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イネの“ごま葉枯病”を徹底防除! 症状の特徴と有効な対策・農薬一覧

イネの“ごま葉枯病”を徹底防除! 症状の特徴と有効な対策・農薬一覧
出典 : hamahiro / PIXTA(ピクスタ)

「ごま葉枯病」とは水稲に発生する病害の1つで、収量や品質を大きく低下させる要因となります。多発すると、苗の枯死による欠株や穂枯れが発生し、毎年繰り返して被害を受けることもあるため、安定的な収量確保のためには根本的な防除対策が必要です。

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「ごま葉枯病」は「イネごま葉枯病」ともいわれるように、水稲栽培において注意すべき病害です。本記事では、同じく水稲の代表的病害である「いもち病」や「すじ葉枯病」との違いにも触れながら、症状の特性や原因、効果的な防除方法や農薬について詳しく解説します。

穂枯れを引き起こす病害、イネの「ごま葉枯病」とは?

イネごま葉枯病

イネごま葉枯病
写真提供 HP埼玉の農作物病害虫写真集

「ごま葉枯病」は「イネごま葉枯病」ともいわれ、いずれも同じ病害を指します。似た症状を持つほかの病害と的確に見分けて早期に対処するために、まずはごま葉枯病の特徴や発生条件について押さえておきましょう。

水稲被害の特徴と、病斑のようす

育苗中にごま葉枯病が発症した場合、幼芽期に苗の葉鞘や下位葉に黒褐色の条斑や小斑点ができ、籾の周辺には黒っぽい菌糸塊が見られます。緑化期以降は本葉に病斑が現れます。

新葉の出すくみや生育不良などの症状を伴い、多発すると苗が枯死して欠株が生じることもあります。しかし、苗の段階でそれほど大きな問題になることは多くありません。

本田で発症すると、幼穂形成期以降、主に下位葉に楕円形の小斑点を生じ、葉鞘や節に発症することもあります。病斑はごま粒のように黒または褐色で丸みを帯びており、周囲が黄色く変色するのが特徴です。

ただし、症状が進むと病斑が融合して不定形になり、ほかの病害と区別しにくくなるため注意が必要です。

出穂後には穂軸や実子(みご)、枝梗に同様の病斑が発生し、多発すると穂枯れになって青米や茶米が増え、収量や品質が低下します。

イネごま葉枯病 葉に生じた小型病斑

イネごま葉枯病 葉に生じた小型病斑
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

イネごま葉枯病 葉に生じた大型病斑

イネごま葉枯病 大型の病斑も同様に楕円形で周囲が黄色に変色しているのが特徴
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

発生しやすい時期・条件

ごま葉枯病の病原は糸状菌(カビ)で、罹病した種子や稲藁が第一次感染源です。罹病種子を播種することで苗に感染し、葉などに病斑が形成されます。種子のほかに、苗の周辺や本田に放置された被害藁から感染・発病することもあります。

感染苗や株は、菌糸の生育適温である25~30℃でやや乾燥した適度な湿度になると、病斑上に胞子が形成され、飛散して感染が広まります。このとき、胞子が穂に付着すると穂枯れの被害が発生します。

本田での発病は、病原菌の適温となる7月頃から発生し始め、8月にかけて感染が拡大します。発病の程度は、ほ場の条件に大きく影響を受けるといわれ、窒素不足など施肥管理が不適切なほ場環境では発生が助長されます。

特に、やや砂質土壌で地力や穂肥力が低く、水稲の登熟期以降は急激に生育が衰え実入りが少なくなってしまう、いわゆる「秋落ち」水田では被害が多発します。

いもち病・すじ葉枯病との違いは? 症状による見分け方

水稲に発生する病害には、「いもち病」や「すじ葉枯病」も挙げられます。これらはいずれもごま葉枯病と症状が似ているため、しばしば混同されがちです。

適切な防除で被害を最小限に抑えるためにも、これらの病害を見分けるコツをつかみましょう。

●いもち病

葉いもち病

madozi / PIXTA(ピクスタ)

いもち病は、ごま葉枯病と同じく糸状菌を病原とする水稲の病害で、生育が悪くなったり籾が稔実しにくくなったりして収量・品質を低下させます。罹病種子からの種子感染や、ほ場に残る被害藁が感染源である点も共通しています。

