この地でしか穫れない「甘いとうもろこし」の魅力を全国に広め知名度アップ|遠州森鈴木農園の販売戦略
静岡県西部の遠州に位置する森町に、甘く新鮮なとうもろこしを求めて、早朝から200人もの人が列をなすとうもろこし直売所があります。メディアや各地の農家から得た情報を活用し、利益を出す遠州森鈴木農園にお話を伺いました。
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目次
遠州森鈴木農園株式会社 代表取締役 鈴木 弥(すずき わたる)さんプロフィール
遠州森鈴木農園株式会社 代表取締役 鈴木 弥さん
父の栽培したとうもろこしの人気を知り、就農を決意。顧客獲得と同時に業務効率化を進め、経営に参画した翌年には全国農業コンクールで名誉賞を受賞。経営移譲を受けたのちは組織を株式会社として法人化。現在は営農と並行して地域農業の発展に力を注いでいる。
就農のきっかけは、父が作るとうもろこしの人気の高さ
浜松駅から車で東に40分ほど走った場所に広がるのどかな田園風景の中に、早朝6時から長蛇の列ができる場所があります。人々のお目当ては糖度18~20度の新鮮なとうもろこしです。
遠州森鈴木農園株式会社 代表取締役 鈴木 弥さん(以下役職・敬称略) 父の作ったとうもろこしを求めて朝早くから多くの人が集まっているところを見て、衝撃を受けました。
それまでは農業とは全く関係ない一般企業で働いていましたが、父のとうもろこしの人気を見て、父の作るとうもろこしはこんなに需要があるのかと思い、後を継ぐ決意をしました。
とうもろこしが販売されると連日長蛇の列ができる
出典:遠州森鈴木農園Facebook
父が切り拓いた「水田3倍活用法」と直売の道
とうもろこしの栽培は、先代の鈴木晃(すずき あきら)さんが、茶生産と水稲を主軸とした経営から、水稲とその裏作のレタスにとうもろこしを加えた三毛作経営に切り替えたことから始まりました。
とうもろこしを組み入れた三毛作の確立
1985年ごろから水田の転作が強化され、先代の鈴木晃さんは、白菜やキャベツ、とうもろこしなどの栽培を試みました。その中で安定した収量を得られたとうもろこしを、従来の水稲・レタスの二毛作に組み入れる「三毛作」を構想したそうです。
農業の専門家にはとうもろこしの後の水稲栽培はリスクが大きいと意見される中、移植時期や深水期間の調整などの試行錯誤を繰り返し、水稲→レタス→とうもろこしの三毛作の栽培体系を確立しました。
遠州森鈴木農園が先駆けとなった「水田3倍活用法」と呼ばれるこの営農方法は、徐々に地域の農家に普及していきました。
遠州森鈴木農園の生産品目 三毛作による水稲・レタス・とうもろこしと森町原産の治郎柿
出典:遠州森鈴木農園ホームページ
とうもろこしは地元の直売で
とうもろこしの栽培は、冬のレタス栽培と田植えの間で行うため、出荷時期は限られます。そこで作期をずらして東京出荷を試みましたが、出荷に伴う時間経過とともに糖度も品質も下がり結果はよくありませんでした。
その後、鈴木晃さんは、新鮮で甘いとうもろこしを欲している人は、畑に直接買いにやってくるということに気づくに至ります。
そうして新たな販路として立ち上げた直売所は、次第に口コミで評判が広がり、行列のできる直売所になっていきます。
就農直後、とうもろこしの直売規模を拡大
この地域で栽培されるとうもろこしの糖度が高い秘密は、日中と夜間の寒暖差にあります。日中の光合成で蓄えた養分が夜間に糖になり、寒暖差が大きいほどとうもろこしの糖度が上がるのです。
そして、とうもろこしが蓄えた糖分が最も多くなる夜明け前に収穫し、そのまま直売所で販売することで、最も糖度が高く鮮度もいい状態で販売することが可能になっています。
鈴木 父が直売所を運営していた頃は、実家の土地の中に小さな直売スペースが設けられていました。そこで販売されているとうもろこしを求めて近隣から多くの人が来てくださいました。
しかし、家の前の道路は決して広くないうえ、小学校の通学路になっています。子供たちが通学しているタイミングでお客様の車が通ることもあったので、危険ではないかと案じていました。
