農薬散布にドローンを活用するメリットや規制などについて解説
スマート農業の代表的な技術ともいえるドローンによる農薬散布は、当初の想定をはるかに超え、さまざまな作業でその能力を発揮しています。農薬散布にとどまらず施肥や播種、センシング、害獣対策など、活用が広がるドローンの農業への導入の現状について解説します。
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農薬散布をはじめとするさまざまな農作業へのドローンの導入は、この数年で急激に増加し、成果を出しつつあります。農薬散布用にドローンの導入を検討している方のために、導入にあたってのメリットや注意点、機体の相場や維持費用などについて詳しく解説します。
労働力不足を救うドローン導入
ドローンと農業は非常に相性がよく、農薬散布をはじめ、肥料散布、播種、受粉、運搬、センシングによる精密な栽培管理、鳥獣被害対策など、作物の種類を問わず活用の幅が広がっています。
農林水産省によると、2017年3月から2018年12月の約1年半の間に農業用ドローンの機体登録数は6倍強に急増しています。同期間のオペレータの認定者数も約5.5倍と大きく増加していることがわかります。
出典:農林水産省「農業用ドローンの普及に向けて」
ドローンの導入によって、これまで農家が自力や業者への委託で行っていた作業の負担が飛躍的に軽減し、作業の効率アップや労働力不足の解消に大きく貢献すると期待されています。ここでは、ドローンの農薬散布の実態や具体的な導入方法、利用にあたっての注意点などについて詳しく解説します。
kazuki / PIXTA(ピクスタ)
農薬散布にドローンを活用する4つのメリット
農薬散布は作業負担の大きな作業の1つで、これまでにも多くの機器や業者による代行が利用されてきました。それらと比べ、ドローンによる農薬散布には主に次の4つのメリットがあります。
1.生産性の向上と労働力不足への対応
ドローンは機種にもよりますが、平均的に時速15kmで幅4mほどの散布ができるため、10aのほ場であればわずか1分程度で散布が完了します。小回りが利くので傾斜地の小さなほ場などでも作業しやすいという利点があります。ほ場間の移動もスムーズで作業時間が大幅に短縮され、その分、生産性が向上します。
成功事例の1つ、北海道網走郡の「JT農場」は水稲10.9haを従業員1名で経営しており、食味アップのためにミネラル資材の葉面散布を動力噴霧器で行っていました。2017年、作業の効率化や時間短縮のためにドローン散布機を導入。その結果、作業が大幅に省力化され、動力噴霧では1ha当たり1.5時間だった作業が0.5時間に短縮されました。また、散布の効果が上がり、米のねばり、食感の向上もみられました。
2.高い薬剤効果が得られる
ドローンによる農薬散布は高い薬剤効果が得られます。その理由として、ドローンは安定した低空飛行やホバリングが得意なうえ、複数のプロペラがあり細かい動きができるので、作物に近づき根元・葉裏まで散布が可能なこと、さらには高位置から均一に散布したり、ピンポイントで集中的に散布したりと、機械による効率性と手作業の細やかさを兼ね備えていることが挙げられます。
3.将来的な金銭コストの負担軽減
ドローンは1体の価格が高く、安価なものでも周辺部品を併せると購入時総額で120万円ほどかかります。しかし、導入によって作業効率の飛躍的な向上が見込め、その結果、生産性向上や人件費や業者への委託代金のコストダウンが想定されるので、数年という長い目で見れば初期費用の回収は十分に可能といえるでしょう。
あるドローンのメーカーによる試算では、7ha以上のほ場では、業者に委託し年に3回散布を行う場合、4年間の委託費用は168万円程度とされ、120万円で購入したドローンを4年間同条件で使用する全費用150万円のほうが安上がりになるという報告もあります。
出典:株式会社マゼックス「農薬散布ドローンを活用した6つのメリット」
4.産業用無人ヘリコプターが入れない狭いほ場でも散布可能
産業用無人ヘリコプター(以下「無人ヘリコプター」と呼ぶ)は全長3.6m、重量は70kgもあり、農薬散布のたびにほ場に持ち込んで作業するのは困難です。その点、ドローンは全長1.2m、重量12kgとコンパクトで軽量のため、一人でも持ち運べ、軽トラックへの積み下ろしもできます。折りたたんだり分解したりする必要もなくそのまま使えるので作業もスムーズです。
小さいうえにホバリングしたりその場で方向転換したりと小回りが利くため、中山間地の10aほどの小さなほ場でも使うことが可能です。バッテリーで動くドローンは無人ヘリコプターに比べて騒音が少ないため、早朝や住宅地でも作業しやすい点も大きなメリットです。
使用に規制はある?導入前に知っておきたい基礎知識
ドローンは空中を飛び、落下などの事故の危険性もあることから、使用にあたって守るべきルールや法律があります。規制や使用するための手続きなど、事前に十分に調べておきましょう。
ドローンによる農薬散布に関する規制
農林水産省では、2015年12月に「空中散布等における無人航空機利用技術指導指針」を策定し、農業用ドローンの使用はこの指針に沿って活用されてきました。しかし、わずか数年の間にドローンの機能は格段に向上し、予想をはるかに超えて農業における活躍の場を広げ、着実に成果を積み上げています。
そうしたドローンの使用実態と、一方で年々深刻化する農業の労働力不足や現場の疲弊を鑑み、農林水産省は2019年7月30日付で同指針を廃止しました。これにより、ドローンを飛ばすための申請手続きが簡素化されました。
