BASF We create chemistry
「選ばれるブランド」を創る!自分のライフスタイルと高収益を両立する農業
  • 農業経営

「選ばれるブランド」を創る!自分のライフスタイルと高収益を両立する農業

希少価値の高い西洋野菜を多品種栽培し、その仕向け先のほとんどが一流レストランというタケイファーム。ブランドの魅力と収益性の高さで注目されています。代表の武井敏信(たけいとしのぶ)さんに、農業経営のポリシーとブランド構築のポイントを伺いました。

タケイファーム代表 武井敏信(たけいとしのぶ)さんプロフィール

営業職として勤めていた企業を退職したことをきっかけに、子どもの頃に一番やりたくなかったという家業「農業」を始める。

独学で栽培方法を学び、自分のライフスタイルを崩さず、決して無理をせず、しかも、確実に利益を上げることができる農業のスタイルを追求する。

就農から20年経つ現在では、希少価値の高い野菜を年間140種類以上栽培し、一流レストランへ直接納品する収益性の高いビジネスモデルを確立している。

農業のイメージを変えたいという思いから多くのメディアに積極的に登場している。

やりたくなかった時間と人手のかかる農業

武井さんは、営業職として勤めていた企業を退職したのち、家業を継ぐ形で就農しました。そのときは、農業を営んできた両親を見て、農業自体にいいイメージを持っていなかったといいます。

タケイファーム代表 武井敏信さん(以下、役職・敬称略) 正直、かつての私にとって農業は「やりたくない仕事」でした。

市場に出す場合は、朝から晩までほ場にかかりきりで作業しなければならず、作った作物を販売しようにも最低2人以上の人手がいるため、効率的とはいえないと感じていたのです。

やりたくなかったとはいえ、仕事をするからには「農業」というものを知る必要があります。さまざまな新規就農者のインタビューが書かれた書籍を読んで、私は「仕事をする上でやらないこと」をいくつか決めました。

タケイファームと取引があるのは、この独自ルールを受け入れてくださったお客様のみです。

ライフスタイルと最大収益を両立するために決めた「やらないこと」

販路開拓のための営業や雨の日の作業など、一般的には必要とされているものであっても「自分の最も働きやすいスタイルから外れることはやらない」。このスタンスを崩さないことで、武井さんの「一人農業スタイル」が生まれていきました。

大原則は「一人農業」

武井 自分のライフスタイルを守って、最大限の利益を上げる。栽培から販売までの全てを一人で担うからこそできることで、これは絶対に譲れません。

そのためには、納品先であるレストランのシェフや担当者と対等に渡り合える関係づくり・商品づくりと、高い労働生産性の実現が重要になります。

武井さんは、ライフスタイルと最大収益の両立を実現するために「やらないこと」を決めています。

ルールその1:地元で売らない

武井 タケイファームは以前、伊勢丹新宿店の生鮮食品部門に作物を卸していました。

この「伊勢丹新宿店に作物を卸している」という事実によって「タケイファームの商品は有名な百貨店でも取り扱いがあるレベルの品質なのだ」という市場価値を生み出すことができます。

そのため、地元の直売所や一般のスーパーでは販売しないと決めました。

ルールその2:営業しない

もともと営業職が嫌で前職を退職されたという武井さん。農業を始めてからも、仕事の一環として「営業活動」をすることはありません。新規のお客様は、タケイファームのブログ記事や口コミを知って取引を打診してくるのが中心だそうです。

「営業しない」かわりに、納品先となる都心のレストランで食事をすることが、武井さんの販路開拓のカギとなっているようです。

■レストランでの食事が販路を広げる

武井 営業はしませんが、毎日朝7時半から昼過ぎまでを労働時間と決めて、それ以降の時間は打合せや、レストランでの食事にあてています。

その際にレストランのシェフとお話することもあれば、そのレストランの顧客として来ているほかの店のシェフを紹介していただくこともあります。

食事の時間はあくまでプライベートですが、この時間があるからこそお客様とのつながりを広げることができます。

■レストランでの食事で自分の仕事の「ゴール」を知る

武井 また、この食事の時間では、レストランで野菜がどのように使用されているのかを知ることができます。

例えば、この店の料理には小さめのジャガイモ(馬鈴薯)が使われており、違う店の料理にはエディブルフラワーが添えられている、というように、納品した作物がどのような料理になるのかという「ゴール」を知ることができるのです。

