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【2022最新】栗の生産量ランキング!日本一の産地に学ぶ農業活性化の工夫

【2022最新】栗の生産量ランキング!日本一の産地に学ぶ農業活性化の工夫
出典 : taa / PIXTA(ピクスタ)

栗は北海道の一部から九州まで広く分布する果樹で、需要が高く、栽培品種も数多く開発されています。本記事では、栗の生産が盛んな都道府県をランキングで紹介するとともに、栗の品種や効率的な栽培方法など、栗の栽培を検討する際に役立つ情報をまとめました。

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2021年産栗の産地ランキングを見ると、ダントツの1位を誇っているのが茨城県です。そこで本記事では、特に茨城県に着目し、県内産地をより深く掘り下げ、栗の生産量を高めるための取り組みや独自の工夫、栗栽培を成功させるポイントについて解説します。

【2021年産】 栗の生産量はどこが多い? 都道府県別ランキングTOP10

収穫期の栗の園地

shimanto/PIXTA(ピクスタ)

栗の栽培に適した環境や栽培方法を知るためには、主要産地について調べることが重要です。そこでまずは、農林水産省が公表している令和3(2021)年の作況調査から、2021年産栗の収獲量の都道府県別ランキングを見てみましょう。1〜10位までは以下の結果となっています。

栗の収穫量ランキング(2021年産)

収穫量構成比出荷量結果樹面積
茨城県3,800t24.2%3,550t3,190ha
熊本県2,210t14.1%1,990t2,300ha
愛媛県1,300t8.3%1,090t2,030ha
岐阜県685t4.4%562t423ha
埼玉県581t3.7%491t581ha
宮崎県527t3.4%462t667ha
栃木県455t2.9%397t464ha
長野県451t2.9%439t235ha
兵庫県417t2.7%332t485ha
千葉県363t2.3%283t352ha
そのほか4,911t31.3%310t6,073ha
全国計15,700t100%12,800t16,800ha

出典:農林水産省「作物統計 作況調査(果樹)|令和3年産くりの結果樹面積、10a当たり収量、収穫量及び出荷量」よりminorasu編集部作成

栗の生産量第1位は茨城県で、収穫量は3,800t、結果樹面積は3,190ha、出荷量は3,550tと、いずれの項目においても全国で1位を占めています。中でも収穫量は、1県で国内全体の24%を占めるほどです。

次いで第2位にランクインしたのは熊本県で、収穫量2,210t、結果樹面積2,300ha、出荷量1,990tと、こちらも3つの項目で全国第2位を占めています。第3位の愛媛県も収穫量1,300t、結果樹面積2,030ha、出荷量1,090tとなっており、すべて第3位に位置します。

続いて収穫量の第4位には岐阜県の685t、そして第5位には埼玉県の581tがランクインしています。この上位5県で、栗の全国収穫量のうち5割以上を占めています。第6位以降は宮崎県・栃木県・長野県・兵庫県・千葉県と続きます。

上位にランクインした県から推測できるように、栗は比較的温暖な地域で、より多くの収量を上げやすい作物と言ってよいでしょう。

このランキングの上位3県である茨城県・熊本県・愛媛県は、いずれも結果樹面積・収穫量・出荷量で4位以下の県を大きく引き離しています。まさに三つ巴の状況で、この3県が日本における栗の主要産地であることは間違いありません。

特に第1位の茨城県については、生産量第1位にふさわしい、さまざまな取り組みを行っていますが、それはのちほど詳しくご紹介します。ここで注目したいのは、第8位にランクインしている長野県です。

長野県は、古くから「小布施(おぶせ)」という栗の名産地が有名ではありますが、結果樹面積を見ると2021年時点でわずか235haとなっています。

一方で、10a当たり収量は192kgと、全国平均の倍以上の値です。つまり、収穫量では8位止まりですが、狭い面積で非常に効率的な生産をしていることがわかります。

これには、平成に入ってから、南部の飯島町を中心に「信州伊那栗」のブランド化が推進され、そのプロジェクトの中で、独自の栽培技術が確立したことが影響していると考えられます。

