【トマトのカメムシ類対策】害虫?益虫?防除すべき種類と適用農薬
カメムシ類はイネ科やマメ科のほか、トマトなどの果菜類も食害する吸汁性の害虫です。トマトに付くと果実を吸汁され商品価値が下がったり、傷口から腐敗したりすることもあり収量に大きく影響します。本記事では、被害を防ぐために必要な防除対策を解説します。
- 公開日:
記事をお気に入り登録する
目次
カメムシ類のうち、トマトを食害するカメムシはアオクサカメムシやミナミアオカメムシなどの数種類に限られます。それらの種類について生態の違いや見分け方、共通する防除対策や有効な農薬について、卵や幼虫・成虫の写真付きで詳しく解説します。
トマト農家は要対策! カメムシ類の生態と被害の特徴
fox☆fox/PIXTA(ピクスタ)
カメムシ類は種類が非常に多く、ほとんどが広食性ですが、好んで吸汁する植物はそれぞれ異なります。主に果樹を好む種、水稲などのイネ科や大豆などのマメ科作物に付く種、ナス科やヒルガオ科の植物を好む種などさまざまです。
ここでは、トマト栽培に関連する被害症状とカメムシ類が発生しやすい時期・条件を解説します。
トマトにおける被害症状
佐竹 美幸/PIXTA(ピクスタ)
カメムシ類がトマトに産卵し繁殖するケースもありますが、多くの場合は、周辺の麦類・大豆のほ場や雑草で繁殖し、その場所の成虫密度が高まるとトマトに飛来して食害します。
また、幼虫・成虫ともに、茎や果実を渡り歩きながら次々と食害するので、1匹で多くの葉や実に被害が出ます。
葉や茎への吸汁は、大発生しない限り目立った被害にはなりません。ただし、未熟果を吸汁されると、はじめは食害痕は目立たないものの、果実の肥大に伴って変形したり、黒っぽく変色して腐ったりします。反対に周囲が白っぽく退色して着色が悪くなることもあります。
また、食害痕の内部がスポンジ状になってそこから腐りやすくなるため、商品価値は大きく下がります。大発生した場合は株そのものに生育不良や萎れが見られ、収量の減少につながります。
発生しやすい時期・条件
CHAI / PIXTA(ピクスタ)
カメムシ類の越冬成虫は周囲の畑や雑草の中で4月頃から発生し、夏期になるとトマトのほ場に飛来します。ハウスよりも露地に発生しやすく、11月まで見られます。ハウスでは9〜10月頃、露地では8〜10月頃に発生が増加します。
種類にもよりますが、温暖な気候を好むカメムシ類が多く、高温乾燥の夏には多発する傾向があります。
害虫?益虫? トマトに寄生する主なカメムシの種類と見分け方
ここではトマトに寄生する害虫として注意すべき3種類のカメムシと、肉食でアブラムシなどの害虫を捕食し、益虫として期待できるカメムシ類について解説します。
トマトの生育に悪影響を及ぼす、防除すべきカメムシ類の例
ホオズキカメムシ成虫(体長13mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
トマトを食害するカメムシ類は数種類いますが、中でも「ホオズキカメムシ」「ミナミアオカメムシ」「アオクサカメムシ」の3種による被害が多く見られます。特にミナミアオカメムシとアオクサカメムシは幼虫・成虫とも見た目が非常に似ており、区別するのは非常に困難です。
両者は成虫になると比較的見分けやすくなります。ミナミアオカメムシは翅をめくった腹部背面が緑色で、アオクサカメムシの場合は黒色です。
また、触角は緑と暗色が交互に配色されていますが、この暗色部がミナミアオカメムシは茶褐色、アオクサカメムシは暗黒色です。
ただし、防除方法は共通しているため、区別して対応する必要はありません。
ミナミアオカメムシ(Nezara viridula)成虫
Wirestock - stock.adobe.com
アオクサカメムシ(Nezara antennata Scott)成虫
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ホオズキカメムシとミナミアオカメムシは、以前は温暖な本州の西側や四国、九州、沖縄で見られましたが、温暖化が進むにつれて分布域が北に広がっています。アオクサカメムシは北海道から沖縄まで広く生息する、最も一般的な種です。
いずれも越冬は成虫体で、落ち葉の下やシュロなどの常緑樹の葉鞘の内側などに集まって越冬します。4月に入ると活動をはじめ、アブラナ科やタデ科、イネ科の植物などに産卵します。
ミナミアオカメムシとアオクサカメムシは80〜150粒ほどからなる卵塊を作り、ホオズキカメムシは葉裏に10〜30粒ほどまとまって産卵します。
アオクサカメムシの卵塊は六角形に並ぶ
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
ホオズキカメムシの卵(長径1mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
いずれも5齢幼虫を経過して成虫となり、ミナミアオカメムシ、アオクサカメムシは年間4〜5世代、ホオズキカメムシは2世代程度経過するといわれます。
アオクサカメムシは幼虫の各成長段階、成虫ともミナミアオカメムシとそっくりで、見分けることは困難です。
アオクサカメムシ 4齢幼虫
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
脱皮直後のアオクサカメムシ5齢幼虫(体長9mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
アザミウマ類などの天敵となる“益虫”カメムシもいる!?
