【桃の収穫量ランキング】日本一の都道府県は?名産地から学ぶ生産技術

農林水産省の最新データから桃の収穫量の都道府県ランキングを紹介します。収穫量日本一の山梨県をはじめ、全国上位の福島県・新潟県などの事例から生産技術を解説し、新農法として注目されるニードル農法の導入事例もあわせて紹介します。
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桃の収穫量日本一の都道府県は?最新ランキング

はすまん / PIXTA(ピクスタ)
日本の2024年産の桃の収穫量は10万9,700tでした。桃の収穫量の都道府県ランキングのトップ5は以下の通りです。
産地 | 収穫量 | 構成比 | |
---|---|---|---|
1位 | 山梨県 | 3万1,500t | 29% |
2位 | 福島県 | 2万9,100t | 27% |
3位 | 長野県 | 1万1,400t | 10% |
4位 | 山形県 | 1万300t | 9% |
5位 | 和歌山県 | 5,730t | 5% |
その他 | 2万1,700t | 20% | |
全国 | 10万9,700t | 100% |
出典:農林水産省「令和6年産もも、すももの結果樹面積、収穫量及び出荷量」よりminorasu編集部作成
上位5県で全国の桃の収穫量の約8割を占めています。中でも1位の山梨県と2位の福島県は群を抜いて収穫量が多く、この2県だけで全国の5割以上を占めます。
なお、6位以下には、多い順に岡山県、青森県、新潟県、岐阜県、香川県と続いており、比較的冷涼な地域から温暖な地域まで栽培されていることがわかります。
桃の収穫量上位3県の気候条件と栽培品種
果物王国として名高い山梨県は、昼夜の気温差が大きく年間の降水量が少ない内陸性気候で、年間の日照時間が全国一長いため、果樹の栽培に適しています。
昼間に太陽の光をたくさん浴び、夜に気温が下がることで果実の甘みが増します。また降水量が少ないため病害が発生しにくい環境であるといえるでしょう。
各産地で栽培されている主な品種と、土壌条件による品種の選び方
上位3県で栽培されている主な品種を見ると、山梨県では7月上旬から「夢しずく」「白凰」「浅間白桃」、8月上旬から「川中島白桃」など多品種を扱います。福島県では「あかつき」、長野県では「川中島白桃」が全国的に有名です。
桃の栽培に適した土壌は、河川近くの平地に分布している砂地や、水田転換地、褐色森林土や赤色土に覆われた山地などといわれています。ただし、排水をよくする必要があるため、水田転換地の場合は農園内に深さ30~40cmの明渠(注)や暗渠(注)を設置する必要があります。
(注)明渠(めいきょ):ほ場の周囲に沿って掘る排水溝
(注)暗渠(あんきょ):ほ場内に透水管を布設し、余剰水を排出する
土壌の性質別に適した品種をみると、排水良好な砂質壌土に向く品種は「日川白凰」や「白凰」、排水良好な砂質・砂壌土では「清水白桃」、排水良好で50cm以上の深い土層の砂壌土では「川中島白桃」とするデータもあります。
出典:和歌山県農林水産総合技術センター農業試験場「高糖度モモ生産マニュアル」
桃の名産地に学ぶ生産技術
桃の収穫量が最も多い山梨県では、各果樹園での収量を増やすためにさまざまな工夫をしています。
収穫量1位の山梨県で行われている「桃の矮化栽培」

やたがらす / PIXTA(ピクスタ)
山梨県では、桃の樹高をあまり高くせず、横に枝を張るように仕立てる「矮化栽培(わいかさいばい)」を行っています。矮化栽培は、主にりんごに用いられる栽培手法ですが、桃や栗、柑橘類などの果樹にも応用されています。
矮化栽培では、樹高だけでなく樹形全体をコンパクトに仕立てることから、植栽密度を高めることができます。
普通の植栽密度が10a当たり多くても30本であるのに対して、矮化栽培では植栽密度を70~100本まで高められ、その分、収量が向上します。
樹高を低く仕立てるため、剪定から、摘蕾・受粉・摘果、袋かけ、収穫まで、一連の作業の省力化・効率化につながります。
また、風通しや樹冠内部の日当たりがよくなることから果実の品質向上も期待できます。
矮化栽培とその関連技術については、各地の農業試験場や大学で研究・技術開発が行われ、成果が報告されています。
植栽密度、早期成園化(注)のための技術、ジョイント仕立て(注)や平棚などの新しい仕立て方など、産地に特化した研究成果が多数あるので、参考にするとよいでしょう。
(注)成園化:園内の果樹が「経済樹齢」に達する前の園地を未成園、以後を成園と区分する。「経済樹齢」とは、その年に投入した肥料・農薬などの投下資本を収入が上回るようになった樹齢から、老木化して収入が投下資本を下回るようになるまでの期間。
(注)ジョイント仕立て:神奈川県農業技術センターが、梨を対象に開発した「樹と樹をつなげる(専用苗を育苗し、定植時に先端を隣の樹に接ぎ木してつなげる)」ことで、早期成園化を実現する技術。桃、りんご、梅などほかの果樹にも応用されるようになっている。
定植1年目からの収穫をめざす「ポット大苗育苗」

