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【食品ロス問題】海外の現状と取り組みから学ぶ、今日本の農家にできること
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  • 農業経営

【食品ロス問題】海外の現状と取り組みから学ぶ、今日本の農家にできること

食品ロスの削減は、日本だけに限らず世界中で取り組むべき課題です。農家は食料を作り出す生産者、そして消費者としての両面から、この課題と対峙しています。この記事では、特に生産者は食品ロスの削減にどう取り組むべきか、世界の事例をもとに考えます。

食品ロスに対する関心が世界的に高まっています。日本は先進国の1つとして、率先してこの問題への取り組みを推進しています。海外における食品ロスの定義や現状をまとめ、事例を挙げながら、生産者としてできる具体的な取り組みを紹介します。

食品廃棄物の発生量から見る、世界における食品ロスの現状

国際連合食糧農業機関(FAO)

butenkow/ PIXTA(ピクスタ)

食品ロスは世界中で取り組むべき課題の1つです。国際連合食糧農業機関(以下、FAO)でも、「世界食糧農業白書 2019年報告」で食品ロス問題を大きく取り上げ、削減に向けた取り組みを求めています。

また、2015年の国連サミットで「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択され、2030年までに達成をめざす「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」が掲げられました。

この中にも、食品ロス・廃棄の削減が盛り込まれています。

Target 12.3
2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる

Target 12.5
2030年までに廃棄物の発生防止、削減、再生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する

SDGs GOALS

出典:国際連合広報センター

このように、国連においても重要な課題とされている食品ロス問題について、世界と日本の現状を見てみましょう。

日本の食品ロス発生量の推計には、生産段階が含まれていない

日本では、食品ロスとは「食べられる食品なのに廃棄されるもの」を表します。小売店・飲食店までの間で発生する「事業系食品ロス」と、家庭で食べられずに廃棄される「家庭系食品ロス」の2つを合わせた総称です。

なお、日本の食品ロス発生量の推計のなかに、市場に出ることなく農場で廃棄された作物などは含まれていません

一方、FAOの白書など、国際的には英語で「Food Losses and Food Waste」と表記され、「食料のロスと廃棄」と和訳されます。

FAOの「食料のロスと廃棄」の対象範囲

「ロス」は、サプライチェーンにおける生産から小売の直前までに発生する損失を意味し、農場での生産・収穫後の取扱と貯蔵の段階で廃棄される作物も含みます。「廃棄」は小売店や消費者段階での廃棄を意味します。

日本の食品ロスの現状

国による食品ロス発生量の推計 グラフ

出典:農林水産省「食品ロス及びリサイクルをめぐる情勢(令和3年8月時点版)」よりminorasu編集部作成

2018年度の食品ロスは総量で約600万トン、うち事業系が約324万トン、家庭系が276万トンと推計されています。国民1人当たりで見ると1⽇で約130g、年間では1⼈当たりの年間の⽶消費量(約54kg)に近い約47kgが廃棄されていることになります。

出典:農林水産省「食品ロス及びリサイクルをめぐる情勢(令和3年8月時点版)」

2011年にFAOがまとめた、「毎年世界の食料のおよそ3分の1が損失・廃棄されている」という非常におおまかな推計がいまだに使われているほど、食品ロスの世界的実情は把握できていないのです。

同じ食品ロスでも、先進国と開発途上国ではその原因に違いが

先進国の食品ロス・廃棄は小売り・消費段階が中心

SophyPhotos - stock.adobe.com

食品ロス発生率の高い地域には、中央アジア・南アジアや北アメリカ・ヨーロッパ、サハラ以南アフリカなどが挙げられます。

国際農林業協働協会(JAICAF)「世界食料農業白書 2019年報告」

食品ロスが多い理由は、各国の事情によって異なります。日本を含む先進国では、サプライチェーンにおける小売段階以降である小売り店舗、および消費者による食品廃棄が多く発生していると考えられています。

