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少量生産は不利じゃない!小規模農家が高品質米で実現する稼ぐ農業

少量生産は不利じゃない!小規模農家が高品質米で実現する稼ぐ農業
出典 : minorasu編集部撮影

栃木県那須烏山市で3haの大森農園を一人で管理する大森さんは、小規模農家が収益を増やすためには「実績による差別化」がポイントだと考えています。実際、データを活用した緻密な施肥設計で高品質な米を栽培し、米の品質・価値を示す食味スコアを上げることに成功しています。

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大森 悦郎(おおもり えつお)さんプロフィール

コンバインと大森悦郎さん

コンバインと大森悦郎さん
撮影:minorasu編集部

栃木県那須烏山市で「大森農園」を営む。

銀行員として働くかたわら、両親の他界を機に1996年から兼業農家となる。銀行で培った金融の知識を活かして農業でも投資や税金対策を行い、最適なほ場の面積をシミュレーションした結果、3haのほ場での水稲栽培にたどり着く。

その後、2012年に銀行を早期退職して専業農家となり、本格的に「稼ぐ農業」を実践。小規模ながら、自然豊かな土地を活かして高品質な米を栽培し、利益の最大化を図っている。

おいしさは実績で証明。データや産地の特徴を活かして食味スコアを高める方法

大森さんは、銀行員としての金融知識を活かし、緻密にシミュレーションして「稼ぐ農業」を実践しています。3haというサイズも、税金対策や投資の効果が最大限になるように計算した結果だそうです。

今回は、どのような考え方で「稼ぐ農業」を実践しているのかを伺いました。

側条施肥と手撒きの可変施肥で生育ムラを解消

━━━専業農家になったのは11年前とのことですが、兼業の期間も合わせると30年近く農業を営んでいますよね。長い間、生産と販売に携わってきたと思いますが、小規模農家が収益を増やすためには何が必要だと考えていますか?

小規模農家が収益を増やすためには、実績による差別化が必要だと考えています

農家の中には、「自分の米が一番おいしい」と言いながら、おいしさに根拠がないこともあります。根拠を示すためには実績となる数値が必要だと考えました。

例えば、株式会社サタケが行なってる「米の品質診断 コメドック」では、米の品質・価値に関わるデータを数値化し、おいしさを食味スコアとして表すことができます。そこで、サタケに「米の品質診断 コメドック」を依頼したところ、食味値の評価制度である「コメドックアワード」で金賞(ゴールド)を受賞できました。

コメドックアワード79点の表彰状

コメドックアワード79点の表彰状
撮影:minorasu編集部

━━━初めからコメドックアワードで金賞(ゴールド)を受賞できたのですね。その実績を差別化ポイントとして売りにしたのでしょうか。

金賞(ゴールド)を実績とできればよかったのですが、食味スコア79点は全国レベルではそこまで高い数値ではないと思いました。なので、コメドックアワードの実績で差別化するには、さらに食味スコアを上げなければなりませんでした。

食味スコアを上げる方法を色々と考えた結果、肥料散布にバラツキがあることが大きな課題だと気がつきました。実際、手でも、散布機でも、ブロードキャスターでも、どの撒き方でも偏りがあります。

そして、散布のバラツキを減らすためには側条施肥が有効だと考えました。同時に、地力を考慮して施肥設計すれば、ほ場全体で作物の生育を均一にできると考え、可変施肥の導入も検討しました

側条施肥ができる田植機は小規模事業者持続化補助金を活用して購入し、可変施肥のために栽培管理システム「ザルビオ」を導入しました。

それぞれの結果を見える化するために、今年(2023年)は3パターンに分けて栽培しました。

大森さんが実践した施肥のパターンと食味スコア

施肥のパターン食味スコア
従来通りの施肥79点
側条施肥のみ83点
側条施肥+可変施肥89点

パターン別の食味スコアは、従来通りに施肥した米は79点、側条施肥を行った米は83点でした。側条施肥により4点上がっています。そして、側条施肥に加えて可変施肥も導入することで、食味スコアは89点になりました。

