【農業】コロナの影響は? 外国人技能実習生受け入れ制度の概要と、現状の課題
人手不足が叫ばれる日本の農業現場では、外国人技能実習生の重要性が増しています。ところが、コロナ禍で新たな技能実習生の受け入れが困難になり、人手を外国人技能実習制度に頼る農業の危うさが問われています。本記事では、同制度の概要や現状の課題について解説します。
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目次
外国人技能実習制度を利用する農家は年々増えています。本記事では、人手不足解消を狙って同制度を導入する場合のメリットや問題点、現状の課題などについて多角的に解説します。併せて、コロナ禍がもたらした同制度への影響などもご紹介します。
※2021年12月現在、「水際対策強化に係る新たな措置 」に基づき、農業の外国人技能実習生受入れの申請の受付、審査及び審査済証の交付は停止されています。必ず、農林水産省の農業分野における外国人の受入れについてのページの「入国制限の緩和に係る申請について」を確認してください。
海外から農業実習生を受け入れる、「外国人技能実習制度」とは
NOV/PIXTA(ピクスタ)
はじめに、農業分野における外国人技能実習制度の概要や目的について解説します。
農業分野における外国人技能実習制度の概要
外国人技能実習制度とは
外国人技能実習制度は、先進国である日本が発展途上国の青壮年労働者を「技能実習生」として受け入れ、実際の労働を通して各産業が持つ技術・技能・知識を習得させ、母国で産業の技術向上や経済発展に役立ててもらうという国際貢献を目的とした制度です。
制度自体は1993年に創設され、2000年からは農業分野にも適用されました。技能実習生は在留資格を「技能実習1号」から「技能実習3号」まで、より上位へ移行することによって、最長5年間日本に在留し実習できます。ただし、3年を超えて在留する場合は、1ヵ月以上の一時帰国をするなどの条件があります。
hamahiro / PIXTA(ピクスタ)・川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)
不適正な運用を防ぐ「技能実習法」の施行
国際貢献という目的の一方、実習生の労働力は、日本農業の深刻な人手不足を補うものとして期待されています。
しかし、農業分野に限らず、受入れ側が本来の目的をはき違え、技能実習生に対して労働関係法令などを守らなかったり、適切な生活環境を提供しなかったりといった不適正な事例があとを絶ちません。
そのような事態に対処するため、2017年11月から技能実習法が施行され、技能実習の適正な運用と技能実習生の保護がより強化されました。
同時に、農作業以外に農畜産物を使用した加工作業ができるようになったり、農協などの団体が実習実施者として技能実習生を通年で受け入れられるようになったりするなど、農業分野での労働の幅が広がりました。
技能実習生の受入れ体制
2021年現在、技能実習の受け入れの流れは、農業協同組合をはじめ事業協同組合などの非営利団体のうち、許可を得た「監理団体」が受け入れ、傘下の農業者や企業が技能実習を実施する「団体監理型」が主流です。
また「企業単独型」といって、送出国に支店や合弁企業、取引先企業がある日本の企業などが、それらの現地企業や支店を通して受け入れ技能実習を実施するケースもあります。
なお、監理団体の許可は、2017年に新たに設置された「外国人技能実習機構」が行います。同機構はほかにも、受け入れ企業を通して技能実習計画の認定や実習実施者の届出・調査・報告、技能実習生への相談・援助などを行っています。
日本の実習生受け入れ状況とその実態
農業分野の外国人労働者数は年々増え続け、2014年〜2019年の5年間で17,476人から35,513人と、ほぼ2倍に増加しています。そのほとんどは技能実習生で、いかに労働力として大きな役割を果たしているかがわかります。
出典:農林水産省「新たな外国人材の受入れのための在留資格「特定技能」について」所収の「農業分野における外国人材の受入れについて 」(農林水産省が、厚生労働省の「外国人雇用状況の届出状況」から特別集計したデータによる)
出典:農林水産省「農業分野における外国人材の受入れについて (令和3年7月)」内で農林水産省が、厚生労働省の「外国人雇用状況の届出状況」から特別集計したデータよりminorasu編集部作成
また、日本政策金融公庫が融資先の担い手農業者を対象に行った調査によると、担い手農業者の約11%が外国人技能実習生を受け入れており、「今後も増やしたい」と考えている農業者が45.9%を占めるとのことです。
同調査では、実習実施者は個人経営よりも法人のほうが多く、また、売り上げ規模の大きい経営体ほど技能実習生を受け入れる傾向にあることも示されています。
出典:株式会社 日本政策金融公庫 農業景況調査 特別設問「外国人技能実習生に関する調査結果(平成31年1月調査)」
出典:株式会社 日本政策金融公庫 農業景況調査 特別設問「外国人技能実習生に関する調査結果(平成31年1月調査)」よりminorasu編集部作成
実際に、法人として外国人技能実習生を多く受け入れている優良事例をご紹介します。
香川県で55haの農地にレタスやネギなどを栽培するN社では、2004年にインドネシアから技能実習生の受け入れを始めました。2019年時点で正社員4人、パートなど2人、技能実習生10人がともに働いています。
N社では、技能実習生の人事・昇給制度などの処遇は日本人正社員と同等で、実習3年目の女性実習生を作業部門の責任者に登用しています。社内での待遇だけでなく、技能実習生に地域行事への参加を促すなど、地域の中で人々と交流を持たせることにも積極的です。
