【トマトの害虫】オオタバコガを見分けて適切防除!使える農薬と対策一覧
オオタバコガはトマトに発生する代表的な害虫の1つです。ナスやトマトなどナス科の果菜類での被害が目立ちますが、キャベツ、とうもろこしや花き類など、幅広い作物を加害します。老齢幼虫になると防除が困難になるので、早期発見・防除が不可欠です。
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オオタバコガの幼虫はトマトの葉や茎、果実を食害しながら移動するため、少ない個体でも被害が大きくなり、収量を大幅に減少させる危険性があります。この記事ではオオタバコガの幼虫・成虫の写真とともに、被害の特徴、生態、有効な防除方法などを詳しく解説します。
トマト栽培時には要注意! 減収の原因となる害虫「オオタバコガ」
オオタバコガ幼虫による葉の食害
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
オオタバコガ発生の早期発見のため、まずはトマトにおける被害の特徴とオオタバコガの生態について説明します。
オオタバコガによる被害の特徴
オオタバコガの被害は幼虫による食害ですが、被害の特徴はオオタバコガの成長過程で異なります。
幼齢・若齢幼虫は葉の表面や新芽について食害します。葉に丸い穴が開き、未展開の葉を食害した場合は展開後の葉に奇形が見られます。また、蕾を食害し、落花させることもあります。
中・老齢幼虫になると食害も増加し、茎や脇芽を食害されて生育が悪くなることがあります。また、果実の中に侵入して食害するため表面に5~10mmもの穴が開き、被害にあった果実は商品価値がなくなります。
さらに、幼虫は次々に果実を移動して食害するため、1匹の幼虫で複数の果実に被害が出ます。
トマト果実内のオオタバコガ老齢幼虫
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
オオタバコガの生態と主な発生時期
オオタバコガはトマトのほか、ナス、ピーマンなどナス科作物、キャベツ、レタス、ニンジン、とうもろこしなどのイネ科、レタスやキクなどのキク科、えんどう類などのマメ科といった多くの作物を宿主とします。
蛹で越冬した個体が5~8月頃にかけて羽化して成虫になります。成虫の雌は夜間にトマト栽培のほ場や施設内に飛来すると、先端部付近の葉や蕾に1個ずつ、一晩で200~300個の卵を産み付けます。
気温が25℃程度の場合、卵は3日でふ化し、葉や蕾を食害し始めます。卵から羽化までの発育期間は24℃で34日間といわれ、5~6齢まで成長すると土中で蛹になります。
3齢を過ぎる頃に食害量が急増し、食害の穴が大きくなったり虫糞が目立ったりすることで発見しやすくなります。
第一世代が飛来する5月下旬頃から11月中旬頃まで4~5回発生し、特に高温・乾燥の年には多発する傾向があるので要注意です。
出典:
高知県農業情報サイト「こうち農業ネット」内「トマト オオタバコガ」
埼玉県病害虫防除所「病害虫診断のポイントと防除対策」所収「オオタバコガ」
株式会社セイコーステラ エコロジア事業部「トマトをオオタバコガの被害から守るには?見分け方と駆除方法を解説」
【参考画像】 他害虫との見分け方は? オオタバコガを特定するポイント
ゴン太/PIXTA(ピクスタ)
早期防除のため、日頃から葉や新芽・果実をよく観察し、食害痕や虫糞・卵を確認したら、その近くに幼虫や成虫が潜んでいないか探しましょう。発見した害虫は、捕殺する前に種類を特定し、種類に適した防除を行う必要があります。
オオタバコガはタバコガやヨトウムシ類などの害虫とよく似ていますが、適用のある農薬が異なります。そのため、的確に防除するには正しく判別しなければなりません。
そこで、この項ではオオタバコガの卵、幼虫、成虫の特徴について、類似の害虫と見分けるポイントも含めて解説します。
オオタバコガの「卵」を見分けるポイント
オオタバコガの卵(直径0.5mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
オオタバコガの卵はクリーム色で0.4~0.5mmほどの大きさです。見た目はヨトウムシ類と似ていますが、ヨトウムシ類のように塊で産み付けることはなく、先端部分に近い柔らかい葉裏などに1つずつ産み付けられているのが特徴です。ただし、同一株や隣接した株に産み付けるため、発生箇所は集中しやすくなります。
オオタバコガの「幼虫」を見分けるポイント
幼虫の時期は、ハスモンヨトウ・シロイチモジヨトウなどのヨトウムシ類の幼虫や、タバコガの幼虫との区別が困難です。
いずれの幼虫も体色は緑っぽいものや茶色っぽいものなど個体差がありますが、一般的にオオタバコガとタバコガは背中に黒い点があることが多く、背中に刺毛(とげ状の毛。毒はない)が出ています。ヨトウムシ類には刺毛がありません。
オオタバコガとタバコガの幼虫の区別は見た目では困難ですが、老齢幼虫では以下のような特徴があります。
オオタバコガ:毛の付け根は黒くない。刺毛がやや多い。
タバコガ:気門線より下部にある毛の付け根が黒色。刺毛は少なめ。
オオタバコガ中齢幼虫(体長10mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
オオタバコガ中齢幼虫(体長10mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ハスモンヨトウの中齢幼虫(体長10mm)背中に刺毛がない
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
オオタバコガの「成虫」を見分けるポイント
