【写真】稲の病気(病害)一覧|症状・原因と防除対策まとめ
水稲栽培で十分な収量を確保するには、多くの病害虫対策が必要です。そこで本記事では、いもち病や紋枯病、縞葉枯病など水稲栽培で注意すべき代表的な稲の病害について、症状・原因、使える農薬も含めた具体的な防除対策の一覧を写真付きで解説します。
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目次
水稲栽培では、いもち病や紋枯病などさまざまな病害の発生に注意が必要です。近年は温暖化による気候変動の影響で、これまでにない深刻な被害も増えています。品質・収量向上のため、水稲の主な病害の特徴を知り、予防や早期発見・早期防除を心がけることが大切です。
主な水稲の病気(病害)と、防除の重要性
鳴き砂/PIXTA(ピクスタ)
水稲栽培では、いもち病や紋枯病、縞葉枯病、ごま葉枯病などの病害に注意が必要です。
稲刈りが終わり、来年の準備を考え始めると同時に、病害虫との長い戦いが始まります。前年の被害を踏まえて必要な防除対策を行い、細心の注意を払ってもなお、どこからともなく病害虫が侵入してきます。
病害虫の防除を完璧に行うのは難しく、防除作業を省いてもよいのではないか、と思うときもあるかもしれません。しかし、すべての防除対策をやめるわけにはいきません。何も対策をしなかった場合にどんなことが起こるのか、そんな疑問を本当に実証した試験結果があります。
トビイロウンカによる坪枯れ被害
Kaz / PIXTA(ピクスタ)
日本植物防疫協会は、全国農業協同組合連合会とともに全国規模で「できるだけ防除を行わないで栽培してみる」という試験を行いました。
1990~2006年にかけて、19作物を対象に、のべ100以上の調査事例を得て、その結果を「病害虫と雑草による農作物の損失」という報告書にまとめています。
この調査では、水稲栽培で、1991~2005年にかけ、13例の試験を実施しました。種子消毒と育苗期の防除は通常通り行ったうえで、本田に移植後に通常の防除を行った試験区と、病害虫や雑草の防除対策をできるだけ行わなかった(注)試験区を比較しました。
(注)防除対策をできるだけ行わなかった:栽培が成立する最低限の防除は行う
その結果、防除対策をできるだけ行わなかった試験区の収量は、いもち病や雑草の影響で20~30%の減収、出荷金額ではさらにカメムシ被害による等級落ちが加わって、20~40%の減収となった例も少なくありませんでした。
出典:一般社団法人日本植物防疫協会「農薬|日本植物防疫協会による調査研究」 所収「病害虫と雑草による農作物の損失」
カメムシ目カスミカメによる斑点米
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
この調査結果から、防除対策なくして十分な収量を得るのは難しいことがわかります。少しでも効率よく高い効果を上げるには、発生しやすい病害をよく知り、生育段階に応じた適切な防除を行うことが大切です。
本記事では、水稲栽培で注意すべき代表的な10の病害について、症状と対策を一覧で解説します。基本的な防除暦は以下の通りです。
播種~移植期:いもち病、ばか苗病、ごま葉枯病、もみ枯細菌病、褐条病、苗立枯病、苗立枯細菌病、紋枯病、白葉枯病などへの対策として種子消毒や床土消毒、育苗箱施薬を行います。
幼穂形成期~穂ばらみ期:いもち病、紋枯病、稲こうじ病、ごま葉枯病などへの対策として出穂前防除を行います。
出穂期~成熟期:いもち病、紋枯病、ごま葉枯病などへの対策として出穂後防除を行います。
また、ウンカ類によって媒介される縞葉枯病、ヨコバイ類によって媒介される萎縮病は、ウイルスを媒介する害虫の防除が最も効果的で、長期間継続した対策が必要です。
なお、本記事内で紹介する農薬はすべて2024年5月現在、登録のあるものです。農薬の使用に当たっては、必ずラベルをよく読み、使用方法を遵守してください。また、地域によって使用に決まりがある場合には、必ず守るようにしてください。
いもち病:葉に病斑を形成。穂が白穂になることも
苗いもちの発生初期
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
