農業従事者なら知っておきたいGAP認証について
「GAP認証」とは、持続可能な農業の実現のための重要な取り組みをいいます。国際的にも信頼が高く、食品の輸出にはGAP認証の有無が大きく影響します。農林水産省もオリンピックを機に、国際水準GAPの普及を進める方針を示しています。この記事では、今後ますます重要性が高まるとされるGAP認証について解説します。
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今やGAPは、農業を続けるうえでの重要な取り組みとして注目されています。東京オリンピック・パラリンピックの選手村で使用する食材にGAP認証が必須条件とされたことで、広く認知されるようになりました。
農林水産省ではGAP拡大を推進し、令和12年(2030年)までにほぼすべての国内産地で国際水準GAPを実施することを政策目標に掲げています。将来に向けて安定的に農業を発展させるために、GAP認証の知識を身につけ、取り組みを開始しましょう。
GAP認証とは何か
「GAP(ギャップ)」とは「Good Agricultural Practice」の略で、直訳すると「よい農業の実践」を意味します。
「よい農業」というと漠然としていますが、具体的には農業における食品安全や環境保全、従業員の安全などを確保するための取り組みを表しています。GAPの認証機関は複数ありますが、いずれも、おおよそ以下の6つの要素を基準に含みます。
・食品安全:食品への異物混入の防止や農薬の適正使用、使用する水や環境の安全性の確認など
・環境保全:地球温暖化対策、土壌環境に配慮した適切な施肥、廃棄物の適正な処分など
・労働安全:機械や設備の点検・整備、保護具の着用、事故防止マニュアルの徹底など
・人権保護:労働基準法等や技能実習生の労働条件の遵守、差別の禁止、従業員の健康管理など
・農場経営管理:責任者の配置など管理体制の確立、機械や設備の内部点検、教育訓練など
・その他の取り組み:資料・資材等の仕入れ先の評価、家畜伝染病の発生予防など
こうした取り組みを通して農業活動を改善し、持続可能な農業生産を実現することがGAPの目的です。
そして、取り組みが実施されていることを第三者機関の審査により確認され証明すること、またはその認証制度を「GAP認証」といいます。
GAP認証を取得するメリット
GAPは取り組むこと自体に意義がありますが、認証を取得するとその実践が証明され、対外的に可視化できます。では、GAP認証によってどのようなメリットが期待できるのでしょうか。消費者・取引先向けのメリットと、農業従事者向けのメリットの2つに分けて解説します。
顧客への証明となる
naka / PIXTA(ピクスタ)
GAP認証を明示することで安全性が客観的に証明されるため、取引先や消費者は、食品に対し安全・安心であるという信頼を持つことができます。GAPの認知度が向上していることもあって、消費者への訴求力を高め、売上増加が見込めるというメリットが期待できるのです。
すでに多くの大手食品製造・小売事業者が「GAPパートナー」としてGAP認証農産物を取り扱う意向を表明しており、今後、取引先にとってGAP認証の有無は重要な選択基準になるでしょう。
また、GAPは世界的に認知された認証制度であり、海外輸出においても認証を得ていることは、販路拡大の際の大きな強みになります。
人材確保の助けとなる
農業従事者側にとっても、GAP認証は働きやすく安全な労働環境であることの証左であり、人材確保につながります。農業は未だ過酷な労働環境であるイメージが拭えず、人材の確保と定着に大きな課題を残しています。GAP認証によって、農業の現場でも従業員の安全や衛生が守られていることをアピールできるので、農業関係の仕事に就く際の敷居を大きく下げる効果が期待できます。
GAP認証の種類
naonao / PIXTA(ピクスタ)
GAPにはいくつかの種類が存在し、世界各地の認証機関(運営機関)によって、認証の基準や申請方法なども少しずつ異なります。現在、日本でも認証が行われている主なGAPを4種類ご紹介します。
GLOBALG.A.P.(GGAP・グローバルGAP)
ドイツに本部を置く「Food PLUS GmbH」が認証を行う国際的GAP認証です。ヨーロッパを中心に世界120ヵ国以上で実施され、日本国内でも平成31年度末(2019年度) で702の経営体が認証を取得しています。
実質上の国際基準とされていて、農産物の海外輸出を考えている場合はぜひとも取得したいところです。国際基準の生産工程を持っている証明は、輸出先の取引相手との交渉で大きな効果を発揮するでしょう。
ASIAGAP(アジアGAP)
「一般財団法人日本GAP協会」が認証を行う、日本発のGAP認証です。
GFSI(Global Food Safety Initiative:世界食品安全イニシアティブ)の承認を受けたことで国際基準としての水準に高め、アジア共通のGAPのプラットフォームを目指しています。GFSIの要求事項に沿って、食品安全の要素にHACCP(注)をベースとした考え方や食品防御、食品偽装防止を取り入れ強化した点が特徴です。
日本国内では、平成31年度末(2019年度) で1,869の経営体が認証を取得しています。アジアへの輸出を目指すのなら、取得しておいて損はありません。
