処理剤によって微妙に使用時期が前後するため、使用時期を確認してから使用しましょう。いもち病対策として育苗箱に処理できる粒剤のうち、代表的な農薬は次の通りです。
- ルーチン粒剤
- 有効成分イソチアニルを含み、耐性菌発達のリスクが小さく、既存のいもち病薬剤耐性菌にも有効です。育苗箱処理から湛水散布と、幅広い処理時期に対応しています。
- オリゼメート粒剤
- 有効成分プロベナゾールを含んだ、世界初の植物防御機構活性化剤です。植物の病害抵抗性を誘導して高い効果を示します。
葉いもちの本田散布におすすめの農薬一覧(粒剤・水和剤)
葉いもちの基本的防除としては、農薬の「本田散布」を行います。本田散布は、病害虫が発生する前の使用がおすすめです。
- オリブライト1キロ粒剤
- 葉いもちの発生前散布で高い予防効果があり、初発後散布でも上位葉の発病を抑えるため、葉いもち初発10日前~10日後まで使用可能です。葉いもち初発前後の1回散布では、穂いもちにも効果が期待できます。
- ゴウケツ粒剤
- いもち病に対して高い効果を示し、長い残効性が期待できます。既存薬剤耐性菌にも有効で、もみ枯細菌病・内穎褐変病・白葉枯病などの細菌性病害にも有効です。
- ブラシンフロアブル
- 有効成分フェリムゾンを含み、葉いもち発病初期に高い治療効果を示します。地上散布から無人航空機散布、空中散布まで幅広い場面で使用可能です。
いもち病や紋枯病は、水稲栽培において非常に厄介な病害です。感染に気付かず放置してしまうと、甚大な被害をもたらしかねません。今回の記事を参考に、予防や防除など早期に対策を講じて良質な米の収穫につなげていきましょう。
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鎌上織愛(かまがみおりえ)
北海道出身。両親は北海道で農業を営む現役の農業者で、自身も幼少期より農作業を行う。農作物はもち米・人参・アスパラガス・とうもろこしを中心に、ハウス一棟を自家菜園として様々な種類の野菜を育成する。現在は食生活アドバイザーとして、ライターなどの執筆活動の傍ら、こどもの食育などに力を入れている。