すももの剪定方法は? 時期と手順、品種別の作業ポイント

すももの剪定は、果実の品質や収量、樹勢を左右する重要な管理作業です。本記事では、すももの標準的な仕立て方である「開心自然形」での剪定方法から、近年注目される「樹体ジョイント仕立て栽培」まで、実践的な内容を解説します。
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すももの最適な剪定時期は「冬」

冬のすももの木
ganzosr400 / PIXTA(ピクスタ)
すももの剪定は、樹の休眠期である12〜2月頃に行います。この時期は落葉後で芽吹き前のため、樹形把握が容易で花芽の誤除を防げます。また、剪定箇所からの病原菌侵入リスクが低く、樹体の回復力も高まります。
ただし、地域による適期の違いも考慮が必要です。暖地では11月から12月、寒冷地では3月中旬から下旬が適していますが、寒冷地では遅霜害を避けるため、発芽直前までの剪定は控えめにします。
すももの生育サイクルを見ると、3月中旬に発芽し、3月下旬から4月中旬に開花します。その後、7月中旬に新梢が停止し、8月には翌年の花芽が分化するため、この時期までの管理が重要となります。
【手順解説】 すももの基本の剪定方法

出典:JA埼玉中央「果樹の冬季せん定について」よりminorasu編集部作成
すももの標準的な仕立て方は「開心自然形」です。若木のうちに主枝を2〜3本と決めて、斜め上に枝を伸ばす仕立て方で、樹高を抑えられることから、管理しやすい樹形です。
直立性の強い品種では「変則主幹形」も選択肢の1つです。主幹から4本の主枝を配置し、成木化時期に最上部の主枝分岐点で主幹を切り戻します。
樹冠容積を大きく確保できる利点がありますが、樹高が高くなるため、作業効率との兼ね合いを考慮する必要がある樹形です。
剪定の着手前には、主枝、亜主枝の配置バランス、日光の遮蔽状況、作業動線の確保など、複数の観点から目標の樹形をイメージしておきます。
また、品種によっては枝の発生や伸び方、樹の開張性、花芽の着生が異なる場合もあるので、品種特性を十分理解して作業を進めましょう。
出典:JA埼玉中央「果樹の冬季せん定について」
1. 残すべき枝を見極める
すももは短果枝および花束状短果枝に良品が結実します。これらの果枝は適度な長さで、充実した花芽を多くつけます。光環境と作業性を考慮した配置が重要で、特に樹冠内部の明るさの確保が必須です。
短果枝の管理は生産性向上の鍵となるため、適切な配置と維持管理に注力します。短果枝は定期的な更新が必要で、古くなった短果枝は基部から除去し、新しい短果枝の発生を促します。徒長枝は基本的に不要ですが、樹体保護の観点から必要最小限を残すことがあります。
2. 長果枝を切り返す
長果枝を切り返すときは、先端から3分の1を目安に切り返し、翌年の短果枝形成を促します。切り返し位置は、樹勢や品種特性を考慮して調整します。
結果枝が重なっているときは、枝同士の競合や果実がぶつかるのを防ぐために、切り返さずに間引き剪定を行います。切り返す必要がない真上に伸びた徒長枝や日陰となる内向枝などは、基部から間引きつつ横向きの枝を残すようにしましょう。
3. 切り口からの病原菌の侵入を予防する
剪定の際に切除した枝の切り口が大きい場合は、「トップジンM水和剤」などの切口癒合剤を塗布し、病原菌の侵入を防ぎます。
また、切除した枝は速やかにほ場の外へ搬出します。放置した剪定枝は病害虫の温床となり、特にせん孔細菌病やカイガラムシ類の越冬場所となりやすいためです。
品種別! すもも剪定作業のポイント

赤く熟したすもも
norimoto / PIXTA(ピクスタ)
すももの剪定作業は、扱う品種の特性によって異なります。結実の品質から収量、樹勢などをコントロールするには、品種ごとに適した剪定方法を押さえることが大切です。
大石早生(おおいしわせ)の剪定

