糖度計の使い方は? 品質管理や付加価値向上に役立てよう
糖度という基準を設けることで、作物に付加価値を付けたり、品質の安定を図ることができます。今回はその糖度を測定する糖度計について、使い方から選び方まで紹介していきます。
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作物はどれだけ労力をかけて栽培しても、日当たりや肥料の偏りなどによって食味にバラつきが出ることがあります。安定した品質の作物を栽培する難しさを感じている農家も多いのではないでしょうか。
そうした悩みを解消する手段の1つが、客観的な数値でおいしさを示してくれる糖度計を活用する方法です。
そこでこの記事では、糖度計のしくみや使い方のほか、実際に糖度計を用いてブランド化に成功した作物の事例などを紹介します。
糖度計の原理|甘さを計測しているわけではない
rumruay - stock.adobe.com
糖度計のしくみとしてまず理解しておきたいのが、実は「糖度計は糖分を測っているわけではない」という点です。
糖度は「Brix(ブリックス)値」として計測されるのが一般的ですが、このBrix値は測定対象に含まれる固形物の濃度を表す数値です。そのため、酸味のもととなるクエン酸なども糖分とともに測定されていることがあり、糖度計で高い数値が出たからといって必ずしも甘いとは限りません。
ただし、果樹や野菜に含まれている固形物はほとんどが糖分であることから、一般的に糖度計で高い数値が出た作物は甘みがあると認識されています。
糖度計の種類と基本的な使い方
糖度計は、大きく分けて「屈折計」と「非破壊式」の2種類があります。それぞれに計測のしくみやメリット・デメリットが異なるので、これから糖度計を用いることを検討している人はよく理解しておきましょう。
屈折計
Chonticha stoker / PIXTA(ピクスタ
屈折計は作物の果汁などの液体試料を測定し、溶液中に含まれている固形物の濃度を測定します。機器にある窓からのぞき込んで自らの目で糖度を確認するアナログ式と、数値が画面に自動的に表示されるデジタル式の2種類があります。
光は真水を通るときにまっすぐ進む性質を持っていますが、水分中に固形物が含まれているとそれに反射して屈折します。水分中に含まれている固形物の濃度が高いほど光の屈折率が高くなるという原理を応用して屈折率を測定します。
屈折計で計測した屈折率から糖度を算出するには、国際砂糖分析統一委員会が規格している相対表(ICUMSA)を用います。ただし、ほとんどの屈折計では最初から糖度に換算して表示するようになっているので、利用者自らが毎回相対表を確認する必要はほとんどないでしょう。
非破壊式
ハンディ型の非破壊式糖度計
出典:ソーシャルワイヤー株式会社(千代田電子工業株式会社 ニュースリリース 2020年6月30日)
非破壊式はその名の通り、作物を傷つけることなく糖度を計測できる機器です。
前述した屈折計は手軽に糖度を測れる点は便利ですが、試料として対象となる作物の果汁などを用意しなければならず、検査数が多くなると対応しきれなくなります。
一方、非破壊式の糖度計は糖分が特定の波長の光を吸収しやすい性質を持っていることを利用し、センサーによって計測します。外から機器を当てるだけで糖度の計測が可能なので、計測のたびに試料を用意する必要はありません。ただし、価格は屈折計に比べると高くなります。
卓上型の非破壊式糖度計
出典:ソーシャルワイヤー株式会社(千代田電子工業株式会社 ニュースリリース 2020年6月30日)
使用の際の注意点
屈折計は長い間使っているうちに徐々に誤差が生じるので、定期的な「校正(キャリブレーション)」が必要になります。正確な数値を知るためには、定期的に蒸留水を測定して測定値を修正します。
また、ハンディタイプの糖度計は比較的安価で手軽に利用できるものの、1つずつ手作業で測定しなければいけないので全量検査には不向きです。
出荷物の安心感を高めるために全量検査をする予定なら、自動で多数の作物の糖度を一度に計測してくれる非破壊式の光センサー選果機の導入も検討しましょう。
いずれのタイプであっても、糖度計は使用状況によっては誤差が生じたり、使用中に突然故障したりするかもしれません。導入を検討している場合には、2台以上を併用すると、安定した出荷ができるようになるのでおすすめです。
Ystudio / PIXTA(ピクスタ)
糖度計の選び方
糖度計といっても製品によって屈折計や非破壊式といったタイプの違いや、測定可能な範囲および温度などに違いがあります。そのため、自らの利用状況を想定して、適した糖度計を選ぶことが重要です。
例えば、糖度計によっては糖度が0~40%までしか測れないものもあります。一般的な作物の測定であればそれほど問題ありませんが、ジャムのような加工品になると糖度が40%を超えるケースが多いので注意しなければいけません。
測定する作物が決まっている場合は、桃専用やミニトマト専用といった特定の作物に最適化されたモデルを検討するのもおすすめです。
農業経営における糖度計の活用方法
ここまで糖度計のしくみや選び方などについて紹介してきましたが、どうやったら効率的に活用できるかを知りたい人もいるのではないでしょうか。そこで、ここからは農業経営における具体的な糖度計の活用方法をご紹介します。
