35haの見回りを大幅に短縮、収量アップまで実現した新潟の生産法人 上関ふぁーむの取組みとは
新潟県の最北に位置する山間地である岩船郡は、新潟コシヒカリの三大産地のひとつです。そんな岩船郡でブランド米コシヒカリを中心に水稲やそばを栽培している農業組合法人が上関ふぁーむです。今回は上関ふぁーむの伊藤代表、伊藤さん、渡辺さんに、ほ場管理を効率化するスマート農業への取り組みを伺いました。
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目次
農業組合法人・上関ふぁーむのプロフィール
認定農業者上の農業組合法人として上関ふぁーむが設立。法人化当初、ほ場面積は約12haからスタートするが、徐々に農地を拡大し、現在は水稲25ha、そば10haのほ場を保有している。
創業時のメンバーは、代表を務める伊藤さん含む3人だったが、現在は創業メンバーの息子でもある伊藤さん、渡辺さんの2人が加わり、専従の社員として働く。
ほ場の拡大に合わせてスマート農業に取り組み、省力化や収量アップに成功している。
集落内で唯一ほ場面積を拡大した上関ふぁーむ
上関ふぁーむは、国が集落営農を推進していたことをきっかけに、認定農業者上の法人として設立されました。まずは、ほ場面積を拡大されていった経緯を伺いました。
━━━一般的な農家から法人設立に至るというのは大きな決断だったと思いますが、その経緯を教えていただけますか?
伊藤代表:15年くらい前、国は20ha以上の農地での集落営農を推進していました。当時、この集落には40人前後の農家がいて、37ha近い農地がありました。
始めはみんなで集落営農をやろうとなったのですが、意見がまとまらず、期限となってしまいました。そこで、意見の合った人だけでやろうとなり、気の合った3人で営農を始めるに至ったのです。
ただ、農地面積は3人で合計しても10ha程度しかありませんでした。これでは国の方策である20haには届きません。そこで、認定農業者上の法人を設立することにしたんです。
━━━法人設立時のほ場面積は10ha程度でしたが、今は35haになっていますよね。ほ場面積はどのように拡大したのでしょうか?
伊藤代表:この地域では農家の高齢化が課題になっています。実際、ここ15年くらいで農家の軒数は約40軒から7~8軒まで減少してしまいました。
そして残っている農家も、規模は拡大せず、自家消費する農家がほとんどです。そのため、我々が法人化してからは、高齢で引退された周辺農家の土地を借地として引き受けて、ほ場の面積が徐々に拡大していきました。
結果、今年も4haほど農地が増えて、現在は約35haのほ場を管理することになっています。
ほ場面積拡大の課題に「スマート農業」でアプローチ
ほ場の面積が拡大した上関ふぁーむは、効率的な管理方法を模索していたそうです。解決策としてスマート農業に取り組んだ上関ふぁーむは、栽培管理支援システム「ザルビオフィールドマネージャー(以下、ザルビオ)」に出会いました。
━━━スマート農業の導入はどのように進められたのでしょうか?
伊藤代表:ほ場が拡大すると管理が大変になり、効率化するための工夫が必要だと考えました。例えば、生育状況を把握するには、畦畔からではなくほ場の上から見るほうがよいと考え、リモートセンシングの導入を検討していたんです。
一度、ドローンを使ったリモートセンシングにチャレンジしました。小さなドローンにカメラを後付けするタイプのものを活用したのですがうまくいかず、利益はまったく出ませんでした。その後、DJI P4Mというセンシングの専門機械も発売されたのですが、こちらは高価で手が出ませんでした。
それからも、各社のサービスを比較したり、農協の方のアドバイスを聞くなど、情報収集をしていました。
━━━スマート農業の導入に当たって情報収集をされていたのですね。魅力的なサービスは見つかりましたか?