いもち病は、発生部位ごとに立ち枯れ症状が発生するほか、紡錘形で周縁部が褐色、中央部が灰白色の病斑や円形、楕円形で暗緑色〜灰色の病斑が現れ、穂や節が変色して不稔になることがあります。
いもち病は、収量に大きな影響を与える病害です。発生の時期や部位によって、「苗いもち」「葉いもち」「穂いもち」「節いもち」などと呼ばれます。
中でも「葉いもち」には注意が必要です。いもち病の発生に適した気象条件が続くことで、感染が繰り返されると株全体が萎縮する「ずり込み」と呼ばれる症状が起こり、株の生育が停止して悪化すると枯死します。
「穂いもち」は穂首のほか枝梗や穂軸、籾、などに病原菌の感染が起きます。特に穂首に発症し、悪化すると、籾が稔実せず白穂となります。
「苗いもち」は、育苗期間中の苗の鞘葉、不完全葉、第1葉の葉鞘に灰緑色の病斑が生じます。
いもち病の発生には気象条件が大きく影響します。気温15〜25℃で弱い降雨が長時間続くと多発するため、一般的には6月の梅雨期や7〜8月の低温多雨が続く時期がまん延しやすく注意が必要です。
温度や湿度、日照条件のほか、密植や窒素過多などの条件で発生が促進されます。感染力が非常に強く、防除が遅れると周辺の地域にまで感染が拡大します。
葉いもちによるずり込み症状
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
穂いもち もみは不稔になる
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
いもち病の発生原因
いもち病は糸状菌(かび)Pyricularia oryzaeの感染によって生じます。菌が付着した種籾や、前年の被害株のわらなどが第一次伝染源となります。
前年の稲わらや種籾から持ち込まれた胞子は、10~35℃の温度範囲で水滴が付くと発芽し、新たな発生源となります。
発芽した菌は、25~28℃前後の気温で湿度の高い状況が続くと、菌糸を伸ばし分生子を形成します。気温が高くなりジメジメした梅雨の時期に蔓延しやすいのはこのためです。
保菌した種籾を播種することで「苗いもち」が発生し、さらに感染した苗を移植すると、本田での「葉いもち」発生を引き起こす原因にもなります。前年に発生が見られた場合は注意が必要です。
いもち病の防除対策:抵抗性品種の使用も有効
いもち病は、各生育段階での対策が必要です。まずは必ず消毒された健全な種子を用い、育苗箱なども十分に洗浄・消毒します。密植を避けることや、苗の良好な生育のために土壌pHを適切に保つことも大切です。
種子の消毒には温湯消毒をするか、「スポルタック乳剤」「トリフミン乳剤」などの農薬を用います。播種後、育苗中の防除では、緑化期に「ビームゾル」などを灌注します。これらの防除対策はかなり有効で、近年では苗いもちの発生は減少しています。
育苗中には「デジタルコラトップアクタラ箱粒剤」「Dr.オリゼ箱粒剤」「ルーチンアドマイヤー箱粒剤」などを、生育段階に応じて使用してください。
いもち病の病原菌は、乾燥した稲わらや籾殻の中で長期間生存し、次作の発生源となります。発生が見られたら、発病株を取り除く、被害わらや被害籾殻は撤去するなどの耕種的防除にも努めることが重要です。
育苗箱粒剤の施用
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
▼いもち病の防除については、以下の記事も参照してください。
紋枯病:水面に近い葉鞘から病斑を形成
紋枯病 上位進展中の病斑
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
紋枯病とは、水稲の葉鞘から侵入した病原菌が葉の組織内に病斑を作り出し、葉鞘・葉身を枯死に至らせる病害です。はじめは水際の茎葉部や葉鞘に淡褐色~褐色の病斑が発生します。
病斑は周辺が褐色で、内部が退色して灰白色となります。発病した葉鞘や葉は枯れ上がると、そこに直径2mmほどの菌核を形成します。
菌糸は上位に伸び、新しい病斑を作ります。夏の高温が続くと病斑は上位の葉に広がります。上位に広がることで稔実しにくくなり、減収の原因となります。また、感染によって茎が弱くなると倒伏しやすくなります。
紋枯病の発生原因
紋枯病菌核(直径1~2mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