一方、開発途上国の場合は栽培技術の未熟さから、実った作物を収穫できないままダメにしたり、不適切な収穫方法や管理・保存によって、生産段階や貯蔵・輸送中に腐らせたりするなどして、甚大な損失が生じるケースが多いと考えられます。

食品ロス削減のためには、それぞれの国の原因に応じた適切なアプローチが大切です。

開発途上国の食品ロス・廃棄は生産段階が中心

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解決策はある?食品ロスに対する海外の取り組み事例

世界の先進諸国での取り組み事例を見ながら、食品ロスの解決策を探りましょう。

消費期限が近い食材を「消費者が価格を決めて購入」するスーパー(オーストラリア)

オーストラリアでは、2017年で食品の廃棄に年間200億ドル(約2,100億円)の費用がかかっており、400万トンの食料が捨てられています。

その中で、食糧問題の解決に取り組む慈善事業団体がシドニーに設立したのが、「OzHarvest Market(オズハーベストマーケット)」です。

この店では、消費期限が近づいた食品や生鮮品など、食べられるのに廃棄されそうな食品ばかりを扱っています。しかも、この店の商品には値札が付いていません。お客さんが商品の値段を決めて買うシステムなのです。

店舗の運営はボランティアで行われ、売上金はその活動資金に充てられます。売り上げを追及するのは難しい仕組みですが、慈善事業として行うことは、食品ロス問題への関心を高めるうえで効果的です。

OzHarvestのホームページ
OzHarvest Market のページ

消費期限がプリントされた卵

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規格外野菜を格安で販売、自宅まで配送もしてくれるサービス(アメリカ)

アメリカでも食品ロス問題はとても深刻です。特に品質には問題ないのに、見た目で規格から外れて廃棄されてしまう野菜が、栽培される野菜の20%以上になるともいわれます。

「Imperfect Foods(インパーフェクト・フーズ)」は、そのような規格外の野菜や果物を農家から買い取り、スーパーでの販売価格の約30~50%引きという格安価格でオンライン販売し、自宅まで配送するサービスです。

創設者のBen Simonさんは、大学時代に廃棄される食べ物の存在を知り、余った野菜をシェルターに寄贈するボランティア活動などを経て、2015年にImperfect Produceをスタートしました。

以来、食品として販売した「規格外」の野菜や果物は7000万ポンドにもなります。

Imperfect Foodsのホームページ

規格外の野菜

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廃棄予定食材を調理して、地元の人々へ提供するレストラン(イタリア)

イタリアでは、年間約1,080億円の食品が食べられずに廃棄されています。

そんなイタリアのミラノで、シェフのMassimo Bottura(マッシモ・ボットゥーラ)さんが腕を振るうレストラン「Refettorio Ambrosiano(アンブロジウスのレフェットリオ)」は、賞味期限間近や見た目の問題で廃棄されるはずだった食材を使って、料理を作り提供しています。

Botturaさんは2015年のミラノ万国博覧会で初めて、食べられるのに廃棄されてしまう食材を使って調理したメニューを提供しました。それ以来、周囲のサポートを得てレストランを開業し、多くの廃棄直前の食材から見事な料理を生み出してきました。

多くのシェフ仲間とともに新たなレシピを日々生み出しつつ、食品ロス・廃棄の削減に取り組むことの大切さを提唱しています。

Refettorio Ambrosianoのホームページ

余った食料をユーザー同士で「おすそわけ」できるアプリ(イギリス)

イギリスの農家に生まれたTessa Cook(テッサ・クック)さんは、Saasha Celestial-One(サーシャ・セレスチアル-ワン)さんと一緒に、食料を譲りたい人と食料を必要としている人を結びつけるアプリ「OLIO(オリオ)」を開発しました。

ユーザーは、一般消費者と農家・企業・食品店・地域コミュニティなどで、食料を譲りたいユーザーが「OLIO」に食料の画像をアップし、譲渡の場所や日時を入力します。

その情報は誰でも閲覧でき、欲しい食料があったら情報提供者に連絡を取り、実際に譲渡を行います。

このアプリによって、多くの食料を必要とする人たちが救われたほか、廃棄されるかもしれなかった食料を有効利用することができました。2021年6月時点で、360万以上のユーザー、7万人以上の「Food Waste Hero」(ボランティア)を得ており、イギリスのほか、スウェーデンとアメリカでも人気のアプリです。