こうした交流は技能実習生が母国に帰ってからも続き、元技能実習生がインドネシアで実習生の送出機関を立ち上げ、連携して技能実習生を受け入れています。
また、2012年には地域農家20戸とともに自ら監理団体を組織し、地域全体で技能実習制度を盛り立てています。N社は技能実習生を受け入れたことで、経営規模の拡大や労務管理の改善を実現し、受け入れ前の10倍もの販売高を達成したとのことです。
出典:農林水産省「農業の外国人技能実習生受入れの優良事例(平成31年3月現在)」
担い手不足を解消! 農家が外国人技能実習生を受け入れる最大のメリット
川村恵司 / PIXTA(ピクスタ)
日本の農業従事者数は減少の一途をたどり、高齢化率も上がる一方です。特に過疎化が進む地域では、地域全体の人手が足りないため、募集をかけても農作業に必要な人材が集まらないといいます。
農林業センサスの統計によれば、2015年の基幹的農業従事者は175.7万人で、2020年には136.3万人と、わずか5年で2割強も減っています。また、上記の農業従事者のうち、65歳以上の人数はそれぞれ114万人、94.9万人と6割以上を占めており、依然として高齢化が続いていることがわかります。
人手の絶対数が足りない地域は、外部から人を呼ぶしか人材確保の方法がありません。そこで、人材を確保し慢性的な労働力不足を解消する方法として、技能実習制度が注目されているのです。
ただし、忘れてはいけないのが、技能実習生は日本で農業の技術や知識を学び、数年後に母国に帰ってそれを活かすという目的で来日するのであり、決して安く使える労働力ではないということです。
前項でご紹介した香川県のN社のように、成功した企業や農業者の多くは、技能実習生を正社員と同等の待遇で迎えたり、地域に馴染むような活動をしたりしています。
そうした誠実な対応が技能実習生のモチベーションを上げ、結果的に販売高を受け入れ前の10倍に増やすほどの結果につながったと考えられます。
一方でデメリットも? 知っておくべきリスクと現状の課題
技能実習制度はメリットが多いものの、多くの課題を抱えており、うまくいかずに受け入れをやめてしまう農家もあります。では、技能実習生の受け入れにはどのようなデメリットが想定され、どのような注意が必要なのでしょうか。
実習生との円滑な意思疎通の実現や、環境の整備が課題に
出典:株式会社 日本政策金融公庫 農業景況調査 特別設問「外国人技能実習生に関する調査結果(平成31年1月調査)」よりminorasu編集部作成
既出の日本政策金融公庫の調査によると、実習生を受け入れる際の大きな課題についての設問に対し、「実習生の日本語の能力」が64.3%と最も多く挙げられています。
多忙の中、作業を指示し的確に覚えてもらうためには、ある程度の日本語能力が欠かせません。
実習生の日本語能力向上への対策として、例えば年2回の面談を行い、日本語の習得状況を評価して基本給に上乗せしたり、日本語の勉強会を開催したりしている農家もあります。
そのほかの課題としては、実習生の住む「宿舎整備」が53.3%、「技術水準に応じた賃金水準の確保」が34.1%と多く挙げられており、実習生への待遇や生活環境に課題を感じている農家の多さがわかります。
コロナ禍で浮き彫りになった、「入国できない」新たなリスクも
masa/PIXTA(ピクスタ)
昨今のコロナ禍により外国人の出入国が制限され、受け入れ予定だった技能実習生が来日できない状況が続いています。その一方で、これまで働いていた実習生が期限を迎えて帰国し、人手を失う農家も少なくありません。
農家によっては、期待していた労働力が確保できなくなり、やむなく生産規模を大幅に縮小したり、後作の栽培を諦めたりしたところもあります。人材派遣やハローワークを使ってどうにか人材を確保できた農家もありますが、過疎地域ではすぐに人を確保できないケースも生じています。
外国人実習生の労働力への依存は、このように何らかの理由で往来が制限された際、突然労働力が不足してしまうリスクを孕んでいます。その事実をコロナ禍は、多くの農家の面前に突きつけたといえます。
安定的な労働力確保のため、これからの農家に求められる工夫とは?
miio / PIXTA(ピクスタ)
コロナ禍であらわになった外国人実習生の受け入れリスクを解消するためには、より安定して外国人を雇用できるしくみの整備が求められます。
国は、人手不足が深刻な産業分野において即戦力となる外国人材を受け入れられるよう、2019年4月1日、新たな在留資格「特定技能」を施行しました。
しかし、技能実習制度をそのまま延長したような制度では、今回のような事態の根本的解決は望めず抜本的な政策が必要という声もあがりました。
人手不足解消を技能実習生に頼ってきた農家側も、日本人・外国人ともに働きやすい環境を整え、地域全体で新たな人材を受け入れる体制づくりが必要でしょう。外国人だけでなく日本人にも「ここで働きたい」と感じさせるような、人材に選ばれる環境づくりをすることが大切です。
また、スマート農業技術などを積極的に導入し、機械に任せられる作業は積極的に省力化するなど、人手に依存しすぎない作業工程の工夫も人手不足の軽減につながります。
hamahiro / PIXTA(ピクスタ)
外国人技能実習生の受け入れは、日本の農業にも多くのメリットをもたらし、今後も積極的な受け入れが予想されます。
一方、コロナ禍によって一時的な外国人材の雇用は、人手不足の根本的な解決にはならないという現実が浮き彫りとなりました。
農家自らが、人材問題を地域の行政や政府に発信していくことや、スマート農業の導入による効率化・省力化などに主体的に取り組むことが重要になってきています。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。