信州伊奈栗ブランドは、地元農家と行政、地域の和洋菓子店などが一丸となって研究・情報交換・技術提携などを重ね、長い時間をかけて作り上げられました。

品種は、「丹沢」「筑波」「銀寄」などですが、独自の「超低樹高栽培」法を導入し、JA上伊那が定める栽培基準に則って生産されています。さらに、厳しい基準で選果された栗が「株式会社信州里の菓工房」に納入され、長野県だけでなく、百貨店催事などを通じて全国に販売されています。

「信州里の菓工房」の「信州伊那栗のモンブランバスクチーズケーキ」が、2020年の「三越のお歳暮」「伊勢丹のお歳暮」にラインナップされた

「信州里の菓工房」の「信州伊那栗のモンブランバスクチーズケーキ」が、2020年の「三越のお歳暮」「伊勢丹のお歳暮」にラインナップされた
出典:株式会社PR TIMES(株式会社三越伊勢丹ホールディングス プレスリリース 2020年10月13日)

今後、さらに栽培面積が拡大すれば、長野県が生産量上位にランクインすることも十分にありえるでしょう。

出典:
長野県公式観光サイト「GoNAGANO」内「北の小布施栗、南の信州伊那栗。秋の味覚、どちらを選ぶ?」
株式会社信州里の菓工房
  「里の菓工房のこだわり|信州伊那栗」
  「いなだにのいいじまん|信州伊那栗」
  「いなだにのいいじまん|信州伊那栗2」

この例のように、茨城県や熊本県、愛媛県といった主要産地以外の都道府県にも、生産とマーケティング両面でのブランディングにより、新たな栗の名産地が生まれることがあるかもしれません。

茨城県内での生産量トップは? 市町村別・栗の生産量ランキング

それでは、生産量ランキング第1位の茨城県について、県内の生産状況を詳しく見てみましょう。

農林水産省の作物統計調査「平成18年産市町村別データ」によれば、当時の茨城県内市町村の栗生産量ランキングは、収穫量で1位:かすみがうら市(1,020t)、2位:石岡市(881t)、3位:笠間市(873t)、4位:小美玉市(606t)、5位:茨城町(413t)となっています。

出典:農林水産省「作物統計 作況調査(果樹)|平成18年産果樹生産出荷統計|市町村別の結果樹面積・収穫量・出荷量|くり」

ただし、このランキングは平成18(2006)年までの調査しかない古いデータであり、現在ではこの順位も変わっていると考えられます。

農林水産省がまとめている「市町村の姿 グラフと統計でみる農林水産業」で「くり」について市町村別のランキングデータを検索すると、2006年の時点で県内栗生産量ランキング第3位であった笠間市では、農家数(農業経営体数)669経営体・栽培面積484haで、ともにかすみがうら市(351経営体・407ha)、石岡市(368経営体・226ha)を上回っています。

また、確認できる具体的な生産量の公式データはないものの、茨城県のポータルサイトや、2017年5月の笠間市市長のコラム「日本一の栗産地」などで、笠間市が生産量県内1位となっていることについて言及されています。

いずれにしても笠間市は、かすみがうら市・石岡市とともに県内有数の生産地であることは間違いありません。そして、県では笠間市を栗の産地としてブランディングし、明確な成果として全国的に認知されてきている、ということこそが重要なポイントです。

出典:
茨城県「旬の観光情報|いばらきの“栗”特集!」
笠間市「市長コラム|日本一の栗産地」(平成29年5月)

生産量第1位! 茨城県における栗栽培の特徴

茨城県の栗 開花期の園地

デント Ⅿ/PIXTA(ピクスタ)

