【需要が拡大する中玉トマト】人気の品種と安定生産のための栽培管理を徹底解説
大玉トマトとミニトマトの中間サイズである中玉トマトは、実つきがよく育てやすいという特徴があり、消費者の健康志向を背景に需要が拡大しています。この記事では、中玉トマトの主な品種や水耕・土耕の違い、安定生産のための基本的な栽培管理、付加価値を高める ための取り組み例などを紹介します。
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近年、日本人の世帯人数が減少傾向にあることから、大玉トマトよりも中玉トマトのニーズが高まっているといわれています。さらに市場では、一般的なトマトと高付加価値を持つ高単価なトマトの二極分化が進んでいます。
中玉トマトの需要動向
まずは、需要が高まっている中玉トマトの動向について解説します。
中玉トマトとは? 「ミディトマト」?
mao / PIXTA(ピクスタ)
中玉種トマトのことを総称して「ミディトマト」と呼びます。大玉種とミニトマトをかけ合わせて作られた品種で、さまざまな種類があります。1個当たりのサイズは50g前後です。
また、「フルーツトマト」と呼ばれる品種にも中玉があります。栽培方法の工夫で糖度を高めたトマトになり、中玉以外にも、大玉やミニトマトがあります。
中玉トマトの需要は増えている?
トマトの収穫量・出荷量に関して、サイズ別の統計は出ていませんが、中玉で糖度の高いトマトの需要は増えているといわれています。なぜなら、中玉トマトは単位重量当たりの栄養価が、大玉トマトよりも高いため、健康志向の消費者に注目されているからです。
中玉トマトを栽培するならサイズプラス特徴を
トマトの市場は、一般商品と高付加価値商品の二極化が進んでいます。そのため、低価格で大量生産をするか、高価格でもお客さまに支持される付加価値の高いトマトを栽培するかを選ぶ必要があります。
また、どんなトマトを栽培するにしてもサイズを検討する必要があります。高価格のトマトを栽培する場合は、どんな付加価値を付けるかまで検討することも大事です。
RewSite / PIXTA(ピクスタ)
中玉トマトの代表的な産地とブランド
中玉トマト(ミディトマト)の代表的な産地とブランドしては、次の3つが挙げられます。
●福井県の「越のルビー」(品種名:同じ、福井県)
●静岡県のJA遠州夢咲の「トムトムトマト」(品種名:レッドオーレ、カネコ種苗株式会社)
●茨城県や佐賀県の「華クイン」(品種名:同じ、福井シード株式会社)
中玉トマトの代表的な産地とブランド
主な産地 | 果実重 | 糖度 | |
---|---|---|---|
越のルビー | 福井県 | 40~50g | 7程度 |
トムトムトマト | 静岡県 | 35~45g | 7~8 |
華クイン | 佐賀県、茨城県など | 20~30g | 7~9 |
プロ農家向け|中玉トマトの栽培管理
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プロ農家向けの中玉トマト「シンディースイート」と「フルティカ」の栽培管理について解説します。
「シンディースイート」栽培のポイント
「シンディースイート」は、中玉品種の代表格です。甘酸のバランスがよく、味が濃厚で、色まわりなどの外観も優れているのが特徴です。
特性
萎凋病やToMV(Tm-2a型)、斑点病への抵抗性、根腐萎凋病や葉かび病への耐病性、ネマトーダへの耐虫性があります。また、草勢は中程度でやや節間が伸び、裂果の発生は少なく、上物率が高くなっています。
果実は35~40gで、1花房当たり10~15果程度、着果します。果実はテリがあり、果色が鮮やか。甘みと酸味のバランスがよく、食味は極良となっています。下段はシングル花房で、上段からダブル花房となり、全体として多収です。
整枝・誘引
草勢は、初期がややおとなしく、早生で着果性がよいのも特徴です。そのため、やや早めの灌水、追肥により樹勢の維持を心がけます。節間はやや伸びるので、長段栽培では1本仕立ての斜め誘引で整枝を行います。
灌水管理
他の中玉品種の場合、灌水・追肥が多いと草勢が強くなりすぎて過繁茂になり、果実の品質と収量が落ちる傾向があります。一方でシンディースイートは、積極的に灌水、追肥を行ったほうが収量アップにつながります。
収穫・出荷
