【飼料用とうもろこし】播種の効率化が肝!失敗しない大規模栽培方法
飼料用とうもろこし(青刈りとうもろこし)の収穫量は、1990年をピークに減少し、ここ数年は480万t前後で横ばいです。飼料自給率の向上のために飼料用とうもろこしの増産と生産効率の向上が望まれています。当記事では、飼料用とうもろこしの大規模栽培の基本と播種の省力化技術を紹介します。
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目次
日本の飼料用とうもろこしは、主にデントコーン(馬歯種)を青刈りして粉砕加工する「サイレージ」利用が一般的です。
今回は、大規模栽培で効率的に飼料用とうもろこし(サイレージ用)の収量を上げるポイントについて、播種の方法を中心に解説します。
shankoubo / PIXTA(ピクスタ)
飼料用とうもろこしの作付面積と収穫量の推移
農林水産省の作物統計で「青刈りとうもろこし」の収穫量推移をみると、1990年の685万tをピークに、2000年代半ばまで減少し続け、最近10年は約480万tで推移しています。
出典:農林水産省「作物統計調査・作況調査」よりminorasu編集部作成
一方、作付面積をみてみると、最近10年は9.2~9.5万haで推移しています。
北海道は、2000年代後半から作付面積が増加し、2019年の作付面積は5万6,300haで2006年の約1.6倍になっています。
出典:農林水産省「作物統計調査・耕地及び作付面積統計」よりminorasu編集部作成
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構のレポート「飼料用トウモロコシの栽培の現状と今後の作付け拡大に向けた技術開発」では、その技術的要因として作業の効率化・単収が高い品種開発と密植栽培技術の確立、濃厚飼料生産技術の確立などを挙げています。
また、今後の作付拡大の技術的なポイントとして第一に播種の省力化を挙げています。
これらのことからも、品種選定や播種を始めとした作業の効率化が大規模栽培のポイントとなることがわかります。
出典:国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構「飼料用トウモロコシの栽培の現状と今後の作付け拡大に向けた技術開発」
飼料用とうもろこしの播種適期
rato / PIXTA(ピクスタ)
とうもろこしの発芽・生育適温は10℃以上です。地域によって播種時期は異なりますが、春になって降霜の心配がなくなり、平均気温が10℃以上になった頃が播種の適期です。ソメイヨシノが見頃を迎える時期と覚えておくとよいでしょう。遅霜の心配がある場合は、マルチを利用して防ぎます。
播種時期が遅れると、根に対して地上部の割合が高くなり倒伏しやすくなります。また、短期間で栄養生長するため軟弱徒長になりやすく、収量が落ちるともいわれています。平均気温が安定して10℃を超えたら、できるだけ早く播種しましょう。
とうもろこしは感温性が高い植物であり、温度が生長に大きく影響します。播種から黄熟期に達するには、有効積算温度(10℃基準)が1,200℃程度必要とされています。
「有効積算温度」とは播種以降の毎日の気温から、基準の温度(この場合は10℃)を引いた数値を積算したもので、この数値が黄熟期の目安となります。
関東以西の暖地では、11月頃まで平均気温が10℃を上回るため、二期作が可能です。二期作の場合、有効積算温度の二期の合計が2,434~2,477℃といわれます。4~11月の有効積算温度が2,400℃に達しなければ、二期作はできないということになります。
一方、北海道や高地の寒地~温暖地では、極早生種とイタリアンライグラスやライ麦などとの二毛作を行っている農家も多く見られます。
出典:
熊本県農業情報サイト【あぐり】 熊本県農林水産部農業技術課普及振興企画班「飼料用トウモロコシの栽培のポイント」
社団法人岡山県畜産協会「蒜山地域における飼料用トウモロコシ栽培利用の手引き」
飼料用とうもろこしの品種選びのポイントとおすすめの品種例
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飼料用とうもろこしには、主に熟期の違いによって多くの品種があります。この章では、早晩生の違いと早晩生を表す指標の「RM」を説明し、おすすめの品種を紹介します。
早生品種と晩生品種の違い
とうもろこしの早晩生の違いは、雄穂(ゆうすい)が出るまでの栄養生長期間の長短によって決まります。
晩生品種は栄養生長期間が長い分、茎葉が大きくなるため収量が多く、また、病害や倒伏に強い傾向があります。しかし、冷涼な地域や夏が寒い年は、登熟が遅れでん粉含有量が低くなってしまいます。
早生品種は、栄養生長期間が短い分、茎葉の量は少なくなるため収量は少なくなりますが、短期間で登熟が進みよく実が入るのがメリットです。冷涼な地域や前作・後作があって栽培期間が限られる場合などの選択肢になります。
早晩生の指標「RM」とは?