ちょうどその頃、インターネットでザルビオを知りました。特にリーズナブルな金額に興味を惹かれましたね。他に比較検討していたサービスに比べて10分の1ぐらいの金額だったかと思います。
ザルビオを見ると、衛星画像データを利用して「ほ場の状況を真上から見る」という、自分達がやろうとしていたことが実現できそうでした。
特に生育マップでは、リアルタイムな生育状況が見えるそうなので、ほ場を俯瞰して把握できる点が魅力的でした。
我々は効率化につながる最新機器は積極的に取り入れていて、ザルビオの活用は負担軽減にもつながると思い、すぐに有料サービスを申し込みました。
━━━「リーズナブルな利用料金」と「ほ場の見える化」がポイントだったのですね。実際に使い始めて効率化につながっていますか。
正直なところ、使い始めの1〜2年間はあまり活用できていなかったです。ザルビオの画面は見ていたのですが、農地では応用していませんでした。
そんなとき、JA北新潟(旧・JAにいがた岩船)の営農指導員がザルビオを活用されていることを知りました。それから、営農指導員と一緒にザルビオの画面で生育マップや地力マップを見ながら、病気がないとか、水が入ってないとかを確認するようになりました。
ザルビオ「ほ場の詳細」画面。天気、タスク、生育ステージ(BBCH)、病害の発生が一目でわかる
画像提供:BASFジャパン株式会社
今では刈取適期の判断にも利用させてもらって、だんだんとザルビオを活用できるようになりましたね。
ほ場の栽培管理を効率化した2つの方法
上関ふぁーむは、ザルビオを活用してどのようにほ場の栽培管理を効率化しているのでしょうか。病害虫アラートで省力化につなげたり、ドローンを使って可変施肥をされたりと具体的な方法を伺いました。
病害アラートで見回り作業の負担が軽減
━━━病害アラートでしたとお聞きしていますが、具体的にどのようにしたのでしょうか?
伊藤代表:先に話した通り、ザルビオを使い始めて2年ほどはほ場を生育マップで見ているだけでしたが、3年ほど前、初めて病害アラートが出ていることに気がつきました。
病害アラートの通知イメージ
画像提供:BASFジャパン株式会社
半信半疑だったけれど、いつも指導してもらっているJA営農指導員に相談して、一緒に見てもらったんです。生理障害で薬は不要でしたが、ザルビオの病害アラートが植えてから1週間~10日くらいの小さな苗でも感知できることに驚きました。
もし、いもち病のような一般的な病害だと早く手を打たなくてはいけません。いもちの病原の斑点は、私の方で判断できることもありますが、判断できないときには指導員の方に見てもらう必要があります。
病害アラートが出るのはたまにですが、出たらすぐに見に行きます。逆にいえば、検知の精度が高いので、病害アラートが出たときだけ目視確認しに行けばよく、通常時の見回りはほとんど不要で省力化につながっています。
ドローンを使って可変施肥。労力を削減する
ドローンによる可変散布イメージ
Monopoly919 - stock.adobe.com
━━━追肥にはドローンを使っているそうですね。ザルビオのデータを活用して可変施肥もされているとのことですが、具体的に教えていただけますか?
渡辺さん:従来は、いわゆる背負い型の動力散布機で追肥していましたが、今はドローンを活用することで労力が相当軽減されています。農薬や除草剤、肥料の散布も全部ドローンでやっていて、追肥の部分ではザルビオの生育マップを見ながら可変施肥を行っています。
ザルビオの生育マップ
画像提供:BASFジャパン株式会社
ザルビオの生育マップを見ると、ほ場内でも、色の濃いところや薄いところによって生育ムラがでていることがわかります。施肥量は生育マップの色に基づいて決めているのですが、色が濃いところには5kg、薄いところは3kgというように調整しています。
ザルビオの画面を印刷した紙に数字を書き込んで、そのデータをもとにドローンで撒きに行きます。生育ムラが見えているので、メリハリを付けた追肥ができていますね。
上関ふぁーむは、ザルビオを活用して病害虫の発見や生育状況の把握を行っているようです。さらに、ドローンを活用して可変施肥を行うことで、労力削減と精密農業の推進を図っています。
データの活用で刈取適期を判断。収量アップに貢献
生育ステージ予測を活用し、刈取適期を正確に判断することができた
━━━ザルビオが刈取適期の判断にも役立っているようですね。
伊藤代表:今年は、ザルビオの生育ステージ予測などを参考に刈取適期を判断したところ、よいタイミングで刈り取りができました。
これまで刈取適期の判断は、普及センターから届く情報を参考にしていました。積算温度に基づいてどの品種がいつ頃刈り取れるかを示した情報が毎年届くのですが、今年はあまり参考になりませんでした。
実際、普及センターの情報では刈取適期になっていたものの、収量コンバインで水分量を測ると30%を超えており、指導員に見てもらったところやはりまだ青いと言われました。そのため、一部だけ刈り取り、ほかの箇所はザルビオの生育ステージなどを参考にして、数日後に刈り取ることにしました。
結果的に、先に刈り取ったものは2等米、後で刈り取ったものは1等米になったのです。
今後、刈取適期を判断する際は、積算温度の情報だけでなく、ザルビオの生育ステージ予測も活用することで、より正確に判断していけると思います。
生育マップとドローンを活用した可変施肥(追肥)で収量15%アップ
━━━可変施肥で収量も上がったそうですね。具体的にどのくらいの成果につながったのでしょうか?
