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落水と収穫のタイミングは? 品質を確保するための水田管理のポイント

落水と収穫のタイミングは? 品質を確保するための水田管理のポイント
出典 : sammy_55 / PIXTA(ピクスタ)

水稲の収穫前に行う「落水」は、稲を乾燥させたり、水田の土を固めてコンバインによる収穫を効率よく進められるようにする重要な水田管理の1つです。しかし、水稲の登熟には水分が必要であり、適切なタイミングで落水することが大切です。

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落水は水稲の収穫作業に欠かせない一方で、作業を優先して時期を誤ると、水稲の品質や収量に大きく影響します。本記事では、落水の時期を的確に判断するポイントや、収穫までの手順について解説するとともに、落水を含む水田の水管理を効率的するシステムを紹介します。

水田の水管理における落水

中干し

Photo753 / PIXTA(ピクスタ)

落水とは、「水田から水を抜くこと」を指します。一般的な水稲栽培では、中干し後、湛水と落水を交互に行う「間断灌水」を行います。出穂後も間断灌水を続けます。

収穫前の落水

開運招福招き猫 / PIXTA(ピクスタ)

また、収穫に備えて最後に水田の水を抜くことも「落水」と呼びます。通常、最後の落水後は田を乾かし、収穫まで湛水は行いません。

「収穫前の落水」は、籾(もみ)が十分に登熟するのを待って行われる重要な水管理作業です。落水のタイミングは、水稲の登熟具合や気象条件によって異なりますが、一般的には、収穫前の数日から数週間前に行われます。

この記事では、主に「収穫前の落水」について解説します。

落水には、主に次の2つの目的があります。

・稲に含まれるの水分を調節し米の品質を維持すること
・水田の土を固め、収穫作業を効率化すること

収穫作業では、穂が湿っていたり水田がぬかるんでいたりすると、作業効率が悪くなります。そこで、収穫予定日に合わせて水田が適度に乾くよう、土壌の排水性や天候を考慮して、水を抜き始める時期を逆算します。

特に大規模水田の場合、作業を効率的に進めるには、コンバイン(収穫機)がスムーズに走行できるように広範囲にわたって土を固める必要があります。そのためには、事前の水抜きが欠かせません。

落水の時期が品質に与える影響

収獲前 落水後の水田

G-item / PIXTA(ピクスタ)

落水は収穫準備のための作業であり、適切に行われれば水稲の生育や品質には影響しません。しかし、注意が必要な点もあります。

落水を行うと水が少なくなるため、異常高温のフェーン現象などが発生した場合、地温が上がりすぎて高温障害が発生する可能性があります。また、砂質土壌など排水性の高い土壌では、落水によって水分が不足する恐れもあります。

順調に水稲が生育している状況でも、収穫作業を優先して早めに落水すると、玄米の品質が損なわれたり、収量が減少する場合があります。したがって、落水の時期を適切に判断するには、水稲にどのような影響を及ぼすのかを理解しておくことが重要です。

自身の水田の条件や気象状況を考慮し、適切な落水の時期を選択することで、水稲の品質を維持しながら収量を最大化することができます。

落水のタイミングと品質確保のためのポイント

落水の時期は早すぎても遅すぎても、水稲の品質に深刻な影響を及ぼすことがあります。特に、落水が早すぎると品質低下が生じることが多いので、登熟の状態を確認しながら慎重に準備を進めることが重要です。

落水の適切なタイミングは、気候、土壌条件、そして品種によって異なりますが、「出穂後25~30日」または「収穫の1週間前」を目安にする地域が多く見られます。一部の地域では「出穂後35~40日」を基準とする場合もあります。

水稲の生育ステージと水管理のイメージ

出典:以下資料よりminorasu編集部作成
農林水産省「農林水産技術のホームページ|農業技術総合ポータルサイト」「基本的な栽培技術を見る!」の項 所収 「米(稲)~水稲栽培のポイント」
JA全農三重県本部「2022年03月29日 お知らせ|生育時期に応じた適切な水管理を!」所収「「徹底!水管理」チラシ」
JA全農富山県本部「高品質米の生産」所収「水管理について」
井関農機株式会社「ヰセキの営農情報|日本各地の栽培暦」所収「コシヒカリ栽培暦(茨城県 37株植)」