甘みが多く酸味が少ない大石早生
Ystudio / PIXTA(ピクスタ)
大石早生は果重が約50~70g、果肉淡黄色の早生種で、甘みが多く酸味が少ない品種です。
この品種は直立的な成長をする特徴があり、成木になると樹高が高くなる傾向にあります。そのため、若木の段階から骨格枝に添え木をして誘引を行い、低樹高になるように計画的な仕立てを進めることが大切です。
花芽の着生は通常程度見られますが、各枝の勢力に合わせて適切な切り返しを実施し、花芽の形成と新しい枝の成長のバランスを保つ必要があります。
また、短果枝が増えすぎると急激な樹勢低下を招く可能性があるため、短果枝の間引きと残す短果枝の先端の刈り込みを定期的に行うことが推奨されます。
特に注意すべき点として、成木の太枝を剪除すると樹勢が弱まり、最悪の場合は枯死することがあるので、大きな傷口を作らないことが重要です。
出典:山梨県所収「すももの整枝剪定について」
ソルダムの剪定

甘みが強く食味に優れたソルダム
Caito / PIXTA(ピクスタ)
ソルダムは果重が約100g、果肉が濃赤色の中生種で、甘みが強く食味に優れた品種です。
この品種は開張性が強い特徴を持っているため、主枝と亜主枝の骨格形成の際には、やや上向きになるように仕立てていく必要があります。
花芽が着生しやすく、枝の先端が下垂しやすい性質があるので、結果枝は強めの切り返しを行うことが重要です。これにより、太枝に近い部分から新しい枝を発生させることができます。
側枝の配置については、間隔をやや狭めに設定し、3~4年を目安に切り返しを行います。このように定期的な更新を心がけることで、樹形の維持と生産性の向上が期待できます。
また、この品種は枝の発生が少なく太枝が日焼けしやすいので、徒長枝を適切に活用して日焼けを防いでください。
出典:山梨県所収「すももの整枝剪定について」
太陽・貴陽(きよう)の剪定

「世界一重いすもも」の記録を持つ貴陽
ファイン / PIXTA(ピクスタ)
太陽は果重が約100~150g、果肉は白色の晩成種です。大石早生、ソルダムに次いで多く作られている代表的なすももの品種です。
一方、貴陽は果重約200~300gの大果種で、種が小さく可食部が多いことが特徴です。すももの中で果実が特に大きく「世界一重いすもも」としてギネス世界記録に認定されたことのある品種です。
これらの品種は直立的に枝が発生し、放置すると樹姿がホウキ状になりやすいため、若木の時期から低樹高を意識して骨格枝を誘引します。
枝の切り返しについては、強弱のバランスが非常に重要です。切り返しが強すぎると発育枝ばかりが生じやすく、逆に弱すぎると先端部まで花芽が着生して枝が下垂しやすくなるので、適度な強さでの切り返しが必要です。
また、いずれも大玉品種であることから、高品質な果実生産を実現するには、勢いのある新梢を確保することが大切です。そのため、やや強めの切り返しを意識的に行うことが推奨されます。
さらに、着色品種としての特性を活かすには、十分な日光が下枝にもよく当たるよう剪定する必要があります。適切な枝の配置により、果実の均一な着色が期待できます。
出典:山梨県所収「すももの整枝剪定について」
早期多収で省力的! 近年注目の「樹体ジョイント仕立て栽培」

