規格外野菜の販売で廃棄量を削減! 現代農家が収入を増やすためのアイデア
日本の野菜は産地ごとの規格により、サイズや形状などが厳格に定められています。それにより高い品質と農家の収入が守られてきました。その一方で、多くの規格外野菜が廃棄され、結果的に農家の収入を圧迫しているともいわれています。当記事では、規格外野菜の活用可能性を探ります。
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規格外となった野菜の取り扱いは、農家にとって大きな悩みでしょう。同じように育て、味も品質も変わりないのに、規格に合わないというだけで作物を廃棄することは、極力避けたいものです。規格外野菜の価値を高めて売るにはどうしたらよいか、そのアイデアをご紹介します。
産地で廃棄される野菜の現状と、規格外野菜のニーズ
Fuchsia / PIXTA(ピクスタ)
規格外野菜とは?
「規格外野菜」とは、品質は規格品と同じなのに市場流通の規格に適合せず、出荷できない野菜を指します。規格は主に見た目によるもので、サイズ・重量・色沢・形状などによって3段階や5段階など、作物別に各産地独自の基準が設けられています。
農林水産省は、1970年(昭和45年)から「野菜の標準規格」を順次定めて産地に指導してきました。しかし、国が基準を定めていることで流通の合理化が進まないのではないかという観点から、簡素化を進め2002年にこの規格は廃止されました。標準規格の廃止以降は各産地が自主的な基準の運用をしています。
ところが、市場流通における産地間競争の激化に伴い、規格は簡素化とは逆に、より高い水準・より細かい分類になる傾向にあります。
その影響で国産野菜の品質が向上し、農家の収入がアップするというメリットを生む一方、規格に適合しなかった野菜の取り扱いが大きな課題となっています。
誰も正確には把握していない? 規格外野菜のゆくえ
農林水産省は、農業や農産物に関わる多くの統計を出しています。しかし、規格外野菜の正確な廃棄量を定期的にまとめたデータはありません。
規格外野菜の存在自体は何となく知られているものの、生産量や出荷量に含まれないため数値化されていないのです。この実情を明らかにされないまま、農家だけが負担を抱えてきました。
規格外野菜の中でも比較的見た目のよいものは、直売所などで販売したり、加工業者に売ったりできます。しかしそのほか多くの規格外野菜は引き取り先がなく、最終的に畑にすき込んだり、処分費用をかけて廃棄しているのが現状です。
しかし、このように規格外野菜の実態についての情報が少ない中でも、廃棄される規格外野菜の存在を知り、「もったいない」と声を上げて、その有効利用のために行動を起こす消費者や流通業者もいます。
そのような消費者や流通業者と連携を取ることで、食品としてカウントされる規格外野菜が増え、農家にとっては販路を広げることにもなります。
zephyer / PIXTA(ピクスタ)
多くの消費者が「規格外野菜を購入したい」と考えている
廃棄される場合が多い規格外野菜ですが、顧客からの需要はどの程度あるのでしょうか。
農林水産省が2006年に都内および千葉県のスーパー3軒で行ったアンケート調査によると、「規格外野菜を買ったことがあるか」という問いに対し、79%の人が「ある」と回答しています。「買ったことはないが今後買ってみたい」と購入意欲を示している人も含めると、有効回答者数(247人)の93%にも上ります。
また、規格外野菜を規格品と比較して、どの程度の値段なら購入するかを聞いたところ、「1~2割安ければ買う」人が34%、「3~4割安ければ買う」人が31%、「5割以上安ければ買う」人が10%となりました。
この結果から、規格品より安ければ規格外野菜のニーズは高いことがわかります。規格外野菜は、規格品とのバランスをうまく保って販売できれば、その分売り上げが伸び、廃棄による負担軽減につながるでしょう。また、社会問題化している食品ロス問題の一端も解消されます。
出典:農林水産省「農産物の生鮮販売や加工・業務用途における多様なニーズに対応した取組の可能性(案)」
どう売る?規格外野菜の販路として考えられる具体例
形の揃わない規格外野菜を売るためには、どのような販路が考えられるでしょうか。「買いたい」消費者がいても、売ってくれる場所がなければ消費者まで届きません。規格外品の販路を新規開拓する方法や、販売サービスの具体例などをご紹介します。
直売所や道の駅での販売
YUMIK / PIXTA(ピクスタ)
近年、天候不順や自然災害の多発によって作物の収量が減り、野菜価格の高騰が頻発するようになりました。そのため、安価に購入できる規格外野菜のニーズはますます高まっているといえます。
普段、規格品を納めている直売所や道の駅だけでなく、取引のなかった販売所にも持ちかけてみることで、販路を拡大できる可能性があります。
スーパーなどの小売店でも、近年は通常の売り場とは別に、地場産のコーナーを設ける店舗が増えているため、積極的な営業活動を行うことで、販路増加につながります。そのようなコーナーがない場合は、地域の農家同志で協力して地場産コーナーを作ることも考えられます。