土壌の排水性や保水性を考慮することも重要です。排水のよい土壌では、水田が早期に乾燥しやすいため、出穂後30日以降に落水を行うことが一般的です。
一方、排水の悪い土壌では、水分が保持されやすいため、出穂後25日頃に落水を行うなど、地域ごとに提示された範囲内で調整します。それより前の出穂後20日ほどまでは、登熟に水分が不可欠なため、2~3cm程度の湛水状態を保ち、水を切らさないことが重要です。

近年は気候変動の影響で登熟期間に高温が続くことが増えています。地域で発信される情報をこまめにチェックし、高温のリスクが高い場合には落水のタイミングを遅らせるなど、状況に応じた調整が必要です。

以下では、落水の適期を判断するに当たって考慮すべき3つのポイントについて、それぞれ詳しく解説します。

早期落水を避ける

登熟度を調べる

リチャード / PIXTA(ピクスタ)

近年、高温で収穫期が早まっていることから、落水を早めに済ませたいと思われる方も多いでしょう。しかし、収穫作業の効率を優先して早めに落水すると、以下のような問題が生じる可能性があります。

早期に落水するとほ場が乾燥します。これにより根の活力が低下し、充実した籾を形成するための栄養補給が不十分になり、米に十分な厚みが形成されません。また、登熟不良による胴割粒や未熟粒などが発生し、見た目・味ともに品質が低下します。

早期落水による水分不足は、「ウンカ」「穂いもち」などの病害虫や高温障害のリスクを高めます。特に痩せたほ場や排水性の高いほ場では、登熟不良や水分不足になりやすく、病害虫や高温障害の被害が増える可能性があります。


したがって、水稲の生育状況と地域の条件に応じて、適切な落水時期を選択する必要があります。特に排水性の高いほ場では、コンバインの走行に支障が出ないぎりぎりの時期まで落水を控えることが大切です。

落水を遅らせすぎない

コンバインの走行

ばりろく / PIXTA(ピクスタ)

落水が遅すぎると、水稲が熟れすぎて籾の品質が劣化し、風味や食味に悪影響を与えることがあります。

また、茎が長く伸びた状態で重くなった籾を支えることが難しくなり、雨や風の影響で倒伏のリスクが高まります。倒伏が起こると、収穫作業の効率が低下し、品質に悪影響を及ぼす可能性があります。

さらに、落水が遅く、水田が乾燥せずにぬかるむと、コンバインの走行が困難になり、作業効率が低下する可能性もあります。

落水は収穫に欠かせない作業ですが、慎重になりすぎるあまり落水適期を逃しては本末転倒です。天候や水田の状況を考慮しつつ、収穫作業に支障の出ない程度にほ場を乾かすように計画しましょう。

収穫開始日から遡って落水を行うことで、品質の低下や倒伏のリスクを最小限に抑えることができます。

悪天候のときは落水をしない

強風で倒伏した水稲

skystage / PIXTA(ピクスタ)

水稲の生育において、出穂後約1ヵ月は水を切らさない湛水管理や、出穂後20日まで湛水管理をし、それ以降は湛水と落水を繰り返す間断灌漑が基本です。

ただし、悪天候が予想される場合は落水をせず、深水管理を行いましょう。強風や大雨は倒伏のリスクを高めるため、深水管理によって倒伏を防ぐことができます。

また、収穫前の段階でも、稲は水分を必要とします。特に乾燥が進んでいる場合や高温の状況では、水分不足によって登熟が妨げられ、品質や収量に悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、落水中でも「走水」と呼ばれる補水を行い、水分補給をすることが重要です。

収穫のタイミングを判断するポイント

落水後の収穫作業も、品質や収量の向上のためにはタイミングがとても重要です。収穫の適期を判断する方法はいくつかありますが、ここでは基本的な2つの判断方法について解説します。

出穂後の日数で判断する

水稲の出穂・開花と刈取り前

トシ松 / PIXTA(ピクスタ)

刈り取りの適期は、産地によっては品種や地域ごとの「刈り取り予測」などの情報が発信されます。

各地域では出穂後の経過日数や積算温度から収穫の目安を割り出していますが、近年は異常高温の影響で予測と実態が合わないこともあります。したがって、実際にほ場の状態を見て判断することを推奨しています。

