とうもろこしに発生する害虫と対策|適用農薬と防除時期
農業における課題の1つに病害虫への対策が挙げられます。今回はとうもろこしの害虫対策について、対策の基本から農薬の使用まで食用と飼料用とにわけて解説していきます。
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食用のスイートコーンと飼料用とうもろこしと害虫対策
sasaki106 / PIXTA(ピクスタ)
とうもろこしには主に、食用のスイートコーンと最初から家畜などのエサにすることを目的として作られる飼料用とうもろこしの2種類があります。
かつては、飼料用のとうもろこしはホールクロップサイレージ(注)として活用されるケースが多く、害虫防除を積極的に行う必要はそれほどありませんでした。
(注)ホールクロップサイレージ(WCS):子実をとることを目的に作られた作物を、繊維の多い茎葉部分と栄養価の高い雌穂部分を一緒に収穫しサイレージに調整すること。
shankoubo / PIXTA(ピクスタ)
しかし、近年では濃厚飼料として使用されるイアコーンサイレージ(注)や完熟子実の出荷が普及してきたことにより、害虫防除の必要性が高まっています。
(注)イアコーンサイレージ(ECS):とうもろこしの雌穂(イア)部分のみ(子実、芯、穂皮)を材料としてサイレージに調整すること。茎葉を含まないため、ホールクロップサイレージに比べ栄養価が高く濃厚飼料として利用できる。
LiubovYashkir / PIXTA(ピクスタ)
食用のスイートコーンと飼料用のとうもろこしでは、栽培管理方法や発生しやすい害虫の種類は異なるので、それぞれに具体的な害虫防除対策を紹介します。
とうもろこしの害虫対策の基本
とうもろこしにはさまざまな害虫がつきますが、まず前提として「害虫が発生しにくい環境」を作り出すことが重要です。例えば、前作の残さには害虫が残っている可能性があるため、特に連作するようなときは早めに徹底して取り除くようにします。
また、害虫の多くは雑草が生い茂っている場所に産卵し、個体数を増やしていきます。そのため、ほ場内はもとより、周辺に繁茂しているような箇所があれば、そこにも除草剤などを散布して雑草を防除するように努めましょう。
川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)
そのほかにも、「窒素過多」や「ほ場の排水性の改善」にも注意する必要があります。なぜなら、栄養豊富な作物には害虫が寄ってきやすいうえ、根腐れなどが起きると生育が悪くなり病害虫の被害を大きく受けやすくなるからです。
ただし、上述のような対策を施しても、ほ場周辺の環境や気象条件などによっては害虫被害をどうしても防げない場合があるでしょう。そのような場合は、とうもろこしの品種や害虫の種類に応じた殺虫剤および農薬の散布をすることになります。
次の段落からはとうもろこしをスイートコーンと飼料用とうもろこしに分けて、それぞれ発生しやすい害虫と防除方法、効果があるとされる農薬を紹介します。
スイートコーンに発生する害虫と対策
まずは、スイートコーン(食用のとうもろこし)に発生しやすい害虫の防除方法を紹介します。
なお、食用のとうもろこしは収穫する生育ステージごとに「穀類(子実とうもろこし)」「未成熟とうもろこし(スイートコーンなど)」「野菜類(ヤングコーンなど)」に分けられており、農薬登録上も別の作物として扱われる点には注意してください。
※農薬を使用する前にラベルの記載内容をよく確認し、使用方法を守って正しく散布してください。
アワノメイガ
アワノメイガ 幼虫によるとうもろこし被害果
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
とうもろこし栽培において天敵ともいえる存在がアワノメイガです。アワノメイガはとうもろこしの穂に卵を産み、ふ化した幼虫はその後に茎内部や子実まで侵入して雌蕊(しずい)部分や実を食い荒らします。
主に暖かくなる春先から被害が発生し、1年間に複数回の世代交代を行って大きな被害を及ぼすので注意しなくてはいけません。
7月下旬から8月上旬にかけて「トレボン乳剤」や「パダン水溶剤」といった農薬を2回程度散布するとより効率的な防除が可能です。
面積が小さいほ場では、ほ場全体に農業用パイプを5m間隔の格子で組み、2mm目合いの防虫ネットをかけるという「簡易ネット被覆法」という耕種的防除も有効です。
アワノメイガ 幼虫による茎への食入
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
アワヨトウ
ヨトウムシ類にはいくつかの種類がありますが、その中でもアワヨトウの幼虫はとうもろこしの葉の周縁部を食害することで知られています。
アワヨトウによる被害は基本的に幼虫による葉の食害なので、幼虫発生期である6月頃から防除します。被害が生じるのは出穂前が多く、出穂後の被害はそれほど多くありません。
アワヨトウは葉の裏側に卵を産卵するので、見つけたら葉ごと取り除きます。
アワヨトウはイネ科の雑草に産卵し、そこから幼虫がほ場に侵入してくるケースも多いのが特徴です。ほ場周辺にイネ科の雑草が繁茂している場合には除草もしたほうがよいでしょう。
また、農薬を使って防除する場合は「トレボン乳剤」や「アグロスリン乳剤」を使用するとよいでしょう。
オオタバコガ
オオタバコガ老齢幼虫(体長30mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