売れないものを売るためには、やはり営業活動が必要です。自分の農産物の魅力やアピールポイントを伝え、売れるための工夫も積極的に提案し、「売りたい」という熱意と明確な戦略をもって売り込むことが販路拡大につながるでしょう。
ECサイトなど、インターネットを活用した直接販売
農産物を売るためのECサイトを作成し、通販をするのもよい方法です。自社サイトの中なら自由に野菜の魅力を伝えられ、消費者とも直接やり取りできます。実際に成功しているECサイトが多数あり、またハウツーを詳しく解説するサイトもあるので、よく調べてみましょう。
自分でサイトを立ち上げるのが難しい場合は、「ポケットマルシェ」「食べチョク」「unica」など生産者と消費者をつなぐECプラットフォームを活用するのもよいでしょう。気軽に出品でき、規格外野菜に理解のある多くの消費者が訪れる点が魅力です。
株式会社ポケットマルシェ「ポケットマルシェ」の生産者向けページはこちら
株式会社ビビッドガーデン「食べチョク」の出品者向けページはこちら
株式会社スタイル・フリー「única」のホームページはこちら
レストランなど飲食店向けに販売
飲食店と直接取引できれば、個人消費者向けよりもまとまった量を販売できます。ただし、飲食店は使う野菜にもこだわりを持っている場合が多く、またある程度の定量を継続的に収める必要があります。いくら安いとはいえ、規格外野菜だけを売り込むのは難しいでしょう。
形のよいものも規格外のものも込みで納め、その分安くする、といった取引にすれば、規格にこだわらずに販売できます。地元の飲食店に「地場産野菜」として売り込むなど、ターゲットとする飲食店の特徴と、自分の農産物のアピールポイントを明確にすることが大切です。
直接レストランと取引をするほか、「REACH STOCK(リーチストック)」や「SEND(センド)」など、生産者と飲食店をつなぐオンラインサービスを活用する方法もあります。簡単な手続きで、全国の飲食店に売り込めます。
株式会社USEN「REACH STOCK」のホームページはこちら
プラネット・テーブル株式会社「SEND」のホームページはこちら
カット野菜やドレッシングなど加工品としての販売
6次産業化を取り入れ、自ら規格外野菜を加工して販売する方法も有効です。上記でご紹介したインターネット上の農産物販売サービスでも、ジャムやトマトピューレなど、生産者自ら作った加工品がよく売れています。
千葉県では、もともとゲストハウスを経営していた人が地元の規格外野菜の問題を知り、一般社団法人を設立して規格外野菜を買い取り、加工などして販売している「チバベジ」という取り組みもあります。この事例のように、地元に人脈を持つ人と協力し、地域を挙げて規格外野菜の問題に取り組むことができれば理想的です。
一般社団法人野菜がつくる未来のカタチ「チバベジ」のホームページはこちら
「チバベジ」の売場
出典:株式会社 PR TIMES
規格外野菜の販売で失敗しないために。注意すべき2つのポイント
最後に、規格外野菜の販売をするに当たって、注意すべき点をご説明します。
規格品が売れない?! 規格外野菜の流通割合を考える
規格品が十分流通しているときに規格外野菜を大量に販売してしまうと、より価格の安い規格外野菜が多く売れ、規格品が売れなくなったり、その野菜全体の販売価格が下がったりして、結果的に農家の売り上げが減少する恐れがあります。
規格外品は、そもそも規格品の品質や価格を維持し、農家の収入を守るために生じてしまうものです。規格品と同じ土壌に、価格を下げて売り込むことは、規格品の安売りを招いてしまい、地域ブランドなどの規格を守ろうと努力している農家の意欲も奪いかねません。規格品の価格に影響しないように、売り込む場所や価格を慎重に設定しましょう。
「規格外品」の販売基準を設定! 消費者への周知も重要に
規格外品とは、あくまでも「品質は規格品と同じなのに、サイズや形状、色が規格に合わない」農産物です。病害にかかっていたり、食味や品質が悪かったりする農産物は「粗悪品」であり、規格外品とは別物です。規格外品を選んでくれた消費者ががっかりするような野菜を売ることはやめましょう。
規格外品を守ろうと協力してくれる消費者や販売店の信頼を失わないように、規格外品の品質管理は慎重に行わなければなりません。トラブルを避け、消費者の満足感を高めるためには、規格外品としてのルールを決め、一定の品質を保つことが大切です。
そして、規格外品の品質や、規格品と比較して何が異なるのかなど、消費者に向けた知識提供を積極的に行うこともポイントといえます。
ふるさと納税事業等で地域の生産者と協働する「一般財団法人こゆ地域づくり推進機構」では、生産者の笑顔や畑の様子など、心を込めて手書きで伝えている
出典:株式会社 PR TIMES
厳しい基準によって、日本の野菜の品質や価格は守られています。その反面、多くの品質のよい野菜が規格外野菜として廃棄されていながら、その実情は正しく知られていません。
廃棄される規格外野菜を減らし、少しでも有効活用できるように、消費者や小売店の正しい理解を促し、協力を得ながら販路を見つけていきましょう。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。