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人材募集だけではない、農業経営を支援する「農mers」で経営力を高める
出典 : 農mersホームページ
  • 農業経営

人材募集だけではない、農業経営を支援する「農mers」で経営力を高める

農業経営者の悩みの1つが人材募集です。経営拡大のために意欲ある優秀な社員を求めているが定着しない、その一方で農繁期のみの人手募集も不可欠。そういった募集のわずらわしさを解決するアプリとして、今急速に登録者数を増やしているのが、農業人材の募集、応募に特化したマッチングアプリ「農mers」です。

農業メディア運営から生まれた「農mers」開発プロジェクト

農家の声を聞いて生まれた「農mers」

農家の声を聞いて生まれた「農mers」
画像提供:週末畑.com(株式会社 A-flat 運営)Youtubeチャンネル 「農mers」CM動画より

「農mers」は、農業に特化した人材マッチングアプリです。

農業メディアとして代表的なウェブサイト「マイナビ農業」を運営する、株式会社マイナビ農業活性事業部が開発・運用しています。

マイナビ農業では、農業の最新ニュースや先進事例をメディアで紹介するだけでなく、就農フェスや就農座談会、地域おこしのクラウドファンディングなど、就農や地域農業に関係したさまざまな取り組みを行っています。

マイナビ農業ホームぺージ

こうした取り組みや取材を通して農業経営者の声を聞くと、採用についての課題が浮き彫りになりました。そこで「農業経営者に、より気軽に、より柔軟に人材を採用できるツールを提供できないか」と始まったのが、農業に特化した人材マッチングアプリ「農mers」の開発プロジェクトです。

今回は、株式会社マイナビ 農業活性事業部の事業部長 池本博則(いけもと・ひろのり)さんにお話を伺いました。

農業経営者が採用にかける労力とミスマッチのリスクを減らすために

これまで農業経営者が人材を募集する方法としては、知り合いの伝手を頼るか、JAやハローワークを活用するのが主な選択肢でした。そうした方法と「農mers」は何が違うのでしょうか。

株式会社マイナビ 農業活性事業部の事業部長 池本博則(いけもと・ひろのり)さん(以下役職・敬称略)「農mers」の大きな特徴は、募集側と応募側をダイレクトにつなぐことです。そして、そのコンセプトは、農業経営者の採用にかける時間と労力の軽減にあります。

「農mers」の特色や使い方は、PCのホームページからもチェックできる

「農mers」の特色や使い方は、ホームページからもチェックできる
画像提供:「農mers」ホームぺージ

農業経営者が採用にかける時間と労力を軽減するためのアプリ。その特色は大きく3つあると池本さんはいいます。

特色1. 最大の特色は「手軽さ」。募集と応募のハードルを下げる

池本 1つめの特色は、手軽さです。「農mers」は無料アプリで、スマートフォンさえ持っていれば誰でもダウンロードして使用することが可能です。登録料や会費などは一切設けていないので、募集側も応募側も気軽に登録することができます。

「いくら募集しても人が集まらない」という声も、農業経営者に取材していく中でよく耳にしたという池本さん。そうした声から農業人口の減少を実感する一方で、若者の農業に対する興味はむしろ高くなっているのではないかと見ています。

実際、新規就農者数が10年で約6.7万人から約5.6万人に減少する中、49歳以下の新規就農者数は、約1.8~2万前後、割合では35%前後で推移しています。

新規就農者数推移

出典:農林水産省「新規就農者調査」各年確報よりminorasu編集部作成

池本 募集する側の「人が集まらない」という悩みと、農業に興味のある人を結び付けるには、何よりも応募のハードルを下げ、アプリのユーザー数を増やすことが重要だと考えました。そして無料アプリの開発に至ったのです。

特色2. ミスマッチのリスクを減らす「農業スキル」のチェック機能

池本 2つめの特色は「農スキル」というチェック項目を設けたことです。これまでのような面接重視の募集方法だと、実際に会って話を聞くまでは、その応募者がどのような農業経験や技術を持っている人なのかがわかりませんでした。