オオタバコガの幼虫は、主にとうもろこしの葉や実および果実の先端にあるヒゲ部分を食害する害虫です。ふ化してすぐの段階では柔らかい葉を好んで食べますが、成長するにしたがって実や茎の内部なども食害するようになります。
特に幼虫は窒素過多になっているような株を好むので、土壌の施肥量には注意しましょう。虫糞に気を付けて株を確認し、幼虫を見つけたら捕殺することが基本的な防除方法です。もしも幼虫の数が増えてきた場合には必要に応じて「アファーム乳剤」などを散布しましょう。
オタバコガ幼虫が食入したとうもろこし被害果
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ネキリムシ類
ネキリムシという名前は世間的に知れ渡っていますが、正式には「タマナヤガ」や「カブラヤガ」などの幼虫の総称です。
幼虫は夜になると土壌中から出現し、地面に近い部分の葉や茎を食害します。ひどいときはとうもろこしの茎を切断するケースもあるなど、増殖すると大きな被害につながる恐れもあります。
ネキリムシの特徴は地面付近の食害なので、そのような状況を発見したときは株元の土を掘ってみると見つけられることがあります。また、アワヨトウと同じくイネ科の雑草を好んで産卵するので、除草を忘れないようにしましょう。
農薬を用いる場合は「ガードベイトA」や「ダイアジノン粒剤5」などが効果的です。
アブラムシ類
とうもろこしの葉に寄生したムギクビレアブラムシ 成虫(体長1.8mm)及び幼虫
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
アブラムシ類は、主に6~7月にかけて葉や茎に寄生し吸汁加害を及ぼす害虫です。
とうもろこしに寄生するアブラムシ類としては、ムギクビレアブラムシとキビクビレアブラムシ、ムギヒゲナガアブラムシの3種が知られています。
大量に発生すると排泄物に生じるカビの影響によって、すす病になる恐れもあります。さらに、アブラムシ類はモザイク病などのウイルスを媒介するため、積極的な防除が必要です。
耕種的防除としては、光を反射するシルバーマルチやシルバーテープの設置が挙げられ、成虫が近寄りにくくなります。ムギ類のほ場でアブラムシ類の被害が発生するケースが多いため、近接したほ場でムギ類を栽培することは避けましょう。
農薬では「モスピラン顆粒水溶剤」や「ダントツ水溶剤」などが効果的で、発生初期に防除を開始することがポイントです。
ムギクビレアブラムシ 果実への寄生
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
飼料用とうもろこしに発生する害虫と対策
続いて飼料用とうもろこしに発生する害虫の防除対策について紹介していきます。基本的には食用のとうもろこしと同様ですが、飼料用特有の注意点もあるため参考にしてください。
同じ害虫でもスイートコーンとは適用農薬が違うので注意
飼料用とうもろこしの害虫防除で最も気を付けなくてはいけないポイントは「食用のとうもろこしとは適用農薬が異なる」点です。主要害虫は、アワノメイガやヨトウムシ類、オオタバコガ、ネキリムシ類などでその種類と基本的な防除対策は食用のスイートコーンと変わりません。
ただし、とうもろこしは農薬登録上、食用と飼料用で別扱いになっています。誤って使用が許可されていない農薬を散布すると出荷停止や回収などの処分を受ける可能性がある点には注意しましょう。
また、ヨトウムシ類に関しては2021年7月時点で飼料用とうもろこしでの作物適用がある農薬がありません。
なお、近年では主に九州中南部エリアを中心として栽培されている飼料用とうもろこしに対して、熱帯性の新害虫による被害が報告されるようになっています。これまでの防除対策とはまた違った対策が必要となりつつある点も頭に入れておきましょう。
近年増加しているツマジロクサヨトウによる被害
飼料用とうもろこしを中心として被害が拡大しつつあるのが、ツマジロクサヨトウによる被害です。生育初期の段階で幼虫による食害を受けると被害が大きくなる恐れがあります。そのため、定期的なほ場の見回りを実施し、早期発見に努めることが重要です。
農薬を使用する場合には飼料用とうもろこしへの使用が許可されている「パダンSG水溶剤」が効果的です。散布する際は隠れている幼虫にもしっかり農薬が届くように、株の上部までまんべんなく散布しましょう。
kikisorasido / PIXTA(ピクスタ)
作物としてのとうもろこしには、主に食用のスイートコーンと飼料用とうもろこしの2種類があり、それぞれ害虫事情が異なります。
害虫によって適切な防除の仕方が違ったり、使用できる農薬の種類が違ったりするので注意しなければいけません。
品質や収量を安定させるためにも、それぞれの違いをしっかり理解した上で栽培に取り組みましょう。
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中原尚樹
4年生大学を卒業後、農業関係の団体職員として11年勤務。主に施設栽培を担当し、果菜類や葉菜類、花き類など、農作物全般に携わった経験を持つ。2016年からは実家の不動産経営を引き継ぐ傍ら、webライターとして活動中。実務経験を活かして不動産に関する記事を中心に執筆。また、ファイナンシャルプランナー(AFP)の資格も所持しており、税金やライフスタイルといったジャンルの記事も得意にしている。