(注)HACCPとは、食品の生産工程において、原材料の受入れから最終製品までの各工程ごとに、微生物による汚染、金属の混入などの危害要因を分析(Hazard Analysis)したうえで、危害の防止につながる特に重要な工程(Critical Control Point)を継続的に監視・記録する工程管理システム
JGAP
一般財団法人日本GAP協会が認証を行う、日本の標準的なGAPです。
日本で最も広く普及しており、平成31年度末(2019年度) で2,851の経営体が認証を取得しています。ほかのGAPと基本的には同じ要素を持ちますが、農作物の品質をより重視している点や、労働者の人権についてより明確にしている点が特徴といえるでしょう。
国内で流通するには十分な認証ですが、国外での認知度はさほど高くないため、国際競争力を得るには十分とはいえません。
都道府県GAP
北海道@十勝 / PIXTA(ピクスタ)
各認証機関だけでなく、都道府県によるGAPがあります。平成28年11月1日(2016年)に群馬・島根・長崎の3県が始めたのを皮切りに、平成30年11月時点(2018年)で39の都府県が、農林水産省のGAP共通基盤ガイドラインに準拠した独自のGAPを推進しています。
県内で生産されるほとんどの農産物を対象としていますが、京都府では宇治茶GAPとしてお茶のみを対象にしています。
また、JAネットワーク十勝による十勝型GAPのように、地域ブランドを守るために地域限定のGAP基準をいち早く策定した例もあります。
出典:
農林水産省「GAP(農業生産工程管理)をめぐる情勢(令和2年7月)」
農林水産省「GAP共通基盤ガイドラインに完全準拠したGAPの掲載について」
GAP認証取得にかかる費用
大きなメリットを持つGAPですが、なかなか普及が進まない背景には、認証取得のためにかかる費用が絡んでいます。
取得するGAPの認証機関にもよりますが、個人で認証を受けるための審査には、おおむね10万~55万円程度の費用がかかります。そのほか、出張してくる審査員の旅費やコンサルティング費用などの準備も必要です。また、認証を受けるために設備や備品、従業員の待遇を整えるのに投資が必要となる場合もあるでしょう。
しかし、団体として認証を受けることで、例えば50名であれば1名あたりの審査費用は2~11万円となり、負担を大幅に抑えられ、そのほかにかかる費用も人数で割ることができます。地域で団体として認証を得ることで、地域ブランドとしての付加価値が生まれ、全体の単価底上げも可能となります。
GAP認証取得の流れ
実際にGAP認証を取得するためには、いくつかの手順を踏む必要があります。ここからは、日本で最も普及しているJGAPを例に、認証取得までの流れを解説します。
JGAPには個別認証と団体認証があるので、それぞれの認証手順における違いにも触れます。なお、GAPの種類やケースによって異なる場合がありますので、あくまで一例としてご参照ください。
事前準備
審査を受ける前に、まずは「ASIAGAP/JGAP 農場用 管理点と適合基準」という基準書を入手して基準内容を理解し、自分の農場に不足している点を把握します。
団体の場合は、「農場用」に加え「団体事務局用」の基準書を入手して、共有のルールや団体事務局と各農場の役割分担を明確にし、団体・農場管理マニュアルを作成します。また、基準に照らして共有のルールに不足があれば補います。
個別・団体ともに、認証取得に必要な条件に95%以上適合するよう、基準書記載の手順に沿って、帳票に記録を残しながら運営します。作業や生産環境を確認し、記録の検証と点検、手順の見直しを繰り返して運営改善を図ります。
団体の場合は、作成した農場管理マニュアルを配布・周知し、団体のルールとしての手順を構築します。また、内部監査を計画し準備を整え、実際に内部監査を実施し、指摘された項目を是正し確認することを繰り返しながら改善を進めます。こうした運営を3ヵ月以上続けます。
審査
奈良観光 / PIXTA(ピクスタ)
農業の運営が十分に改善され、準備が整ったらいよいよ審査申込をします。
同じJGAPでも認証機関は複数あるので、いくつかで見積もりを取って比較検討したうえで、自分の農場に合う認証機関を選びましょう。なお、審査費用は団体規模や品目数などで異なるので注意が必要です。
費用の準備もできたら、各認証機関の指示に沿って申し込みます。
審査当日は、管理点をすべて審査のうえ、「適合」「不適合」「該当外」のいずれかに決められます。団体の場合は、上記に加え、各農場のサンプリングによる審査と事務局の審査が行われます。
不適合と指摘された項目については、審査後4週間以内に是正し、是正報告書を認証機関に送ります。
認証取得まで
是正報告書が届いてから、認証機関が判定を行い、最終的に合格基準をクリアした団体に認定書が与えられます。準備から認証取得までの目安としては、半年から1年程度と考えるとよいでしょう。また、場合によっては取得後にも認証の維持審査があります。
GAP認証は日頃の取り組みを証明するものです。継続してよい農業を実践できるよう、自己管理の維持を徹底しましょう。
参照文献:
農林水産省「国際水準GAPの推進について」所収「GAP(農業生産工程管理)をめぐる情勢(農林水産省 農産局 農業環境対策課)」
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。