農家のマーケティング成功のカギはターゲット顧客の明確化!
農業の6次産業化が進み、農家は生産だけでなく加工・流通にも関わるようになってきました。自由に販路を選べる一方で、マーケティングも農家自身にゆだねられています。本記事では、直販を中心に、農家がマーケティングを成功させるポイントについて、事例を交えて紹介します。
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これからの農業は、新たな販路開拓や事業展開の可能性に満ちており、成功を収めるためにはマーケティング戦略が欠かせません。
この記事では、農業におけるマーケティングとはどのようなものか、その成功の秘訣について「ターゲットの明確化」を中心に解説します。
農家にとってマーケティングとは?
写真提供:株式会社 PR TIMES
近年、農産物の流通が大きく変化し、インターネットの普及も相まってさまざまな流通ルートが生まれています。従来の市場出荷とは異なり、顧客や実需者(飲食店、小売店などの事業者)に直接自分の作物や加工品を販売できるのです。
その反面、農家が自らマーケティングを担わなければならない責任も生じています。マーケティングとは、商品開発や販売戦略、宣伝活動、市場調査などを管理しながら、「どうやったら売れるか?」を考え、売れるしくみを作ることです。
マーケティングにおいて大切なポイントは、ターゲットとなる顧客を明確に絞り、そこから想定されるニーズに合わせて発信していくことでしょう。具体的にどのようにして売れるしくみ作りができるのか、詳しく説明していきます。
ターゲットを明確にすることの重要性
tiquitaca / PIXTA(ピクスタ)
消費者が農産物へ望むことは、「甘いほうが好き」「見た目のきれいなものがよい」「安全性が大切」「安さが一番」など、人によってさまざまです。
「誰にでも売れる」農産物などはなかなかなく、万人向けの発信では多くの競合商品の中から選んでもらうことは難しいといえるでしょう。
効果的なマーケティング戦略において、ターゲットの明確な設定は欠かせません。
消費者を「ニーズ」に着目して分類し(Segmentation)、その中から誰に買ってもらうかを明確にすることで(Targeting)、ほかの同じような農産物とどのように差別化するか?(Positioning)という戦略が見えてきます。
では、具体的には、どのようにターゲットを絞り、それによってどのような戦略が可能となるのでしょうか。
大事なのは誰に買ってもらいたいか
売れるしくみを作るためには、消費者の「買いたい」と思う気持ちに寄り添うことが大切です。買いたいと思う理由は人それぞれなので、まずは自分の農産物をどんな人に買ってもらいたいかを整理します。
例えば、自慢の高品質な桃を売りたい場合、お年寄り、若い女性、小さな子供など「誰に」「どんな時に」食べてほしいのかによって戦略は変わってきます。
ターゲットを明確にすることで、マーケティングの方向性が定まるのです。
shige hattori / PIXTA(ピクスタ)
ペルソナを設定する
近年のマーケティングでは、ターゲットを絞るだけでなく、「ペルソナ」の設定が重要とされています。
ペルソナ(persona)とは、英語で映画や小説の登場人物を意味します。マーケティングにおいても、架空の登場人物を置いて、年齢、性別、居住地、ライフスタイル、趣味嗜好まで細かく設定していきます。
ペルソナの設定例は以下のようなものです。
・氏名:栗田桃子
・年齢:32歳
・性別:女性
・学歴:大学卒
・職業:WEBデザイナー(契約社員で残業はナシ)
・年収:300万(夫と併せて800万)
・居住地:都市近郊の分譲マンション
・家族構成:同い年の夫と5歳の娘1人
・趣味:映画鑑賞、ヨガ、ジョギング
・日課にしていること:子供を寝かしつけたあとのネットニュースのチェック。トレンドのチェックは欠かさない
・利用しているSNS:Twitter、Instagram
ponta / PIXTA(ピクスタ)
上記のようにペルソナを設定してターゲットを絞り込むことで、売る側のスタッフや業者、実需者など、関係者全員が明確な共通認識を持って、一貫性のある販売戦略を立てることができるようになります。
ブレない販売戦略は、顧客信頼度の向上にもつながるでしょう。この例の場合は、経済的・時間的にある程度の余裕があり、流行に敏感で小さな子供のいる母親に、先ほどの高品質な桃を売るにはどうしたらよいか、という販売戦略が必要になるわけです。
農家のマーケティング|代表的な方法
ペルソナが定まったら、次はマーケティングを実践します。その際に参考となるマーケティングのノウハウや理念について紹介します。
3つのM
農家マーケティングの実践に当たっては、「3つのM」(注)、すなわちMarket(市場、顧客)、Message(メッセージ)、Media(媒体、手段)を意識しましょう。