また、当時の直売所ととうもろこしを栽培していたほ場の間には距離があり、収穫後にとうもろこしを運ぶためのタイムロスがありました。それでは効率が悪いと考え、ほ場の近くに直売所を移転しました。
とうもろこしの収穫の様子
出典:遠州森鈴木農園株式会社 代表取締役 鈴木弥さんブログ
直売所の新設直後は一時的に売上が落ちたものの、口コミによって評判が広まりさらに多くの顧客を獲得できたといいます。
メディア特性を活かした広報戦略で販売拡大
始めは近隣住人の口コミを中心に評判になっていた遠州森鈴木農園ですが、知名度を上げるためにメディアでの情報発信を積極的に行っています。
地域メディアと密につながり、県全域へ情報発信
鈴木 近隣の方の口コミだけでなく、さらに多くの人に遠州森鈴木農園のとうもろこしを知ってもらうために、地元メディアに注目しました。
口コミを聞きつけて記事に取り上げてくださった地元新聞社や地元テレビ局の方とのコネクションを維持するため、お中元やお歳暮のタイミングで地元メディアの方にとうもろこしを贈っています。
そうして毎年とうもろこしの直売が開始するタイミングに合わせて地元新聞メディアで情報を発信してもらえるように働きかけ、森町近郊だけでなく静岡県内の方に知っていただけるようにしています。
SNSやホームページの充実で全国メディア露出のチャンスを掴む
2016年、TBS系列で放送された「ジョブチューン」で取り上げられたことをきっかけに、遠州森鈴木農園は全国に知られることになりました。オファーのきっかけは、番組スタッフが遠州森鈴木農園のSNSを発見したことだそうです。
鈴木 ネット販売の入り口となっているホームページだけでなく、Facebookでも情報発信を行っています。こちらではとうもろこしの販売情報だけではなく、栽培の様子なども発信しています。
テレビ番組の制作者が特集を組む際、まずインターネットを活用して情報収集を行うことが多いでしょう。最近ではSNSで話題に上がっているものをリサーチして特集が組まれることもあります。
ホームページやSNSを活用し、こまめに情報を発信していくことは顧客だけではなくメディアの目に留まりやすくなるというメリットもあります。
遠州森鈴木農園はジョブチューン出演以来、地元メディアだけでなく全国に放送される番組に出演するようになりました。テレビ番組での宣伝効果もあり、直販ECサイトの受注数も増えたといいます。
農業生産法人 遠州森 鈴木農園株式会社 ホームぺージ・EC・SNS
ホームページ
ネットショップ
Facebookページ
ブログ
代表取締役 鈴木弥さんブログ
有名農家にとうもろこしを贈ることで、さらに広がる口コミ効果
鈴木さんは、全国農業コンクール名誉賞の受賞をきっかけに、コネクションを得た全国の農家の方に、折に触れてとうもろこしを贈っているといいます。
つながりを大事にするという意味もありますが、各地で活躍し、知名度のある農家に遠州森鈴木農園のとうもろこしを食べてもらうことで、その地のほかの方にも遠州森鈴木農園のことを広く知ってもらえる良い機会になります。
そこを起点に「あの農家さんがおいしいというなら、おいしいのだろう」と安心して注文してくれるようになり、正に口コミで評判が広がるのです。
とうもろこしを活用したジェラートも生産・販売している
写真提供:遠州森鈴木農園株式会社
全国の農家とつながることで、地域農業の地力を上げる
鈴木さんがそれまで勤めていた一般企業を退職し、本格的に就農したのは平成16年でした。地域に普及した水田3倍活用法が評価され、その翌年には全国農業コンクールで名誉賞を受賞。令和2年度には全国優良経営体表彰で農林水産大臣賞を受賞しています。
ここでできた全国各地の農家とのつながりが、遠州森鈴木農園に大きな恩恵をもたらしているといいます。
鈴木 全国で活躍する農家といっても、栽培する作物も経営規模もバラバラです。しかし実績を出している農家と積極的に交流をもち、情報交換することで得られるものがあります。
現場のリアルを聞く重要性
鈴木 作業効率向上やコスト削減のために、スマート農業の技術や新しい栽培方法にも注目しています。