OLIOのホームページ

日本にもある!今すぐできる食品ロス対策と、今後の課題

日本にも、食品ロスの現状に危機感を抱き、削減に向けて積極的な取り組みを行う人たちがいます。最後に、日本国内の取り組み事例を紹介します。

行き場のなくなった食べ物を必要な人へ届ける「フードバンク」活動

フードバンクで活動するボランティア

ufabizphoto / PIXTA(ピクスタ)

フードバンクとは

フードバンクとは、十分安全に食べられるのに、さまざまな理由で売ることができない食品を企業や生産者が寄贈し、食べ物を必要としている人々に無償で提供するシステムです。

世界的に注目され、1967年にアメリカで開始されて以来、徐々に広がっています。日本には2000年以降に設立が始まりましたが、その活動はあまり認知されていない状況です。

日本初のフードバンク

日本初のフードバンクである「認定NPO法人 セカンドハーベスト・ジャパン」をはじめ、農業法人が食品を寄贈できるサービスが日本にもあります。

食品を寄贈したい場合は、セカンドハーベスト・ジャパンのWebサイトから申し込み、寄贈が確定したら合意書を締結して当日の受け渡しとなります。

詳細は、セカンドハーベスト・ジャパンのホームページ支援の方法の「法人として食品寄贈をご検討の方へ」をお読みください。

税負担軽減にも!農家がフードバンクを活用するメリット

農家が、規格外などで販売先のない農産物を寄贈すれば、以下のメリットが得られます。

1.廃棄コストが軽減できる

農作物を廃棄するにもお金がかかりますが、フードバンクに提供すれば、その分費用負担が軽くなります。また、まだ食べられるものをゴミとして廃棄することへの心理的ダメージも避けられます。

2.社会貢献や地球環境への配慮でイメージアップが望める

貧困層への食糧援助という社会貢献と、農産物の大量廃棄による二酸化炭素の発生を抑える、という地球環境の負荷軽減への取り組みを戦略的にアピールすれば、イメージアップにつながります。

3.提供に要した費用は、全額損金として計上できるため税負担の軽減になる

提供のための発送や運搬・梱包などに要した費用は、損金として計上でき、その分税金が控除されます。

農林水産省の「平成 31 年度 持続可能な循環資源活用総合対策事業」において、公益財団法人流通経済研究所が実施した「フードバンク実態調査」の報告書によれば、フードバンクの約8割が農産物を取り扱っています。

日本では、フードバンクの活用を促す法整備も今後の課題に

日本でも、欧米と比べるとかなり遅れてはいるものの、少しずつフードバンクが広がりつつあります。とはいえ、欧米に比べるとかなり遅れています。さらに、フードバンクの取り組みを拡大するためには、国による法整備も必要です。

食品というデリケートなものを無料でやりとりするうえで、意図せぬ事故やトラブルに対する不安から、提供を躊躇する生産者もいるかもしれません。

アメリカのように、「寄贈した食品に関して意図しない事故があった際の責任を問わない」と明確にする法律を制定するなど、より気軽かつ積極的に寄贈できる仕組みづくりが、今後求められます。

セカンドハーベスト・ジャパンを手本に設立された名古屋の認定NPO法人のフードバンク「セカンドハーベスト名古屋」 ボランティアによる作業風景

セカンドハーベスト・ジャパンを手本に設立された名古屋の認定NPO法人のフードバンク「セカンドハーベスト名古屋」 ボランティアによる作業風景
出典:株式会社 PR TIMES(株式会社ジェイトップ ニュースリリース 2020年2月19日)

食品ロスはすべての国民が取り組むべき問題であり、生産者にしかできない取り組みもたくさんあります。生産者として積極的にフードバンクなどを利用し、食品ロス削減に向けて行動を起こしましょう。

大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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