muhi / PIXTA(ピクスタ)
ポット大苗育苗は、江戸時代からの桃の産地でありながら近年収穫量が低下している新潟県が、桃の生産振興を図るために開発した技術です。
芽接ぎ苗や購入苗を不織布ポットに植え付け、2週間ごとの誘引と副梢の摘心をしながら管理し、秋に2mほどの大苗にします。それを植栽距離5列×2mで植え付け、主幹形(注)で栽培します。
(注)主幹形:主幹は直立して樹冠まで通し、下段の側枝を太くして、主幹と多数の側枝で全体をピラミッド型に仕立てる樹形のこと。
この方法を実践したことにより、慣行栽培より早期に成園化するという試験結果が、新潟県農業総合研究所園芸研究センターにより報告されています。
同センターが2013~2015年に品種「あかつき」で実施した試験では、10a当たりの収量が、慣行栽培では定植2年目までほぼゼロなのに対し、ポット大苗育苗では、定植1年目は10a当たり0.3t、2年目で1.5t程度という結果でした。
出典:新潟県農業総合研究所園芸研究センター「もものポット大苗を利用した定植1年目から収穫できるシンプル栽培技術」
桃の収穫量に影響する連作障害対策

taka / PIXTA(ピクスタ)
桃は経済樹齢が15~20年ほどと他の果樹に比較すると短く、植え替えが必要な果樹です。一方で、一度桃を栽培した園地に再び桃を栽培すると、連作障害で収量が著しく低下してしまいます。
連作障害の最大の対策は、野菜類などと同様、休栽期間を数年設けることです。そのため桃の農家は、常に新しい園地を求めて移動することになります。しかし、それにも限界があるため、休栽期間を十分とっていない園地での改植が必要になります。
休栽期間を十分とっていない改植園地(注)でも新植園地(注)と同等の収量を確保するための対策を解説します。
(注)改植:老朽樹を除き、苗木または幼木に植え替えること。一般には、異なる果樹への改植も含むが、この記事では、桃から桃への改植を指している。
(注)新植:新たに園地を整備して苗木または幼木を植え付けること。
改植時の連作障害対策
桃の園地の中には、繰り返し改植しても連作障害を起こさず、新植園地と同等の生育をする園地も見られます。
そのような園地では、排水性・透水性がよい土壌であるという条件の下、改植の際に以下の対策がとられています。
<条件>
・砂質土壌で排水・透水性がよく、耕土の深い砂壌土や砂礫土であること
<対策>
・大きく植穴を掘り、天地返しをしながら残根の除去を丁寧に行い、深耕する
・完熟堆肥を多量に施用する
・苗木ではなく、3年生の幼木を用いる
改植園地での収量確保
改植園地で、連作障害の影響を回避しながら収量を安定して確保していくには、成木樹の老朽化を遅らせることが重要です。
樹勢が徐々に衰えてくる樹齢になってから、老化した根を回復することは困難なので、老朽化防止対策は、若木時代から定期的に行うことが推奨されます。
・完熟堆肥の深耕施用によって、細根の発生を促す
主幹より2m程度離れた場所に、深さ40~50cmのタコツボをつくり、10a当たり2tを目安に堆肥を入れ、深耕します。
タコツボを掘る際は、断根を極力少なくするよう注意します。小型バックホーに深耕機能ロータリーを装着するなどの方法がよいでしょう。
・稲わらやもみがらはマルチに利用せず、堆肥化して施用する
乾燥防止・雑草の抑制・有機物の施用を目的に、樹下のマルチングに稲わらやもみがらを用いている園地も多いでしょう。
稲わらマルチの園地では、細根の発生が地表近くに集中し、また、春先の地温上昇が抑制されるという試験結果が報告されています。
また、堆肥化前のもみがらが土壌によく混和されていない状態では、もみがらの層ができ、その周囲の細根発生が抑制されます。
稲わらやもみがらの有効利用には、マルチングではなく、堆肥化して前述の堆肥の深耕施用に用いましょう。
出典:東北農業試験研究協議会 論文集 東北農業研究 第36号「モモの連作障害対策技術体系」(福島果樹試験場)
樹勢を回復する「ニードル農法」の導入事例

MOKA / PIXTA(ピクスタ)
ニードル農法という独特の技術を導入することで品質向上を実現し、ブランド化に成功したのが、和歌山県紀の川市の「株式会社八旗農園(はっきのうえん)」です。
ニードル農法とは、人間の体に打つ鍼(はり)のように、植物を活性化させるツボに微弱な電気刺激を与える新しい技術で、「日本振興株式会社」が特許を取得しています。
もちろん、刺すのは鍼ではなく、半導体付きのピンやねじを植物の幹や茎に差し込み、太陽光発電を利用して超微弱な電気を流し込みます。
ニードル農法は、山梨県のブドウや石川県の梨、沖縄のマンゴーなどの果樹の生育で実績を上げています。果樹以外にも、松枯れの抑制にも効果があるそうです。
八旗農園では、全国に先駆け、桃栽培での実証実験に協力してきました。そして、ニードル農法で栽培した桃の果実について、糖度アップ、果実重量増加、着色改善が認められることを確認し、本格導入しています。
その結果、秀品率が向上し、その中でも厳しい選果基準をクリアした高品質な桃を「満点桃」と名付けブランド化することができました。
対象の品種は白鳳・清水白桃・川中島白桃の3種で、食味・大きさ・見た目について、同社のプロの選果師と光センサーによる選果を行い、全体の5%程度が「満点桃」として認定されているそうです。
2019年に売り出したところ、さっそく紀の川市のふるさと納税の返礼品に採用されたり、高級スーパーやデパートで扱われるなど、市場から高い評価を受けています。
八旗農園のホームページはこちら
日本の高品質の桃は、海外でも高い評価を得ており、輸出果実としても期待されています。
各産地では、大学や農業試験場などによって、矮化栽培の導入、仕立て方、植栽密度などの研究が盛んに行われています。また、ニードル農法を桃栽培に導入して成功している農園もあります。
新技術について改めてリサーチし、さらなる省力化・高収益化を検討してみてはいかがでしょうか。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。