桃の摘蕾・摘花方法は? 結実確保のための実施時期と作業手順

桃の摘蕾・摘花は、果実の品質を左右する生育初期に欠かせない作業です。本記事では、摘蕾・摘花を行う目的や実施時期、作業のポイントを解説します。また、摘蕾・摘花を省略するリスクや凍霜害への具体的な対処法についても紹介します。
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摘蕾・摘花とは? 桃栽培における作業の目的

果樹園での摘蕾・摘花作業
masy / PIXTA(ピクスタ)
摘蕾とは開花前に余分な蕾を取り除く作業のことをいい、摘花は開花後に不要な花を取り除く作業のことをいいます。桃は花芽の数が多く生育期間が短いため、摘蕾・摘花を適切に行うことが収量と品質に大きく関わってきます。
桃の樹は開花や結実に必要な養分を、前年の収穫後から冬の休眠期にかけて蓄積します。摘蕾・摘花を行わずに多くの花が咲くと、蓄積された養分が多数の果実に分配されるため、小玉で食味の優れない実になってしまうのです。
着果管理は摘蕾・摘花だけではなく、その後の摘果も含めて段階的に行われます。まずは、適切な摘蕾・摘花によって、養分の浪費を防ぐことが大切です。これにより、新梢の初期生育や果実肥大が促進され、果実の品質・収量の向上につながります。
やらないとどうなる? 摘蕾・摘花を省略するリスク
桃の摘蕾・摘花を省略した場合、1本の樹に必要以上の果実が実ってしまいます。その結果、次のようなさまざまな問題が発生します。
果実品質の低下
果実が多すぎると1つひとつの実に十分な栄養が行き渡らず、糖度が低下したり果実サイズが小さくなったりする可能性があります。
樹体への影響
1本の枝に対して果実が過剰に付くと、その重みで枝が折れたり、樹勢が著しく低下したりします。これは翌年以降の収量にも影響します。
病害虫のリスク増加
果実が密集すると風通しや日当たりが悪くなり、病害虫の発生リスクが高まります。摘蕾・摘花により、適度な間隔を確保することで、こうしたリスクの軽減が可能です。
作業負担の増加
初期の摘蕾・摘花を省略した場合、その後の摘果作業の負担が増加します。また、一度に多くの果実を落とすことは、樹の生理障害を引き起こす原因にもなります。
摘蕾・摘花の実施時期と判断基準

東北の山親父 / PIXTA(ピクスタ)
桃の摘蕾・摘花を実施する時期は、地域やその年の気候によって前後しますが、基本的には以下のような判断基準に沿って行います。
摘蕾の判断基準:開花期直前の3月頃
摘花の判断基準:開花期から落花期にかけての4月頃
花芽が膨らみ、頂端に赤みが見え始める3月頃が摘蕾時期の目安です。この時期の蕾は摘み取りやすく、作業性に優れてます。摘花は、摘蕾が終わらなかった場合や摘蕾での見落としがあった場合に、補助的な作業として行ってください。
出典:福島県伊達市「一桃一会|農家の12ヶ月」
品種や樹勢に応じた摘蕾・摘花量の考え方

yasu / PIXTA(ピクスタ)
桃の適切な摘蕾・摘花量は、品種や樹勢によって異なります。
例えば「あかつき」などの花粉があり、結実が安定している品種では、花芽の70%前後を除去するのが一般的です。
一方で「日川白鳳」「奥あかつき」「ゆうぞら」などの結実が不安定な品種は、花芽の50~60%を目安に摘蕾してください。
「川中島白桃」や「はつひめ」などの花粉がない品種は、人工授粉を前提に摘蕾量は50%程度に抑えます。
さらに、樹勢の弱い樹では、標準よりも強めに摘蕾することで、樹勢の回復を図ります。
摘蕾程度の判断目安
摘蕾程度 | 強くする (蕾を減らす) | 弱くする (蕾を残す) |
---|---|---|
樹齢 | 老木 | 若木 |
樹勢 | 弱い | 強い |
剪定程度 | 弱い | 強い |
核割れ、変形果 生理落果発生程度 | 少ない | 多い |
施肥量 | 少ない | 多い |
凍霜害の危険性 | 低い | 高い |
出典:都留市「果樹栽培マニュアル」所収「都留市果樹栽培研究会モモ栽培マニュアル」
摘花は摘蕾の補助的な作業として、摘蕾に準ずる基準で行ってください。樹勢の強い樹では標準よりも多めに摘花を行い、樹勢が弱い樹は標準よりも少なめに摘花を行うのがポイントです。
出典:
JAふくしま未来「令和6年(2024年)度 栽培・防除情報(伊達地区)」所収「モモ摘らい指導会資料」
「令和4年(2022年)4月 モモの摘花と結実確保」
早期調節が、着果管理作業の省力化につながる!
山梨県果樹試験場の研究では、早期着果調節による作業時間の削減が確認されています。摘蕾・摘花の際、最終着果量の2〜3倍に着果調節を行った結果、従来の着果調節方法と比べて総作業時間を約50%削減できました。
これは、早期に着果数を調整することで、後の摘果作業が大幅に軽減されたためです。
また、早期に着果数を調整することで、果実への養分供給が集中して果実が大きく育ちます。その結果、試験で早期着果調節を行った4品種(ちよひめ・暁星・日川白鳳・白鳳)すべてで、果実重量の増加が確認されました。
このように早期着果調節は、作業の省力化と大玉生産の両面で有効な技術といえます。
出典: 山梨県果樹試験場ホームページ 「平成23年(2011年)度研究成果情報」所収「モモの早期着果調節と短果枝削減による省力化」
【手順解説】摘蕾・摘花作業の実施方法