応募者に会ったあげく求めている条件に合致しなければ、再び募集をやり直すという時間と手間をかけることになります。

このことが「募集をかけるのが面倒」という農業経営者側の意見につながっていたと考えました。

そこで「農mers」は、農業経営者側が、事前に応募者のスキルを確認・選別できるようにしました。応募者が、どのような農業スキルや経験を備え、働くうえでどのような希望を持っているかといった情報を見える化したのです。

「農スキル」のチェックで、経営者が依頼する仕事と応募者のスキルをマッチングできる

「農スキル」のチェックで、経営者が依頼する仕事と応募者のスキルをマッチングできる
画像提供:マイナビ農業「農業の新しい働き方をつくるスマホアプリ『農mers』本格始動」

特色3. 面接前に応募者とチャットで直接やりとり。さらにリスクを減らす

池本 3つめの特色は、条件に見合った応募者とチャットで直接やりとりができる点です。就労条件などの細かな情報のやりとりができるため、面接時や採用後の話の食い違いを回避したうえで、採用を決定することができます。

ダイレクトなやりとりでミスマッチを防ぐ「農mers」の採用フロー

ダイレクトなやりとりでミスマッチを防ぐ「農mers」の採用フロー
画像提供:マイナビ農業「農業の新しい働き方をつくるスマホアプリ『農mers』本格始動」

3つの特色の活用が、農業経営者の採用にかける時間と労力を軽減

あいだに仲介業者を入れず、伝えたい意志をダイレクトに伝えることができる点は、確かに募集側、応募側の双方の納得度を高め、「ミスマッチ採用」→「再募集」という非効率を回避できる可能性が高まりそうです。

池本 こうした3つの特色を活用すれば、働き手が必要になったときから、実際に採用して働いてもらうまでの時間を大きく短縮することができるはずです。

それがこのアプリの大きなメリットであり、農業経営者側にとっては採用にかける時間と労力の短縮という価値を生むと考えています。

「農mers」のホームぺージ
マイナビ農業「農業の新しい働き方をつくるスマホアプリ『農mers』本格始動」

経営状況にあわせて「農mers」を上手に使ってほしい

農繁期の急な働き手募集に活用できる

池本 農業経営者が人材募集をする場合、ほかの業界とは異なり、農繁期と農閑期では必要リソースが大きく異なるという問題があります。

働き手が必要な時期は限られていて、その時期にはすぐにでも働き手がほしい。しかし、通年では雇用できないというニーズです。

「農mers」は、こうした農業独特の変則的な採用ニーズにも十分に応えることができると思います。

例えば、「来週から2週間、取り扱いが難しい果実の収穫、箱詰め、出荷の作業が集中するが、急遽欠員が出て3人必要になった」といったニーズがあったとします。

そこから仲介業者に相談して募集をかけても通常は間に合いませんが、「農mers」ならそれが可能なのです。しかも、栽培している果樹の取り扱い経験やスキルがある人材を絞り込んで探すことができます。

登録している経営者の方からも「募集したら、条件に見合う人がすぐに来てくれて助かった」といった声をいくつもいただいており、開発者の私自身も、今までにないスピーディかつ細やかな人材採用を実現するこのアプリの効果を実感しているところです。

登録者数が急激に伸びる中で、より多様な人材募集が可能に

こうした数々のメリットもあり、「農mers」に登録する農業経営者や働き手の方が急速に増えているそうです。現在はどのくらいの登録者数なのでしょう。

池本 働きたい人の登録数でいえば、2020年3月は約1,700人でしたが、2021年3月になると約13,500人と、10倍に迫る勢いで増えています。農業経営者の方は、2020年3月で約700人だったのに対し、2021年3月は3,000人と、こちらも登録数が急激に増えています。

