とうもろこしの播種時期と収量向上のポイント
とうもろこし栽培は、主に食用のスイートコーンと飼料用とうもろこしの2つがあり、それぞれに適切な播種時期や栽培管理が異なります。この記事では、それぞれのポイントについて紹介しますので、とうもろこしを栽培している農家の方は参考にしてください。
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とうもろこしは、食用のスイートコーンだけでなく、牛や豚など家畜のエサとなる飼料用のものも生産されています。どちらも同じとうもろこしではありますが、それぞれに適した播種時期や栽培管理が異なるのです。
今回はとうもろこしの収量や品質向上の方法を知りたい方に向けて、スイートコーンおよび飼料用とうもろこしでの栽培管理のポイントを紹介します。
スイートコーン|直播・移植別の播種のコツ
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まずは食用として消費者から人気の高いスイートコーンの栽培管理のコツを紹介します。飼料用とうもろこしに比べると播種後の作業が多いのが特徴です。
スイートコーンの作型と播種時期
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スイートコーンの発芽適温は20~28℃、生育適温は22~30℃です。農作物の中では比較的暑さに強い品目ですが、寒さには弱いので気を付けましょう。
また、とうもろこしはサトウキビなどと同じく光合成能率の高い「C4植物」に分類されています。そのため、日射量が多いほど生育がよくなる特性を持っています。
以上のことから、基本的に暖かく日射量の多い季節に栽培され、中間地での播種の適期はハウス栽培で1~2月、トンネル栽培で2~3月、露地栽培で3~5月というのが一般的です。
収穫時期はハウス栽培で5月上旬~中旬、トンネル栽培で6月ごろ、露地栽培で7月上旬~10月中旬ごろとなっています。
特に露地栽培は生育に適した気候条件であることから高い収量が期待でき、全国的に栽培面積の多い作型です。
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直播栽培の播種準備
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スイートコーンの直播栽培は、最低地温が14℃以上になった時期から行います。あらかじめほ場を被覆しておけば地温を高く保てるので、直播予定の1週間前までにマルチを張って18~20℃以上の地温をキープするように心がけましょう。
品種によっても異なりますが、欠株を防ぐために播種粒数は1ヵ所につきに2~4粒が目安です。畝幅は150cm程度、株間は30~35cmが一般的で、標準的な栽植本数は10a当たり3,500~4,000本程度になります。
なお、雑草の繁茂はスイートコーンの生育不良を引き起こすことがあるため、可能な限り播種前に除草をしておきましょう。
移植栽培の播種準備
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スイートコーンを苗で定植する場合、あらかじめ育苗床を用意しておく必要があります。育苗床を準備する際は、「地温30℃を保つ」「できるだけ粘土質ではない土壌を選ぶ」といった点を守ることがポイントです。
育苗床に播種後、3日程度して発芽が始まったら、温床線の設定温度は28℃に下げましょう。また、この時期の低温や加湿は腐敗の原因となることがあるため、温度以外にも灌水する際は量に注意してください。
播種から5日経過したら、温床線の温度をさらに25℃まで下げ、高温障害を防ぐために気温が30℃を超えないように管理します。そして、定植1週間前になったら外気にさらし、苗をほ場の気候に慣らしましょう。
播種後2~3週間が経って本葉が2~2.5枚程度になったら定植を始めます。分げつは本葉が3.5枚ぐらいのときから始まるので、それまでに定植することが大切です。
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定植後の栽培管理
直播栽培の場合は、本葉が3~4枚程度になったら、間引きを行って1本立ちにします。その際にタイミングが早すぎると、間引きを行った箇所から再び葉が伸びてしまう恐れがあるので注意してください。
また、間引くときに上から抜き取ると残す株の根を傷める可能性があります。そのため、はさみやナイフなどで株元から切り取るようにしましょう。
1本立ちにして十分な灌水や追肥を行うとそのうち分げつが始まりますが、雑草防除効果や交配補助を目的に除けつは行わないのが一般的です。ただし、房の肥大を目的にした徐房については、最上部の房だけを残して行ってください。
なお、本葉4~5枚ぐらいの時期から、アワノメイガやアブラムシ類による食害を受けやすくなります。必要に応じて農薬などの散布を行って防除するのを忘れないようにしましょう。