紋枯病の病原菌は糸状菌(かび)Thanatephorus cucumerisの感染によって生じます。先述したように、発病した葉鞘や葉が枯れ上がると、そこに直径2mmほどの菌核を形成します。
この菌核は収穫期に田面に落ちると越冬します。代かきによって水田の表面に浮き上がると、水際に近い葉鞘部から感染します。
紋枯病は高温・多湿、早期栽培、早生品種、窒素過多などの条件で発生が促進されます。
生育適温は28~32℃で、気温が22℃を超え湿度が高くなると、菌核から発芽した菌糸が伸び始め、感染が広がります。そのため、梅雨の初期に高温が続くと多発します。
紋枯病の防除対策:多発ほ場では育苗箱施用を
発生を予防するために、窒素肥料の適切な施肥や、過繁茂により株間の湿度が上がらないようにする耕種的防除を徹底します。また、いもち病同様、育苗中に箱処理剤の防除を行うと効果的です。
育苗期には「エバーゴルフォルテ箱粒剤」「ルーチンブライト箱粒剤」など、いもち病と紋枯病の両方に適用がある農薬を用いるのがおすすめです。
本田で発生を確認したら、発生状況とほ場の状況に基づいて、幼穂形成期~乳熟期にかけて「モンガリット粒剤」「モンカットフロアブル」などの農薬を散布します。
▼紋枯病の防除については、以下の記事も参照してください。
縞葉枯病:葉が黄緑色や黄白色に退色、株の枯死も
縞葉枯病 縞状病斑葉とゆうれい症状
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
縞葉枯病とは、葉や葉鞘に黄緑色、黄白色の縞状の病斑が生じ、分げつが少なくなって枯れてしまう病気です。退色した葉が曲がって垂れ下がる様子から、「ゆうれい病」とも呼ばれます。
生育初期に発病すると、新葉は白っぽく退色し、コヨリ状に捻じれて垂れ下がります。悪化すると枯死します。
分げつ期以降の発病では特徴的な縞状の病斑が現れ、穂ばらみ期以降は奇形や不稔となり、収量の大幅な減少につながります。
縞葉枯病の発生原因
縞葉枯病 新葉がこより状に巻いて垂れる
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
縞葉枯病はRice stripe virus(RSV)というウイルスによって引き起こされます。このウイルスは主にヒメトビウンカにより媒介されます。 このウイルスは虫体内でも増殖するため、卵や次世代幼虫にも移行し、伝搬を繰り返します。
ヒメトビウンカの第1世代成虫は5月下旬から6月上旬に移植したばかりの水田へと飛来してきます。虫体内で増殖したウイルスはヒメトビウンカが水稲を食害する際、稲に感染します。
縞葉枯病の防除対策:ウイルスを媒介する「ヒメトビウンカ」を完全防除
縞葉枯病は感染後に効果のある薬剤はないとされています。そのため、一度発病したらその株を除去するほかありません。よって縞葉枯病を防ぐためにはウイルスを媒介するヒメトビウンカの防除が基本です。
ヒメトビウンカは休眠性をもち、水田で繰り返し増殖した後、秋期になると越冬場所としてイネ科の雑草や収穫後のひこばえなどに移動し、越冬します。越冬した個体は次年度の発生源となり、3月上中旬頃から発生します。
条件によっては、ヒメトビウンカはアジア大陸から飛来してきます。よって、育苗期には寒冷紗などで被覆し、成虫の飛来を避けてください。
収穫後は速やかに耕起して、イネ科雑草や稲の株をすき込むとともに、周囲のイネ科雑草を防除し、ヒメトビウンカの越冬場所を作らないことも重要です。また、産地ごとに推奨される縞葉枯病抵抗性品種を栽培するのもおすすめです。
農薬による防除は、ウンカ類に登録のある「アドマイヤーCR箱粒剤」「スターダム箱粒剤」などの育苗箱施薬と、「スミチオン乳剤」「スタークル豆つぶ」などの本田への散布が基本です。ヒメトビウンカは薬剤抵抗性を持ちやすいので、ローテーション散布を行ってください。
ごま葉枯病:下位葉等に黒褐色の小斑点を形成
ごま葉枯病の病斑
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ごま葉枯病とは、葉の周囲がぼんやりと黄色くなったゴマ粒大の黒い斑点のような病斑を生じる病害です。出穂期から穂揃い期に発病が見られるようになり、穂では穂軸や穂首、枝梗などに褐色や黒褐色の病斑が生じ、稔実が阻害されるために品質・収量ともに低下します。