最も大切なのはMarket、つまり顧客を明確にすることです。ペルソナが設定できていれば、それによって必要なMessage(メッセージ)やそれを伝えるMedia(媒体、手段)もおのずと決まります。
(注)ダイレクト・レスポンス・マーケティングの権威、ダン・S・ケネディのマーケティング・フレームワーク。マーケティングの成功には、Market・Message・Mediaの3要素が不可欠でそのバンランスが重要だと提唱しています。
先ほどの桃とペルソナを例にすると、流行に敏感でSNSもチェックしている若い母親に桃を売るためには、「美容にもいい」「これまでにないフルーティな香り」など、目新しく女性の心をくすぐるメッセージを、SNSを活用して広く伝えるのが効果があると考えられます。
お年寄りであれば、品質や糖度の高さを雑誌広告やチラシで伝えたほうがよいなど、顧客によってメッセージ内容や利用するメディアを変え、3つのMをしっかり意識して実践することが大切です。
AIDAの法則
dizanna / PIXTA(ピクスタ)
「AIDAの法則」とは、顧客が商品を知ってから買うまでの行動プロセスを表し、Attention(注意・関心を持つ)、Interest(興味を持つ)、Desire(欲しくなる)、Action(行動する)の頭文字を取ったものです。売る側のアクションに対する反応のプロセスでもあります。
マーケティング戦略では、このAIDAの法則を考慮することも重要です。特に重要なのがAttentionで、「気づいて」もらうための時間と労力を惜しんではいけません。
AIDAの法則に沿ったマーケティングは、例えば、SNSを利用して、みずみずしい桃の画像で顧客の注意を引き(Attention)、美容への効果やおいしさを伝えるコピーで興味を持ってもらい(Interest)、具体的な商品説明でよさをアピールして「買いたい!」と思ってもらい(Desire)、クリック1つで購入できるサイトがあれば購入につながる(Action)、というわけです。
農家のマーケティングで利用したいSNS
k_yu / PIXTA(ピクスタ)
SNSは、いまやマーケティングに欠かせない情報発信ツールです。FacebookやInstagram、TwitterなどのSNSでは、画像や動画を使って日本国内はもちろん、海外にまで自慢の作物をアピールすることができるのです。
また、「いいね」「シェア」「コメント」などによる拡散効果も期待できます。消費者は自分が知っている人からの推奨をより信頼するので、購買につながるファンを作りやすいといえるでしょう。
メールアドレスを持っていれば登録は簡単で、費用もかかりません。すぐにでも活用したいツールといえるでしょう。
オリジナルブランドの確立
tiquitaca / PIXTA(ピクスタ)
マーケティングの基本をつかめたら、最終的なテーマとして「オリジナルブランドの確立」に行き着くでしょう。
オリジナルブランドの確立=ブランド化とは、付加価値をつけた商品に、ほかの競合商品と差別化を図るための名称や独自のデザインを持たせる戦略です。実際、6次産業化が進む中で、小規模農家の間でも農産物のブランド化が広がっています。
顧客のターゲットを思い切って絞り込み、ブランド化に成功した好例が、株式会社野口農園(茨城県かすみがうら市)のブランドれんこん『あじよし』です。
1本5000円の超高級れんこん!野口農園のブランディング
民俗学者で、大正15年から続くれんこん農家の後継ぎでもある野口憲一さんは、父親の國雄さんが作るれんこんの品質を高く評価していました。
そこで、当時は大衆化し価格が下落していたれんこんを、市場出荷ではなく自社農園ブランドを立ち上げて販売することに決定。自ら商品開発とマーケティングを連動させて広報・販促を行い、その結果、高級れんこんとしてのブランド化に成功しました。
この成功には、商品への信頼と徹底した「顧客視点」がありました。
商品への自信から「1本5,000円」という高価格の商品を打ち出し、その値段でも顧客が信頼し「ほしい」と思うにはどうしたらよいか考えた末、「大正15年から続くれんこんづくり」という伝統を戦略のキーワードにしたのです。もちろん、そのブランドに見合った商品の研鑽も続けています。
野口農園のホームページはこちら
野口農園のオンラインショップはこちら
野口憲一さんのホームページはこちら
tomo / PIXTA(ピクスタ)
農家がマーケティングを成功させるには、ターゲットを明確に絞り、ペルソナをしっかりと定めたうえで、それに基づくマーケティング戦略を構築することが重要です。
まずは顧客の視点に立って自分の作物を見つめなおし、魅力がどこにあるのかを追求してアピールするとよいでしょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。