【2024】米の価格動向と今後の予測|農家が取るべき対応とは?
水稲農家にとって主食用米の買取価格は、収益に直結する重要な情報です。そこで、2024(令和6)年の最新の米価格や今後の予測、最近の価格動向を巡る背景、それらを受けて農家が今とるべき対応を解説します。
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プロモリンク / PIXTA(ピクスタ)
2020~2022年産米の米価は低迷しましたが、2023年産米は猛暑の影響で供給が減少しました。その一方で、需要は増加したため、米の買取価格は上昇傾向にあります。
水稲農家は、気候変動のみならず飼料米・加工米への転向推進など、多様な要因に収益が左右されるため、米価の推移を考慮した栽培計画の策定が重要です。
2023年産(令和5年産)米の相対取引価格
出典:農林水産省「過去に公表した米の相対取引価格・数量」所収の「年産別平均価格」。
「米の相対取引価格・数量」所収「令和5年(2023年)産米の相対取引価格・数量(令和6年(2024年)8月)(速報)」よりminorasu編集部作成
画像出典:interemit / PIXTA(ピクスタ)
農林水産省によると、2017~2019年産米の相対取引価格(主食用1等玄米60kg当たり)は15,000円台後半を維持していました。
しかし、2020年産米は14,529円(前年比▲1,187円)、2021年産米は12,804円(前年比▲1,725円)と2年で2割近く下落しました。 2020〜2021年産米の下落は、新型コロナウイルス感染症の拡大による外食ニーズの低下が原因だと考えられています。
その影響が徐々に薄れてきた2022年産米は、13,844円とやや価格を持ち直しました。
さらに、2023年産米は、2023年9月から15,291円と2019年までの水準に迫る高値を記録しており、2024年6月の速報値では15,865円と、15,000円台後半に達しています。
出典:農林水産省「過去に公表した米の相対取引価格・数量」 所収
「平成29年(2017年)産米の相対取引価格(通年平均)」
「平成30年(2018年)産米の相対取引価格(通年平均)」
「令和元年(2019年)産米の相対取引価格(通年平均)」
「令和2年(2020年)産米の相対取引価格(通年平均) 」
「令和3年(2021年)産米の相対取引価格(通年平均) 」
「令和4年(2022年)産米の相対取引価格(通年平均) 」
出典:農林水産省「米の相対取引価格・数量、契約・販売状況、民間在庫の推移等」所収「令和5年(2023年)産米の相対取引価格(令和6年(2024年)6月)」(速報)
2023年産米の価格が高騰した背景には、猛暑の影響による不作と、コロナ禍後の人流やインバウンドの回復による外食産業の需要増加などがあります。
これにより、昨今の米余りから一転して米不足ともいえる状況になりつつあり、すでに「米不足」が発生しているスーパーや飲食店もあります。
2024年産(令和6年産)の米価はどうなる?
2024年も2023年と同様に各地で猛暑が予想されることから、引き続き需給ひっ迫の状況が続くと考えられます。
出典:農林水産省「農産|米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針」所収「米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針(令和6年(2024年)3月)」
農林水産省が2024年3月に公表した「米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針」によると、2023-2024年の主食用米の需要量は681万t、対して生産量は661万tであり、民間在庫量197万tと合わせた供給量は858万tと試算されています。
生産量よりも需要量のほうが20万t多いため、2024年6月末の民間在庫量は減少する見込みです。
さらに2024-2025年の見通しを見ると、670万tの需要に対して生産量は669万tであり、民間在庫量197万tと合わせた供給量は846万tとなる見通しです。
民間在庫量が減るため供給量は前年に比べて低くなっていますが、生産量だけを見ると前年よりも8万t多い669万tとされており、2024年産の主食用米は、6年ぶりに増産となる見通しです。
一方、飼料用米については前年並みもしくは減少傾向とする県が多く見られます。 この要因は、飼料用米から価格が高騰する食用米へ転向する農家が増えるためだと考えられます。
ただし、この増産傾向に豊作が重なると、需給緩和に転じる可能性は否定できません。また、社会情勢の急変により需給のバランスが急変することもあるため、稲作農家にとっては米価の動向を楽観できない状況が続きます。
出典:農林水産省「米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針」所収「米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針(令和6年(2024年)3月5日)」
農林水産省「水田における作付意向について(令和6年(2024年)産第2回中間的取組状況(4月末時点))」