この「ゴール」を把握することによって、栽培する作物の選定や、納品タイミングの調整が可能になります。

タケイファームの人さし指サイズのにんじん

納品先レストランの要望にあわせ、人さし指サイズのにんじんを収穫・納品している

例えば、このニンジンは、今、このサイズで収穫・納品しています。納品先のレストランでどのように使うのかという「ゴール」によって、収穫タイミングを判断します。

タケイファーム ナスタチウムは葉の部分も納品

エディブルフラワーとして知られるナスタチウムは葉の部分も納品

これは、エディブルフラワーとして知られるナスタチウムですが、花だけでなくつぼみや葉の部分など、すべての部分が食べられます。レストランが盛り付けで使うという実際の「ゴール」を想定して、葉柄で切り取った状態で納品しています。

ルールその3:地下足袋を履かない

武井 もともと農業に対してマイナスイメージを抱いていましたので、あくまで私にとってですが、地下足袋は「やりたくない農業」の象徴です。

働く上でのモチベーションを下げないために、地下足袋を利用することはありません。

ルールその4:雨の日は作業をしない

タケイファームは全て露地栽培ですが、武井さんは雨の日には作業しないと決めています。雨の日に作業しないのには理由があります。

■雨の日の作業は作物を傷める

武井 雨の中の収穫作業をすると、跳ねた泥などで、収穫前の作物が傷んでしまうこともあります。

■雨の日の作業は収穫ロスを生む

武井 暗くて寒い雨の中、外で収穫作業をすると、作物の品質を確かめにくく、納品できない状態のものまで収穫してしまう可能性があります。

受注量を確実に納品するためには通常より少し多めに収穫することになり、結果的に収穫ロス、単収の低下につながるのです。

自分の働き方を崩さず最大限の利益をあげる「金額ベースの受注」

タケイファームの売り上げのうち、レストランへの納品が約9割を占めています。その基本の販売スタイルは、「注文を受けた金額の分だけ、武井さんが選んだ野菜の詰め合わせを納品する」というもの。

取引先のレストランから見ると、例えば2万円分の発注をかけると、武井さんがセレクトした2万円分の作物が届きます。発送日はレストランによって異なりますが、頻度は週1回のみ。もちろん、雨が降れば発送は翌日に延期です。

取引先が欲しい作物を指定する作物ベースの受注ではなく、金額ベースの受注なのです。

収穫ロスを生まない

武井 以前は注文表を作って受注を管理する、作物ベースの受注を行っていました。しかしそれだと、お客様の都合によって受注個数にばらつきが生じます。受注自体がない日も出てきます。その受注のムラが収穫ロスにつながります。

しかし、受注を金額ベースにすれば、農家側で発送する作物を決めることができるため、収穫ロスを生まず、結果的に単収を高く維持できます。

栽培している作物の中でも特にクオリティの高いものや、その時期に多く収穫できるものを優先して販売することもできます。

売り上げが安定し、事業の見通しが立つ

武井 お客様ごとの納品頻度を週1回に限り、受注を金額ベースにすることで、日次の売り上げが把握でき、そのばらつきも抑えられます。

1日の売り上げがわかれば、1週間の売り上げ、1ヵ月後の売り上げ、1年後の売り上げ・・・といった具合いに、将来を予測できます。事業の見通しを立てることが可能になるのです。

自分の働き方を崩さないで、高い労働生産性を維持できる

武井 金額ではなく、お客様が指定する作物に栽培のほうを合わせようとすると、例えば、トマトやナス、キュウリなどは、ハウスでの周年栽培が必要になってきます。

ハウス栽培には、設備投資も必要ですしランニングコストもかかります。

お客様が指定する作物を常に用意しようとすれば、やらないはずの雨の日にも作業をしなければならず、自分の労働量を増やすことになります。

労働量が増えることで純利益が上がるのならば、悪くないのかもしれません。しかし実際に費用対効果を考えた時、必ずしも現状よりも利益が得られるとは限らないですよね。

選ばれるブランド「タケイブランドの魅力」の作り方

タケイファームのセレクトの野菜の詰め合わせは、武井さんが朝、畑で野菜を見たうえでその日のベストなものをセレクトしているそうです。

それでもタケイファームの作物が人気を博している理由は、武井さんが築き上げてきた「タケイブランドの魅力」です。

選ばれるブランドであるための「魅力」とは?