ドローンの整備は、各操縦者の責任とし、これまで指定業者に依頼しなければならなかった定期点検は不要となりました。また、以前は国や都道府県に散布計画を提出しなければなりませんでしたが、散布する区域の周辺へ情報提供すれば、提出は不要となりました。
ただし、これまで一般社団法人農林水産航空協会が代行で行っていた、航空法の許可申請は、各自が行うよう変更されています。
ドローンを飛行させるために必要な手続き
農薬散布は航空法で規制されている「危険物輸送」と「物の投下」などに該当するので、国土交通省への飛行承認申請を行わなければなりません。
申請にあたっては一定の技能や飛行実績が求められるため、民間のスクールなどで必要な操縦技術や知識を身に付けるとよいでしょう。申請は個々人のほか、ドローンのメーカーや販売代理店などによる代行申請も可能です。
実際にドローンを飛行させる前には、「無人航空機飛行マニュアル」と「無人ヘリコプターによる農薬の空中散布に係る安全ガイドライン」をよく確認し、機体の点検や農薬散布時の安全管理などを徹底することが何よりも大切です。
参考:
国土交通省「無人航空機飛行マニュアル」
農林水産省「無人ヘリコプターによる農薬の空中散布に係る安全ガイドライン」
ドローンでの散布に適した農薬の調べ方
ドローンは薬剤タンクの容量が小さく積載重量が少ないため、散布が可能な農薬は高濃度で少量でのものに限られます。使用方法として「無人航空機による散布(滴下)」、「無人ヘリコプターによる散布(滴下)」などとされる農薬が該当します。単に「散布」「全面土壌散布」と記載されている場合は、希釈倍率や使用量などを守れるのであれば、ドローンでの使用が可能とされています。
独立行政法人農林水産消費安全技術センターのホームページで公開されている「農薬登録情報提供システム」を使えば、適用作物や農薬の名称・病害虫の種類などから絞り込んで農薬登録情報を検索することができて便利です。
参考:独立行政法人農林水産消費安全技術センター「農薬登録情報提供システム」
農薬散布用ドローンの選び方・確認したいポイント
農薬散布用ドローンは改良を重ね、目覚ましい進歩を遂げています。性能が向上し、より細やかな散布が可能になったり、部品を付け替えるだけで施肥や播種・センシングなど多機能性を備えたり、各メーカーがしのぎを削って新機種を開発しており、値段もピンからキリまであります。
ほ場の環境や農業経営の状況に合わせて適切な予算を立て、ドローンを使って何をメインに行うのかを明確にしてから最適な機種を選びましょう。
価格
ドローンの相場は最低でも100万円~と、決して安くはありません。メーカーによっては500万円近い製品もあります。必要なサイズや機能を見極めて、予算に合った製品を選ぶことが大切です。予算が少ない場合は、周囲の農家と共同購入するなど、共有して使うことを検討してみるといいでしょう。
購入価格と併せて、維持に必要な金額も確認しておきましょう。メンテナンスの費用は機体によって差がありますが、例えば、農水協認定機体は1年に1度の定期点検が必要で、点検費用の相場として10万円~程度見積もる必要があります。
機体墜落などの事故に備え、人身保険や対物保険などの任意保険への加入も検討してください。任意保険なので必要性をよく考え、必要な補償をしっかり備えておきましょう。プランによって差がありますが、保険料は安いもので年間16,000円~からあります。
出典:株式会社 SWIFT「 農薬散布用ドローンの購入費っていくらかかるの?コスト面から見た農薬散布用ドローン」
サイズ(積載量)・飛行時間
畑の広さや使用する農薬によって、どのくらいの積載量と飛行時間が必要なのかをあらかじめ割り出してから適したものを購入しましょう。最近は粒状の農薬に適応したものもあるので、使いたい農薬の種類によっても選択肢が分かれます。
飛行時間では、10~20分のものが最も種類が多く、20分以上になると種類が激減します。積載量は、液剤では5~10リットルのものが中心です。粒剤では5~10kgが最も多く、次いで5kg以下が多いようです。
障害物センサーや自動操縦機能の有無
性能が上がるにつれて、ドローンにはさまざまな優れた機能が附帯するようになりました。その一方で、追加された機能が逆に作業の邪魔になったり故障しやすくなったりするケースも見られます。
障害物センサーや自動操縦機能はもちろん便利な機能ですが、使わないことも多く、本当に必要な機能かどうかをよく見極めたいものです。例えば、狭いほ場で使うからホバリングは必須、飛行は自動ではなく手動で行えれば十分、など必要最低限の機能だけをピックアップし、それを備えたシンプルな製品を選んでコストダウンを図るのも一手です。
撮るねっと / PIXTA(ピクスタ)
数あるスマート農業の技術の中でも、農薬散布をはじめとしたドローンの活用はこれからの農業において、なくてはならないものになると考えられます。現状の作業の中でも「ドローンがあったら便利かもしれない」と思えるものがあったら、導入を検討してみるのもよいでしょう。作業の効率化や省力化だけでなく、新たな作業方法など意外な発見があるかもしれません。
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大曾根三緒
ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。