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稲の病気(病害)|水稲栽培で注意すべき病害とは? 種類と原因、対策を一挙解説!
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  • 生産技術

稲の病気(病害)|水稲栽培で注意すべき病害とは? 種類と原因、対策を一挙解説!

高品質米を生産するには、病害虫への備えを万全にする必要があります。近年は温暖化による気候変動の影響で、これまでにない病害虫の被害が増え、基本的な防除対策をしっかり踏まえたうえで、さらなる対処が求めらます。

水稲栽培で十分な収量を確保するためには、多くの病害虫対策が必要です。そこで、水稲栽培に見られる代表的な病害虫の原因と症状、被害、対策について詳しく説明し、あわせて、近年の気候変動による病害虫被害の変化についても解説します。

適切な対策をとらなかったらどうなる? 水稲栽培における病害虫防除の重要性

稲穂にとまるイナゴ

鳴き砂/PIXTA(ピクスタ)

稲刈りが終わり、来年の準備を考え始めると同時に、病害虫との長い戦いが始まります。前年の病害虫被害を考え、その対策をとりながら苗床や種子を準備し、水田を最適な環境に整えます。

必要な農薬を揃えて土壌に散布し、種子を消毒し、育苗箱もトラクターも道具も丁寧に洗浄し、細心の注意を払ってもなお、どこからともなく病害虫は侵入してきます。

営農情報などに書かれているすべての防除対策を完璧に行うのは難しく、防除作業を省いてもよいのではないか、と思う時もあるかもしれません。

しかし、すべての防除対策をやめるわけにはいきません。何も対策をしなかった場合にどんなことが起こるのか、そんな疑問を本当に実践した実験結果があります。

トビイロウンカによる坪枯れ被害

トビイロウンカによる坪枯れ被害
Kaz / PIXTA(ピクスタ)

日本植物防疫協会は、全国農業協同組合連合会とともに全国規模で「できるだけ防除を行わないで栽培してみる」という試験を行いました。1990~2006年の間に、19作物、のべ100以上の調査事例を得て、その結果を「病害虫と雑草による農作物の損失」というデータにまとめています。

この調査では、水稲栽培で、1991~1992年に10例の試験を実施しました。種子消毒と育苗期の防除は通常通り行ったうえで、本田に移植後の病害虫や雑草の防除対策をできるだけ行わなかった(注)試験区と通常の防除を行った試験区を比較しています。

(注)防除対策をできるだけ行わなかった:栽培が成立する最低限の防除は行う

結果、防除対策をできるだけ行わなかった試験区の収量は、いもち病や雑草の影響で20~30%の減収、出荷金額ではさらにカメムシ被害による品質の低下が加わって20~40%も減収となった例も少なくありません。

出典:一般社団法人日本植物防疫協会「病害虫と雑草による農作物の損失」

カメムシ目カスミカメによる斑点米

カメムシ目カスミカメによる斑点米
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

やはり、防除対策なくして十分な収量を得るのは難しいというのが現実です。少しでも効率的に高い効果を上げるために、発生しやすい病害をよく知り、分げつ期・幼穂発育期・登熟期などの生育段階に応じた適切な防除を行いましょう。

以下の項目で、代表的な水稲の病害について解説します。

なお、ここで紹介する農薬はすべて、2021年7月現在登録のあることを確認しています。農薬の使用に当たっては、必ずラベルをよく読み、使用方法を遵守してください。また、地域によって使用に決まりがある場合も、必ず守りましょう。

日本の水稲栽培において最も注意すべき病害「いもち病」

苗いもちの発生初期

苗いもちの発生初期
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

いもち病は発生すると被害が大きいため、水稲栽培を行う農家が最も警戒する病気の1つです。その原因と症状、対策は以下の通りです。

いもち病の発生原因と主な症状、想定される被害

カビの一種である病原菌が発生源です。種子伝染性のものや、被害株のワラや籾が第一次伝染源となることが多く見られます。また、外部から飛来した胞子が葉などに付着し、そこに水滴があって10~35℃の気温という条件が揃うと発芽し、新たな発生源となります。

発症すると円~楕円形で緑〜暗緑色の病斑がいたるところに発生し広がっていきます。発生の時期や部位によって「苗いもち」、「葉いもち」、「穂いもち」、「節いもち」などと呼ばれ、中でも葉いもちが多発すると「ずり込み」と呼ばれる萎縮症状が起こり、悪化すると枯死します。

