ブランド野菜の定義とは?農産物をブランド化して収益を伸ばす方法
野菜はブランド化することによって価値が高くなり、農家の収入アップや地域の活性化につながります。そこで、ブランド化に取り組む際に活用できる「地理的表示(GI)保護制度」に触れ、成功事例を交えながら農産物のブランド化について解説します。
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目次
野菜類など農産物のブランド化は、収益アップをもたらす取り組みの1つです。もちろん、個人経営農家でも独自のブランドをつくることができます。
この記事では、野菜類を中心に農産物のブランド化について「地理的表示(GI)保護制度」を中心に解説し、その成功事例も紹介します。
どうすれば認定される?ブランド野菜の新たな定義
付加価値のある商品に特別な名称やデザインをつけて、ほかの商品と差別化する取り組みを「ブランド化」といいます。
農業においても、農産物の市場価値の向上、農家の収入向上について効果的な方法として注目されており、各地で自治体などを中心に農産物のブランド化が進められています。
地理的表示(GI)保護制度への産品登録
GIマーク:大きな日輪を背負った富士山と水面をモチーフに、日本国旗の日輪の色である赤や伝統・格式を感じる金色を使用し、日本らしさを表現
画像提供:農林水産省 輸出・国際局知的財産課
ブランド野菜の代表的な定義としては、2015年6月に農林水産省が制定した「地理的表示(GI)保護制度」に産品登録されていることが挙げられます。
この制度は産地の歴史や風土などと結びつき、付加価値のある農産物や社会的評価を得ている特産品を知的財産として保護することを目的としています。
地理的表示(GI)保護制度の産品に登録されると商品にGIマークを表示でき、ブランド力を高める効果が期待できます。ただし、地理的(GI)保護制度への産品登録の申請は生産業者が個人で行うことはできず、複数の生産業者で「ブランド協議会」などの団体を組織する必要があります。
自治体や農家が発信するブランド野菜もある
tomaya / PIXTA(ピクスタ)
国の制度を利用しなくてもブランド化は可能で、実際に多くのブランド野菜の成功例があります。
「京野菜」や「所沢ブランド」などは、各自治体が基準や統一デザインを設けて認定しているブランド野菜の代表です。
そのほか、農家自身が付加価値の高い農産物を生産し、新たなブランドとして商標登録している野菜もあります。
自治体によるブランド野菜の代表「京野菜」
自治体によるブランド野菜の代表としてまず挙げられるのは「京野菜」でしょう。
京都は長い歴史の中で土地に合った野菜が改良されてきました。これを京都府農林水産部がブランドとしたのが「京野菜」です。「九条ねぎ」「賀茂なす」「壬生菜」「えびいも」「京たけのこ」など31品目が登録されています。生産者団体ではなく、自治体が発信したブランド野菜です。
公益社団法人京のふるさと産品協会「京都のやさい 京野菜」のホームページはこちら
農家自身のブランド野菜「苅部ねぎ」「苅部人参」
横浜市の苅部農園の代表 苅部博之さんは江戸時代から続く農家の13代目ですが、自分が生み出した新品種の大根に「苅部大根」の名をつけて販売しています。
2017年には第2弾の「苅部ねぎ」を、2020年には第3弾となる「刈部人参」 の開発に成功しています。
苅部農園のホームページ兼オンラインショップ「野菜直売所 FRESCO(フレスコ)」はこちら
農産物をブランド化するメリット
基準を満たした農産物に特徴的な名称やフレーズ、デザインをつけることで、競合商品との差別化を図ります。こうした取り組みによって競争に打ち勝てるだけの知名度や競争力を獲得し、増収増益が見込める点はメリットでしょう。
また、ブランド野菜として高い品質を示すことで、高品質な素材を求める小売店やレストランなどとの契約締結につながるなど、販路の拡大も狙えます。自治体と協力して地域ブランドとして認定されれば、こうしたメリットを地域で共有でき、地域全体の活性化にもつながります。