可変施肥により生育ムラを抑えられたことで、点数が上がったのだと思います。

━━━側条施肥で食味スコアを4点上げることができて、可変施肥でさらに6点も上げることができたのですね。可変施肥は農機を使わず手撒きで調節したと伺いましたが、具体的にはどのように計算・実施しているのでしょうか。

今年(2023年)は3枚のほ場しか手撒きの可変施肥をしなかったので、手計算で済ませました。

ザルビオの地力マップでは、ほ場内の地力に応じて5つのゾーンに分けられます。

ザルビオの地力マップ画面。ほ場内の地力が細かく見える

ザルビオの地力マップ画面。ほ場内の地力が細かく見える
画像提供:大森農園 大森悦郎さん

まずは地力の1番高いゾーン(ゾーン1)に合わせてベースとなる施肥量を決めます。次に、ゾーン2~5の施肥量は、ゾーン1の面積との差分をもとにベースの施肥量プラス何キロっていう風に計算します。

側条施肥では最も地力が高いゾーンに合わせた量で均一に撒くようにして、それ以外のゾーンには足りない分を手撒きで補います。

可変施肥は、タブレットを持ってほ場に入り、地力マップを見ながら肥料を手で撒きました。

地力が低い場所は施肥量を多く、高い場所は少なく施肥することで、生育ムラが解消されて食味アップにつながったんです。

━━━地力マップを見れば、地力に応じた施肥量が計算できるのですね。この方法なら、可変施肥に対応した農機がなくても可変施肥ができますね。

可変施肥の機能が付いたブロードキャスターは非常に高価でなかなか手が出ませんが、この方法なら安く済みますね。

大森さんは、小規模農家の勝ち筋は実績による差別化だと考えて、食味スコアに着目しました。そして、食味スコアの向上をめざす中で、側条施肥と可変施肥がポイントであることに気がつきました。側条施肥田植機とザルビオの導入で施肥設計を見直した結果、食味スコアが大きく向上し、狙い通りの成果を上げることができたようです。

地力ムラが見える!可変施肥で食味UPザルビオの使い方を詳しく見る

自然の循環を最大限に生かして地力を上げる

晴天のもとで青々と育つ田んぼの水稲

晴天のもとで青々と育つ田んぼの水稲
画像提供:大森農園 大森悦郎さん

━━━側条施肥や可変施肥で食味スコアの向上が見られたとのことですが、そのほかにも食味スコアを上げるために実践していることはありますか?

食味スコアを上げるためには、肥料をたくさん撒かないことと、多収を目指さないことが基本だと考えています。

あとは、やはり生育ムラをなくすことが重要ですね。生育の悪い部分が食味の平均を下げてしまうので、生育のバラツキを抑える必要があります。

もともと地力に差があるのに、外から持ってきた肥料をバラツキのある撒き方にすると、生育ムラがさらに大きくなる可能性があります。生育ムラをなくすためには、やはり可変施肥は欠かせませんね。

ただし、水稲が吸収する窒素のうち約半分は、用水や地力によって賄われると言われています。つまり、施肥をしなくても、ある程度の収量は確保できるってことです。反対に、地力が低いと肥料だけでは補いきれないので、土づくりで地力を上げることも重要です。

━━━可変施肥はあくまで地力を補うものだと考えているのですね。では、大森さんが地力を上げるために実践していることはありますか?

ほ場に自然の循環を取り込んでいます。私のほ場は沢にあるのですが、秋になると木の葉が落ちてくるのです。

なので、細かく切った落ち葉をほ場にすき込んでいます。落ち葉を発酵させたほうが肥料としての効果は高そうですが、そのまま撒くだけでも効果はあります。

同じ土地にある落ち葉を肥料として使うことで、自然の循環が生まれ、地力が向上すると考えています。可変施肥だけに頼らず、地力を上げることも大切です。

大森さんは、施肥設計の見直しだけでなく、地力を高める工夫もされています。側条施肥や可変施肥だけでも食味スコアや収量は向上しますが、地力を底上げすれば、さらなる収量アップが期待できます。地力の向上には、落ち葉のすき込みなど、土地の資源を有効に活用できることを教えていただきました。

差別化できる実績を伝える。少量生産の良食味米の販売戦略

大森農園 少量生産・良食味米の訴求文言

大森農園 少量生産・良食味米の訴求文言
撮影:minorasu編集部

さまざまな施策を打って食味スコアの向上を試みる大森さんは、少量生産を武器にした販売戦略で付加価値を創出しています。

━━━小規模農家は収量に弱点がありますよね。これを補うためにはどのような戦略が有効だと考えていますか?

