水稲の中干しを効果的に行う!管理ポイントを徹底解説
中干しによって、水稲の生育や玄米の品質向上に十分な効果を発揮するためには、適切な期間・方法で水管理をすることが大切です。そこで本記事では、中干しの具体的な効果と、中干し前後の期間を含めた効果的な水管理の方法について解説します。
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水稲栽培で中干しは重要な作業の1つです。田植え後、一定の期間水を切って土壌を乾かすことで、還元状態の土壌に酸素を供給します。有害ガスの発生抑制や根の健全な育成、過剰な分げつの抑制など多くの効果があり、収量・品質の向上につながります。
水稲の中干しとは?
Photo753 / PIXTA(ピクスタ)
中干しとは、水稲栽培において広く行われている水管理作業で、分げつ期の後期に一時的に水田から水を抜いて干すことをいいます。
水を抜いて土壌を乾かし、空気に触れさせることで還元状態から酸化状態に切り替え、根の発達を促したり、過剰な分げつを抑制したりすることが主な目的です。
中干しは多くの効果がある重要な作業で、適切に行うことで米の品質や収量が向上します。中干しが土壌や水稲に及ぼす影響を理解し、それぞれの土壌や品種に適した方法で中干しの効果を高めましょう。
中干しの4つの効果
まずは、中干しによって土壌や水稲に現れる影響や効果について解説します。
有害ガスの発生を抑える
水田でのメタンガス発生の仕組み
出典:農研機構「農業環境変動研究センターおよび前身研究所の技術マニュアル」所収「水田メタン発生抑制のための新たな水管理技術マニュアル(改訂版)(2012年8月 農業環境技術研究所)」よりminorasu編集部作成
田植え後、約1ヵ月の間、水稲は根を伸ばしながら活発に分げつを進めます。その間、水が張られた水田の土壌は酸素が少ない還元状態になり、酸素を嫌う嫌気性の微生物や菌が、土壌中の有機物を分解しながらメタンや硫化水素などの有害ガスを発生させます。
気温が上昇するに伴って有害ガスが増えると、根の生育を妨げ、根傷みの原因になるともいわれます。土壌中に溜まった有害ガスは、稲体を通して大気中に放出され、温室効果ガス増加の原因ともなっています。
中干しの有毒ガス抑制効果
出典:JAあつぎ「営農通信|水稲の中干しについて(2019年6月号)」よりminorasu編集部作成
そこで、十分に分げつしたら速やかに中干しすることで、有害ガスの発生を最小限に抑えるとともに、ひび割れから有毒ガスが抜けることにより根傷みを防ぎます。また、温室効果ガスの発生も抑制します。
もう1つ注意すべきこととして、未熟な堆肥や有機物は有害ガスの発生を促進するため、稲わらのすき込みは秋にすませ、春までに十分に腐熟させておくことも大切です。
根の活力が高まり、耐倒伏性が向上
中干しによって土中へ酸素が供給されるようになると、根を弱らせ、根傷みを引き起こすメタンなどの有害ガスが減少します。こうして根の活力が高まって根張りがよくなり、根が健全な状態に保たれます。
また、根が下層へ伸びることから、稲体を根元からしっかりと支え、耐倒伏性が向上するのも大きな効果です。
水稲への窒素供給を抑制し、過剰分げつを防止
分げつが盛んになった水稲
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
水稲の収量確保には、適切な分げつを確保することが重要です。そのためには、分げつが不足しないように生育を促進する一方で、過剰にならないよう抑制する必要があります。
中干しを行うと地力窒素の稲体への供給が抑えられ、分げつが抑制されるため、過剰分げつが防止できるとされています。
分げつが過剰になり過繁茂になると、葉に十分な日が当たらなくなり、下葉枯れを引き起こします。また、茎が細くなってしまうため、倒伏の危険性が高まります。
さらに、茎数が増え過ぎれば穂数も多くなりすぎ、無効茎歩合が増え、未熟粒やくず米の発生が増加します。その結果、玄米の品質や収量、食味の低下につながることもあります。
中干しを適切に行うことで、過剰分げつによるこれらのリスクを防止できます。
土壌が固まることで収穫の作業性が向上
SA555ND/ PIXTA(ピクスタ)
中干しには水稲の生育や玄米の品質・収量だけでなく、作業上でも効果があります。中干しによって田面が固まることで、地耐力が向上し、穂肥の施用や秋の収穫の際、トラクターやコンバインによる作業が容易になります。
また、梅雨の前に田面を固めることで、梅雨時期の水はけがよくなる点も重要です。
効果的な中干しの開始時期と期間
中干しの開始時期や期間は、品種や気候、ほ場の条件などによって異なります。実施する場合は、地域の情報を必ず確認しましょう。ここでは、おおよその時期や期間を例示します。
中干しの開始時期
ami / PIXTA(ピクスタ)
田植えの約1ヵ月後、または出穂の約1ヵ月前を目安に実施するとよいでしょう。品種やほ場の条件に合わせ、⽬標茎数の7〜8割程度を確保したら水を抜き、中干しを開始します。梅雨に入ると水が抜けなくなるため、本格的な梅⾬に⼊る前に開始することも大切です。