シンディースイートで高利益を上げるには、市場へのトマト出荷量が減り、高単価で納品できる時期に出荷を増やすとよいでしょう。シンディースイートは裂果の発生が少ないため、夏期の草勢管理を調整すると、納品額が上がりやすくなります。
「フルティカ」栽培のポイント
中玉トマト フルティカ
出典:株式会社PR TIMES(タキイ種苗株式会社 ニュースリリース 2015年10月8日)
「フルティカ」は、中玉トマトの中でもとても甘い品種です。
特性
トマトモザイクウイルスや葉かび病、斑点病、サツマイモネコブ線虫への耐病害虫性を持っています。
果実の大きさは約50gで、ゴルフボールよりやや小さいサイズです。裂果が少ないことから、露地栽培でも栽培しやすくなっています。
中玉トマトの中でもとても甘い品種で、糖度は8度程度ですが、数値以上に甘く感じ、酸味が少なめです。皮は薄めで弾力性があり、トマト特有のプチッとする感覚は少なくなっています。
整枝・誘引
わき芽は生長の妨げになるので、すべて摘み取ります。それから支柱を1本立てて、ひもで誘引します。支柱の長さは180cm以上の長いものが必要です。
茎を支柱に誘引するときは、ひもを8の字の形にして、茎に食い込まないように、少し余裕を持たせて支柱と茎を結びつけます。支柱の先端まで茎が伸びてしまったら、茎の先端を切ります。
灌水管理
灌水は一般的に朝昼が適していますが、この品種は特に時間帯を気にしなくても大丈夫です。土の表面が乾いたら、その都度水を与えます。
ただし、灌水回数が多すぎたり、長雨が続いたりすると裂果が起きやすくなります。水の与えすぎには気をつけましょう。
収穫・出荷
緑色から赤色に完熟した実から収穫します。収穫が遅れて過熟になると、裂果しやすくなります。また、実が柔らかくなって味が落ちます。収穫する前日から灌水量を少なくすると、甘みがより強くなります。
中玉トマト産地化の注目事例
中玉トマト産地化の注目事例として、福井県の「越のルビー」、北杜市(山梨県)の中玉トマトについて解説します
中玉トマト「越のルビー」のブランド化に取り組む福井県
福井県産の「越のルビー」
出典:ソーシャルワイヤー株式会社(株式会社ハチバン プレスリリース 2021年8月2日)
「越のルビー」は、福井県で育種開発された人気の品種です。 サイズは中玉で、果実重が40~50g、糖度は7程度で、甘みが強いのが特長です。
越のルビーが誕生したのは1989年でした。福井県立短期大学(現在の福井県立大学)でバイオテクノロジーを用いて開発され、試作を重ねて1992年にトマトの新品種として登録されました。
越のルビーという名前の名付け親は、福井県出身の芥川賞作家・津村節子さんです。真っ赤に完熟した様子を見て、「越の国(越前)で作られたルビーのようなトマトだ!」と思い、この名前をつけたそうです。糖度が非常に高く、ビタミンCは大玉トマトの2倍もあります。
企業の農業参入&大規模施設園芸で中玉トマトの産地となった北杜市
山梨県は遊休農地などの利活用のため、2000年代から、大型施設園芸への企業参入を推進してきました。特に参入企業が多いのが県北西部の北杜市です。
参入企業は、セミクローズド型の大型施設を導入し、トマト、ミニトマト、パプリカなどを生産しています。また「北杜市農業企業コンソーシアム」を形成し、大型施設園芸における共通課題に連携して取り組んでいます。
北杜市農業企業コンソーシアム
なかでも特に注目されているのが、中玉トマトの反収の高さです。
例えば「北杜市農業企業コンソーシアム」の中心企業「有限会社アグリマインド」では、セミクローズド温室での精緻な環境制御によって、その収量は、全国平均の約10倍、10a当たり65~75tです。
有限会社アグリマインド 明野菜園
shiryu01 - stock.adobe.com
手頃なサイズと高い栄養価で消費者の人気が高まる中玉トマト。さらに付加価値を高めてブランド化に成功すれば、ヒット商品にすることも夢ではありません。本記事を、どんなサイズのトマトを栽培するか、どんな付加価値を与えるかの参考にしてください。
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山崎 修
学習院大学理学部化学科卒、平凡社雑誌部勤務を経て独立し、現在は書籍・雑誌編集者、取材ライター。主戦場は書籍のゴーストライティングで常時5、6冊の仕事を抱えており、制作に関与した書籍・雑誌は合計で500冊を超える。ほかにもメルマガの書評連載から講演活動、1人出版社としての活動まで守備範囲は広い。