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ベルグ福島の野菜苗生産はなぜ成功したのか?6次化ファンドの活用事例
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  • 農業経営

ベルグ福島の野菜苗生産はなぜ成功したのか?6次化ファンドの活用事例

近年、農家の中には作物を市場に卸すだけでなく、自分たちで加工し、消費者への直接販売までを行う「6次産業化」により、農業の新たな可能性を広げようとしている人たちがいます。ここでは農業の6次産業化の基礎知識と、6次化ファンドの活用事例を紹介します。

かつての農業は作った作物を市場に卸すだけの産業でした。しかし近年、生産者としての1次産業と、加工を行う製造業としての2次産業、さらには、消費者へ直接販売する小売業としての3次産業までを担う農家が増加しています。

こうした業態は、「6次産業」(1次×2次×3次)と呼ばれ、農業を含む1次産業の生産物に新たな付加価値を生み出し、1次産業の所得を向上し、地域を活性化する取り組みとして農林水産省でも推奨しています。

この記事では、6次産業化を促進するために設立された6次化ファンドの概要と出資スキーム、農家がファンド利用にあたって行うことを解説します。またファンドの資金を活用した6次産業化成功事例として、つぎ木苗生産の「ベルグ福島」を紹介します。

6次産業化とは

リンゴとアップルパイ

my room/PIXTA(ピクスタ)

6次産業化とは、1次産業である原料生産の担い手である農林漁業者が、自ら2次産業である加工と3次産業である販売などに取り組み、生産物の価値を高めていく考え方をさします。

6次産業=1次産業(農林業)×2次産業(加工業)×3次産業(流通業・販売業)

生産物の価値を高めることでうまれた収益は、農林漁業者の所得向上につながるとともに、地域雇用の創出や周辺事業の活性化を通じて地域活性化にもつながっていきます。

6次化ファンドとは

農業 出資

kelly marken/PIXTA(ピクスタ)

「6次化ファンド」とは、6次化(6次産業化)に取り組む農業や林業・漁業の従事者や事業体、農業法人などへの出資・経営支援を行う投資会社のことです。代表的な例としては、農林水産省が設立した官民ファンド「株式会社農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)」が挙げられます。

英文社名の「Agriculture, forestry, and fisheries Fund for Innovation, Value-chain and Expansion Japan」から「A-FIVE」という略称がうまれました。

6次化ファンド「A-FIVE」の概要と成り立ち

A-FIVEは、農林漁業の担い手不足と所得減少の深刻化、農山漁村の活力低下の打開策として、国と民間の共同出資で2013年1月に設立されました。

出資金の規模は319億円で、内訳は、国からの出資300億円、民間からの出資19億円です。民間からは、カゴメ株式会社、農林中央金庫、ハウス食品グループ本社株式会社、味の素株式会社、キッコーマン株式会社、キユーピー株式会社、株式会社商工組合中央金庫、日清製粉株式会社、野村ホールディングス株式会社、明治安田生命保険相互会社、トヨタ自動車株式会社の11社が参画しています(2016年7月時点、株式会社農林漁業成長産業化支援機構「機構概要」の表示順)。

出典:株式会社農林漁業成長産業化支援機構「機構概要」

「A-FIVE」による出資スキーム

A-FIVEによる支援の方法は大きくわけて、地域密着型のサブファンドを通じて投資する間接投資と、A-FIVEによる直接投資の2つがあります。

出資実績は間接投資が中心で、2020年7月1日現在、投資中案件116件のうち、一部または全部についてA-FIVEが直接出資している案件は14件です。

出典:株式会社農林漁業成長産業化支援機構「出資決定済6次産業化事業体一覧」

間接投資の場合、A-FIVEはまず地域金融機関(主に地方銀行)が中心になって設立したサブファンドに50%を出資します。

そのサブファンドが、「6次化事業に取り組む事業者」に50%(以下)を出資します。出資先となる「6次化事業に取り組む事業者」とは、基本的に6次産業化にとりくみたい農林漁業者と6次産業化のためのノウハウや資産を持つパートナー企業との合弁会社です。