苗に発症すると、下部の葉鞘に黒っぽい小斑点が生じ、生育不良が見られます。スポット状に枯死して欠株となることもあります。
ごま葉枯病の発生原因
ごま葉枯病の病原菌は子のう菌類のCochliobolus miyabeanusです。発生源は種籾や被害わらで、ここで越冬し、春になって水分を得ると胞子ができ、飛散して感染が広がります。
本田では主に苗によって持ち込まれ、窒素(N)やカリウム(K)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)などが欠乏すると多発します。また、根腐れの多い、老朽化し秋落ち現象を起こしている水田で多く発生します。
ごま葉枯病の防除対策:土壌改良などの耕種的防除が有効
耕種的防除として、まず前年の被害わらがあれば除去し、感染源を作らないことが重要です。育苗に当たっては健全な種子を選び、種子消毒を行います。本田では土壌改良に留意し、養分不足が起きないよう施肥管理を徹底します。
ごま葉枯病では、耕種的防除により土壌環境を整えることが基本ですが、整うまでの間や多発しているほ場には農薬を使って防除してください。
種子消毒には「ヘルシードTフロアブル」「トリフミン乳剤」などを使うと、ばか苗病、いもち病と同時防除できます。
本田で発生した場合は、いもち病と同時防除できる「オリザトップパック」や、いもち病のほか、稲こうじ病やもみ枯細菌病などと同時防除できる「ブラシン粉剤DL」などが効果的です。
▼ごま葉枯病については、以下の記事も参照してください。
稲こうじ病:穂の籾に暗緑色の病粒が発生
稲こうじ病 発病初期
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
稲こうじ病とは、穂の籾にのみ発症する病害で、収穫期の稲に暗緑色(黒緑色)のかたまり(病粒)が形成されます。
稲こうじ病を発病した籾が混ざると、調整時に玄米が汚染されて着色粒となり、規格外になってしまいます。
もみが墨のように真っ黒になる「墨黒穂病」とよく似ていますが、稲こうじ病は籾全体が黄緑色~暗緑色の団子状になるので、見た目で容易に見分けられます。
稲こうじ病多発生穂
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
稲こうじ病の発生原因
稲こうじ病は子のう菌のClaviceps virensによって引き起こされます。病粒中には厚壁胞子が含まれ、それが風雨や収穫等を理由に土壌表面に落下すると、それが翌年の伝染源となります。
また、土壌中の子のう胞子や厚壁胞子が風雨によって飛散し、穂ばらみ期の葉の上に落下し、そこから雨などによって葉鞘内に侵入して感染したり、栄養成長期の稲の根に感染したりします。
低温で湿度が高い場所、窒素過多といった条件で発生しやすいといわれます。
稲こうじ病の防除対策:多肥や遅い追肥に注意
穂ばらみ期以降に低温・多湿条件にならないよう、品種を見直し作期をずらして、感染の好条件となる時期を回避するのもよい方法です。また、窒素過多にならないように、遅い時期の追肥は避けましょう。病籾は、発見次第早めに取り除くことも重要です。
農薬による防除は、「Zボルドー粉剤DL」「モンガリット粒剤」などの散布を行います。出穂の3週間前から10日ほど前までが散布適期とされていますが、自治体やJAの防除基準に従ってください。
苗立枯病:育苗中に発生、苗の立ち枯れを起こす
緑化開始時に発生した苗立枯病(リゾプス属菌)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
水稲の苗立枯病とは育苗中に発生し、名前の通り苗が立枯れ症状を起こす病害です。
苗の立ち枯れを起こす病原は糸状菌(かび)で多くの種類があり、代表的なものに「ピシウム菌」「フザリウム菌」「リゾープス菌」「トリコデルマ菌」「リゾクトニア菌」があげられます。
原因となる菌によって発症後の症状は異なりますが、いずれも出芽不良や出芽前の立ち枯れといった生育不良を引き起こします。
ピシウム菌による苗立枯病では、出芽後すぐに幼芽の根が褐変して腐敗し、枯死する症状や、萎凋する症状が見られる“ムレ苗”症状を引き起こすことがあります。