masy / PIXTA(ピクスタ)
ここでは、桃の摘蕾・摘花の具体的な方法や作業のポイント、花芽・葉芽の見分け方などを解説します。
1. やり方と作業のポイント
摘蕾を行う際は、薄手の作業手袋をはめて、蕾を優しくこするようにして落とします。
長果枝・中果枝は、片手で枝の先端をつまみ、もう一方の手の指で枝を基部方向へ軽くこすって、花芽をしごき落としてください。短果枝の場合は、先端の蕾を残して、指先で枝全体をもむようにして落とします。
摘蕾作業のポイントは以下のとおりです。
上から順に摘蕾・摘花する
上から順に作業することで、蕾が服や身体に接触して余分に落としてしまうリスクを減らせます。
前作の果柄部は切っておく
前作の果柄部が残っていると、果実に接触して傷つけてしまうことがあるため、剪定ばさみで切除します。
葉芽を傷つけない
摘蕾作業では、花芽を摘む際に誤って葉芽を傷つけないように注意しながら作業します。
摘蕾と同時に穿孔(せんこう)細菌病の防除を行う
摘蕾中に先端が黒く枯れている枝を見つけた場合、穿孔細菌病に感染している可能性があります。こうした枝は切除し、園外で適切に処分することで感染拡大を防止できます。
また、高圧動力噴霧器による水圧を利用した摘雷方法もあります。しかし、この方法は手作業による摘蕾作業と比較して、着果量や着果位置にばらつきが生じやすく、葉芽の損傷や果面障害が発生するリスクが高まります。そのため、広く普及するまでには至っていません。
水圧による摘蕾の導入を検討する際は、これらの課題を十分に理解した上で判断することが重要です。
出典:
山梨県果樹試験場ホームページ「栽培技術資料 モモ、スモモ、オウトウの栽培管理」所収「モモの摘蕾・摘花作業のポイント」
愛知県「あいち病害虫情報 資料集」所収「令和2年(2020年)1月 モモせん孔細菌病に対する豊橋式春型枝病斑早期切除技術」
2. 蕾・花芽の選別基準と残す位置
品質のよい果実を栽培するためには、取り除く蕾・花芽の選別と、蕾・花芽を残す位置が重要になります。結果枝の基部や先端、葉芽のない部分に着生した蕾は、うまく育たないことが多いため、摘み取ることが推奨されています。
また、同じ箇所に2〜3個の蕾がある場合は、養分の流れを集中させるため、最も大きく生育のよい蕾を1つ選び、ほかの蕾・花芽は摘み取ってください。
摘雷では、上向きの蕾を取り除き、下向きの蕾を残すことが重要です。上向きの蕾を残すと、果実が上向きに育ってしまうため、袋かけ作業の効率が低下します。また、果実が葉や枝と接触しやすくなり、病害虫の発生リスクが高まる可能性があります。
選別の際は、蕾のサイズを揃えることもポイントの1つです。同じ品種、同じ樹であっても、蕾の生育速度には個体差があります。サイズのそろった蕾を残すことで生育が均一になり、収穫時期を集約でき、作業効率の向上が期待できます。
長果枝
長果枝(30〜50cm)では、結果枝の基部や葉芽のない部分の蕾・花芽を摘み取ることが推奨されます。枝の中心部にある下向きの花芽を6〜7個ほど残します。
中果枝
中果枝(20〜30cm)では、長果枝と同様に先端部と基部の蕾・花芽を取り除きます。枝の中心部にある下向きの花芽を3〜4個ほど残します。
短果枝
短果枝(15cm前後)では、先端付近に下向きの花芽2〜3個を残します。
出典:山梨県果樹試験場ホームページ「栽培技術資料 モモ、スモモ、オウトウの栽培管理」所収「モモの摘蕾・摘花作業のポイント」
【参考】 花芽と葉芽の見分け方
開花期が近づくと、桃の花芽は丸みを帯びてきます。一方で、葉芽は細長く先端が尖っているため、形状の違いによって花芽と葉芽を見分けることが可能です。
しかし、開花期前の花芽と葉芽は、どちらも小さいため見分けるのが難しいこともあります。葉芽を誤って摘んでしまうと、果実への栄養供給が不足したり樹勢が弱まったりする原因となるため注意してください。
結実確保へ向けた、凍霜害・遅霜対策も徹底を