米価格の維持と安定生産へ向け、産地や農家ができること
今後、米の産地や農家は、コロナ禍を経て上昇した米の買取価格を維持しつつ、需要量に応じた安定供給を実現することが重要です。そのためには、次のような戦略が求められます。
- 市場ニーズに応じた生産・販売
- 実需者にフォーカスした生産・販売
- 栽培管理システムの導入
市場ニーズに応じた生産・販売
高価格帯の米の販売例:5つ星お米マイスターが全国から選んだこだわりのお米を販売する米処 結米屋(ゆめや)
出典:株式会社PR TIMES(株式会社アーキセプトシティ ニュースリリース 2019年7月10日)
米価安定のためには、需要と供給のギャップをなくすことが重要です。 例えば、収益を向上する施策として、高価格帯米の栽培が挙げられます。しかし、高価格帯の品種であっても、供給過多に陥れば米価は下落します。
最適な品種は地域やほ場環境などの条件によっても異なりますが、安定した収益を期待するなら、市場ニーズを意識した品種選択が重要です。
一般家庭向けの主食用米以外にも、外食・中食産業や加工会社からの需要が高まる低アミロース米や良食味多収米、米粉用米など、需要に応じた生産をすることで米の価格を維持できます。
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実需者にフォーカスした生産・販売
コンビニ弁当の米は中食ニーズの1つ
syogo / PIXTA(ピクスタ)
稲作農家の収益性アップに貢献する取り組みとして、JAでは外食産業などへの直接販売を推進しています。 農家が実需者と直接やりとりをすることで、ニーズを正確に把握でき、安定した取引へと結び付きやすくなります。直接交渉から海外への輸出拡大につながった事例もあります。
また、実需者のニーズをよく把握している卸売業者が農家やJAとの仲介役を担い、推奨銘柄の栽培を提案することで安定供給を推進した事例もあります。実需者と農家の双方と取引を行う卸売業者の強みを生かした、合理的な戦略です。
▼中食・外食ニーズへの販売拡大戦略の事例についてより詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
そのほか、直接販売の経路を持つだけでなく、JAや自治体、卸売業者との連携を密にすることでも、実需の変化を素早く捉えることができます。
また、社会情勢も実需の変化に影響します。直近では、インバウンドの急増による外食産業の活性化が期待できます。
大手旅行会社のJTBによれば、2024年の訪日外国人客数は過去最高の3,310万人と予測されています。実際に、JNTO(日本政府観光局)によると、2024年3月の訪日外客数は1ヵ月間の来客数としては過去最高の308万人を記録しています。
出典:JNTO「訪日外客数(2024年3月推計値)」
JTB「2024年(1月~12月)の旅行動向見通し」
インバウンドの急増に対しては、外食業界との直接取引や外食に向いた品種の生産などの施策を講じることができます。このように、実需から生産・販売体制を築くことで、収益を上げることも可能です。
栽培管理システムの導入
2023年産米は、猛暑による不作で供給量が減少した影響もあり、一部地域で需給がひっ迫しました。こうした事態を防ぐためには、データを活用して安定的に収量を向上させるスマート農業技術の導入が効果的です。
例えば、個人農家でも低コストで始められる栽培管理システムに「xarvio®(ザルビオ)フィールドマネージャー」があります。
ザルビオでは、衛星画像を解析することにより、地力や生育のムラなどの状況を定量的に確認できます。また、生育ステージ予測や病害アラート機能を使えば、異常気象の中でも正確に刈取適期や防除適期がわかるため、より安定的な生産体制を構築できるようになります。
▼ザルビオの活用事例については、以下の記事も参考にしてください。
2021年10月27日「死ぬほどうまいぜ。DEATH丼誕生記念発表会」
JA全農では、米の消費拡大に向けイベントやキャンペーンを実施し、さらにそれを飲食店メニューに展開するなど業務用の販路開拓を行っている。
出典:株式会社PR TIMES(全国農業協同組合連合会 ニュースリリース 2021年10月28日)
米の価格は回復しているものの、物価高騰による生産コストも上昇や気候変動による異常気象など、米価以外にも経営のリスクは数多くあります。
このような状況下で稲作農家が安定した収益を上げるためには、的確な情報収集にもとづく生産計画が必要です。需給に応じた品種選びと、状況に合わせた栽培管理をすることにより、収益の向上や安定的な生産が実現します。
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中原尚樹
4年生大学を卒業後、農業関係の団体職員として11年勤務。主に施設栽培を担当し、果菜類や葉菜類、花き類など、農作物全般に携わった経験を持つ。2016年からは実家の不動産経営を引き継ぐ傍ら、webライターとして活動中。実務経験を活かして不動産に関する記事を中心に執筆。また、ファイナンシャルプランナー(AFP)の資格も所持しており、税金やライフスタイルといったジャンルの記事も得意にしている。