品質管理や生育診断の基準にする
糖度計を用いて定期的に糖度を測ることで、作物の生育状況の確認が容易になります。例えば、生育途中の作物の糖度を測ってデータを蓄積し、現在の数値と過去のデータを比較しながら、栽培における問題点を見つけるといった使い方です。
栽培場所や樹木ごとに一定数のサンプルを検査し、状況に応じて追肥などの対策を取れば糖度のバラつきが少なくなって、安定した品質管理に貢献するでしょう。これまで土壌改良や追肥のタイミングは、ベテラン農家の経験や勘に頼るケースが多く、特定の人に任せきりになる状況がよくありました。
しかし、糖度を定期的に測ることで生育状況を誰でも客観的に判断でき、効率的な作業ができるようになります。
糖度にフォーカスした商品の選別・付加価値向上
高収益化を実現するためには、ほかの産地との差別化が重要です。差別化には大きさや見た目といった外観で差をつけるだけでなく味のよさをアピールする方法もありますが、味覚は人それぞれ違うので客観性の担保が難しい点が悩みの種といえます。
しかし、糖度を基準とすれば、ほかの作物と比べてどれだけ甘いかを消費者へ数値で客観的にアピールできるでしょう。栽培する作物の付加価値を可視化し、消費者へわかりやすく伝えるうえで糖度は非常に有用です。
糖度をブランド化につなげた事例
糖度をうまく活用してブランド化に成功したケースがいくつかあるので、最後にそうした事例を2つ紹介します。
させぼ温州
させぼ温州のブランド「長崎恋みかん」を使用したアイス商品
出典:株式会社 PR TIMES(小島屋乳業製菓株式会社 ニュースリリース 2021年3月29日)
させぼ温州は、みかんのブランドとしては比較的後発でありながら、糖度にフォーカスすることでブランド化に成功した事例です。
一般的にみかん栽培では水はけのよい急傾斜地のほうが有利だといわれていますが、させぼ温州は緩傾斜地でありながら、土壌に雨水を浸透させないシートマルチを活用して、糖度の高いみかんを作ることに成功しました。
栽培期間中は糖度と酸度の定期的な検査を実施して品質の安定化に努めるとともに、収穫後も選果場で非破壊式の光センサーを活用して糖度別に4段階に分け出荷しています。
みかんは作柄が天候に影響を受けやすい作物ですが、毎年変わらない基準を設けて出荷することで消費者から高い信頼を獲得し、全国でも屈指の人気ブランドになりました。
させぼ温州の中でも品質が優れた果実だけを厳選し、長崎県の統一ブランドとしています。
「出島の華」は、指定園で栽培された、糖度14度以上、酸含量1.0%以下の食味が濃いものをだけを認定しています。高い市場価格で話題になった高級ブランドです。
「長崎恋みかん」は、「出島の華」より消費者が求めやすい価格を想定したブランドです。糖度12度以上を目標に、指定園での統一した栽培管理を行って品質の安定化を図っています。
JA全農ながさき「長崎県下統一ブランドのご紹介~「出島の華」「長崎恋みかん」
アメーラトマト
アメーラトマト
株式会社 PR TIMES(イートアンドHD ニュースリリース 2014年8月2日)
近年でこそ、糖度の高いトマトは珍しくありませんが、その先駆けとなったのは1994年に静岡県農林技術研究所が開発に成功したアメーラトマトです。
アメーラトマトが栽培される以前は、市場でトマトを糖度で判断するという基準は存在しませんでした。しかし、当時マーケットが拡大しつつあったフルーツトマトに影響を受けて甘いトマトの開発に力を注ぎ、商品化にこぎつけます。
アメーラトマトは大きさこそ大玉トマトの3分の1程度ですが、外部の専門家との連携によって客観的データを収集し、可視化した上で「小さくても栄養価の高いトマト」として売り出しました。
また、保証糖度を7~8度と明確にしたことで消費者に安心感が生まれ、高くても買われるトマトになったのです。糖度という客観的なデータを、徹底したマーケティング戦略と上手く絡めてブランド化に成功した事例だといえます。
株式会社サンファーマーズ アメーラ公式ページ
アメーラトマトの栄養価
出典:株式会社 PR TIMES(イートアンドHD ニュースリリース 2014年8月2日)
糖度計は実際には糖分を測っているわけではなく、水分中に含まれている固形物の濃度を測る機器です。しかし、作物に含まれている固形物はほとんどが糖分なので、作物の食味を測る指標として有用です。
作物の栽培に糖度計を利用すれば品質管理や栽培方法のヒントを得られる可能性があったり、可視化された客観的なデータを活用して消費者に付加価値をアピールしやすくなったりといったメリットがあります。
糖度計測の結果を活用してブランド化に成功した事例もあるので、導入後の使い方を具体的にイメージしながら経営に役立てる方法を検討してみてください。
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中原尚樹
4年生大学を卒業後、農業関係の団体職員として11年勤務。主に施設栽培を担当し、果菜類や葉菜類、花き類など、農作物全般に携わった経験を持つ。2016年からは実家の不動産経営を引き継ぐ傍ら、webライターとして活動中。実務経験を活かして不動産に関する記事を中心に執筆。また、ファイナンシャルプランナー(AFP)の資格も所持しており、税金やライフスタイルといったジャンルの記事も得意にしている。