さらに、国のお墨付きがもらえる地理的表示(GI)保護制度に産品登録すれば、地域ブランドの価値や信頼度が格段に高まり、収益や地域活性化の規模拡大が期待できます。
【産地別】地理的表示(GI)保護制度に産品登録されている野菜を紹介
2020年12月現在、地理的表示(GI)保護制度に産品登録されている野菜の一部を紹介します。ブランド野菜の名称や特徴など、野菜のブランド化を考える参考としてご覧ください。
北海道・東北地方のブランド野菜
■山形セルリー
「山形セルリー」(ひめセルリー)
Rhetorica / PIXTA(ピクスタ)
山形県山形市付近で、山形五堰(水路)や蔵王山系の伏流水を利用して栽培されているセロリです。1968年に、若手農家が当時の第一人者の伊藤仁太郎氏に学んだことから産地化が始まりました。恩師の伊藤氏に倣い、仏語なまりの「セルリー」と呼び継がれています。
■十勝川西長いも
北海道帯広市、芽室町、清水町などで栽培されている「やまといも」の一種です。他産地の品種と比較して水分が少なく、粘り気の強いとろろが好みの人におすすめの逸品です。農林水産祭で「天皇杯」の受賞経歴もあります。
■松館しぼり大根
秋田県鹿角市で100年以上前から伝統的に栽培されている辛み大根の一種です。在来の辛み大根の中でもトップクラスの辛みが特徴です。
関東・中部地方のブランド野菜
■くろさき茶豆
新潟市黒埼地区で栽培されている「くろさき茶豆」
画像提供:公益財団法人新潟観光コンベンション協会
新潟市黒埼地区で栽培されている在来種の枝豆で、茶豆特有の色と芳醇な香りが特徴です。明治末期に山形県鶴岡市から取り寄せた茶豆種子を、黒崎地区の小平方集落において選抜し、門外不出の種子として守ってきた経緯があります。
■吉川ナス
福井県鯖江市の旧吉川村付近を中心に栽培されている楕円~きんちゃく型の肉質がよく締まった丸ナスです。熟練農家が生産し、なおかつ厳しい品質検査が行われています。
■水戸の柔甘(やわらか)ねぎ
茨城県水戸市の特産品「水戸の柔甘ねぎ」
出典:株式会社PR TIMES
茨城県水戸市の特産品です。食感が柔らかく甘みの強いのが特徴で、白い部分が40cm以上のものだけが出荷されます。地域の農家が一丸となって取り組んだブランド野菜です。
近畿・中国四国地方のブランド野菜
■佐用もち大豆
兵庫県佐用郡佐用町のみで生産される在来種の大豆で、やわらかく粘りが強い独特の食感や強い甘みが特徴です。出荷の基準を厳格に決めることで、ブランドへの信頼を獲得しています。
■大山(だいせん)ブロッコリー
大山山麓で生産される「大山ブロッコリー」
出典:株式会社PR TIMES
大山山麓である鳥取県西伯郡、日野郡、米子市で生産される食味のよいブロッコリーです。西日本のブロッコリー生産地の先駆けとなった生産地で、安定供給に定評があります。
■大栄西瓜
鳥取県東伯郡の肥沃な土壌で栽培される「大栄西瓜」
HIRO / PIXTA(ピクスタ)
鳥取県東伯郡北栄町・琴浦町、倉吉市付近の肥沃で保水性・透水性がよい土壌で生産される西瓜です。安定した品質と供給を両立し、市場から高い評価を受けています
九州・沖縄地方のブランド野菜
■菊池水田ごぼう
熊本県菊池市、合志市などで栽培される水田栽培のゴボウです。水田栽培によって連作障害の対策をしつつ、柔らかいゴボウの生産に成功しました。
■ヤマダイかんしょ
宮崎県串間市の「ヤマダイかんしょ」の焼き芋
出典:株式会社PR TIMES
宮崎県串間市で栽培されるサツマイモ(甘藷)で、上品な甘さが特徴的です。「JA串間市大束 青果用かんしょ 標準規格」を定めており、ブランドの品位が保たれています。
目指せ収益アップ!農産物のブランド化を実現するためのポイント
農産物のブランド化を成功させるためのポイントを紹介します。現在ブランド化を検討している農産物と照らし合わせながら確認していきましょう。
地域性や栽培方法など、アピールできる特性を明確にして差別化を図る
ブランド野菜は、他の野菜とどう違うのかを消費者に訴える必要があります。
そのため、「その土地でしか栽培できない」「特殊な栽培方法を採用したことで品質が向上した」「他の品種よりも大きくて甘い」など、差別化ができる特長やポイントを明確にしましょう。