orca/ PIXTA(ピクスタ)
桃の栽培では、初冬から早春に発生する霜や摘蕾後の4月頃に発生する遅霜によって「受粉・結実できない」「樹の成長が阻害される」などの凍霜害が発生することがあります。
ここからは、凍霜害の対策方法と遅霜が発生した場合の対処法についてお伝えします。
まずは地温と土壌水分・空中湿度の確保が重要
凍霜害を防ぐためには、地温と土壌水分・空中湿度の確保が重要です。基本的な対策としては、下草の刈り込みや灌水の実施が挙げられます。
園地の下草が伸びていると、日中の地温上昇と夜間の土壌からの放熱を妨げ、園内の冷却が進み、霜の発生リスクが高まります。そのため、下草を低く刈り込むことは、霜対策に有効な方法といえます。
土壌が乾燥している場合も、気温が下がりやすく霜発生の要因になります。乾燥が続くようであれば日中に灌水を実施して、土壌中の水分を保持してください。
さらなる凍霜害対策としては、燃焼法が挙げられます。燃焼法とは、灯油や市販の固形燃料を使用して火を起こし、園地の温度を上昇させて霜を防ぐ方法です。
燃焼法を行う際は、園地の周囲や冷気がたまりやすい低地から点火します。園内の温度を均一に保つために、初めは全体の半分程度に点火し、気温を確認しながら残りの燃料への点火を調整します。特に気温が最も下がる日の出直前は、火力の維持が欠かせません。
燃焼法の実施時は、防火対策を徹底し、風向きや周辺環境に十分注意を払って行ってください。
出典:福島県農林水産部農業振興課「農業技術情報」所収「令和4年(2022年)度の防霜対策(果樹)」
凍霜害の発生時には、摘果や人工授粉で事後対策
凍霜害に遭ってしまった場合は、まずは被害状況の確認・観察から始めます。被害の程度により、その後の管理方法が大きく異なるためです。
開花期に凍霜害が発生した際は、着果・結実を確保するため人工授粉を徹底します。人工授粉を行う際は、開花状況をよく観察し、凍霜害の影響が少ない花を選んで実施します。
摘果は、被害状況に応じた判断が求められます。被害が深刻な場合は、摘果量を抑えて着果数の確保を優先してください。落花期以降の凍霜害では、被害状況が明らかになるまで摘花作業を延期し、結実が明らかになった品種や被害の軽い樹から順次作業を再開します。
出典:
JAふくしま未来「令和6年(2024年)度 栽培・防除情報(伊達地区)」 所収「モモの摘花と結実確保」
福島県農林水産部農業振興課「農業技術情報」所収「令和4年(2022年)度の防霜対策(果樹)」
桃の摘蕾・摘花は、収量・品質の向上に直結する重要な管理作業です。品種や栽培環境に応じて、適切なタイミングで行うことが鍵となります。また、凍霜害への対策方法や被害に遭った場合の対処法を押さえておくことも、収量減のリスク対策として重要です。
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相馬はじめ
農業×SEOに特化した専業Webライター。農業法人に正社員として8年間勤めた経歴を持つ。これまでに携わった作物は「キャベツ・白菜・レタス・長ネギ・馬鈴薯・米・麦・そば」。得意な執筆ジャンルは農業・音楽・転職など多岐にわたる。強みはコミュニケーション力の高さと、誰とでも打ち解けられること。minorasuでの執筆以外では、農業初心者に向けたブログ『農業はじめるなら見るブログ』を運営中。https://hajimete-hirogaru.com/