出資の要件は、6次産業化または地産地消法に基づく「総合化事業計画」の認定を受けることと、事業性・公正性・政策性など複数の項目にわたって行われるA-FIVEの審査をクリアすることです。支援が決定した場合の投資期間は最大15年です。

農家や農業法人が6次化ファンド利用に向けて行うこと

6次産業化にあたってファンドの資金を活用したい農家や農業法人が、詳細な事業計画の策定や、パートナー企業探しとその交渉を、自分たちだけで行おうとすると困難なことが多いでしょう。

そこでまず行うことは、A-FIVEや地域密着型サブファンドへの相談です。各相談窓口を利用することで、事業計画の具体化支援、6次産業化の技術や資産をもったパートナー企業とのマッチング支援がうけられます。また、事業計画策定をサポートしてくれる「6次産業化プランナー」の紹介もしてもらうことが可能です。

どのような段階でも相談に応じてもらえますが、事業計画の具体化の過程では、多岐にわたる詳細な資料が求められます。自身にも相応の作業が必要となることを覚悟して、取り組みましょう。

最終的に「総合化事業計画の認定要件に適合した事業計画書」の提出が求められます。そのあとファンドによる精査が始まり、一般的には3か月~半年ほどで出資可否の結果がでます。

地域密着型サブファンド

相談窓口となるサブファンドは全国にあります。

現在のサブファンド数は44で、地域金融機関が中心になって設立したファンドが41、大手金融機関などが中心になって設立した「全国テーマファンド」が3となっています(2020年7月1日現在)。

出典:株式会社農林漁業成長産業化支援機構「サブファンド一覧」

全国テーマファンドのうち、ファンドサイズが100億円ともっとも大きいのが、JAグループが設立した「農林水産業協同組合ファンド(農林水産業投資事業有限責任組合)」、通称「JA・6次化ファンド」です。

このあと活用事例として紹介する「ベルグ福島」は、この「JA・6次化ファンド」からの出資をうけています。

【活用事例】6次化ファンドの出資を受けた、ベルグ福島の野菜苗生産施設(植物工場)

すいかの接ぎ木苗

monjiro/PIXTA(ピクスタ)

福島県川俣町にある「ベルグ福島株式会社」は6次化ファンドの出資を受けた、野菜苗の生産と販売を主としている企業です。最新の閉鎖型苗生産システムを導入し、顧客の要望や品質に応じた高品質なつぎ木苗を生産しています。

川俣町とベルグの思いが一つになって6次化ファンドも出資

ベルグ福島設立の契機は、当時、東日本大震災後の復興に取り組む福島県川俣町が、野菜つぎ木苗の生産・販売でトップシェアをもつベルグアース株式会社(本社:愛媛県宇和島市)に熱心に誘致を呼びかけたことでした。

川俣町は、消費者の放射線汚染に対する心配が農業に影響を与えている中、閉鎖型の苗生産システムを持つ企業を誘致することで農産物の安全をアピールすることができるのではないか、考えたのです。

一方、ベルグアース株式会社の山口社長には、「震災後に福島で起こっている状況に対して会社として何か貢献できないか」という強い思いがありました。

加えて同社では、ちょうど東日本での大規模生産拠点の新設を検討していました。

つぎ木苗の生産ステップには、播種からつぎ木までの「一次育苗」、出荷に向けて苗を順化させる「二次育苗」がありますが、それまで一次育苗は主に本社工場で、二次育苗を全国にある直営農場やパートナー農場で行っていました。

しかし、つぎ木苗の需要は東日本地域の方が大きく、顧客に近い東日本に一次育苗の生産拠点を設けたいと考えていたのです。福島県はきゅうり、トマトとも全国トップ10にはいる大産地でつぎ木苗の需要があり、また、川俣町は福島駅から車で約30分と立地の利便性もあり、事業の拠点候補地としての要件を備えていました。