早晩生を表す代表的な指標は「RM」です。ほとんどの種苗メーカーでは品種ごとに「RM80日クラス」「RM100日クラス」のようにRMを表示しています。
RMとは、Relative Maturityの略で相対熟度と訳されます。本来は、アメリカ中西部の基準品種の発芽から登熟までの日数(100日)に対してどれだけ早生かあるいは晩生かを相対的に示す指標です。
しかし、日本ではこの数値が発芽から収穫期までの有効積算温度とほぼ比例することから、その地域の有効積算温度を「基準となる1日当たりの温度量」で割って算出しています。単位は「日」で、この数字が小さいほど早生で、大きいほど晩生ということになります。
しかし、除数の「基準となる1日当たりの温度量」に何を採用するかは、地域や種苗メーカーによって異なります。そのため、RMはあくまで早晩生の目安と考えてください。
もし、予定している栽培期間の自分の地域の有効積算温度がわかれば、多くの種苗メーカーでRMの除数としている10℃で割ってみます。この数値より大きいRMタイプの品種を選ぶようにするとよいでしょう。
ただし、前述したようにRMの算出方法はさまざまですので、都道府県の農政部署や試験場などでRMの考え方を確認することをおすすめします。
おすすめの品種
二期作を行う場合は、“中生の晩”品種に属し、春播き~夏播きまで長く利用できる「スノーデントおとは(PI2008)」などが適しています。
寒地~寒冷地の単作・二毛作であれば、“早生の早”品種に属し、熟期が早いのに関わらず高い収量を期待できる「たちぴりか」などがおすすめです。
作型や栽培期間のほか、その地域に多い病害への耐性などを考慮した奨励品種がある場合もあります。都道府県の農政部署、JAなどで地域の特性に合った品種を確認しましょう。
出典:国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構「飼料作物の品種一覧」
飼料用とうもろこしの栽培管理の基本
ttn3 / PIXTA(ピクスタ)
飼料用とうもろこしの基本的な栽培管理について、収量を上げるポイントに触れながら順を追って解説します。
【ほ場の準備】とうもろこし栽培に適した土壌と必要施肥量
とうもろこしは排水性のよい土壌を好みます。排水性が悪いと、根張りが弱く生育悪化の原因となるので、ほ場に傾斜を作ったり、明渠・暗渠(注)を設けたりして余剰水分が抜けるようにしましょう。
(注)明渠(めいきょ):ほ場の周囲に沿って掘る排水溝
(注)暗渠(あんきょ):ほ場内に透水管を敷設し、余剰水を排出する
播種前に堆肥を10a当たり2~3t散布します。よく発酵し熟成した堆肥は、緩効性で長期間効果が持続するため、生育期間中の追肥は必要ありません。
基肥は、10a当たり成分量で、窒素(N)10kg:リン酸(P)12kg:カリウム(K)8kgを目安とし、土壌の状態に応じてそれぞれ10~12kgの範囲で調整して施肥します。
化学肥料の場合10a当たり60~100kgの量になるので、肥料散布機の肥料ホッパは大容量のものが必要です。
出典:農業食料工学会誌 第76巻第5号「 飼料用トウモロコシの播種・収穫機械化作業技術」
施肥をしたら、プラウで地表から25~30cmの深さまで反転耕起します。深耕することで透水性・通気性がよくなり、土中の有機物の腐植も促進されます。
その後、プラウによってできた土塊を、ロータリーやハロー(砕土機)を使って整地します。根を張りやすくするために、丁寧に砕土することも収量アップのポイントです。
【鳥害・獣害対策】忌避剤などを用いたカラス・イノシシなどの食害防止
セーラム / PIXTA(ピクスタ)
大規模栽培が基本となる飼料用とうもろこしは、ほ場が広いため網やテープ、音などの一般的な防止策で鳥害・獣害を防ぐのは困難です。
鳥害対策
カラスやハトなどの鳥害対策として有効なのが、播種前の種子への忌避剤の利用です。2021年1月時点では、チウラム水和剤の「キヒゲン」「キヒゲンR-2フロアブル」などが飼料用とうもろこしの鳥害を忌避する農薬として登録されています。
