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苗立枯病から水稲を守る! 病原菌別の症状から防除対策、適用農薬まで一覧解説

苗立枯病から水稲を守る! 病原菌別の症状から防除対策、適用農薬まで一覧解説
出典 : HP埼玉の農作物病害虫写真集

水稲の苗立枯病は、水稲農家にとって重要な病害の1つです。病原菌が多数あるうえ、万一発症すれば苗の一部が枯死し、大幅な減収につながります。適切に防除し、安定した栽培ができるように、病原菌ごとの特徴を知り、苗立枯病が発生したら早期に病原を正しく突き止めましょう。

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稲の苗立枯病は、糸状菌(カビ)を病原としています。土壌に存在する糸状菌によるものも少なくありません。しかしながら、苗立枯病の多発条件を避けることで、病害を回避できます。また、防除に有効な農薬を知り、万一の場合に備えることも大切になります。

水稲に発生する苗立枯病は、病原菌に合わせた防除が重要

水稲 育苗箱

freeangle / PIXTA(ピクスタ)

水稲の「苗立枯病」は、育苗中に発生する土壌伝染性の病害です。発生すると苗数が大きく減少してしまいます。気づかず本田へ移植した場合は、さらに感染が広がり、大幅な収量減につながる恐れがあります。

病原は土壌中に存在する糸状菌(カビ)で、多くの種類があります。病原菌の種類によって症状や多発する要因、防除方法、適用農薬が異なります。

いずれの病害も、従来の苗代管理では見られませんでした。しかし、育苗箱で高密度の播種(はしゅ)をし、高温・多湿の条件下で育苗管理をしたことで発生が見られるようになりました。そのため、育苗箱による出芽管理では密度への注意が必要です。

また、防除には早期発見・早期防除が不可欠です。そのためには、それぞれの病原菌の特徴をよく知っておく必要があります。そのうえで、以下を行うことが大切になります。

・病原菌を発生させない
・病原菌の好む環境を作らず発生させない
・病害の早期発見
・病害が起きたら、できるだけ早期に病原菌を特定し、適切な防除を実施する

▼「デジタルツールで病害の早期発見・早期防除を実現した事例」についてはこちらをご覧ください

主な病原菌の種類と、症状・発生条件による見分け方一覧

緑化開始時に発生した苗立枯病(リゾプス属菌) 

緑化開始時に発生した苗立枯病(リゾプス属菌) 
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

水稲の苗立枯病を引き起こす糸状菌の種類は多岐にわたります。その中でも特に注意が必要な「ピシウム菌」「フザリウム菌」「リゾープス菌」「トリコデルマ菌」の症状や特徴、発生しやすい条件を詳しく解説します。

ピシウム菌による苗立枯病の症状・発生条件

ピシウム菌を病原とする水稲の苗立枯病の特徴は、発生苗や苗床に目に見えるカビが発生しないことです。症状には以下の2種類があります。

・立枯型症状:出芽後すぐに幼芽の根が、水浸状に褐変して腐敗し、枯死する。
・ムレ苗:生長不良で2~3葉期の頃、育苗箱の中で、一部の苗が急に赤茶けて萎凋(いちょう)し、坪枯れする。

病原は土壌中や病害にあった植物の残さに存在します。汚染された土壌で育苗し、緑化期以降に低温に当たったり、日照不足や過湿または過乾燥、5.5以上の高pHといった条件下で多発します。

フザリウム菌による苗立枯病の症状・発生条件

フザリウム菌を病原とする水稲の苗立枯病は、発芽後に生長不良が見られ、幼芽の根や地際部が水浸状に褐変して腐敗します。

ピシウム菌による立枯型症状に似ていますが、フザリウム菌を病原とした場合は、より症状が顕著です。さらに病害にあった苗の地際部や種籾に、白色または淡紅色で粉状のカビが生じるのが特徴です。

病原菌は土壌に広く生存しており、黒色火山灰土を用いた育苗土では、特に発生しやすい傾向があります。

稲への病原力は弱いものの、緑化期に10℃以下の低温に当たったり、緑化開始直後に低温に当たったり、培土の過湿または過乾燥、5.5以上の高pHなどの環境により苗が衰弱したりすると発生しやすくなります。

リゾープス菌による苗立枯病の症状・発生条件

水稲 苗立枯病(リゾプス属菌)種籾に生じた白いカビ

水稲 苗立枯病(リゾプス属菌)種籾に生じた白いカビ
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

リゾープス菌は、「リゾプス菌」「リゾップス菌」と呼ばれることもあります。この菌を病原とする水稲の苗立枯病では、苗は発芽不良や生育不良で不揃いになり、根の先端が異常に膨らんで伸長が止まり、酷い場合には腐敗・枯死します。

出芽時には種籾や、その周辺の床土表面に灰白色で綿毛状のカビが発生し、育苗箱全体に広がることもあります。

水稲 苗立枯病(リゾプス属菌) 白い綿毛状のカビ

水稲 苗立枯病(リゾプス属菌) 白い綿毛状のカビ
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

土壌中に生存する菌や、育苗資材に付着した菌から感染します。出芽時に30~40℃の高温、緑化開始直後の低温といった条件のほか、過湿条件でも多発します。特に厚播の場合は、病害が急速に広がりやすいので要注意です。