ごま葉枯病との違いは、発生時期が6月下旬からで高湿度・低温条件を好み、降雨が続くと発病が助長される点です。

さまざまな部位に発生し、場所によって「苗いもち」「葉いもち」「節いもち」「穂いもち」などに分けられます。

葉いもちの場合、さらに灰緑色や暗緑色でひし形または楕円形の水浸状病斑ができる「急性型(進展型)病斑」や、中央に灰白色の崩壊部がある褐色の紡錘形で、周囲が黄色っぽく変色する「慢性型(停滞型)病斑」があります。

イネ 葉いもちの進展型病斑

イネ 葉いもちの進展型病斑。壊死線が何本か見られる
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

どちらの病斑もごま葉枯病の症状と似ていますが、病斑を貫く葉脈が褐色の線(壊死線)になることが、いもち病の特徴です。

イネ葉いもちの停滞型病斑

イネ 葉いもちの停滞型病斑。中央部分が崩壊し白っぽくなっている
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集

▼いもち病については以下の記事もご覧ください。

●すじ葉枯病

一方のすじ葉枯病も糸状菌を病原とし、葉や葉鞘、実子、穂、節などさまざまな部位に病斑を形成する病害です。発生が激しいと、葉全体が褐変し枯死します。病斑は紫褐色で長い条線になるので、ごま葉枯病やいもち病と区別できます。

▼島根県のこちらのページで、ごま葉枯病とすじ葉枯病の病斑を見ることができます。
島根県 病害虫防除所「ごま葉枯病,すじ葉枯病」

原因は栄養不足?! 土壌改良と施肥設計による耕種的防除

ごま葉枯病の発生は、土壌環境によって大きく左右されます。感染しても、肥沃な環境のほ場であれば、それほど深刻な被害にはなりません。そのため、防除対策には土壌改良などの耕種的防除が有効です。そこで以下では、具体的な土作り・環境整備のポイントについて解説します。

マンガン・鉄・ケイ酸の補給を重視した土作り

多量要素のNPKと鉄・マンガンなどの微量要素

Pixel-Shot - stock.adobe.com

ごま葉枯病は砂質浅耕土や老朽化水田、秋落ち水田でよく発生します。特にカリウムや鉄、ケイ酸、マンガン、マグネシウムが欠乏すると多発し、窒素切れを起こした場合にも発生が助長されます。予防のためには、水田にこれらの成分が不足しないように注意しなければなりません。

上述の成分のうち、鉄やマンガンは微量要素、窒素・カリウム・マグネシウムは多量要素、ケイ酸は多量要素である酸素・水素とケイ素との化合物です。

これらがバランスよく含まれている土壌にするためには、秋耕における稲藁のすき込みや堆肥の施用、鉄・ケイ酸・マンガン含有量の高い肥料の施用などが有効です。

つまり、養分が豊富な肥沃な土作りはごま葉枯病の防除の基本であり、品質や収量の向上にもつながります。

鳥取県農業試験場の成果情報によると、秋落ち症状でごま葉枯病を常発している水田では、鉄資材を毎年10a当たり200kg施用することで根圏環境が改善し、根から養分を吸収しやすくなり、ごま葉枯病が発病しにくい環境に改善できると報告しています。

出典:鳥取県農業試験場「試験研究成果」所収「イネごま葉枯病常発地における鉄資材施用効果(令和2年度成果情報)」

ごま葉枯病の発生が特に激しく、毎年繰り返してしまうような水田では、まずはマンガン含量の多い肥料を3年程度連用したのちに、不足している鉄やケイ酸を補給することで土壌改善を試みるのも効率的です。

ただし、易還元性マンガンの土壌中の含有量が300ppm以上になると、マンガン過剰症が発生するという報告もあるので、必要量を見極め、マンガンの過剰な施用に気を付けましょう。

出典::新潟県農林水産部経営普及課「にいがた農業ナビ」内「【農業技術・経営情報】病害虫」所収「イネごま葉枯病の発生生態と防除対策 平成26年度」

▼ケイ酸の効果についてはこちらの記事をご覧ください。

基肥、および穂肥の施肥量目安

ごま葉枯病を予防し、収量や品質を向上するためには、土壌改良や適正な施肥管理が不可欠です。施肥設計は後期栄養を確保して肥料切れを起こさないようにしつつ、その一方で過剰摂取とならないように注意しながら行いましょう。