オオタバコガの成虫は、タバコガの成虫とよく似ています。それぞれ以下のような特徴があるので、よく見比べてみましょう。
タバコガ:前翅外側の黒っぽい模様がギザギザした縦縞。後翅の地色が黄色っぽく、翅脈の色は濃くない。
オオタバコガ:前翅外側の模様がギザギザしていない。後ろ羽の地色は白っぽく、翅脈は黒褐色。
オオタバコガの成虫(体長18mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
オオタバコガからトマトを守る! 有効な4つの防除対策
オオタバコガは防除対策が遅れるとトマトの収量に大きな被害が出るため、地域の病害虫情報をこまめにチェックし、以下の対策をすぐに取れるように準備を整えておきましょう。
1. 若齢幼虫を狙った農薬散布
若齢幼虫の時期に発見できれば、特に多発時には農薬散布が有効です。2022年4月24日現在、トマトとオオタバコガに適用のある農薬は「カスケード乳剤」「アニキ乳剤」「コテツフロアブル」「アーデント水和剤」など、多種類あります。
▼詳細は、「農薬登録情報提供システム」内の各農薬のページを確認してください。
「カスケード乳剤」
「アニキ乳剤」
「コテツフロアブル」
「アーデント水和剤」
なお、カブリダニ類などの天敵製剤を利用している場合や、ヒメハナカメムシ類など土着天敵の保護に取り組んでいる場合は、それらの天敵に影響が少ない農薬を選びましょう。
上記の中では「カスケード乳剤」「アニキ乳剤」が、天敵やミツバチ、微生物農薬などへの影響が小さく、IPMに適しているとされています。
実際の使用に当たっては、使用時点でトマトとオオタバコガに登録があることを必ず確認し、ラベルをよく読んで用法・用量を守りましょう。地域によって農薬の使用について決まりが定められている場合があります。確認のうえで使用しましょう。
また、トマトとミニトマトは適用が異なり、適用があっても使用方法が違う場合があるためそれぞれ確認が必要です。確認は「農薬登録情報提供システム」で行えます。
トマトの茎内に侵入したオオタバコガ幼虫
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
オオタバコガの老齢幼虫は果実や茎の内部に侵入しているため、農薬がかけられなかったり効果が出にくかったりします。すでに果実に被害がある場合は、その後の被害を防ぐための農薬散布に加え、次に紹介する耕種的防除も同時に行うことが重要です。
2. 防虫ネットや寒冷紗で飛来防止
yuruphoto/PIXTA(ピクスタ)
施設栽培においては、開口部に防虫ネットや寒冷紗を張ることで成虫の侵入を防止できます。オオタバコガ成虫の侵入防止には目合い5mm程度のものを使用します。
より細かい目合いのものを使えばアブラムシなど小さな害虫も防除できますが、あまり細かいと通気性が悪くなりハウス内が暑くなってしまうので、注意しましょう。
3. 作付け前の念入りな耕起で蛹を死滅させる
オオタバコガの蛹は土中で越冬するため、発生が見られた場合は、収穫後に作物残さをほ場から持ち去って適切に処分し、冬~春先にかけてしっかりほ場を耕起することで残った蛹を死滅させます。また、施設の場合は密閉して蒸し込みを行うことも効果的です。
4. 被害果実の除去・黄色灯の活用など地道な物理的防除の徹底
発生初期に発見した場合は、幼虫がいた周囲の葉ごと取り除き、捕殺します。近隣の株にも幼虫が付いている可能性があるため、よく観察し、卵や幼虫を直接捕殺するのが最も確実です。
また、発見が遅れて幼虫が成長し果実に入り込んだ場合は、孔が開いた果実を速やかに摘果し、果実内の幼虫を確実に捕殺してから処分します。
脇芽を摘芯した場合も、卵や幼虫が付いている可能性があるため、ほ場に放置せずに必ず持ち出して処分することが病害虫予防の基本です。
そのほか、夜間に黄色蛍光灯を活用して成虫の飛来や繁殖を抑制したり、窒素過多になると幼虫が育ちやすいといわれるため適切な施肥の管理を行ったりするなど、日頃から地道な物理的防除を積み重ねることがオオタバコガの予防・防除につながります。
黄色灯(明るいと害虫の産卵が抑制される)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
オオタバコガはトマトの新芽を食害して生育を悪くしたり、果実を直接食害して商品価値を失わせたりする、トマト農家にとって厄介な害虫です。しかし、日頃からの適切な栽培管理やこまめな確認による早期発見、速やかで適切な農薬散布をすれば防除は難しくありません。
万が一発生した場合にも、早期に対応してトマトの収量を確保しましょう。
参考文献・参照サイト:
高知県農業情報サイト「こうち農業ネット」内「トマト オオタバコガ」
株式会社全国農村教育協会「病害虫・雑草の情報基地 > 防除ハンドブック」内「オオタバコガ」
株式会社山東農園「【トマト】オオタバコガ防除のポイント・対策を紹介」
埼玉県病害虫防除所「病害虫診断のポイントと防除対策」所収「オオタバコガ」
HP埼玉の農作物病害虫写真集「オオタバコガ(トマト)」
株式会社セイコーステラ エコロジア事業部「トマトをオオタバコガの被害から守るには?見分け方と駆除方法を解説」
株式会社ニッポー「施設園芸.com」内「その食害はオオタバコガの幼虫?見分け方と駆除・防除方法を公開」
株式会社ニッポー「施設園芸.com」内「オオタバコガを駆除!春から秋の対策と効果的な防除方法」
「農薬登録情報提供システム」内「カスケード乳剤」
「農薬登録情報提供システム」内「アニキ乳剤」
「農薬登録情報提供システム」内「コテツフロアブル」
「農薬登録情報提供システム」内「アーデント水和剤」
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。