一般的には6月下旬~8月上旬に発生し、25~28℃の温度と多湿、日照不足、密植、窒素過多などの条件で発生が促進されます。感染力が非常に強く、防除が遅れると周辺の地域にまで感染が拡大します。

葉いもちによるずり込み症状

葉いもちによるずり込み症状
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

穂いもち もみは不稔になる

穂いもち もみは不稔になる
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

抵抗性品種の使用も有効! いもち病の防除対策

発生させないためには、必ず健全な種子を消毒して用いること、育苗箱なども十分に洗浄・消毒すること、密植を避け、土壌pHを適切に保つことが大切です。種子の消毒には「スポルタック乳剤」「トリフミン乳剤」「ヘルシード乳剤」などを用います。


育苗中に箱処理剤と呼ばれる農薬を使用することも有効です。代表的な農薬としては、メラニン生合成阻害剤の「デジタルコラトップ箱粒剤」、ストロビルリン系の「アミスタープリンス粒剤」、病害抵抗性誘導剤の「Dr.オリゼ箱粒剤」「ブイゲット箱粒剤」「ルーチンブライト箱粒剤」などがあります。

育苗箱粒剤の施用

育苗箱粒剤の施用
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

葉に付いた胞子が水滴に長時間触れると発生するため、移植後に雨が降り続く場合はこまめに巡回し、発生を認めたら、ただちに被害株を除去するとともに、早期に農薬による防除を行います。

また、食味もよく穂いもちに強い「はるもに」や、コシヒカリ並みの食味といもち病への抵抗性を持つ「ともほなみ」などの品種を選ぶのもよいでしょう。

早生品種は特に注意! 大幅な減収につながる「紋枯病」

紋枯病 上位進展中の病斑

紋枯病 上位進展中の病斑
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

いもち病に次いで水稲農家を悩ませる病害、紋枯病について、原因と症状、対策は以下の通りです。

紋枯病の発生原因と主な症状、想定される被害

いもち病と同じくカビ菌の一種が病原菌です。第一次伝染源はワラなどに付着した菌核で、代かきによって水田の表面に浮上し、定植された株に移ります。

初めは水際の茎葉部に淡褐色~褐色の病斑が発生して徐々に上に広がっていきます。ひどくなると葉に病斑が広がり、倒伏しやすくなり、収量が減少します。病原菌は高温・多湿を好み、早生品種、多肥などの条件で発生が促進されます。

紋枯病菌核(直径1~2mm)

紋枯病菌核(直径1~2mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

多発ほ場では育苗箱施用を! 紋枯病の防除対策

いもち病同様、育苗中に箱処理剤の防除を行うのも有効です。「アミスタープリンス粒剤」「ルーチンブライト箱粒剤」など、いもち病と紋枯病の両方に適用がある農薬を用いるのがよいでしょう。

移植後、本田で発生を確認したら、すみやかに「トップジンMゾル」などの農薬の水面施用または茎葉散布を行います。

一般的には、水面施用は出穂20~30日前ごろに、茎葉散布は穂ばらみ期~出穂期に1回、様子を見て必要なら追加散布をしましょう。

稔実を妨げ 収量減の原因になる「縞葉枯病」

縞葉枯病 縞状病斑葉とゆうれい症状葉

縞葉枯病 縞状病斑葉とゆうれい症状葉
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

退色した葉が曲がって垂れ下がる様子から「ゆうれい病」とも呼ばれる縞葉枯病の原因と症状、対策を見てみましょう。

縞葉枯病の発生原因と主な症状、想定される被害

病原体はウイルスで、ヒメトビウンカによって媒介されます。発病すると、葉や葉鞘に黄緑色や黄白色の病斑が縞状に発生し、分げつや生育が悪くなります。

生育初期に感染すると、新葉がコヨリ状に捻じれて曲がり、枯れます。悪化すると萎縮し枯死しますが、症状が軽い場合は枯死せず、穂が出すくみ奇形または不稔となります。

縞葉枯病 新葉がこより状に巻いて垂れる

縞葉枯病 新葉がこより状に巻いて垂れる
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

ウイルスを媒介するヒメトビウンカの防除が肝要! 縞葉枯病の防除対策

縞葉枯病を防ぐためには、この病害の媒介虫であるヒメトビウンカの防除が基本です。ヒメトビウンカは6~7月にアジア大陸から飛来するので、見かけたら早期に「スミチオン乳剤」などの農薬散布による防除を行いましょう。