ブランド野菜として認定するための品質基準を設ける
ブランドの価値を維持するためには、色や形、大きさ、栄養成分、栽培方法など、客観的かつ統一した品質基準を設けることが大切です。基準を満たした農産物だけがブランドを掲げられるようにするとブランドイメージが定着していくでしょう。
基準をクリアしていることが一目でわかるマークやロゴなどを付けるのも効果的です。また、生産履歴を消費者に公開すると、ブランドの信頼性が高まります。
企画は周辺の農家や行政を巻き込む
個人農家でもブランド化はできますが、団体なら資金も集めやすく地理的(GI)表示保護制度への産品登録も目指せます。地域の複数の農家で団体を作ったり、JAや行政を巻き込んだりすることにより、町おこしとしての効果も期待できます。
クラウドファンディングなどの仕組みをうまく活用する
クラウドファンディングとは、インターネットを利用して不特定多数の人に資金の提供を求める仕組みです。目標額を設定し、目標額達成後に資金提供者にお礼として渡す「リターン」を決めたら、クラウドファンディングを扱うプラットフォームからPRページを作って発信します。
クラウドファンディングでブランド化する農産物をリターンとして資金提供者に配布すれば、市場に出す前のテストマーケティングとして使えるという利点もあります。
ブランド化することで6次産業化の道が拓けることも(木頭柚子の商品化例)
出典:PR TIMES 株式会社
独自の戦略でブランドの確立に成功した事例
実際にブランド化に成功した事例を2つ紹介します。
「本当においしい野菜である」ことをブランドの定義とした「郡山ブランド野菜」
福島県郡山市の郡山農業青年会議所のメンバーが中心となって、郡山産野菜のブランド化に取り組みました。地域で昔から栽培されている野菜ではなく、新しく開発された品種からブランド化にふさわしい品種を選び、地域で育成していくという手法が特徴です。
ブランドの基準となる定義は「本当においしい野菜」と決定し、それを満たすために品種ごとに栽培方法の統一や栽培履歴の明示、鮮度の保持などのルールを徹底しました。その結果、地元での直売やレストランなど販路を広げています。
郡山ブランド野菜協議会「めききのやさい、こおりやまから。郡山ブランド野菜」のホームページはこちら
「郡山ブランド野菜協議会」とJA福島の「ASAKAMAI887」プロジェクトがコラボした「青山ファーマーズマーケット」での特別なディスプレイ
出典:株式会社PR TIMES
高い商品価値をアピールし単価を大幅にアップ。希少品種のれんこん「あじよし」
2つめは、個人経営の農家がブランド化に成功した事例です。大正15年かられんこん栽培をする株式会社野口農園の代表 野口憲一さんは、実家の農家で当時ハウス栽培していた「あじよし」という高品質のれんこんをブランド化することに成功しました。
かつては高級品であったれんこんが大衆化し単価を下げる中、希少品種である「あじよし」を1本5,000円のれんこんとして商品化します。その価値を消費者に納得してもらうために「消費者の視点」を大切にしながらブランド化を進めました。
例えば、消費者は伝統に信頼を寄せやすいことから「大正15年からのれんこん作り」という強みを前面に出したり、あじよしを使ったレシピを提案したりする取り組みは、消費者の視点による発想です。
その努力が認められ、個人農家でありながら国内商品卸会社との取引口座を開き、販路が広がりました。国内の販路だけでなくニューヨークの高級和食レストランとも取り引きをし、日本の高品質なれんこんを世界に広めています。
野口農園のホームページはこちら
農産物のブランド化には、他の商品との明確な差別化や品質を守る基準の確立、栽培方法などのルール作りなど、商品の価値を客観的に評価できる体制が大切です。さらに、地域やJA、自治体と協力しつつ、地理的(GI)表示保護制度を利用することでブランド化への道がひらけるでしょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。