「キヒゲン」:適用はカラス・キジ・ハト。使用方法は種子粉衣で識別剤が必要。
「キヒゲンR-2フロアブル」:適用はカラス・キジ・ハト・キジバト・ムクドリ・スズメ。使用方法は塗沫処理で識別剤は不要。
忌避剤の塗沫は、肥料袋など丈夫な袋に扱いやすい分量として5kgずつ種子を入れ、規定量の忌避剤を投入し、袋の中で混和してまんべんなくまぶします。識別剤が必要な剤型の場合は、そのあとに識別剤を規定量投入し、再度まんべんなくまぶします。その後、ビニールやムシロなどの上に広げ1時間ほど乾かします。
大量に処理する場合は、種子コーティング機を使う方法もあります。種子コーティング機を回転させながら規定量を徐々に加えていきます。
獣害対策
イノシシやタヌキなどの獣害も年々深刻になっています。爆音機や防護柵、電気柵の設置など、物理的な防除策も検討しましょう。
獣害対策についてはこちらの記事をご覧ください。「戦う前に敵を知る。鳥獣害の現状と防除対策のポイント」
【播種】倒伏を防ぐ播種深度・間隔と播種量の目安
とうもろこしの播種深度は、一般的には3cm前後とされています。地域や営農指導者によって差があり、浅くても2.5~3cm、深いところでは5cmほどとしている場合もあります。深くする理由は、春播きの際に遅霜から守るためと、倒伏を防ぐためとされています。
北海道大学で2007年に行われた試験によると、2cmや5cmの場合と比べ、7cmの深植のほうが、節根の本数が多く径も太くなり、耐倒伏性が高くなったとされています。しかし、同じ北海道の石狩農業改良普及センターでは、播種深度は2.5~3cmと指導しています。
深く植えても、茎が作られ始める基部は地表2~2.5cmの深さの位置にできます。それより深く植えつけると、その位置まで無駄な伸長が必要となり、初期生育が悪くなるからとの理由です。それぞれの理由を考慮し、ほ場の環境や気候とあわせ、最適な深度を見極めましょう。
出典:
日本育種学会・日本作物学会北海道談話会 会報48「トウモロコシにおける施肥方法と播種深度が耐倒伏性に与える影響(北海道大学)」
北海道 石狩振興局 石狩農業改良普及センター「石狩の畜産技術 ワンポイント~とうもろこしのは種深さに注意」
収量を上げるために適した栽植密度は一般的に、条間は70~80cm、株間は18~20cmとされています。播種量の目安は、10a当たり早生種で8,000本、中生種で7,000本、晩生種では6,000本です。
栽植密度が低いと、株間に雑草が侵入することなどにより収量減につながります。逆に栽植密度が高すぎると、着雌穂高(注)が高く稈(かん)(注)が細くなるため倒伏のリスクが増大します。
(注)着雌穂高:地際から最上位の雌穂(しすい)着生節位までの高さを指します。
(注)稈(かん):茎にあたる部分。地際から雄穂(ゆうすい)の付け根までの長さを「稈長」といいます。
適切な深さ・間隔で播種した後、ローラーで鎮圧すると発芽を揃えやすくなります。
【雑草対策】除草剤による土壌処理・茎葉処理
川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)
とうもろこし栽培での農薬を用いた雑草対策は、「土壌処理」と「茎葉処理」に分かれます。
土壌処理では播種後すぐに農薬を散布して、土壌表面に薬層を形成し、発芽してくる雑草を枯死させます。茎葉処理では、雑草が生え揃ったら若いうちに農薬を直接散布して枯死させます。
なお、茎葉処理の農薬は、雑草の種類ごとに適した農薬を選択します。例えば、イチビやショクヨウガヤツリ(キハマスゲ)にはシャドー水和剤、アレチウリやオオナモミにはゲザノンフロアブル、バサグラン液剤などです。
数年にわたって同じ系統の農薬ばかり使っていると、その農薬が効かない特定の雑草がはびこってしまう恐れもあります。雑草の種類をよく観察し、数年に一度は使用農薬を再検討しましょう。
【収穫】刈り取り適期の見極め方と倒伏害対策
青刈りの飼料用とうもろこしの収穫適期は黄熟期とされています。とうもろこしは乳熟期、糊熟期を経て黄熟期になりますが、黄熟期まで待ってから刈り取ります。