働きたい人の登録数が増大したということは、農業経営者にとっては、より多様なスキルや経験を備えた働き手を探しやすくなったということです。

また、募集をかける農業経営者の登録が増えれば、働きたい人にとってはそれだけ応募の機会が増えることになります。

働きたい人の登録数は、今後いっそうの増加を見込んでおり、農業経営者にとっての使い勝手が高まっていくと考えています。

スカウト機能で、6次産業化のブレーン募集も

「農mers」は、このような臨時の働き手募集に使えるだけでなく、ブレーンになるような優秀な社員やスタッフを採用する際にも役立てることができるそうです。

池本 「農mers」にはスカウト機能があります。これは単に採用情報を出して応募を待つのではなく、募集側が求めたい人材を検索し、登録者を直接スカウトできるという機能です。

例えば、6次産業化に興味があるが、その知識もノウハウも持たない農業経営者がいるとします。しかし専門のコンサルタントやコーディネーターに依頼する資金はなく、失敗のリスクも避けたい。できれば長い期間働いてもらって作物の特色を知ってもらい、6次産業化を一緒に考えてくれるパートナーがほしい。

そうした要望を公表して募集をかけることもできますし、それらの経験や知識を持った人材を検索し、一緒に働かないかとチャット上でスカウトをかけることもできます。

これは、積極的に事業展開、事業拡大を図ろうとする農業経営者にとっては、優秀な人材を確保する心強い経営ツールになるかもしれません。

池本 今後は、6次産業化だけでなく、自身の農業経営を継承してくれる資質を持った人材や経営感覚のある人材を探し、採用するといった利用も高まってくるかもしれません。

スカウト機能は、日本の農業を持続発展させる次の担い手を育成するうえで欠かせない機能だと考えています。

質の高い応募者を数多く集めるためのポイント

しかし、農業経営者が自らハンドリングして募集をかけるというシステムは、手軽で自由という利点もありますが、その反面、募集効果は農業経営者自身の手腕や工夫によって左右されるという点も考慮に入れなければなりません。

そうした意味で、質の高い応募者を数多く集めるにはどのような点に注意すべきかを伺いました。

一般企業と同様、企業としてのビジョンやキャリアパスを丁寧に誠実に

池本 もし、就農以前に一般企業に在籍していた農業経営者であれば、どのような会社に人が集まるかを考えてみるのも1つの手だと思います。

すなわち、一般企業の経営者の立場になって採用広報を考えてみるということです。どの会社も企業理念や経営目標に対する共感を訴え、業務内容や雇用条件、採用後の働きがいや成長環境、キャリアの広がり、将来性などを丁寧かつ誠実に説明しています。

独立のためのキャリアパスを示して、より優秀な人材にアプローチ

池本 応募者の中には人手として参加して気軽に農業体験したいという人も含まれていますが、スキルを学んでいずれは自分で農場を経営できるようになりたいと考えている人もおり、優秀な人材ほどその傾向は強くなります。

そうした登録者に向けて「意欲のある人には独り立ちできるように指導していきます」といったメッセージを投げ、募集効果を上げている農業経営者もいます。

採用を成功させるには、企業経営者として誠実に応募者と向き合うことが重要と語る 株式会社マイナビ 池本氏

採用を成功させるには、企業経営者として誠実に応募者と向き合うことが重要と語る池本氏
写真提供:株式会社マイナビ

若手経営者には、経営力アップの裏ワザも

ヒト・モノ・カネの経営資源の中でもヒトに特化して役立てられる「農mers」ですが、少しでも資金を得て経営安定化を図りたい若手経営者ならではの使い方があるそうです。