カメムシ類の中にも、ヒメハナカメムシ類やタバコカスミカメなどは、テントウムシ類の中のナナホシテントウのように肉食の種類です。アザミウマ類やコナジラミ類を捕食するため、土着天敵となる益虫として注目されています。
ヒメハナカメムシ類は体長2mm程度でべっ甲と黒褐色のような色合いです。小さくて見つけにくいこともあり、種類も特定できていないほど、まだよく知られていない種です。
タバコカスミカメは体長3〜3.5mmほどで、薄く透き通るような緑色が特徴です。
ヒメハナカメムシ成虫(体長2mm)
写真提供:HP埼玉の農作物病害虫写真集
タバコカスミカメの成虫(一般財団法人 高知県地産外商公社「生産量全国1位!高知県産のメインとなる『ナス』の季節到来。高知県産『冬春ナス』が本格出荷開始!エコシステム栽培やオランダ式次世代など施設園芸等先進技術を積極的に導入。」より)
出典:株式会社PR TIMES(一般財団法人 高知県地産外商公社 ニュースリリース 2016年11月24日)
どちらも、アザミウマ類やコナジラミ類の生物農薬として研究が進められています。害虫となるカメムシ類とは判別が容易なため、もしも見かけたらそっとしておくとよいでしょう。
出典:
農研機構「東北農業研究センターたより 第56-57号」所収「色の違いを利用して土着天敵ヒメハナカメムシ類を効率的に捕獲する」
株式会社カクイチ 運営「農業メディア│Think and Grow ricci」内「カメムシの生態と農作物への被害、対策方法について~農家の味方のカメムシもいる?」
トマトのカメムシ類防除に使える農薬一覧
カメムシ類は発見し次第、手袋をしたうえで、洗剤水を張った容器に落とすなどの方法で捕殺することが防除の基本です。しかし、大規模なほ場では手作業による防除は困難であり、農薬による防除が有効です。
2022年5月5日現在、トマト・ミニトマトとカメムシ類に適用がある農薬は、「スタークル顆粒水溶剤」「アルバリン顆粒水溶剤」「オールスタースプレー」です。いずれもトマト・ミニトマト両方に対し、育苗期間の株元散布から定植時の土壌混和、定植後の散布のすべてに使えます。
また、トマトのみの登録ですが、「マラソン粉剤3」もカメムシ類に有効です。
実際の使用に当たっては、必ず使用時点で登録があることを確認したうえで、ラベルをよく読み用量・用法を守って使いましょう。地域に農薬の使用に関する決まりがある場合はそれに従ってください。農薬の登録は、以下のサイトで検索できます。
農薬登録情報提供システム
施設栽培の場合は「防虫ネット」の活用を
mamime / PIXTA(ピクスタ)
カメムシ類の予防には、成虫の飛来を防ぐことが最も重要です。特に施設栽培では、換気口や出入り口などの開口部に防虫ネットを張りましょう。
カメムシ類だけであれば、目合は3mm程度で十分ですが、アブラムシ対策も兼ねるなら0.8mm以下程度、アザミウマ類も防除するなら0.4mm以下が適しています。あまり細かいと通気が悪くなって施設内が高温になりやすいので、温度調整なども考慮して最適なものを選びましょう。
ノブモ / PIXTA(ピクスタ)
トマト栽培において、カメムシ類は少数であればそれほど深刻な被害にならないかもしれません。しかし、夏場に増殖すると株を弱らせたり、果実の商品価値を損なわせたりするので、発見したら放置せず、早めに有効な農薬を散布するなどの防除対策が必要です。
特に大規模なほ場では、気づくのが遅れて大発生しないように日頃から観察し、早期発見・防除対策に努めましょう。
参考文献・参照サイト:
高知県農業情報サイト「こうち農業ネット」内「トマト カメムシ類」
株式会社全国農村教育協会「病害虫・雑草の情報基地 > 防除ハンドブック」内「トマト、ナス、ピーマンの病害虫~カメムシ類(1)」
株式会社全国農村教育協会「病害虫・雑草の情報基地 > 防除ハンドブック」内「サツマイモの病害虫~ホオズキカメムシ」
HP埼玉の農作物病害虫写真集「ナス病害虫 アオクサカメムシ」
高知県農業情報サイト「こうち農業ネット」内「形態情報 カメムシ類(トマト)」
愛知県「あいち病害虫情報 資料集」所収「平成21年8月 ミナミアオカメムシの生態と防除パンフレット(知ってとくとくミナミアオカメムシ ミナミアオカメムシ ミナミアオカメムシの生態と防除)」
香川県農業試験場 病害虫防除所「防除に関する情報」所収「ミナミアオカメムシの生態と防除」
農研機構「東北農業研究センターたより 第56-57号」所収「色の違いを利用して土着天敵ヒメハナカメムシ類を効率的に捕獲する」
株式会社カクイチ 運営「農業メディア│Think and Grow ricci」内「カメムシの生態と農作物への被害、対策方法について~農家の味方のカメムシもいる?」
アグリコネクト株式会社 運営「AGRI PICK」内「カメムシ類を防除する方法(草間祐輔先生監修)」
株式会社ニッポー 運営「施設園芸.com」内「防虫ネットの選び方とは?色や目合いによる効果の違いを解析!」
掲載した農薬の情報:
農薬登録情報提供システム「スタークル顆粒水溶剤」
三井化学アグロ株式会社「スタークル顆粒水溶剤(JA)」
農薬登録情報提供システム「アルバリン顆粒水溶剤」
アグロカネショウ株式会社「アルバリン顆粒水溶剤」
農薬登録情報提供システム「オールスタースプレー」
農薬登録情報提供システム「マラソン粉剤3」
記事をお気に入り登録する
minorasuをご覧いただきありがとうございます。
簡単なアンケートにご協力ください。(全1問)
あなたの農業に対しての関わり方を教えてください。
ご回答ありがとうございました。
お客様のご回答をminorasuのサービス向上のためにご利用させていただきます。
大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。