次に、全国の栗生産量の推移から、全国的な栗生産の動向を探り、さらに栗の生産量を高い水準で維持し続ける茨城県の栗栽培について、その特徴を解説します。

全国の栗生産量の推移と、茨城県の動向

まずは、農林水産省のを参考に、全国および茨城県における近年の栗生産量の推移を見てみましょう。

まず、全国の推移を見ると、栗の結果樹面積・収穫量・出荷量ともに少しずつ減少し続けていることがわかります。また、前出の農林水産省の令和3(2021)年作況調査(結果樹面積、10a当たり収量、収穫量及び出荷量)を見ると、やはり全国の統計では、すべての項目で前年よりも減少しています。
しかし、それに対して茨城県は、前年比で結果樹面積こそ減少しているものの、10a当たり収量では+2.6%、収穫量では+0.3%%、出荷量は+1.7%など比較的好調をキープしています。

茨城県の栗の結果樹面面積

出典:農林水産省「作物統計 作況調査(果樹)|くりの結果樹面積、10a当たり収量、収穫量及び出荷量」各年資料よりminorasu編集部作成

茨城県の栗の収穫量・出荷量・10a当たり収量

出典:農林水産省「作物統計 作況調査(果樹)|くりの結果樹面積、10a当たり収量、収穫量及び出荷量」各年資料よりminorasu編集部作成

ここで注目したいのは、茨城県以外の関東各都県の奮闘です。栃木県や埼玉県、東京都など関東の各都県で、結果樹面積以外の10a当たり収量・収穫量・出荷量において、ほぼ前年よりも増加しています。

特に10a当たり収量では、最も高い千葉では29%もの増加が見られ、茨城県に続くように、関東各地での栗生産への健闘がうかがえます。

栗の収穫量 上位15県の2021年産 前年比 伸び率ランキング

10a当たり収量収穫量出荷量
千葉県28.8%17.1%16.9%
東京都25.9%18.7%15.2%
栃木県18.1%14.9%12.1
埼玉県12.4%0.3%1.7%
神奈川県3.4%1.4%12.7%
茨城県2.6%0.3%1.7%
宮崎県0.0%▲5.7%▲4.9%
広島県▲1.8%▲1.8%▲2.3%
大分県▲2.6%▲5.1%▲2.4%
熊本県▲7.7%▲9.1%▲9.1%
兵庫県▲8.5%▲8.6%▲5.1%
愛媛県▲14.7%▲15.6%▲15.5%
岐阜県▲15.2%▲15.8%▲14.2%
長野県▲20.0%▲22.6%▲19.7%
山口県▲28.8%▲36.1%▲36.1%

出典:農林水産省「作物統計 作況調査(果樹)|くりの結果樹面積、10a当たり収量、収穫量及び出荷量」各年資料よりminorasu編集部作成

茨城県産栗の出荷時期と主な栽培品種

栗品種 早生の「丹沢」と晩生の「石鎚」

どかてい♪ / PIXTA(ピクスタ)

茨城県産栗の生産量を維持する工夫の1つに、品種選択による出荷時期の調整があります。これは長期間出荷するために、早晩性の異なる多くの品種を出荷時期がずれるように栽培する手法です。栗の出荷時期はおおよそ9月から11月までの3ヵ月に及び、特に9月・10月にかけて出荷が多くなります。

主な出荷時期の例を挙げると、9月上旬に出荷量が増える「丹沢(たんざわ)」、9月中旬から下旬にかけては「利平(りへい)」「大峰(おおみね)」「筑波(つくば)」、9月下旬には「ぽろたん」「銀寄(ぎんよせ)」、10月には「石鎚(いしづち)」「岸根(がんね)」、11月には「極み(きわみ)」があり、各地に分散させて栽培しています。

日本一の栗産地に学ぶ、農業活性化の取り組み事例

茨城県が日本一の栗産地として収量を保っている裏には、品種改良や栽培技術の向上だけでなく、経営戦略や販路拡大など、栽培以外の努力の積み重ねもあります。生産農家をはじめ、自治体や地域住民を巻き込んだ、茨城県のさまざまな取り組みにも学ぶ点が多くあります。最後に、それらの取り組みについてご紹介します。