例えば、千葉県では品種ごとに出穂後日数による収穫の目安を提示し、実際にほ場の「帯緑色籾歩合(たいりょくしょくもみぶあい)」(詳しくは後述します)を観察して判断することを推奨しています。

出典元の情報を参考にすると、千葉県の「ふさおとめ」は出穂後33日前後、「コシヒカリ」は38日前後と、品種によって収穫適期が異なっています。

出典:千葉県「落水のタイミングと収穫のタイミング」

埼玉県のJA埼玉中央でも、主な栽培品種である「コシヒカリ」などの主な栽培品種について、出穂期や積算温度にに基づいた収穫適期などの情報を提示しています。

出典:JA埼玉中央「水稲 収穫前後の管理について ~品質の良い米を確保するために~」

帯緑色籾歩合で判断する

青みのある籾がまだ混じっている稲穂

のびー / PIXTA(ピクスタ)

「帯緑色籾歩合」とは、1穂から取れる籾のうち、不稔籾を除いて、目で見て少しでも青みがある籾の割合のことを指します。地域によっては「青味籾率」とも呼ばれます。

品種によって収穫適期とする割合が異なりますが、一般的には収穫適期に近づくほど青みのある籾の割合が減っていきます。

帯緑色籾歩合を判断する方法は、積算温度による予測日の少し前に、平均的な登熟具合の穂を2~3本抜き取ります。そして、紙の上に籾を削ぎ落として、青みのある籾の割合を確認します。実際の登熟具合を目視で確認し、天候や気温の影響を受けずに収穫適期を判断することができます。

例えば岡山県では、早生品種、中生品種、晩生品種によって異なる収穫適期の割合を示しています。早生品種では25〜5%、中生品種では20〜5%、晩生品種では15〜3%が収穫適期とされています。

出典:岡山県「備南広域農業普及指導センター発!営農技術情報(作物編)」所収「適期収穫で、良質米の生産を!」

ただし、収穫適期前に水稲が倒伏してしまった場合は、帯緑色籾歩合に関係なく倒伏した部分を先に収穫する必要があります。

また、籾の水分率や玄米の整粒歩合などの指標を測定したり、試し狩りを行うことで、収穫適期の精度を高めることもできます。


▼水稲の収穫適期については、以下の記事も参考にしてください。

水稲の品質を確保する水管理システム

近年ではスマート技術を活用した水管理システムが注目されています。これらのシステムは、水田の水位や水温などを自動的に測定し、遠隔での操作や確認が可能です。


例えば、ITベンチャー企業のベジタリア株式会社が開発した「PaddyWacth(パディウォッチ)」というシステムは、NTTドコモの専用回線を使用し、パソコンやスマートフォンからいつでもどこでも水田の状態を確認できます。

このシステムでは、水位や水温のデータをリアルタイムに取得し、病害虫や雑草の発生予測や収穫時期のシミュレーションなども行えます。これにより、落水や収穫のタイミングをより正確に判断することができます。
また、大規模なほ場や離れた場所にあるほ場でも、日々の水管理作業を省力化し、効率化することができます。

水稲の栽培において、適切な水管理は品質の確保に欠かせない要素です。スマート技術を活用したシステムの導入は、作業の効率性を高め、よりよい収穫を実現する一助となるでしょう。



▼「パディウォッチ」については、以下の記事も参考にしてください。

水稲栽培の落水は、早すぎても遅すぎても水稲の品質や収穫効率に大きな影響を与えます。適切なタイミングで落水を行い、収穫作業を効率化するためには、収穫時期を正確に予測し、収穫までに水田が適度に乾くよう逆算する必要があります。

特に近年は気候変動が激しいため、気候や天気に左右されない帯緑色籾歩合で収穫期を判断し、適切な時期に落水を行うことが大切です。

文中掲載以外の参考文献:
農林水産省「水稲の技術情報のページ」所収「水稲の基本的な栽培技術」
熊本県「水稲の中間管理~水管理と病害虫防除の基本~」
長野県「松本農業農村支援センター技術経営普及課」所収「適期刈取で1等米100%をめざしましょう!」
一般社団法人全国農業改良普及支援協会・株式会社クボタ「稲作における水管理」
JA全農富山県本部「営農情報|​​高品質米の生産」所収「水管理について」

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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