少量生産は不利だと思われがちですが、決してそうではありません。少量生産は、伝え方次第では良食味米の強みになります。

私は「今だけ、ここだけ、あなただけ」の3つで売っています。これらは、少量生産だからこそできる訴求なのです。

━━━弱点だと思われがちな少量生産ですが、「少量生産だからこそできる付加価値」を見出しているということですね。具体的にはどのようにアピールしているのでしょうか。

「恵比寿マルシェで大人気」「プチ贅沢」「おいしいは幸せ」のような「高級感」や「貴重さ」を訴求する文言で人目を引いています。これはスーパーなどで安く販売されて大量生産される米ではなく、少量生産だからこそ生まれる付加価値だと思います。

さらに食味スコアの高さやコメドックアワードで金賞(ゴールド)を受賞している実績をオリジナルパッケージに記載してアピールすることで、おいしい米であることを知ってもらいます。

出典:栃木県 那須烏山市「兎沢のお米 」

大森農園のブランド「兎沢のお米」。里山のきれいな自然水を豊富に使用した食味評価が高いお米
出典:栃木県 那須烏山市「兎沢のお米 」
写真提供:株式会社トラストバンク

こうして少量生産である良食味米の価値をしっかり訴求することで、いつもは1kg当たり300~400円で売るところを、金賞を受賞した米は、その2倍の価格となる1kg当たり800円で売り切ることもあります。

━━━米の品質を高めるだけでなく、おいしさの実績や少量生産の付加価値を消費者に伝える技術も必要ということですね。そのほかの販路、例えばネットマルシェなどは考えていますか?

ネットマルシェは来年(2024年)から挑戦しようと思っています。

ただし、ネットマルシェで販路は広がりますが、全国の農家さんと争うことになるので、ライバルの数は増えます。ライバルの数が増えると差別化が難しくなるので、ライバルが多すぎない販路を選択するのも1つの手だと思います。

少量生産は決して不利にはならない。大切なことは「伝え方」だといいます。自分の米を買ってくれる消費者にはどんな訴求が響くのでしょうか。もちろん、実績があれば有利ですが、伝え方を見直すだけでも米の価値は高まるのかもしれません。

需要を捉える。安定取引につながる品種選定

大森悦郎さんとコンバイン

大森悦郎さんとコンバイン
撮影:minorasu編集部

大森さんは、弱点だと思われがちな少量生産を武器に、米の単価を上げています。しかし、単価に囚われすぎないことも重要だと考えているようです。

━━━競合が多すぎない販路の選択が重要だと伺いましたが、販路によっては栽培する品種を変えたほうがよい場合もありますよね。大森さんは、販路や需要に応じた品種選定は行っていますか?

はい、来年(2024年)も品種を変更する予定があります。3年前から1.7haのほ場で飼料用米を栽培していたのですが、業務用米の需要が回復してきたので、来年からは業務用米に切り替えようと考えています。

具体的には「とちぎの星」という品種の栽培を考えています。とちぎの星は飲食店から人気があり、需要が高い品種だと聞いています。販売単価はそこまで高くないそうですが、倒伏や病害に強く、高い収量が見込めるため期待しています。

━━━3haのうち、1.7haでは飼料用米を栽培していたのですね。食味スコアを重視した高単価な主食用米をメインで栽培していると思っていました。

もちろん単価も見ますが、安定した取引のために需要も見て品種を選定しています。3年前は主食用米の需要が低かったので、飼料用米の栽培を始めました。

米の用途によって補助金が支給されることもあるので、販売単価だけを見るのではなく、総合的な金額を見て選定することが大切ですね。

あと、残りの1.3haではコシヒカリとミルキークイーンを栽培しています。コシヒカリは全国的に人気があり、ミルキークイーンは一定数のファンがいるので、消費者の好みをよく観察することも重要ですね。