たくさん実ったすももの木
マハロ / PIXTA(ピクスタ)
日本のすもも栽培は、担い手不足や高樹齢化による生産性の低下といった課題に直面しています。これらの課題解決に有力な栽培技術として注目されているのが「樹体ジョイント仕立て栽培」です。
この栽培法は神奈川県農業技術センターが開発した「ナシの樹体ジョイント仕立て栽培」をすももに応用したもので、近年では導入するすもも生産地が増加しています。福岡県では2014年から樹体ジョイント仕立て栽培が導入され、県内各地で普及が進んでいます。
すももジョイント栽培の概要
すももの樹体ジョイント仕立て栽培は、隣接する木の主枝を接ぎ木でつなぎ、1本の長い主枝を作る仕立て方です。その工程は以下のようになります。
まず、1年生苗木を白黒ポリマルチを被覆した育苗ほ場に30cm間隔で植え付けます。次に、苗木の段階で地上部を1〜1.2mで切り返し、先端1芽を伸ばして残りは摘心し、全長3.3m以上の2年生苗木を育成します。
本圃には2年生苗木を株間1.5mで定植後、主枝を棚下20~30cmで水平に誘引し、隣接する木の主枝と接ぎ木してジョイントします。最後に、ジョイントした主枝から側枝を発生させ、果実を収穫します。
この方法の導入を検討していた群馬県農業技術センターによると、この方法により樹形を直線的に再現できることから、人工受粉や剪定などの省力化を実現し、作業時間は慣行の2本主枝栽培の作業時間に比べて27%短縮できたということです。
加えて、優良な側枝を確保できるため、2〜4年目の10a換算収量は慣行の2本主枝栽培と比べて約1.5倍の増加につながったことも明らかとなっています。
出典:農研機構所収「早期多収で省力化が可能なすももの樹体ジョイント仕立て栽培」
ジョイント栽培における整枝・剪定のやり方

収穫期の黄色いすもも
naoki / PIXTA(ピクスタ)
すももの樹体ジョイント仕立て栽培は、秋季と冬季の2回に分けて剪定を行います。
秋季剪定の目的は、枝を抜き、樹体に日光をよく当てて枝と花芽の充実を促すことです。冬季剪定では、主枝や側枝の配置から側枝の育成と更新、結果枝の取り扱いなどを行います。
秋季剪定
樹体ジョイント仕立て栽培における秋季剪定は、冬季の本格的な剪定に向けての重要な作業になります。具体的には、徒長枝の整理、側枝(大枝)の整理、障害のある主幹部の伐採などを行います。
徒長枝の整理では、ジョイント部より下の主幹部から出た枝、主枝背面および側枝基部から発生した徒長枝を基部から切除します。
側枝の整理では、強勢化し基部が太い側枝を切除します。切除時は切り口の陰芽が発生するよう、枝の基部は長めに残し、切除後の切り口には乾燥防止の保護剤を塗布します。
主幹部に枯れ込みや土壌伝染性病害などの症状がある場合、ほかの樹への障害拡大を避けるため、当該部分を伐採します。樹液流動が旺盛な8月下旬~9月下旬頃に実施することで、切り口の癒合促進を図れます。
ただし、主幹の切断は樹勢を弱らすため、障害が特に見当たらなければ、不用意な主幹切断は避けるべきです。
冬季剪定
樹体ジョイント仕立て栽培における冬季剪定は、主枝や側枝の配置、育成と更新を行い、樹形を整えます。
主枝の高さは平棚の場合、棚高と同じもしくは棚下0〜20cmが理想です。側枝の長さは150〜200cm、太さは主枝径の半分以下を目安にして、20〜30cm間隔で配置します。
側枝の育成と更新作業は、1年生側枝、2〜3年生側枝、4年生側枝で異なります。
1年生側枝は主枝または側枝基部から発生した枝を棚に誘引します。2〜3年生側枝は、側枝の途中から発生している強い枝を切除し、枝が複数分岐しているときは可能な限り1本にします。4年生側枝は、なるべく残さず、主枝から直接発生している1年生枝に更新します。
剪定をする前には、器具の消毒を徹底することが重要です。特に樹体ジョイント仕立て栽培では、1本の樹がウイロイドなどに感染すると隣接する樹にも広がるため、忘れずに消毒しましょう。
出典:農林水産省所収「すももジョイント栽培マニュアル Ver.1」
すももの剪定は時期や手順を理解した上で、品種ごとに適した剪定方法が求められます。
山梨県では2027年までを目途に、簡易棚や既存の平棚を用いた「一文字仕立て」の栽培技術の研究が進められ、作業時間の省力化とともに導入時の資材コストがかからない技術として注目されています。
このように、栽培技術は随時開発されており、安定した生産体制を築くには最新情報を確認することが欠かせません。
出典:山梨県所収「すももの低樹高・省力化樹形の確立(R5〜9)」
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