伊藤代表:以前は反収の平均が6俵半~7俵半でしたが、ザルビオの生育マップで可変施肥の追肥をした結果、反収は7俵半~8俵半まで増収しました。
今のところドローンとザルビオは連携していませんが、目視で該当箇所に散布するだけでも十分な成果を実感しています。
ほ場が広いだけに、全体を把握したり、追肥の判断や追肥量の調整をすることが大変なので、生育マップのデータが役立っています。
上関ふぁーむは、ザルビオの生育ステージ予測を参考にした結果、適期での刈り取りにつながったようです。また、生育マップを活用した可変施肥の追肥により、収量約12%の増加を実現しています。
施肥設計の見直しで、収量増と効率化をめざす
今後の目標についてお聞きしたところ、施肥設計の見直しを挙げていました。肥料の値段が高騰する中、適切な施肥設計は収益アップに不可欠な要素のようです。
生育マップのデータとドローンの連携による精密な可変施肥で収量15%UPに期待
━━━生育マップを活用した追肥の可変施肥ですでに反収を増やすことに成功されていますね。今後、さらなる収量アップは期待できそうですか?
伊藤代表:期待できると思います。理由として、来年度からはザルビオの地力マップを活用して、基肥の可変施肥も行ってみようと思っています。
ザルビオの地力マップ
画像提供:BASFジャパン株式会社
今までは、基肥として豚糞を10aあたり200kgほどを水田全面に均等に撒いていました。
来年度からはザルビオの地力マップを見ながら、地力が弱くて薄い色になっている箇所に重点的に撒くことを計画しています。
将来的には、DJIの新しいドローンがザルビオと連携できて、生育マップの薄い色の箇所に正確に撒けるようになることも期待しています。収量では15%アップをめざしています。
可変施肥は、無駄な施肥を減らせて肥料のコストカットにもなるので、いいことだらけだと思います。
肥料の見直しでさらなる効率化も検討
━━━引き続き、さまざまな機能を活用してスマート農業を推進していけそうですね。ザルビオの活用以外にも、今後の取り組みとして考えていることはあるのでしょうか?
渡辺さん:ドローンで肥料を撒く際の効率を上げるため、撒く量を減らせるような肥料があれば利用したいです。例えば、肥料を10kg撒いていたところを3kgで済むことができれば作業時間を短縮できます。
肥料の成分にもよりますが、値段が多少高くても、撒く量を減らすことができるなら利用する価値はあると思います。
伊藤代表は、ザルビオの地力マップを活用した基肥の可変施肥を来年度から実施する予定で、収量の15%アップを目標としています。また、渡辺さんもドローンを用いた施肥のさらなる効率化を目指し、施肥量を減らせる肥料の利用も検討されているようです。
データに基づく農業を始めようとしている方に伝えたいこと
━━━新規で農業を始める方や、データ活用など新しい取り組みを始めようとしている農家の方に、何か伝えたいことはありますか?
伊藤さん:農業の経験が少なくて、勘や感覚に欠けていても、データがあれば栽培管理の仕方を知る助けになると思います。ベテラン農家と新規就農した農家では、長年培われた経験や勘の部分で大きな差がありますが、データがその差を少し埋めてくれると期待しています。
なので、これから新規で農業を始める方にとっても、ザルビオの活用はチャレンジするハードルを下げることができるのではないでしょうか。
ザルビオを通して衛星データを入手・活用し、あとは直進アシスト付き農機などを使えば、農業にはまだまだ将来性があると思います。
今後もデジタルを活用したスマート農業にどんどん取り組んでいきたいです。
今回は、新潟県岩船郡の農業組合法人の上関ふぁーむに、スマート農業への取り組み、省力化や収量増の実際を教えていただきました。
衛星データにより生育状況の把握や、可変施肥をするのに便利なドローンなどを使えば、規模が拡大したほ場でも効率的に管理できます。省力化しつつ収益性を高めて事業を発展させていきましょう。
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