品質に悪影響! 多肥が発生を助長する「稲こうじ病」

稲こうじ病 発病初期

稲こうじ病 発病初期
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

罹病籾から落下した菌核から生じた子のう胞子と分生子が土壌中に含まれ、第一次伝染源となります。風雨などにより土壌とともに飛散して、穂ばらみ期の新たな籾に付くことで感染・発症します。

発症すると、乳熟期頃から内外穎が少し開いて緑黄色の突起が現れ、やがて籾を包み込み、色は濃緑色から緑黒色と変化します。収穫期の頃には、その上に不成形の黒い菌核が形成されます。罹病穂では不稔粒が増え、収量や品質の低下につながります。

墨黒穂病とよく似ていますが、稲こうじ病は籾全体が黄緑色~暗緑色の団子状になるので、見た目で容易に見分けることができます。

稲こうじ病多発生穂

稲こうじ病多発生穂
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

多肥や遅い追肥に注意! 稲こうじ病の防除対策

低温・多湿・窒素過多といった条件で発生しやすいので、そのような条件にならないように品種を見直し、作期をずらして感染の好条件となる時期を回避するのもよい方法です。また、窒素過多にならないように遅い時期の追肥は避けましょう。

農薬による防除は、「アミスターエイト」「イモチエース粒剤」などの散布を穂ばらみ期に行います。

いもち病と同時防除の場合は出穂8~10日前かやや早めにするとよいでしょう。

養分不足が発病の一因? 品質・収量を下げる「ごま葉枯病」

ごま葉枯病の病斑

ごま葉枯病の病斑
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

ごま葉枯病の発生原因と主な症状、想定される被害

病原菌はカビの一種で、第一次伝染源は罹病種子であることが多く、また、本田では窒素やカリウム不足の条件下で発生しやすいため、老朽化し秋落ち現象を起こしている水田で多く発生します。

幼芽期に発症すると葉鞘の変色や生育不良が見られます。

出穂期以降に発症することが多く、葉に周囲がぼんやりと黄色くなったゴマ粒大の黒い斑点のような病斑を生じ、品質、収量が低下します。

悪化すると穂枯れの症状を生じ、ほ場全体が土色に変色し、そのまま枯死することもあります。

種子消毒の徹底を! ごま葉枯病の防除対策

基本的には健全な種子を選び、種子消毒をしてから使用することが重要です。本田では、土壌改良に留意し、養分不足が起きないよう施肥管理を徹底します。

発生した場合は、「アミスターエイト」「イモチエース粒剤」などの農薬で、穂いもちと同時防除ができます。

水稲の病害虫防除は、気候変動への適応も課題に

2014年の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の第5次評価報告書では、近年の気候変動が、経済や農業にも深刻な影響を与える可能性が高まることを指摘しています。

すでに気候変動を受けて農作物の品質・収量の低下が見られています。また、直接的な被害だけでなく、生態系の変化による病害虫被害の増加・拡大も各地で見られるなど、減収が大きな問題になりつつあること示す調査結果もあります。

世界的な気候の変化に合わせ、被害を最小限に抑えるためにも、病害虫への防除対策は怠ることなく、適切に行うことが重要です。

気象状況によっては、移植時期を晩期化して登熟期の高温を避けたり、温暖化によって増加しているカメムシ類の被害を防ぐため出穂前の畦畔の草刈りを強化するなど、これまでの防除対策の枠を超え、多角的な対処法を講じていくことが重要です。

出典:農林水産省「『地球温暖化による影響の評価』と『地球温暖化適応策の研究開発』について」

気候変動と農業 イメージ

24NOVEMBERS / PIXTA(ピクスタ)

水稲栽培は、多くの病害虫への防除対策が必須です。いずれも、早期に発見し、適切に対処することで被害を最小限に抑えることができます。

ただし、近年は気候変動により、これまでに経験していない被害も見られるようになりました。日ごろから病害虫の生態や被害の特徴、発生動向などの情報を集めよく知っておくことで、今後起こり得る変化にも柔軟に対応できるのではないでしょうか。

大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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