「フザリウム菌」による苗立枯病では、発芽後に生長不良が見られ、幼芽の根や地際部が褐変して腐敗します。ピシウム菌による苗立枯病より症状が顕著であり、病害にあった苗の地際部や種籾に白色または淡紅色で粉状のカビ※が生じます。
※ここでいう「カビ」は目に見える塊のことを指します。
「リゾープス菌」による苗立枯病では、苗は発芽不良や生育不良で不揃いとなり、根の先端が異常に膨らんで伸長が止まり、症状が悪化すると腐敗・枯死します。出芽時には種籾などに灰白色で綿毛状のカビが発生します。
「トリコデルマ菌」による苗立枯病では、種籾に発生し、出芽前に腐敗する場合が多く見られます。発芽しても生育不良による萎れや黄化が見られ、悪化すると枯死します。カビの見た目は、まず種籾などに白色のカビが密生し、次第に青緑色に変わります。
「リゾクトニア菌」による苗立枯病では、移植約1週間前の種籾の葉先がしおれたり、葉腐れの症状があらわれたりします。葉腐れ部分には蜘蛛の巣状の菌糸が見られ、白色の菌核が生じます。
多発する条件は菌によって異なります。例えば「ピシウム菌」による苗立枯病は緑化期以降の低温で発生しやすくなりますが、「リゾクトニア菌」の発育適温は20〜30℃と比較的高温です。しかし、いずれの菌の場合も、多湿条件は共通しています。
苗に発症する似た病害には、ほかに苗立枯細菌病、褐条病などがあります。これらの病原は糸状菌ではなく細菌です。葉身の症状で苗立枯病と区別することができ、苗立枯細菌病では葉身の基部の白化、褐条病では葉身に褐色の条線が見られます。
苗立枯病の発生原因
先述の通り、苗立枯病は糸状菌(かび)によって引き起こされます。汚染された土壌や資材などによって原因菌が持ち込まれることで感染します。また、糸状菌の種類によって発生条件が異なるため、病原菌が繁殖しやすい温度や湿度条件に注意が必要です。
苗立枯病の防除対策:土壌水分に注意し器具の消毒を徹底
苗立枯病は病原菌に汚染されていない床土や健全な種籾を用いることが重要です。種子消毒を行ったり、育苗施設や育苗箱、農機具、長靴などを消毒したり、菌を持ち込まないことも重要です。
また、多湿条件にならないよう厚播きを避け、土壌水分に注意しながら適切な灌水を行ってください。
農薬を使用する場合は、菌の種類によって登録されている農薬が異なるので原因菌を特定し、適切な農薬を用います。
フザリウム菌・ピシウム菌には「タチガレン液剤」、フザリウム菌・リゾープス菌・トリコデルマ菌には「ダコレート水和剤」、リゾクトニア菌に登録のある「バリダシン液剤」、ピシウム菌・フザリウム菌・リゾープス菌・トリコデルマ菌と褐条病、いもち病、ごま葉枯病にも登録のある「ベンレートT水和剤20」などの農薬があります。
▼苗立枯病については、以下の記事も参照してください。
萎縮病:葉が濃い緑色になり、株全体が萎縮
萎縮病とは、イネ萎縮病ウイルスの感染によるウイルス病です。株全体が萎縮する一方で、分げつ数が増加します。しかし分げつ数が増加しても、出穂しなかったり不稔となったりするため、収量が大幅に減少します。
イネ萎縮病に感染すると、感染後10〜15日前後で葉は健全苗に比べて濃い緑色になり、葉脈に沿って白色または乳白色の細かい斑点が生じます。
主にツマグロヨコバイがウイルスを媒介し、苗の移植後から幼穂形成期にかけて感染します。
ツマグロヨコバイ2齢幼虫(体長1.4mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
▼萎縮病については、以下の記事も参照してください。
萎縮病の発生原因
イネ萎縮病は、ツマグロヨコバイなど媒介昆虫によって運ばれてきます。ツマグロヨコバイの場合、周辺のイネ科雑草で越冬した個体が、水稲移植後の水田に飛来し、3~4世代にわたって繁殖します。
イネ萎縮病ウイルスは卵を通して次世代に伝染するため、保毒虫が多いと次作の発病が増えます。発病はツマグロヨコバイの発生量と保毒率に大きく影響されるので、地域の発生状況をチェックすることが大切です。
萎縮病の防除対策:極端な早植えと多肥栽培を避ける
媒介昆虫であるツマグロヨコバイの防除対策を徹底するのが基本です。