なお、施肥量は地域によってはもちろん、作付け品種や土壌の性質、大豆などほかの作物の後作かどうかなど、さまざまな条件によって変わります。そのため、土壌診断を行ったうえで、自身の水田に必要な養分と量を判断し、基肥と穂肥に分けて施用することが大切です。

一例として、米の生産量1位の米どころである新潟県でコシヒカリを栽培する場合の施肥基準を見てみましょう。10a当たりの施肥成分量(kg)を見ると、土壌が壌質である下越北部では、基肥がN:P:K比で3~4:8:8、穂肥がN:Kで2~3:3となっています。

一方、平坦部の粘質土壌では基肥2~3:7:6、穂肥が1~3:2。同じく平坦部の砂質土壌では基肥3~4:8:8、穂肥が1~3:3の割合です。

そして、中山間地の黒ボク土壌では基肥4:10:8、穂肥が2~3:3。中山間地の粘質土壌では基肥2~3:10:6、穂肥1~3:3です。

出典:農林水産省「都道府県施肥基準」掲載「新潟県における施肥基準等(水稲)」所収「本田準備の移植(83ページ)」

動噴による穂肥散布

Photo753 / PIXTA(ピクスタ)

上記の例はあくまで参考程度に捉え、実際にはそれぞれの条件に合わせて施肥設計を行います。その際には、以下のようなポイントに留意しましょう。

中期に肥切れしやすい条件下では、基肥のうち窒素分を緩効性肥料で施用するとよい

基肥が多肥になると倒伏を起こしやすいので、地力が高い水田やコシヒカリなど倒伏しやすい品種を栽培する場合は、基肥窒素量を50%ほど減らすとよい

大豆作の後のほ場では、原則基肥窒素量を20~30%ほど減らすとよい

穂肥は必ず施用するのではなく、水稲の生育を見ながら、目標玄米タンパク質含有量を満たすように適切に施用する

老朽化水田では、硫化水素の害を軽減する「鉄」や「マンガン」株を強くする「ケイ酸」などが不足するため、これらの成分を含有する肥料を施用し土作りをするとよい

硫酸分を含む肥料はカリやケイ酸の吸収を阻害するため、使用をなるべく控える

一発肥料を施用する場合は、地域の慣行施肥基準に基づき、基肥と穂肥の窒素量の合計が同量になるよう施用量を決める

防除適期は? イネのごま葉枯病に有効な農薬と散布タイミング

ごま葉枯病の防除には、土壌改良や適切な施肥に加えて、種子消毒や本田への農薬散布なども有効です。そこで最後に、ごま葉枯病に有効な農薬をいくつかピックアップしてご紹介します。

なお、ここでご紹介する農薬は2022年6月4日現在、稲とごま葉枯病に登録のあるものです。実際の使用に当たっては、必ず使用時点での登録を確認し、ラベルをよく読んで適切に使用してください。

また、地域によっては農薬使用の決まりが設けられている場合もあるため、事前に確認しておいてください。農薬の登録は、以下のサイトで検索できます。

農薬登録情報提供システム

ごま葉枯病に有効な農薬は、生育ステージごとに多数あります。数例を挙げれば、種子消毒には「シードラック水和剤」「モミガードC水和剤」「ヨネポン」などを使うとよいでしょう。

▼種子消毒(種籾消毒)についてはこちらの記事もご覧ください。

育苗期には「ブーン箱粒剤」などを使い、本田では「ノンブラスフロアブル」や「ブラシン粉剤DL」、穂に発生した場合には「アミスターエイト」や「ダブルカットフロアブル」が有効です。「オリゼメート粒剤」を使うと、いもち病や白葉枯病、もみ枯れ細菌病などと同時防除ができます。

水稲の育苗期・田植え後活着期・開花期

Takasah / PIXTA(ピクスタ)

ごま葉枯病は、水稲栽培において収量や品質を低下させる要因となる病害です。秋落ち水田や老朽化水田、マンガン不足など土壌の養分バランスが崩れた水田で発生しやすく、肥沃な水田ではほとんど問題になりません。

土作りを丁寧に行ってごま葉枯病を防ぎ、収量・品質を安定的に確保しましょう。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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