というのも、黄熟期にはでんぷんがより多く蓄積され栄養価も高まるからです。また、乳熟期では水分量が多く、サイレージ化の際、多くの水分とともに栄養も排汁として流れ出てしまいます。黄熟期なら水分量が低下し、サイレージ化に適した水分含有率になります。
収量を保って効率アップ!大規模栽培成功のポイントは「播種」にある
phb / PIXTA(ピクスタ)
大規模栽培が基本である飼料用とうもろこしの播種は、大型農機ならではの機能を使って効率化することが可能です。以下では、播種作業を大きく省力化・効率化する方法について解説します。
「耕うん同時播種」で播種作業時間を半減する方法
「耕うん同時播種」は、夏作の飼料用とうもろこしと、冬作の飼料作物であるイタリアンライグラスなどとの二毛作で、効力を発揮する播種方法です。
市販されている真空播種機(注)と耕起・砕土のための縦軸型ハローと整地のためのパッカーローラーを油圧で昇降するPTO中間軸付きヒッチ(注)によって組み合わせ、トレーラーで牽引します。
(注)真空播種機:決められた列に設定した間隔で一粒ずつ種まきできる播種機。穴があいている円盤に一粒ずつ種子を真空圧で吸い付け除去板にあてて種子を落とすしくみです。円盤の穴の数や回転数を変えることで種子を落とす間隔を調整します。
(注)PTO中間軸付きヒッチ:縦軸型ハローに真空播種期を取り付けるためのアーム。PTOとはPower take offの略で「動力取り出し装置」と訳されます。通常トラクターの後部にあり、トラクターに装着した作業機に動力を供給します。
慣行の播種の工程のうち、反転耕・砕土・施肥・撹拌整地・播種・鎮圧の5工程を、1工程で行えます。これにより作業時間は約58%、播種費用は約7%削減できます。
この工程による栽培を連年行っても、慣行農法と同等の収穫量を継続して得られることが試験結果として報告されています。
出典:国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
「二毛作トウモロコシの播種作業時間を大幅に削減可能な耕うん同時播種技術」
「飼料用トウモロコシのは種作業時間を半減する技術を開発」
耕うん作業を圧縮できる「簡易耕・不耕起播種」
夏作の飼料用とうもろこしと冬作の飼料用麦類などとの二毛作における簡易耕や、飼料用とうもろこし単作または秋作えん麦との二毛作における不耕起播種の技術も、実証されています。どちらも、ディスクハロー(注)と不耕起播種機を走行するだけで、慣行の作業を大幅に省力化できます。
(注)ディスクハロー:皿状の円盤が一定の間隔で十数枚ならび、砕土を行う作業機
夏作と冬作の二毛作では、春先に冬作収穫後の集草作業と夏作用の耕うん・播種作業が重なり、多忙を極めます。この作業をまとめ、まず冬作収穫後にディスクハローを走行させて簡易耕することで、ほ場表面の撹拌・残根などの切断・砕土の代替とします。
その後、不耕起播種機で播種を行います。この作業によって、プラウ耕・ロータリ耕・鎮圧の作業が省略され、燃料は約65%、作業時間は約40%削減可能です。
飼料用トウモロコシ単作・夏秋の二毛作の場合は、ディスクハローによる簡易耕も省き、前作跡地にそのまま不耕起播種を行います。
このとき、非選択性除草剤を併用すれば、越年性雑草の防除も効率的にできます。この方法による翌年の飼料用とうもろこしの乾物収量は、慣行年と比べて差がないことが試験結果として報告されています。
出典:国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構「飼料二毛作におけるトウモロコシの簡易耕播種法」
川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)
飼料用とうもろこしは、播種の時期と品種の選択、播種時の耕うんなど、播種の方法が収量に大きく影響します。ほ場の環境や気候に合わせた最良の播種方法を見極め、新しい省力化技術の導入も検討し収量アップをめざしましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。