こうして、復興の加速を願う川俣町町長の熱心な誘いと、ベルグアース山口社長の震災後の福島に貢献したいという強い思い、ベルグアースからみた川俣町のビジネス上の魅力が一致したかたちで、「ベルグ福島」の設立が決定したのです。

ベルグアースの山口社長は、販路開拓にJA全農を巻き込むことが事業成長の重要ポイントととらえ、当初からJA全農に協力を求めました。

その結果、ベルグ福島の資本(資本金および資本準備金)2億5,000万円のうち、40%はベルグアースが出資し、残り60%については、JA全農とJA・6次化ファンドが出資を引き受けることになったのです。(出資比率は、JA全農10%、JA・6次化ファンド50%)さらにJA全農は、ベルグ福島へ役員の派遣も行っています。

ベルグ福島の事業成功のポイントと地元貢献

福島県川俣町 秋山の駒ザクラ

monjiro/PIXTA(ピクスタ)

国内最大級の最新閉鎖型育苗施設で、高品質苗を安定供給化

ファンドから出資を得たことで、川俣町の2haの敷地に、国内最大級の閉鎖型育苗施設と育苗用大型ハウスを初期投資で建設することができました。現在、1,000㎡の人工光型育苗施設が2棟、3,000㎡の太陽光型育苗施設が6棟、1,000㎡の作業棟が2棟、合わせて10連棟の大型ハウスが稼働しています。

国内最大級の生産施設とベルグアースが持つつぎ木苗生産技術の相乗効果で、品質の高い均一レベルの苗の短納期・大量出荷を可能にし、大口需要の受注を安定して確保しています。

2015年(平成27年)12月に稼働を開始し、実際に苗の出荷が始まったのは2016年(平成28年)3月からで、初年度はおよそ280万本の苗を出荷し、約2億円の売上実績を上げました。稼働から10年後になる2026年には、「出荷1,000万本、売上10億円」の実現を目標に掲げています。

JA全農との連携

JA全農とJA・6次化ファンドから出資をうけたベルグ福島はJA全農から役員が派遣され、地元の状況に合わせたサポートが行われました。

ベルグ福島の出荷先は、東日本地域のJA、種苗店、大型の農園などですが、JA全農のサポートにより、東日本地域全体のJAという大口顧客を当初から得られたことが、事業の早期立ち上げを可能にしたのです。

また、働き手の確保では、JAを通じた施設見学会の開催が大きな効果をあげました。設立当初はベルグ福島の認知度が低く雇用確保に苦労しましたが、JA全農を通じた施設見学会や社員や取引先の口コミで徐々に認知を広げ、工場稼働時に15人の雇用を確保することができたのです。

地元雇用の創出

ベルグ福島は、地元雇用の創出に大きく貢献しています。55人の常駐従業員のうち、約7割が川俣町在住、約2割が川俣町の周辺市町村在住と、約9割が福島県内在住なのです。さらにつぎ木作業の最盛期には30人~40人の期間従業員を雇い入れています。

稼働から10年後の目標には「出荷1,000万本、売上10億円」とともに「地元雇用100人」が掲げられています。

作物を作るだけではなく、作ったものを自分たちで加工し販売する6次産業化によって、農業の新しい形が見えてきました。
6次産業化を具体的な事業にしていくには、資金だけでなく、事業計画策定やパートナー企業マッチングなど様々な支援が受けられる6次化ファンドの活用も大きな選択肢となるでしょう。

杉山麻佑

杉山麻佑

高校卒業後、農業系の短大に進学。果樹について学び、短大卒業後は苗や種を扱う企業に就職。 現在は、お茶農家でもあるパートナーの仕事を手伝いつつ、フリーランスのWebライターとして活動中。また、自身もハーブ畑を管理するなど、精力的に農業に携わっている。

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