農閑期を利用して、農繁期の農家で経営資金を稼ぐ

池本 それは自身も働き手となって登録し、ほかの農家で働いて資金を得るという使い方です。地域によって季節の到来が異なる日本では、農繁期もずれて訪れます。

自身が農繁期を終えて余裕・余力があるのであれば、農繁期を迎える地域の農家へ行って稼ぎ、経営資金を補充するという手もあります。

これはただ資金を稼ぐというだけでなく、ほかの農業経営者と助け合いのネットワークを形成するという意味があり、行動する価値はあると思います。

ベテラン経営者のもとで、栽培と経営を体系的に学ぶ

池本 また、品質や収量を上げたいと思っている作物や、新たにチャレンジしたい作物を栽培しているベテラン経営者のもとへ応募し、チャットで交渉したうえで、そのノウハウを学びながら資金を稼ぐという方法もあります。

農業経営者の仕事は、ともすれば孤独な作業になりがちなことが多く、若くて経験の少ない方の場合はその傾向が強いようです。

まだ若くて余力のあるうちにベテラン経営者のもとへ働きに出れば、よりよい栽培方法や経営手腕を学べますし、人的ネットワークも少しずつできてきます。

いつ、どこで、誰から何を学ぶべきか、計画を立てて複数の農業経営者からノウハウを吸収すれば、栽培体系や経営体制の早期確立に役立つと思います。

農業のプロフェッショナル「フリー農家」として腕を磨く

池本さんはこのように語る一方、これまでにないスタイルの就農者が今後増えてくるかもしれないと語ります。

池本 それが、フリーランスで農業を営む「フリー農家」です。よくクリエイティブ関連業界、IT業界ではフリーランスで活躍し、さまざまな企業の案件を請け負うプロフェッショナルがいますよね。

同じように、農業でも多様な働き方やスタイルが出てきてもいいのではないかと思います。「フリー農家」はそのうちの一つで、農地を持たず、自身の農業スキルを武器に、さまざまな農園で活躍する農業プロフェッショナルのことです。

そうすれば、まず農地を買う、借りるという資金的なリスクを減らしながら、農業スキルを高めていくことができます。

そうしてさまざまな地域で農業ビジネスを経験し、スキルを磨いていきながら、いずれは自分の農地を持つ、あるいはよい縁があれば既存の農家から事業を受け継ぐという方法です。

「農mers」が普及することで、そのような「フリー農家」が増え、農業の活性化につながればと考えています。

「農mers」は優秀な後継者育成の土壌を生み出そうとしている

働き手不足の解消だけでなく、「農mers」は優秀な後継者育成の土壌を生み出そうとしている
画像提供:マイナビ農業「農業の新しい働き方をつくるスマホアプリ『農mers』本格始動」

ビジネス志向が強い農業経営者の事業ニーズに応えるアプリへ

今までにない農業スタイルで、日本の農業を活性化する力を秘めた「農mers」。今後のサービス開発についても伺ってみました。

池本 現在のアプリでも、単なる人手ではなく、次の農業を背負って立つような人材を募ることは可能ですが、その機能をいっそう高めたアプリ開発を進めているところです。

ビジネス志向が強い農業経営者に向け、より優秀な人材を募りやすく、経営拡大に活かすことができるようなマッチングアプリを出したいと考えています。

農業に特化した人材マッチングサービスは複数あり、その中でも「農mers」は、農家と応募者を直接つなぐという特色で語られることが多いアプリです。

その基盤には、次世代の農業を担う「農業経営者」に優秀な人材を見出してほしい、そして、そこからまた優秀な「農業経営者」に育ってほしい、という大きな構想があります。

単に農業に特化した便利な人材募集アプリということではなく、産業として持続できる農業という思想のもとに開発されたアプリという点で、注目に値するのではないでしょうか。

松崎博海

松崎博海

2000年より執筆に携わり、2010年からフリーランスのコピーライターとして活動を開始。メーカー・教育・新卒採用・不動産等の分野を中心に、企業や大学の広報ツールの執筆、ブランディングコミュニケーション開発に従事する。宣伝会議協賛企業賞、オレンジページ広告大賞を受賞。

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