トリコデルマ菌による苗立枯病の症状・発生条件

トリコデルマ菌を病原とする水稲の苗立枯病では、種籾に発生し、出芽前に腐敗する場合が多く見られます。発芽した場合でも、生育不良で萎れや黄化が見られ、悪化すると坪枯れ状に枯死します。

また、種籾や周辺の床土表面に白色のカビが密生し、次第に青緑色に変わります。育苗箱全体にカビが広がることもあるため要注意です。

菌は土壌中や病害にあった植物の残さなどに広く存在しています。汚染土壌が床土に使われたり、資材に付着したりすることで感染し、pH4.0以下の低酸度や土壌の保水力不足、出芽時の高温や緑化開始時の低温といった条件で多発します。

病原菌も意識して対策! 水稲の苗立枯病を防除する方法

病原菌の種類別に、症状や発生条件の違いを踏まえたうえで、水稲の苗立枯病に対する効果的な防除方法を紹介します。

防除の基本は、育苗中の温度・湿度を適切に保つこと

緑化中の水稲苗 温度管理

masy / PIXTA(ピクスタ)

苗立枯病の病原菌は、発芽期や育苗中の温度・湿度が高すぎても低すぎても、発生しやすくなります。そのため、育苗中は適切な温度・湿度管理を徹底しましょう。

例えば、ピシウム菌による水稲の苗立枯病は、緑化期以降に低温となると発生しやすくなります。緑化期以降の温度管理には特に注意するなど、病原菌ごとの発生条件を避けるように対策をするとよいでしょう。

また、種籾や苗が傷付いたり、高温と低温や過湿と過乾燥を繰り返したりすると、苗が衰弱し、病害が発生しやすくなります。苗が弱らないように、急激な環境の変化は避け、作業によって傷付けないように注意しましょう。

育苗土に畑土壌や火山灰土を用いるのはNG

水稲の育苗箱播種

hiroki-bigtree / PIXTA(ピクスタ)

水稲の苗立枯病の病原菌は、上記までに紹介した4種類以外にも存在しています。病原となる糸状菌の多くは、土壌中に広く分布しているため、育苗にはできるだけ菌のない人工培土などを利用するのがよいでしょう。もしも畑土壌を用いる場合は、土壌消毒が必要です。

また、以下のケースで病害が発生しやすくなるといわれています。

・リゾープス菌による苗立枯病:育苗土として火山灰土や埴壌土を用いる場合
・トリコデルマ菌による苗立枯病:酸性度の高い土壌を用いる場合

該当する場合は、日頃から苗床の観察や管理を徹底し、苗立枯病の発生に注意しましょう。

育苗箱は丁寧に消毒! 灌水時に使用する水にも要注意

せっかく菌に汚染されていない床土を準備しても、育苗箱や使用する農具から病原菌に感染することもあります。育苗箱はもちろん、育苗作業に利用する農具や道具はできるだけ消毒しましょう。また、手洗いや靴の消毒も大切です。

さらに、灌水時にはピシウム菌に感染する恐れがある池や川の水を使わないなど、作業室の衛生管理を徹底しましょう。

水稲 育苗中の灌水

たろたろ / PIXTA(ピクスタ)

適用のある農薬で、種子消毒など農薬防除の徹底を

どれほど注意を払っても、病原菌の感染を完全に防ぐのは困難です。できるだけ早期に発症を確認し、速やかな防除対策を講じることが不可欠です。発症を認めたら、すぐに罹病苗とその周囲にある土壌を施設外へ除去することが大切です。

また、苗立枯病には農薬を用いた予防・防除が効果的です。適したものを使用しましょう。

苗立枯病に効果のある主な農薬は、病原菌によって異なります。本記事で取り上げた4種の病原菌に対して、登録のある農薬を以下に紹介します。

「ベンレートT水和剤20」

感染防止のために、種子に湿粉衣または希釈液に浸漬して使用します。

「ナエファインフロアブル」

ピシウム菌・フザリウム菌・リゾープス菌の3種に登録があります。用法に沿って希釈した農薬を土壌灌注して使用します。

「STダコレート水和剤」

フザリウム菌・リゾープス菌・トリコデルマ菌の3種に登録があります。播種時から緑化期にかけて、希釈液を2回まで灌注して使用します。

「タチガレン粉剤」「タチガレエースM粉剤」

ピシウム菌・フザリウム菌の2種に登録があり、播種前に育苗箱の土壌に混和します。

なお、上記に紹介した農薬は、2021年3月現在、苗立枯病に対して登録のあるものです。実際の使用に当たっては、その時点での登録を確認し、ラベルをよく読み用法・容量を守って使用してください。

水稲移植 田植え

PHOTO NAOKI /PIXTA(ピクスタ)

水稲の苗立枯病は、病原菌が複数あり、育苗期に注意が必要です。発症すると苗が大きく減少したり、ほ場への定植後に発症したりして、大きな被害を招く危険性もあります。病原菌の違いを確実に見極め、予防や早期防除を徹底しましょう。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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