目安の茎数は自治体の農政部署や地域JAの営農情報を確認してください。
例として、千葉県が提示している「コシヒカリ」の中干し開始時期と茎数の目安を紹介します。
コシヒカリの中干し開始期の茎数目安(千葉県・コシヒカリ・坪当たり60本植えの場合)
土性 | 1平方m当たり | 1株当たり |
---|---|---|
砂質 | 320本 | 18本 |
壌質 | 310本 | 17本 |
粘質 | 300本 | 16本 |
出典:千葉県「千葉県農業改良普及情報ネットワーク|フィールドノート|水管理(中干し)について」よりminorasu編集部まとめ
中干しの期間
中干し期間は、地域や品種によって大きく変わります。7日程度から10日程度、2週間程度などさまざまです。期間に影響する要因としては、地域や気候のほか、品種、土質、株出来がよいか悪いか、前作が水稲か、大豆や麦類などの畑作物か、あるいは、野菜作なのかなどがあります。
いずれにしても、中干しを終了する時期が生殖成長期以降になると、根域が狭くなり生長が抑制されたり、品質が低下したりすることがあります。
そのため、生殖成長期には水を張って生長を促進する必要があります。そこで、出穂期の1ヵ月前までに中干しを切り上げ、幼穂形成期には10cm程度の深水管理ができるようにします。
Photo753 / PIXTA(ピクスタ)
【参考】中干し期間を延長し地球温暖化対策に活用する事例も
前述の通り、中干しによる効果の1つに、メタンなどの有害ガス発生の抑制があります。これを主目的とした中干し延長の実証実験が、山形県・福島県・新潟県・岐阜県・愛知県・徳島県・熊本県・鹿児島県の8県9ヵ所の農業試験研究機関で行われました。
この実験では、中干し期間を各地域における慣行の日数に対して1週間程度延長することで、メタンの発生量が30%程度削減できるという結果が得られました。
なお、地域の気候や土壌、品種によって、慣行期間の前倒しで延長するのか、後ろに延長するのかが異なり、それぞれの生育状況や気候に合わせて延長することが重要です。
▼詳しくは、農研機構の下記マニュアルを参考にしてください。
農研機構「農業環境変動研究センターおよび前身研究所の技術マニュアル」所収「水田メタン発生抑制のための新たな水管理技術マニュアル(改訂版)(2012年8月 農業環境技術研究所)」
また、中干し期間の延長と併せ、水田の排水や給水をモバイル端末などでモニタリングし、自動または遠隔操作で制御できる「ICT制御システム」の導入も注目されています。
適切な期間延長をすることで、米の品質向上も期待できるとされていますが、実証実験の結果を見る限り、収量が減収となる場合もあり、収量や品質の向上を主目的とした技術とはいえないようです。
ただし、メタン発生の削減については効果が示されており、中干し延長の技術は「環境保全型農業直接支払制度」の全国共通取組として承認されています。この制度を利用したり、環境に配慮した栽培方法であることをブランディングやPRに活用したりするのもよい方法です。
▼「環境保全型農業直接支払制度」についてはこちらの記事をご覧ください。
中干し開始までの水管理方法
sammy_55/ PIXTA(ピクスタ)
中干し開始までは、初期⽣育を促進し良質な茎を確保するために、分げつを促すことが大切です。そこで、以下のことに気を付けながら水管理をしましょう。
水深1~3cm程度の浅水で分げつの発生を促進し、深水にしないようにします。深水にすると分げつ不足や根域の減少を引き起こすため、注意が必要です。定期的に水田に入り、根傷みの原因ともなるガスが発生していないかチェックします。
中干しの開始時期にもよりますが、中干しまで浅水管理を続ける場合は、1~2回、晴天時に土の表面が乾かない程度に落水し、通排水をすると同時にガス抜きする「田干し」を行ってください。
浅水管理中の田干し
出典:鳥取県三朝町「各課のご案内|農林課|農業|米づくりのいろは~中干し編~を開催しました」所収「米づくりのいろは~中干し編~」よりminorasu編集部作成
中干し後の水管理方法
鳴き砂/ PIXTA(ピクスタ)
中干し後の水管理には、特に注意が必要です。長期の乾燥により根が酸化状態に慣れているため、いきなり灌水すると、酸素不⾜による根腐れや下位葉の枯れ上がりが⽣じやすくなります。
根の健全化や地耐⼒(地盤の強さ)の維持を図るために、慎重に水を入れましょう。以下、水管理のポイントを挙げます。
・すぐに湛水せず、入水してさっと水を走らせ(走り水)、水稲を水に慣らす
・2回ほど走り水を行ったあと、自然に水が減って田面の足跡などに残っていた水がなくなる頃に、同様に次の入水をする(間断灌水)
・間断灌水は、1日湛水し新鮮な水に触れることで根傷みを避け、2~3日かけて落水し土壌を干して酸素供給し根の伸長を促す
・間断灌水を数日間隔で繰り返し、徐々に湛水を増やし、浅水へ移行する
中干し後の間断灌水への移行
