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水稲「イネ紋枯病」はほ場全体の脅威に。被害を抑えるために知っておくべき防除対策

 水稲「イネ紋枯病」はほ場全体の脅威に。被害を抑えるために知っておくべき防除対策
出典 : Graphs / PIXTA(ピクスタ)

イネ紋枯病に感染すると葉鞘・葉身が枯死するだけでなく、水稲が倒伏しやすくなり収量と品質が低下します。被害株に形成された菌核が翌年の伝染源となるため、発生を抑えるためには耕種的防除と農薬による防除を組み合わせた対策が重要です。この記事では、イネ紋枯病の発生条件・被害の特徴や防除対策について解説します。

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イネ紋枯病は高温・多湿の環境で発生しやすく、早期・早植栽培を行う地域でも被害が多い傾向にあります。まずはイネ紋枯病の発生状況や、水稲にもたらす被害の概要について解説します。

温暖化で多発が懸念される「イネ紋枯病」とは?

高温期の水田

footan / PIXTA(ピクスタ)

「イネ紋枯病(もんがれびょう)」とは、水稲の葉鞘から侵入した病原菌が葉の組織内に病斑を作り出して葉鞘・葉身を枯死に至らせる、いもち病と並ぶ重要な病害です。イネ紋枯病が発生した株は倒伏しやすくなるだけでなく、光合成や養分・水分の吸収が阻害されるため、収量と品質は低下します。

国内では、窒素施用の適正化や防除効果の高い農薬の開発によって1980年代半ばからイネ紋枯病の発生は減少しています。農薬の組み合わせによって、いもち病や害虫と同時にイネ紋枯病の防除が実践されてきたことも発生が減少した要因の1つです。

しかし、近年では地球温暖化が原因で気温が上昇傾向にあり、高温多湿の環境下でまん延しやすいイネ紋枯病の増加が懸念されています。

宮城県古川農業試験場の実験では、6月後半の気温が高いほど穂ばらみ期の発病株率が高くなる結果というが報告されています。

出典:宮城県「普及に移す技術」第95号(令和元年度)「気温の上昇がイネ紋枯病へ及ぼす影響」

また、農研機構九州沖縄農業研究センターで行われたほ場試験では、出穂前10日から出穂後20日の日平均気温が高いとイネ紋枯病の病斑が上位の葉鞘に進展しやすくなり、白未熟粒の発生も増加するという結果になっています。

出典:農研機構 九州沖縄農業研究センター 2015年の成果情報「出穂前後の高温によるイネ紋枯病の進展が収量・白未熟粒の被害を増大させる」

これらの結果から、地球温暖化が進むにつれてイネ紋枯病による収量・品質低下のリスクが高くなるといえます。

高温の梅雨時期に要注意! イネ紋枯病の発生条件

イネ紋枯病 発病初期

イネ紋枯病 発病初期
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

イネ紋枯病は、糸状菌の一種である「リゾクトニア菌」が水稲に感染することで発生します。前年の被害株や畦畔などの雑草に菌核が形成され、越冬したものが第1伝染源です。

越冬した菌核は代かき・田植え時に水面に浮上し、水稲の株に付着して感染します。株間湿度が高い状態で気温が22~23℃になると菌核が発芽し、葉鞘の合わせ目から菌糸が侵入します。

イネ紋枯病 病斑の拡大写真

イネ紋枯病 病斑の拡大写真
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

菌糸の侵入後は水面に近い葉鞘に水浸し状の病斑が形成され、病斑上に白色の菌糸塊ができるのが特徴です。なお、葉鞘の気孔から菌糸が侵入した場合は、菌糸塊が作られません。

穂ばらみ期頃までは、隣接する茎や葉に菌糸を伸ばしながら感染を広めていきます(水平進展)。

穂ばらみ後期頃からは葉鞘をつたって止め葉に向かって菌糸が伸び(垂直進展)、新しい病斑を作りながら病勢を悪化させます。イネ紋枯病に感染した後は葉鞘や葉身が枯れ、倒伏も助長します。

イネ紋枯病 上位進展中の病斑

イネ紋枯病 上位進展中の病斑
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

紋枯病菌の生育・侵入に好適な温度は28~32℃ですが、梅雨の時期から気温が高い状態が続くとイネ紋枯病の発病は増加する傾向にあります。

特に、梅雨の初期の気温が高いと発病時期が早まり、被害も大きくなりがちです。イネ紋枯病の発生が多い年は菌核形成も多くなることから、翌年の感染も多くなる可能性があります。

ほ場全体に広がり大幅な減収につながることも。イネ紋枯病が水稲にもたらす被害

イネ紋枯病 止葉葉鞘まで進展した病斑

イネ紋枯病 止葉葉鞘まで進展した病斑
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

イネ紋枯病が水稲にもたらす主な被害は、稔実歩合と千粒重の低下です。前述しましたが、近年では白未熟粒の増加もイネ紋枯病の被害として認識されるようになりました。

イネ紋枯病では、隣接する株にも菌糸を伸ばして発病株を増加させます。高温・多湿の条件を満たせば6時間前後で菌核の発芽が始まり、菌糸が葉鞘に侵入した後1~2日で病斑が発生します。イネ紋枯病はいもち病のように空気感染しないため、急激に病勢が進むことはありません。