しかし、実際に導入してみてもどれくらいの効果があるのかの見通しが立たなければ導入に前向きにはなりませんし、いい技術であっても初期投資にかかるコストが大きければ導入も困難になってしまいます。
全国の成功事例を共有し、地域農業に還元する
鈴木 情報収集するときは、新技術の導入時のことだけでなく、新しい栽培方法を実践してみてどんな変化があったかまでを聞いて参考にしたり、スマート農機導入に向けて各地の自治体でどのような支援があるのかを聞いたりしています。
こうした現場の情報を、全国の農家同士で共有し、それぞれの地域の農家に伝えることで、地域農業の地力が上がっていきます。
実際に、他の地域ではこんな制度を導入していることでこれだけの利益を出しているのだから、ここでも同じような試みをしたいと自治体に直談判したこともあります。
全国の農家とのつながりを持ち、そこで得られた情報をアクティブに活用することで、顧客獲得や業務効率改善だけではなく、地域農業にも影響を与えることができるのです。
コロナ禍の現在はオンラインでのやりとりが主流になっているそうですが、以前は実際に現地に赴いて情報収集を行っていたそうです。
地域の農業は地域で守る!「とうもろこしで町おこし」
「地域の農業は、地域で守っていきたい」と鈴木さんは語ります。現在は地域農業の担い手創出やPRに力を入れ、地域農業の活性化に精力的です。
鈴木 平成26年、新東名高速道路に遠州森町スマートICが開通したことで、森町へのアクセスは格段によくなりました。今はまだコロナ禍ということもありますが、将来的にはこの地域のほかの農家の作物を購入できる直売所が遠州森鈴木農園の近辺に増えて欲しいと考えています。
遠州森鈴木農園以外の森町のとうもろこしや、ほかの作物を知っていただけるエリアを作って「とうもろこしロード」が実現すれば、地域の農業の活性化にもつながります。いつか実現させたいです
直販だけが収益増の道ではない。地域の流通特性にあった販路を!
直販EC受注分のとうもろこし
出典:遠州森鈴木農園株式会社Facebook
遠州森鈴木農園がある森町では米や茶葉、レタスが多く栽培されています。遠州森鈴木農園でも稲作やレタス栽培を行っていますが、直販だけでなくJAへの出荷も行っています。
鈴木 とうもろこしや米は直売所やECサイトでの直販が主体ですが、レタスは一部JAへ卸しています。
農業経営においてより多くの利益を得るためには、直接契約の販路を開拓することが不可欠だと考えています。
しかし、既存農家がこれから直販を始めるのは簡単なことではないと思います。新規就農者でゼロベースからのスタートであれば、人によっては多少ハードルは下がるかもしれませんが、簡単ではないと感じることも多いでしょう。
実際に私のところにも、何をどのように販売すれば収益が上がるのかという相談が来ることがあります。私と同じ作物を栽培し、同じ方法で販売しようとしても必ず収益が上がると断言できるわけではありません。
直販でなければだめ、JAに出荷できなければだめと思い込むのではなく、それぞれの地域でどんな作物が栽培されているか、栽培された作物がどのように流通していくか、自治体などの組織の状況はどうなっているかなどの情報を知ることが重要です。
直販チャネルを開拓することが難しいと感じる方は、身の回りの状況を細かく分析し、JAなどの組織もうまく活用しながら販売していく方法を模索するのもいいと思います。
「儲かる農業」の裏には、販路開拓や情報発信といったマーケティング面の努力だけでなく、全国の同業者との交流で得たリアルな情報蓄積があります。
各地の農業経営の成功事例を自分の農園や、自分の地域の農業に役立つところまで踏み込んで分析することが、収益アップへの一歩となるのではないでしょうか。
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福馬ネキ
株式会社ジオコス所属。「人の心を動かす情報発信」という理念のもと、採用広告を中心にさまざまな媒体で情報発信を手がける株式会社ジオコスにてライターを務める。