武井 タケイファームのお客様の中には大手高級ホテルのレストランや、10年以上のお付き合いがあるレストランもあります。全国にある農家の中でタケイファームの作物を選んでいただくためには、相応の「魅力」が必要です。

美味しく、美しく、希少価値が高い市場に合った作物の栽培。
その品質を保証するブランドイメージの創生と維持。
そして時間をかけて築きあげたお客様との関係性。

その中から、選ばれるブランドとしての魅力が生まれるのだと思います。

ブランドの顔となる「美味しく、美しい、スペシャリテ」の栽培

武井さんはアーティチョークをはじめとした四季折々の「スペシャリテ」、つまりそのブランドの顔となる食材を栽培し、納品しています。とあるレストランでは、アーティチョークだけで1店舗1ヵ月28万円以上を購入いただくこともあるといいます。

武井 「スペシャリテ」とはもともとレストランの言葉ですが、私は農家にもスペシャリテがあるべきだと考えます。

この農家ならこれだ、というものがあればそれがブランディングにつながります。タケイファームではアーティチョークがこれにあたりますね。

加えて季節折々のスペシャリテを持つことができれば、一年中安定して、農家の顔となる作物を販売することもできるようになります。

タケイファーム 植え替えたばかりのアーティチョーク畑を見回る武井敏信さん

植え替えたばかりのアーティチョーク畑を見つめる武井さん

効率よく、しかし、ブランドの価値を損なわない品種を選ぶ

武井さんの労働時間は、主に午前7時半から午後13時ごろまで。現状よりも労働時間が増えるようなことは「やらない」のが武井流です。

労働時間を増やさないで、「美味しく、美しく、希少価値の高い」高品質の作物を多品種栽培する。武井さんは、この両立をどのように実現しているのでしょうか?

武井 作業効率には徹底的にこだわりつつ、「タケイブランド」のブランドイメージを守るためには、どんな作物を栽培すべきかを見極める必要があります。

20年間農業を続けるなかで、多くの作物を栽培してきました。その経験の中から見つけた、どんな作物を作るべきかの判断基準は、大きく分けて3つです。

長く収穫できるもの
作業時間がかからないもの
単価が高いもの

この3つのポイントに絞って栽培する作物を選ぶことで、最も効率よく利益を上げることができます。

タケイファーム 秋から春まで長期間の収穫が可能なカーボロネロ

秋から春まで長期間の収穫が可能なカーボロネロ

武井 例えば、カーボロネロ(注)は秋に一度植え付けた後、春先まで収穫できます。一度に納品する葉の枚数を制限することで、1株でより多くの利益を得ることができます。

(注)カーボロネロはイタリア中部のトスカーナ地方を原産とする結球しないキャベツの一種。イタリア料理に使われることが多い。

準備や片付けにかかる時間やコストは最低限であること、純利益とプライベートの時間を確保できることは絶対条件。

その上で、この作物はどの品種が最も美味しいのか、レストランではどのようなサイズが求められているのか、次に市場価値が高まる作物は何かを考え、栽培する作物を選びます。

効率よく作業を進めるために、使う道具にもこだわっています。これは、より収穫効率を上げるため、貝印株式会社とコラボして開発した収穫ハサミです。

タケイファーム 貝印株式会社とコラボした収穫ハサミ

収穫効率を上げるために、貝印株式会社とコラボした収穫ハサミをプロデュース

武井 この収穫ハサミのポイントは、開く角度を調整できる点です。収穫する作物によって切る茎の太さはまちまちですが、この収穫ハサミは、その太さに合わせて角度調節が可能で、収穫する際の手の動きを最小限にできます。