▼とうもろこしの害虫防除についてはこちらの記事をご覧ください。
飼料用とうもろこし|倒伏を防ぐポイントは播種適期と播種深度
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飼料用とうもろこしはスイートコーンに比べて栽植密度が高く、収量を多く確保できる品目です。ただし、播種時期や播種深度によっては倒伏のリスクがあります。飼料用とうもろこしを生産しようと考えている方は、適切な播種時期や深度についてチェックしておきましょう。
播種適期の見極め
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飼料用とうもろこしで気を付けなければいけないのは倒伏です。一般的にとうもろこしの地上部の割合は播種が遅くなるほど大きくなり、倒伏のリスクが高まります。そのため、適した時期(1日の平均気温が10℃超え)がきたら、できるだけ速やかに播種することがポイントです。
また、播種に当たっては品種の選択も重要です。とうもろこしサイレージは乳牛の採食性などの観点から、黄熟期に収穫する品種が好まれていることは知っておきましょう。
ただし、地域によっては台風被害のリスクがあることも頭に入れておかなければいけません。飼料用とうもろこしには、収量の多い晩生と本格的な台風シーズン前の9月中旬ごろまでに収穫できる早生気味の品種があるので、栽培する地域の特性に合ったものを選んでください。
▼飼料用とうもろこしの播種適期の見極め方、品種の選び方についてはこちらの記事で詳細をご覧ください。
播種深度に注意
飼料用とうもろこしの播種の際に、深度が浅いと倒伏や遅霜に弱くなる点に注意してください。ただし、深く植えても遅霜対策になるわけではなく、かえって初期生育が悪くなります。
大切なのは適切な深さに播種することです。一般的に飼料用とうもろこしに適した播種深度は2.5~3cmだといわれています。土壌水分が少なく、鎮圧が効きにくい泥炭土のほ場では、多少深めの播種を心がけましょう。
飼料用とうもろこし|播種作業の省力化は重要課題
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国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)が取りまとめた資料では、飼料用とうもろこしの播種関連作業時間は、作業全体の約4分の1を占めていると報告されています。
効率的に大規模栽培を営むには播種作業の省力化が不可欠であり、各地で簡易耕播種技術を中心としてさまざまな取り組みが始められています。
例えば、ライムギ後にとうもろこしの簡易耕播種を行った試験ほ場では、乾物収量が通常耕起時とほぼ同じであったにもかかわらず、作業時間は40%と省力化に成功しました。今後も省力化に向けた研究は進むことが予想されます。
出典:農研機構「飼料用トウモロコシの栽培の現状と今後の作付け拡大に向けた技術開発~省力播種技術」
飼料用とうもろこし|収量向上につながる栽植密度
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飼料用とうもろこしの収量をアップさせる方法として、注目を集めているのが栽植密度です。
作物によっては栽植密度が高すぎると、1株当たりの収量が減ることも珍しくありません。しかし、上述の農研機構の報告書では、飼料用トウモロコシ栽培において個体密度の低い農家の単収が少ない傾向にあることを指摘しています。
一般的な農家の平均個体密度は10a当たり5,000本程度であることが多いのですが、これは中生品種の最適個体密度である10a当たり7,000本に比べると少ない数字です。
個体密度を上げる方法として、「鳥害対策をしっかり行う」「10%ほど播種量を多くする」といった対策が考えられます。また、播種機の動作不良によって適切な播種を行えていないケースもあるので、農機具の整備や点検も適宜行いましょう。
出典:農研機構「飼料用トウモロコシの栽培の現状と今後の作付け拡大に向けた技術開発~飼料用トウモロコシの単収の現状」
同じとうもろこしでも、食用のスイートコーンと飼料用とうもろこしでは、播種の適期、方法、留意ポイントは異なります。しかし、いずれの場合も、品種と発芽適温、収穫予定時期から播種時期を見極めることが重要です。
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中原尚樹
4年生大学を卒業後、農業関係の団体職員として11年勤務。主に施設栽培を担当し、果菜類や葉菜類、花き類など、農作物全般に携わった経験を持つ。2016年からは実家の不動産経営を引き継ぐ傍ら、webライターとして活動中。実務経験を活かして不動産に関する記事を中心に執筆。また、ファイナンシャルプランナー(AFP)の資格も所持しており、税金やライフスタイルといったジャンルの記事も得意にしている。