循環型農業とは? SDGsへの取り組みと事例から学ぶ実践方法
農業分野では、化学肥料や農薬への過多な依存による環境への負荷増大が懸念されています。その中で、持続可能な社会を目指すSDGsへの取り組みの一環として循環型農業が注目されています。この記事では、循環型農業が推進される背景やエコファーマー認定制度の概要、循環型農業の実践実例を紹介します。
- 公開日:
記事をお気に入り登録する
農業や畜産で発生する廃棄物を資源化して、環境への負荷に配慮した農業に取り組む動きが各地で見られるようになりました。循環型農業のしくみや環境保全型農業・持続農業法のあらましを解説します。
循環型農業とは? 簡単に解説
K.D.P / PIXTA(ピクスタ)
循環型農業とは、化学肥料や農薬を適切に施用しながら、廃棄物などを有機資源として活用したうえで環境の負荷軽減を目指す農業体系です。畜産農家で発生した排泄物を堆肥化して、ほ場で活用する耕畜連携の取り組みが普及しています。
SDGs(持続可能な開発目標)では、水質汚染の防止や二酸化炭素の排出量の削減などが求められており、その一環としても循環型農業が注目されています。つまり、収益の拡大だけでなく、将来にわたって農作物を安全かつ安定して供給する持続的な農業経営が求められているわけです。
循環型農業は、環境保全型農業の一部として位置付けられており、農林水産省では以下のように定義しています。
「農業の持つ物質循環機能を生かし、生産性との調和などに留意しつつ、土づくり等を通じて化学肥料、農薬の使用等による環境負荷の軽減に配慮した持続的な農業(平成6年4月農林水産省環境保全型農業推進本部「環境保全型農業の基本的考え方」による)」
また、「持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律」(持続農業法)では環境とのバランスが取れた農業生産を推進するために、3つの技術を「持続性の高い農業生産方式」として定めています。
(1)堆肥を施用して土壌改善の効果を高める技術
(2)化学肥料の割合を減らした施肥技術
(3)少ない農薬使用量で有害な動植物を防除する技術
出典:農林水産省「持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律」
循環型農業の推進に向けて注目されるエコファーマー認定制度
YUMIK / PIXTA(ピクスタ)
循環型農業を推進する一環として、都道府県からエコファーマーとして認定を受ける農家が増えています。エコファーマー認定制度の概要や認定を受けるメリットを解説します。
エコファーマー認定制度とは?
エコファーマー認定制度とは、持続農業法に基づいて堆肥を用いた土づくりと化学肥料・農薬の施用量低減に一体的に取り組んでいる農家であることを公的に証明する制度です。
令和2(2020)年3月時点ではエコファーマーの認定件数が83,767件、新たに1,912件の農家が認定を受けています。認定が終了した農家を含めると、約31万2千件の農家が循環型農業に取り組んでいます。
認定期間は5年間ですが、技術革新などによって更に環境負荷を軽減できる場合や、作物の生育状況の改善を図れる場合には再認定を受けることも可能です。
エコファーマーの認定を受けるには、導入計画認定申請書を都道府県に提出して審査を受ける必要があります。前述した「持続性の高い農業生産方式」の導入が必須です。具体的な導入技術や栽培対象品目は地域によって異なる場合があるため、申請前に自治体や営農団体への相談することをおすすめします。
出典:農林水産省「持続性の高い農業生産方式導入計画の認定状況(令和2年10月23日)」
エコファーマーの認定を受けるメリット
エコファーマーの認定を受けると、無利息で農業改良資金の融資を受けられるなど営農面でのメリットが得られます。「エコファーマーマーク」の表示も許諾されるため、環境保全型農業に取り組む農家だというブランディングにも効果を発揮するでしょう。
認定で得られるメリットは、以下のとおりです。なお、エコファーマーの認定者が申請できる補助金制度を設けている自治体もあります。詳しくは、自治体や営農団体にご相談ください。
(1)農業改良資金の無利息融資
エコファーマーの認定計画に沿って持続性の高い農業生産方式を導入するための融資を、日本政策金融公庫から無利息で受けられます。融資限度額は個人の農家が5,000万円、法人だと1億5000万円です。認定計画に沿った内容であれば、融資を受けた資金を設備投資や品種転換など幅広い用途に活用できます。
(2)エコファーマーマークの使用許諾
