【イネ萎縮病】ツマグロヨコバイが媒介するウイルス病。症状と耕種的防除・農薬防除策を解説
イネ萎縮病はツマグロヨコバイにより媒介されるウイルス病で、感染すると不稔が多くなり収量低下につながります。すす病などほか他のウイルス病も媒介するため、被害を抑えるためには耕種的防除などの対策が重要です。この記事ではイネ萎縮病の症状や発病する原因、効果的な防除方法について解説します。
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ツマグロヨコバイは年に3~5回発生する害虫で、北海道以外の全国各地に分布します。吸汁による被害だけでなく、排泄物による汚染やウイルス病の媒介によって、作物への被害が拡大する傾向があります。イネ萎縮病を引き起こす原因となる、ツマグロヨコバイの生態について確認しておきましょう。
イネ萎縮病とは?原因はツマグロヨコバイ
イネ萎縮病とは、イネ萎縮病ウイルスの感染によって、株の萎縮などを発生させるウイルス病です。主にツマグロヨコバイがウイルスを媒介し、苗の移植後から幼穂形成期にかけて感染します。
Photo753 / PIXTA(ピクスタ)
ツマグロヨコバイは、ヨコバイ目ヨコバイ科に属する昆虫で、北海道以外の全国各地に分布しています。3月下旬頃から10月上旬にかけて年に3~6回発生します。暖冬で雨が少ない年や7月下旬~8月上旬の気温が高い年に多発する傾向です。
水稲やイネ科雑草の葉鞘の組織内に、バナナ型で長径1mm前後の卵を数粒ずつ産み付けます。気温25℃の環境では、7~10日程度の卵期間と3週間程度の幼虫期間を経て成虫に成長します。越冬するときは幼虫の状態ですが、冬の気温や積雪量によって幼虫の生存率が変わるとされています。
ツマグロヨコバイ2齢幼虫(体長1.4mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
成虫の体色は淡い緑色ですが、前翅の先端は雌が淡い褐色、雄は黒色で色が異なります。体長は雌が6mm前後、雄は4.5~5mm前後で雌・雄ともに成虫の寿命は5週間程度です。
ツマグロヨコバイ雄成虫(体長5mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ツマグロヨコバイ雌成虫(体長6mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ツマグロヨコバイは水稲の茎・葉や穂から吸汁して作物の品質・収量を低下させるだけでなく、イネ萎縮病や矮化病・黄萎病といったウイルス病を媒介します。
成虫・幼虫の密度が高くなると排泄物によってすす病が発生し、葉や穂が黒色に汚染されることで光合成も阻害され、水稲の成熟にも影響が及びます。
さらに、イネ萎縮病ウイルスは高い確率で経卵伝染するため、一度感染すると被害が長期化しがちです。
イネ萎縮病に感染すると稔実不良となり減収につながることも
分げつ期の水稲
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
イネ萎縮病ウイルスを持ったツマグロヨコバイの幼虫が、水稲の葉や茎を吸汁することで、イネ萎縮病に感染します。イネ萎縮病に感染すると株全体が萎縮する一方で、分げつ数は増加します。分げつ数が増えても、出穂しない場合や稔実不良が発生している場合が多いです。そのため、予定した収量を確保できず減収につながることもあります。
イネ萎縮病に感染した後10~15日前後で、葉の色は濃い緑色となり、葉脈に沿って白色または乳白色のかすり状の斑紋が発生します。生育初期に発病した場合は健全な株と比べて草丈が短くなり、出穂しません。
生育後期に発病した場合は、出穂しても奇形や稔実不良といった被害が生じます。発病した株のほとんどは収穫期まで枯れずに残ります。そのため、被害を抑えるには、葉の色の観察が重要です。健全な株の葉と比較観察などを行いましょう。なお、葉や茎の吸汁によっても生育・稔実を阻害されますが、ウイルス感染と比べると被害が少ないといわれています。
暖地の場合は、収穫後に残った発病株も翌年の伝染源になります。また、ツマグロヨコバイはイネ科の雑草にも産卵するため、ほ場外から幼虫・成虫が侵入して感染が拡大することも考えられます。