安定的に収益を確保するには、単価を上げる工夫だけでなく、需要に応じた品種の選定や補助金を活用する方法もあるようです。自分の米を買ってくれる消費者はどのような米を求めているのか、品種や用途による需要はどのように変化しているのか、国はどのような政策を打ち出しているのか、目前の現状、そして、市場の変化を捉えることが大切です。

さらなる品質の追求。そして、販路開拓に向けて

2023年に導入した側条施肥とザルビオを活用した可変施肥により、食味スコアを向上できた大森さん。2023年の結果を踏まえ、今後はどのような展望を抱いているのかを伺いました。

━━━今年(2023年)はさまざまな挑戦をされたと思います。今後の展望について考えていることがあれば教えてください。

来年は可変施肥の範囲を広げていこうと思っています。可変施肥を行うことで生育ムラが減り、米の食味スコアが上がるとわかったので、来年はさらに高品質な米を増やしたいです。

また、ザルビオの生育ステージ予測を活用していく予定です。

生育ステージ予測は、地域・品種・天気など、さまざまな情報をAIが解析して、高い精度で生育ステージが予測されるので、作業適期の判断などに活用できます。

私の地域は共同ラジコンを使って農薬を散布するので、防除の時期があらかじめ決まっています。そのため、今年(2023年)は適期に防除ができず、カメムシの被害が若干出てしまいました。

しかし、生育ステージ予測の通りに防除すれば、被害は抑えられると考えています。実際、今年(2023年)も防除アラートが出ていました。

また、刈取適期の予測では、黄化率が(刈取適期と言われている)80%から90%になるタイミングをザルビオが教えてくれて、精度の高さを実感しました。なので来年は、生育ステージ予測を信じて自分で防除しようと思っています。

━━━可変施肥する範囲を広げたり、生育ステージ予測で適期を判断したり、品質を高める余地が残っているのですね。来年はさらに食味スコアを上げられそうですね。

はい。ただし、食味スコアに執着するのではなく、小規模農家が収益を増やすためには販路を整備していく必要もあると感じています。どんなに良いものを栽培しても、知ってもらえなければ、ないのと同じ。実は、これが一番難しいのです。

正直、今はまだ販路を十分に開拓できていません。YouTubeチャンネルや商工会のホームページ枠は持っているので、それらを活かして多くの人に私の米のおいしさを知ってもらい、販路を拡大していきたいです。

側条施肥と可変施肥により高品質な米を栽培し、食味スコアという数値でおいしさを証明する大森さん。さらに、少量生産を強みにした訴求で高単価な米の販売に成功しています。

そんな大森さんは、ザルビオの活用による成果を通して「米の品質を高めるにはデジタル化が欠かせない」と考えています。

「デジタル化をすれば、名人の技術が目で見えるようになる。データには、名人の技術も入っているわけですから。実際のところ、名人と呼ばれる人は、肝となる技術や知識は誰にも教えない。でも、デジタル化すればすぐにわかってしまう。」

デジタル化と聞くと、大規模農家をイメージしてしまう人も多いかもしれません。しかし、「収量が確保できない小規模農家こそ、品質を高めるためのデジタル化が必要」なのかもしれません。

デジタル化で米の品質が向上!ザルビオでスマート農業を始める

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宇佐美匠也

宇佐美匠也

高等専門学校を卒業後、国立大学の農学部に編入。化学・農学を専攻し、食の安全について学ぶ。学生時代には、十勝で2年にわたり農場でのアルバイトを経験。農作業の手伝いを通じて農業のリアルを知る。現在はライター・編集者として、主に食や農業分野の記事制作に携わる。AI開発会社やDXコンサルファームのWebメディア制作に携わった経験から、農業DXにも詳しい。

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