1回の動作で短縮できる時間は数秒ですが、その数秒が積もり積もって全体の作業効率向上につながるのです。

また、土の中や作物の緑の中でも目立つ、鮮やかなオレンジとイエローの配色は、紛失防止を意図しています。探す時間もかかりますし、収穫前後のほ場で見失うと作物を傷めてしまうこともありますから。

この収穫ハサミ開発の詳細はタケイファームホームページの『「タケイファーム」×「貝印株式会社」共同開発の収穫ハサミ』をご覧ください。

ブランドイメージを下げない売り方

武井 こうやって作り上げてきたブランドイメージを崩す売り方はしません。

大局から見た時、目の前の小さな利益を優先するよりも、ブランドイメージを下げない売り方をする方が、後から大きな利益を生み出す可能性が高いのです。このこだわりが、タケイファームのブランドを形作る要素の1つです。

このことには、「やらないこと」の1つ「地元で売らない」でお話しした、伊勢丹新宿店への販売の経験で気づきました。

就農当初は、ブログで情報発信しオンラインショップを主な販路にしていたのですが、あるとき、これが伊勢丹新宿店のバイヤーの目に留まり、販売のオファーを受けました。

これを機に、タケイファームの作物に「伊勢丹新宿店でのみ買える作物」という肩書きがつき、この肩書が、まず品質への信頼につながり、さらにはブランド自体への信頼につながっていったのです。

オンラインショップの運営で学んだお客様との関係性構築

就農当初のブログでの情報発信、オンラインショップの運営の経験が、現在の取引先レストランとの関係性構築に活きていると武井さんはいいます。

■お客様の「ニーズ」を考えた情報発信

武井 私のブログのタイトルは「おいしく健康!新鮮野菜を極める!! 」というもの。野菜をオンラインで購入したいと思うユーザーの検索ニーズを考えたキーワードをいれています。

いわゆるSEO対策ですが、お客様のニーズを捉えるという意味で重要だと思います。

・タケイファーム公式ブログ「おいしく健康!新鮮野菜を極める!!」はこちら

■お客様の安心と信頼を勝ちうるアフターフォロー

武井 オンラインショップでの販売で重要なことは、いかにお客様に安心していただくかということ。お客様の安心と信頼を勝ちうるには、受注後のアフターフォローが重要です。頻繁な連絡、商品オリジナルのポストカードを添える、商品を傷めない梱包などに気を配ってきました。

タケイファームの美しいポストカード オクラ

毎月旬の畑の野菜を使って作成する美しいポストカード
写真提供:タケイファームホームぺージ

■データでお客様の「ニーズ」を先取りする

武井 また、お送りする詰め合わせの内容も、お客様が前回何を購入されたのかを把握し、今は何をお求めで、何が必要でないのかを推測して選んでいます。

■学んだノウハウはレストランとの取引に活かされている

武井 こうして、お客様との信頼関係を築き、リピーターを増やしていきました。このノウハウは、レストランごとのニーズ把握や、そのニーズに応じた作物の選択に役立っています。

例えば、新メニューの話や、何がどう使われ何が好評だったか、などの情報を総合して、次回の発送にはこの作物を組み合わせよう、という具合に選ぶ作物を変えて発送しています。

関係性が深まれば得られる情報も多くなり、お客様のニーズにより近い作物を選択でき、さらに信頼を得られます。

タケイファームの事業やプロジェクトの詳細は、以下のURLからご覧いただけます。

・ホームページ「TAKEI FARM VEGETABLE DESIGNER」はこちら
・「TAKEI FARM オンラインショップ」はこちら
・タケイファーム公式ブログ「おいしく健康!新鮮野菜を極める!!」はこちら

コストや労働時間の割に大きな利益にならない農業では、かつて武井さんが就農時に感じていた「やりたくない農業」と変わりません。

これまでの農業観に捉われることなく、より働きやすく、より利益を生む農業のスタイルを探求すること。取引先から選ばれる農家として、商品の市場価値を高め、ブランドイメージを守ること。

この先の農業経営にとって、この2つの視点を持つことが重要になっていくのではないでしょうか。

福馬ネキ

福馬ネキ

株式会社ジオコス所属。「人の心を動かす情報発信」という理念のもと、採用広告を中心にさまざまな媒体で情報発信を手がける株式会社ジオコスにてライターを務める。

recommended