イネ萎縮病の防除対策~耕種的防除
イネ萎縮病による被害を抑えるためには、ほ場の防除対策を徹底することが大切です。
ほ場整備
越冬したツマグロヨコバイの幼虫は3月下旬頃から成虫になり、4月中旬~下旬に発生のピークを迎えます。寄生植物となるイネ科雑草を枯死させるために、遅くとも3月中旬までに耕起するようにします。
多肥栽培にならないよう、田植え前に土壌の養分バランスを調整することも重要です。収穫を終えるまでほ場や育苗場所の除草を徹底して行い、ツマグロヨコバイの潜伏場所を作らないようにしましょう。
育苗期
masy / PIXTA(ピクスタ)
イネ萎縮病の拡大を防ぐためには、育苗中の耕種的防除も効果的です。育苗箱に侵入する成虫を減らすために、育苗場所の周りを寒冷紗などで仕切るようにします。ハウスで育苗する場合は、出入り口を二重にしたうえで、すべての開口部を防虫ネットで覆います。
また、JAや普及指導センターからの情報を参考にしたうえで、極端な早植えを避けるようにしましょう。
田植え後
G-item / PIXTA(ピクスタ)
田植え後は水稲の生育状況を観察し、周辺の株と比べて葉の色が濃いなど、イネ萎縮病に感染したと考えられる株は可能な限り抜き取るようにします。
収穫後
しなぷす / PIXTA(ピクスタ)
収穫後は速やかにほ場を耕起し、発病株を枯死させます。早期栽培・早植栽培の場合は、再生株での発病率が高いので、収穫後の耕起は必須です。耕起とあわせてほ場周辺の除草を行い、ツマグロヨコバイの越冬場所を作らないようにします。
ツマグロヨコバイの防除に利用可能な農薬
農薬を使ったツマグロヨコバイの防除は、育苗期と本田期の2段階で行います。カーバメート系・有機りん系農薬の感受性が低い地域があるため、農薬を選ぶ際には留意が必要です。
農薬を使用する際はラベルに記載された使用方法を十分に確認し、不明な点はメーカーや普及指導センターなどに問い合わせるなどして適切に使用しましょう。また、地域によって農薬の使用について決まりが定められている場合があります。確認のうえで使用してください。
育苗期に利用可能な農薬
アドマイヤーCR箱粒剤
有効成分:イミダクロプリド1.95%
播種時から移植当日までの間に、育苗箱に均一に散布します。高密度播種苗栽培を行う場合は、量を調整します。移植後に薬害が生じないよう、ほ場の代かきは丁寧に実施しましょう。
ミネクトスター顆粒水和剤
有効成分:シアントラニリプロール10.0%、ピメトロジン50.0%
移植7日前から当日までに、育苗箱に灌注します。ツマグロヨコバイだけでなく、ウンカ類・イナゴ類なども同時に防除できます。薬害が生じないよう、水分や温度の管理に注意しましょう。
育苗箱への粒剤散布
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
本田期に利用可能な農薬
アドマイヤー1粒剤
有効成分:イミダクロプリド1.0%
ツマグロヨコバイやヒメトビウンカが媒介するウイルス病や黄萎病の感染防止効果があります。施用時は湛水状態で均一に散布し、最低7日間は湛水状態を保つようにしましょう。
マラソン乳剤
有効成分:マラソン50.0%
適用作物が広く速効性の農薬で、浸透移行性があるためツマグロヨコバイを含む吸汁性の害虫に効果があります。ボルドー液などアルカリ性の剤との混用は避けてください。
イネ萎縮病は、ツマグロヨコバイの成虫・幼虫だけでなく卵からも感染します。ほ場全体にわたって適切な防除を実施しないと、何年にもわたって株の萎縮や稔実不良が生じ、水稲の収量が低下してしまいます。
田植え前・収穫後の耕起やほ場内外の除草を徹底することで、ツマグロヨコバイの幼虫や卵の潜伏場所がなくなります。育苗期・本田期に農薬を活用することも、ツマグロヨコバイの防除には効果的です。
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舟根大
医療・福祉業界を中心に「人を大切にする人事・労務サポート」を幅広く提供する社会保険労務士。起業・経営・6次産業化をはじめ、執筆分野は多岐にわたる。座右の銘は「道なき道を切り拓く」。