物理的・耕種的防除として、育苗ほ場に寒冷紗などを張って成虫の飛来を防ぐことや、収穫後に耕起して刈り株やイネ科雑草をすき込み、周囲の雑草も防除して幼虫の越冬場所をなくすことなどが効果的です。
また、極端な早植えをすると春先に羽化した成虫が飛来してくるので、早植えは避けてください。地域に耐虫性品種があれば、それを作付けするのもおすすめです。
農薬による防除は、育苗期と、本田期にかけて行います。育苗箱施用には「アドマイヤーCR箱粒剤」、本田散布には「トレボン乳剤」「マラソン乳剤」などがあります。
白葉枯病:葉縁が波状に黄白色化して枯死
イネ白葉枯病 止葉の病徴
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
白葉枯病とは、病原菌によって葉の枯死や稔実不良が引き起こる病害です。葉先に近い葉縁部が黄緑色に変色し、湿潤状になった後、葉脈に沿って細長い波形の病斑を生じ、その色は白色に変化していきます。葉の先端から枯れていくため、感染が拡大するとほ場が白っぽく見えます。
急性の症状では、青白い大きな病斑が生じ、葉は脱水状態になって巻き上がります。症状が激しくなると、葉や籾が白くなって枯死し、稔実が悪くなるため減収につながります。
イネ白葉枯病 葉の両縁が波状に白色枯死している
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
▼白葉枯病については、以下の記事も参照してください。
白葉枯病の発生原因
白葉枯病の病原菌は好気性の(酸素を好む)Xanthomonas oryzae pv. oryzaeという細菌で、灌水や湛水など水の流れに沿って伝染します。そのため、浸灌水を行う育苗期や、移植後間もない本田で多発しやすくなります。
白葉枯病の病原菌の発育適温は26~30℃、発病適温は23~27℃で、感染ピークは7月から9月まで続きます。病原菌は水孔や傷口から侵入するので、台風や暴風雨のあとに大発生することがあります。
白葉枯病の防除対策:抵抗性品種の導入も有効
白葉枯病は予防対策が重要です。主な感染源となるイネ科雑草の除草を徹底し、前年に発病した場合は、耕起によって刈り株や残渣を深く埋め込むなどの処理をします。
抵抗性の強い品種を選び、窒素過多を避けて適正な施肥を行うことも有効です。
耕種的防除と組み合わせて農薬による防除をする場合は、育苗期に「ブイゲット箱粒剤」などの箱施薬を使用したり、移植後の本田に「オリゼメート粒剤」を散布したりするのがおすすめです。
もみ枯細菌病:箱育苗の苗と本田の穂に発生
もみ枯細菌病の念実不良となった穂(中央)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
もみ枯細菌病とは、細菌により発生する病害です。苗に病気が発生すると葉鞘部がまずは淡褐色、次第に濃褐色になったあと、腐敗して枯死します。
なお、もみ枯細菌病による苗腐敗の症状は、苗立枯細菌病の症状に似ていますが、以下の違いがあります。苗立枯細菌病では葉身の基部の白化が起きたあと、針状となり乾燥枯死します。一方、もみ枯細菌病では症状がひどくなると褐変し、やがて腐敗し、枯死するというのが特徴です。
発病しなかった苗は保菌したまま生長し、出穂期以降、籾に発病します。 籾では出穂・開花期から発病し、穂の中に白く萎凋した籾がみられるようになります。次第に籾全体が白くなり、その後、全体的にピンクがかった黄色に変わります。
軽症では籾が死米や不完全米となり、症状が激しい場合は稔実しません。そのため、発病すると収量の大幅な減少につながります。
もみ枯細菌病の発生原因
もみ枯細菌病の病原菌はBurkholderia glumaeという細菌です。もみ枯細菌病は種子伝染性で種籾が伝染源となります。罹病した種籾を浸水すると病原菌が遊出し、健全籾に伝搬します。
病原菌の発育適温は30℃で、育苗中、催芽や出芽時に30℃以上にすると、育苗器内で急に感染が広がることがあります。また、本田では、出穂期〜出穂10日の頃に、平均気温25℃前後、台風や長雨という環境下で多発しやすくなります。
もみ枯細菌病の防除対策:無病ほ場から採種し、窒素の多用に注意
種子伝染を防ぐために、無病ほ場から採取した健全な種籾を使用し、種子消毒を徹底します。