しかし、止め葉まで病斑が進展すると水稲の登熟が妨げられて収量や品質の低下につながります。倒伏のリスクも高まるため、ほ場全体にイネ紋枯病がまん延すると大幅に減収する恐れがあります。

水稲をイネ紋枯病から守るための防除対策

2022年5月22日時点ではイネ紋枯病に有効な抵抗性品種が確認されていないため、耕種的防除と農薬による防除を組み合わせてイネ紋枯病対策を行います。水稲をイネ紋枯病から守るための防除対策を紹介します。

畦畔雑草の防除

冬の間に畦畔の法面を除草してきれいに

nobo_23p / PIXTA(ピクスタ)

ほかの病害虫の防除と同様に、畦畔をはじめとするほ場内外の徹底した除草がイネ紋枯病の防除では重要です。イネ紋枯病の病原菌は水稲だけでなく、イネ科雑草やカヤツリグサ科雑草など100種類以上の植物にも感染します。

イネ紋枯病の伝染源を除去するためには、冬のうちに鎌や刈払機を使って雑草を防除するようにします。防除後は、ほ場から離れた場所で雑草を焼却処分しましょう。

代かきの際に浮遊する残さの除去

代かき

pixelcat / PIXTA(ピクスタ)

前年度に被害を受けた株から落下した菌核は、代かきの際に残さとして水面に浮上してきます。残さが水稲の株に付着するとイネ紋枯病に感染するので、バケツなどを使って可能な限り残さを取り除くようにします。

風によって残さがほ場の四隅や畦畔に集まっているときを狙えば、効率的な除去が可能です。残さの除去を何度か繰り返すことで、田植え後の株がイネ紋枯病に感染するリスクを減らすことができます。

農薬による防除

穂揃い期~乳熟期

穂揃い期~乳熟期
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

イネ紋枯病の防除に利用できる、代表的な農薬を紹介します。農薬による防除は幼穂形成期から乳熟期にかけて実施するのが一般的ですが、発病後の早期の防除が効果的です。高温多湿の日が続く場合は、農薬の使用回数の範囲内で追加防除を実施しましょう。

農薬を使用する際はラベルに記載された使用方法を十分に確認し、不明な点はメーカーや普及指導センターなどに問い合わせるなどして適切に使用してください。農薬の登録は、以下のサイトで検索できます。

農薬登録情報提供システム

(1)エバーゴルワイド箱粒剤(育苗箱処理剤)

イネ紋枯病だけでなく、いもち病やツマグロヨコバイなどの防除にも効果を発揮します。播種前から田植え当日までの間に、育苗箱処理剤として1回使用可能です。

(2)モンカットフロアブル

菌糸の生育や侵入菌糸の形成を阻止する力が強く、感染後の抑制効果も期待できます。浸透移行性に優れており、無人ヘリコプターでの散布にも使用可能です。収穫14日前までに3回使用可能です。

(3)リンバー粒剤

イネ紋枯病に強力な抗菌活性をもち、病斑の進展を抑制する効果もあります。収穫30日前までに2回まで使用できますが、散布後3~4日間は湛水状態を保つようにします。病斑が地際から20cm以上進んだ場合は効果が小さくなる傾向があります。

農薬の無人ヘリコプター散布

hamahiro / PIXTA(ピクスタ)

窒素肥料の多用を避けた適切な施肥管理

土壌の窒素が多すぎると茎が軟弱化し、イネ紋枯病に感染した際に倒伏する恐れが高まります。過繁茂によって葉どうしの間隔が狭くなり、菌糸が葉鞘に侵入する機会も増える可能性もあります。

イネ紋枯病の影響を防ぐためには、窒素肥料の多用を避けることが重要です。窒素を含めた施肥量は都道府県の施肥基準を参考にしながら、品種や目標収量などに応じて調整するようにします。

目標とする穂数を計算したうえで、稲体の窒素保有量が10a当たり5~7kgの範囲になるように基肥窒素量を調整します。また、登熟を良好にして一穂籾数を増やすために、穂首分化期から減数分裂期にかけて穂肥も行います。

品種や生育状況によって適正な施用量・施用時期が変わるので、葉色などを確認したうえで穂肥の時期を決めることが重要です。

水田 追肥作業

kmc / PIXTA(ピクスタ)

イネ紋枯病に感染すると葉が枯死するだけでなく、株が倒伏するリスクも高まります。感染の速度は遅いものの葉鞘の合わせ目に菌糸が侵入するため、ほ場全体にイネ紋枯病がまん延しやすい傾向があります。

ほ場周辺の雑草に形成した菌核は翌年の伝染源となるので、被害を抑えるためには冬の間に除草を徹底しておくことが重要です。代かき時の残さ除去や、施肥量の調整・農薬による防除を組み合わせるのも効果的です。

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舟根大

舟根大

医療・福祉業界を中心に「人を大切にする人事・労務サポート」を幅広く提供する社会保険労務士。起業・経営・6次産業化をはじめ、執筆分野は多岐にわたる。座右の銘は「道なき道を切り拓く」。

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