積極的な消費者向けPRで、「栗=茨城」のイメージを確立(茨城県)

焼き栗

takumy00/PIXTA(ピクスタ)

茨城県が中心に行っている取り組みとして、積極的な消費者向けPRがあります。実店舗へのチラシやポスター配布などはもちろん、もともと地元のイベントで人気のあった焼き栗の実演販売を、都内の商業施設やアンテナショップに出張して実施したり、都内の和・洋・中のレストランと提携して県内産栗を使ったメニューフェアを開催したりしています。

こうした取り組みにより、県外の人に直接見て・触れて・食べてもらうことで、その品質のよさやおいしさを広めています。また、インターネットを活用し、茨城県のポータルサイトや公式観光サイト上で画像を豊富に使ったページを作り、積極的に「茨城の栗」をPRしています。

茨城県は、県産品の認知度向上とイメージアップを目的に、現地に行かずに楽しめるオンラインイベント「旬の栗スイーツを食べよう!オンラインで茨城の栗農家さんと秋の栗ツアー」を実施

茨城県は、県産品の認知度向上とイメージアップを目的に、現地に行かずに楽しめるオンラインイベント「旬の栗スイーツを食べよう!オンラインで茨城の栗農家さんと秋の栗ツアー」を実施
出典:PR TIMES株式会社(株式会社SUPERFINE ニュースリリース 2021年10月8日)

さらに、コロナ禍で思うように外出ができない中、2021年には現地に行かなくても農業体験や栗加工品を楽しめるオンラインツアーを実施しました。

これは、県内の栗農家の敷地内にオンライン配信用の機器を設置し、ライブ配信やクイズなどを行いながら、おいしい栗の見分け方や収穫方法について学べるというイベントです。その後、あらかじめ自宅に送られた栗のお菓子を、ほかの参加者や栗農家の人と一緒に食べながらお茶会をします。

このような、人と人との触れ合いを大切にする一方で、オンライン技術を積極的に活用したPR戦略は、茨城栗のブランドの確立とファン獲得に大いに役立っています。

出典:茨城県 営業戦略部 販売流通課 運営「茨城をたべよう いばらき食と農のポータルサイト」内「茨城県産栗のブランド化及び取扱推進の取組」

「日本一の栗産地づくり」を補助事業で推進(笠間市)

茨城県は、「笠間の栗」をブランド和栗として推しだしている

茨城県は、「笠間の栗」をブランド和栗として推しだしている
出典:PR TIMES株式会社(茨城県営業戦略部販売流通課 ニュースリリース 2016年10月7日 )

笠間市では、国または市による「日本一の栗産地づくり推進補助事業」が行われています。これは主に、栗の樹を植え替えたり、新たに植えたり、栗林を集積したりする際にかかる費用を支援するものです。

これから栗農家になろうとする人はもちろん、規模を拡大しようとする既存農家や、廃園しようと考えている農家へ向けても、「栗栽培農地貸付補助金」として補助金を交付します。

栗の苗木を購入する費用や、栗栽培に使用する機材・資材の購入費への支援もあるなど、栗農家を手厚くサポートしています。こうした取り組みにより、園地の承継を推進し、「耕作放棄地の抑制」と「新規就農者増」を同時に実現しています。

出典:
笠間市「 日本一の栗産地づくり推進補助事業」
茨城県「笠間地域農業改良普及センター 笠間地域就農支援協議会」所収「笠間で栗を作ってみませんか?(栗の栽培&補助事業ガイド)」

栗の生産量ランキングは、上位3位を茨城県・熊本県・愛媛県という不動の産地が占める一方で、結果樹面積が減少し続ける中、その他の産地でも奮闘が見られます。

栗は、果樹の中では比較的育てやすいといわれます。そこで、茨城県のような助成に力を入れている自治体で農地を見つけ、行政による支援も最大限に活用することで、短期間で生産を軌道に乗せられるかもしれません。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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