育苗期に感染した苗は、窒素過多や乾燥などによって一気に発病することが多いので、適正な施肥や灌水管理を行うことも大切です。
農薬による防除は、育苗期には「ブイゲット箱粒剤」や「Dr.オリゼ箱粒剤」などを育苗箱に施用します。本田では「オリゼメート粒剤」「コラトップ粒剤5」などの農薬を使用します。
ばか苗病:葉色は淡く薄桃色の胞子を多数形成
徒長し淡緑色となったばか苗病の苗
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ばか苗病は、病原菌の増殖によって植物ホルモンであるジベレリンが産生され、その影響で徒長するのが典型的な症状の病害です。
育苗箱で発病した場合、健全苗に比べて葉色が淡い徒長苗となり、そのままにするとやがて枯死します。発病苗は根数が少なく、発芽しなかったり芽が出ても立ち枯れたりします。
本田移植後に発病した場合も、徒長するとともに黄化し、分げつをほとんどしません。移植後早期に発病した場合は、やがて枯死します。枯死せず出穂した場合であっても不稔となることが多いため、収量が低減します。
枯死した苗や株は、葉鞘の表面に白色やピンク色の胞子を多数形成します。
ばか苗病の発生原因
ばか苗病の病原菌は糸状菌(かび)のGibberella fujikuroiです。病原菌は種籾上で越年して次作に種子伝染をします。病原菌の発芽・菌糸の伸長と、分生胞子の発生の適温は25〜30℃です。
育苗箱は高温・多湿・高密度の環境であるため感染しやすく、保菌苗から周囲に感染が広がります。発病しなかった保菌苗が本田に移植されると、枯死した葉の上に形成された胞子によって、さらに感染が拡大します。 また、胞子は降雨があると飛散するため籾への感染を助長します。
ばか苗病の防除対策:種子は必ず更新し、種子消毒を徹底
種子伝染を防ぐために、必ず健全な種籾を使用して、種子消毒も徹底します。消毒には「ヘルシードTフロアブル」や「スポルタック乳剤」を用います。
育苗箱で発病苗を見つけたら直ちに抜き取って、離れた場所で焼却または埋没処理し、同じ箱の苗は水稲採種ほ場の近くに移植しないなど、ほかの箱とは別に管理してください。
また、ほ場に残ったわらや籾などの残渣を翌年の感染源としないために、焼却または埋没処理をし、使用した農機具なども消毒することが重要です。
異常気象による病害の発生。栽培管理システムで水稲防除の適期の判断を!
近年、気候変動の影響により、地域の防除暦だけでは防除のタイミングの見極めが難しくなっています。また、担い手農家や農業法人への集約が進み、ほ場が大規模化していることで、病害の発生に気がつきにくくなっています。
しかし、病害防除に栽培管理システム「ザルビオ」を使用することで、これらの問題が大幅に改善され、次のようなメリットが得られます。
- 主要な病害の発生リスクをほ場ごとに確認できるので、見回り作業を省力化できる
- 病害アラートが通知されるため、病害の早期発見につながる
- 防除推奨アラートが通知されるため、効果的な防除タイミングがわかる
実際に、35haのほ場で水稲とそばを栽培する新潟県の農事組合法人上関ふぁーむでは、ザルビオを導入後、病害アラートによっていもち病の発生を早期に突き止め、すぐに対処したことで被害を抑制できました。
新潟県 農事組合法人上関ふぁーむ様
■栽培作物
米・そば
▷生育ムラ・病気・刈り取り適期の確認
▷ザルビオとドローンなどの最新機器を活用し、農業の効率化を図りたい
▷病害アラートで発生にすぐ気づくことができ、いもち病への早期対処が可能に
▷生育マップを活用した可変施肥により、収量がアップ
▷生育ステージ予測機能を利用し、収穫タイミングの正確性向上
▼農事組合法人上関ふぁーむの取組みについては、こちらのインタビュー記事もご覧ください。
水稲栽培は、多くの病害虫への防除対策が必須です。いずれも早期に発見し、適切に対処することで被害を最小限に抑えることができます。
ただし、近年は気候変動により、これまでに経験していない被害も見られるようになりました。日頃から病害虫の生態や被害の特徴、発生動向などの情報を集めよく知っておくことで、今後起こり得る変化にも柔軟に対応することが重要です。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。