地域によっては、エコファーマーの認定期間中に「エコファーマーマーク」の使用許諾を受けられる場合があります。農産物のパッケージをはじめチラシや名刺などに表示できるため、自身が環境に配慮した農家だということを仕向け先や消費者に対してアピールでき、知名度の向上にもつなげられるでしょう。
全国的な使用は終了しているため、以下の府県以外のエコファーマーがマークを使用すると商標侵害になる恐れがあるのでご注意ください。
茨城県・神奈川県・富山県・福井県・長野県・静岡県・京都府・鳥取県・島根県・香川県・沖縄県
循環型農業の実践実例
amosfal / PIXTA(ピクスタ)
地域の特性や農作物の種類によって、さまざまな形で循環型農業の実践が進んでいます。今回は、耕畜連携による循環型農業の実践事例を紹介します。
養鶏用飼料にモミ米を配合
茨城県の石岡地区では、JA新ひたち野と養鶏農家を営む株式会社小幡畜産が協働で循環型農業に取り組んでいます。水稲農家が栽培した飼料用米で養鶏を行い、養鶏で生じた鶏糞を堆肥化して翌年の飼料用米栽培に活用する循環が確立しているのが特徴です。
小幡畜産はJA新ひたち野管内で唯一の養鶏農家で、生協などにブランド卵「ひたち野穂の香卵」を供給しています。しかし、2007年頃に飼料用トウモロコシ価格が高騰して、経営への影響が問題化しました。同時期に、石岡市内の水稲農家では転作作物であるそば・麦の収量が大幅に低下しています。
農業経営の問題を解決するために、生協との関係が深い一般社団法人 日本販売農業協同組合が飼料用米を提案したのが、循環型農業がスタートしたきっかけでした。
飼料にモミ米を70%配合した結果、黄身の色は淡くなったものの栄養価はほかの卵と比べても遜色なく、従来と同等の品質が保たれています。飼料の調達価格の安定化につながっただけでなく、水稲農家にとっても安定した供給先が確保されるメリットが生まれました。
副次的効果として飼料や肥料を輸入する際のCO2を抑制できており、SDGsの目標の一つである気候変動の対策が実践できています。農家間のコミュニティーが確立して、地域の活性化にもつながっています。
出典:農林水産省関東農政局「採卵養鶏における取組み事例~飼料用モミ米70%配合~ひたち野穂の香卵販売~」
堆肥によりブドウの減農薬・多収量栽培を実現
田舎の写真屋 / PIXTA(ピクスタ)
岡山県高梁市のみとまファームでは、堆肥を使って「桃太郎ぶどう」をはじめとする50品種以上のブドウを栽培しています。循環型農業という考え方が生まれる前から堆肥の施用を実践しており、土壌環境によって堆肥量を調整して多肥状態を防いでいます。
高梁市堆肥供給センターから調達した種堆肥に、市内の肉用牛肥育経営農家から入手した家畜の糞をブレンドし、1年がかりで調製した堆肥を使用しています。
堆肥を使ったブドウ栽培の結果、慣行栽培と比べ1.5倍の収量と食味の良さが実現できています。農薬の散布回数が少なくてすみ、減農薬だけでなく農作業の省力化にもつながっています。
なお、高梁市では2010年3月に「高梁市バイオマスタウン構想」を公表しており、地域で発生した家畜の糞や食品の残さ・剪定枝などから堆肥を作る取り組みが進んでいます。地域の有機資源を活用して果樹の付加価値向上につなげられるのも、循環型農業ならではのメリットといえるでしょう。
出典:一般財団法人畜産環境整備機構「畜産環境技術情報|耕畜連携事例」所収「耕畜連携|家畜ふんたい肥だけの施用で美味しいブドウの減農薬・多収量栽培について」
循環型農業は環境への配慮だけでなく、農作物の付加価値を高める取り組みとしても有効です。廃棄物などを堆肥として再活用する仕組みを通じて、地域ぐるみでSDGsの目標達成にも協力できます。同時に、施用する化学肥料や農薬の厳選にもつながるでしょう。
また、エコファーマーの認定を受けると日本政策金融公庫から農業改良資金の無利息融資を受けられるなど、経営面でもメリットが生まれます。持続性の高い農業経営を目指して、循環型農業への取り組みを検討してはいかがでしょうか。
記事をお気に入り登録する
minorasuをご覧いただきありがとうございます。
簡単なアンケートにご協力ください。(全1問)
あなたの農業に対しての関わり方を教えてください。
ご回答ありがとうございました。
お客様のご回答をminorasuのサービス向上のためにご利用させていただきます。
舟根大
医療・福祉業界を中心に「人を大切にする人事・労務サポート」を幅広く提供する社会保険労務士。起業・経営・6次産業化をはじめ、執筆分野は多岐にわたる。座右の銘は「道なき道を切り拓く」。