出典:鳥取県三朝町「各課のご案内|農林課|農業|米づくりのいろは~中干し編~を開催しました」所収「米づくりのいろは~中干し編~」よりminorasu編集部作成
気温が下がる恐れがある場合は、幼穂形成期では10cm、穂ばらみ期には20cmの深水にして、水温を保ち冷害を防ぎます。
中干しの管理ポイント
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最後に、中干しの実施に当たって注意すべきポイントを3つご紹介します。
1.中干しの程度に注意! 不足も過剰もNG
Photo753 / PIXTA(ピクスタ)
中干しは水を抜いてから、土壌表面をどの程度乾燥させるかに注意が必要です。ほ場条件によって異なりますが、田面が乾いて幅1cmほどの⼩さなひびが⼊り、軽く⾜跡が付く程度の状態がよいとされます。
乾燥が不⼗分な場合、茎数が過剰傾向となり稈が細くなるため、倒伏や無効分げつが助⻑され品質が低下します。また、有害ガスの発生も十分に抑制できません。
排水が悪く乾燥が進まないほ場の場合は、中干しに先だって適切に溝切りして排水を促してください。溝の間隔は2.5m程度、深さは10cm以上を目安です。
@ism/ PIXTA(ピクスタ)
中干しが強すぎる場合は、田面に大きな亀裂ができ、根が切断されるなどして傷みます。また、亀裂によって土壌の保水性が悪くなり、夏の高温期に干ばつなどの被害が起きやすくなります。乾きすぎたら、大きな亀裂が入る前に中断して入水してください。
日平均気温20℃以下の低温が続くと予想される場合も、冷害の恐れがあるため中干しを中止し、深水管理によって冷害の防止に努めます。中干しでは、こまめに田面の状態をチェックし、作業の効率よりも状態管理を徹底することが重要です。
静岡県 田森様
■栽培作物
米
▷データと機械での効率化・省力化を進めたい
▷食味をしっかり確保しながら、収量も上げていきたい
▷10haを1人でほ場管理するための作業効率化
▷ザルビオ利用開始から3年間でトータル20%の収量増加
▷生育ステージ予測で適期に追肥・刈取りができるようになり、収穫したコメのほぼ全てが一等米として判定
▷生育マップで問題の起きているほ場をピンポイントに把握できるため、作業が効率化された
2.土壌の性質に応じて必要性を判断する
mits / PIXTA(ピクスタ)
中干しの重要性は、乾田や湿田など、土壌タイプによって異なります。湿田では、水稲が根腐れしやすいため中干しの必要性が高いのに対し、乾田ではメタンなどの有害物質がもともと除去されやすいため、中干しの必要性が低いと考えられます。
このように中干しは必ず実行するものとは限らず、地域の土地の実情に応じて実施すべきかどうか判断します。また、実施するとしても、土壌の質によって程度の調整が必要です。土質については、以下を目安とするとよいでしょう。
○強グライ土(強湿田~湿田)
地下水位が高く、浸水性が低いため根腐れしやすいのが特徴で、やや強めの中干しが有効です。
○グライ土、強粘質(粘質灰色低地土・粘質黄色土)、黒ボク土(半湿田~半乾田(礫質土壌は除く))
地下水位が低く、比較的乾いていて酸化的な土層が厚い点が特徴です。土質によって異なりますが、強粘質や粘質土壌では、代掻き後、透水性が一時的に低くなります。こうした土壌では、田干し程度の弱い中干しにとどめます。
○壌質・砂質灰色低地土、壌質・砂質黄色土、礫質土壌(乾田)
地下水位が低く土壌の透水性も良好で、酸化的な土層が厚いのが特徴です。中干しは実施しなくてもよいか、実施しても田干し程度の弱い中干しとします。ひびが入るほどの中干しを行うと土が硬くなり、保水性も悪化します。
また、亀裂ができるとそこから漏水しやすくなって水尻まで通水できず、登熟期に干ばつ害を受けやすくなったり、白未熟米などが発生しやすくなったりするため、注意が必要です。
出典:農林水産省「環境保全型農業関連情報_都道府県施肥基準等_施肥の手引き 」所収「福井県「3 水稲の土づくりと施肥対策(その2)」(97ページ)
田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)
3.地域の農業技術指導機関に相談して進める
上記のポイントはあくまでも目安であり、中干しは実際のほ場の観察と状態管理が最も重要です。気候やほ場条件、品種などによって開始時期や期間、管理方法が異なるので、地域のJAや普及指導センターなどのアドバイスを受けながら進めましょう。
こまめにほ場をチェックし、必要に応じて中止するなどの決断も視野に入れるなど、臨機応変に対応することが大切です。
eps / PIXTA(ピクスタ)
中干しは水稲栽培において、品質や収量を左右する非常に重要な作業です。適切に行えば、多くのメリットがあります。
しかし、気候やほ場の条件によっては、それほど必要性がない場合や、やりすぎることでかえって品質の低下を招く場合もあるので、ほ場をよく観察し、状況に合わせて給排水を調整しましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。