ヤマハの農業用ドローンで効率化!代表機種の特徴と導入事例を徹底解説
ヤマハのドローン技術は、農業現場での薬剤散布の効率化を支援。強力な散布性能と自動飛行機能を備え、中山間地域での利用にも対応可能。農業経営の効率化を目指す方におすすめのツールです。
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農業用ドローンは、農薬散布や荷物運搬、画像分析による生育管理など、幅広い用途で急速に導入されています。本記事では、その最新動向を解説。また、注目機種として、ヤマハ発動機のドローンとその関連サービスを紹介します。
農業用ドローンの導入は急拡大
ドローンによる作付け確認・生育状況調査の実証実験
出典:株式会社PR TIMES (パーソルプロセス&テクノロジー株式会社 2020年1月14日プレスリリース)
近年、農業用ドローンの機体登録数は急増しており、導入している農家が増えていることがうかがい知れます。
農林水産省によると、2017年から2018年のおよそ1年間で、農業用ドローンの機体登録数は、約6倍に急増。操縦するオペレーター数は同期間に約5.5倍に増加しました。
急拡大の背景には、ドローンの用途の広がりがあります。
これまでは農薬・肥料散布での利用が中心でしたが、性能の向上によって、荷物の運搬や、カメラ・センサーによる生育環境の管理(ほ場センシング)などさまざまな場面で活用されるようになりました。
出典:農林水産省「農業用ドローンの普及に向けて(農業用ドローン普及計画)平成31年3月」
農業用ドローン活用のメリット
農業用ドローンの活用は、農作業の効率化や労働負担の軽減につながります。
これまで農薬や肥料の散布作業や播種は、無人ヘリコプターによる作業が主流でしたが、険しい中山間地域などでは導入しにくいという問題がありました。
しかし、小型のドローンであれば農地のある地域の地形や、ほ場の形状などに左右されず、幅広く活用可能なため、機械化が難しい農地でも省力化が見込めます。
運搬作業に活用すれば、農家の労働力負担を軽減し、人材不足解決に寄与するでしょう。
また、従来のほ場センシングには人工衛星データが活用されてきましたが、ドローンはほ場を直接撮影し、より高精度のデータをスピーディーに取得できます。
生育環境を正確に把握し、適切な作業計画を立てられれば、農産物の品質・収量向上にもつながります。
こうしたドローンの可能性に着目し、政府は2018年に農業用ドローンの普及計画を策定しました。農家やメーカーへさまざまな支援策を打ち出しており、農業用ドローンの市場は、今後さらに伸びていくと予想されています。
中国メーカーが存在感 国内企業は追随
日本における農業用ドローンの市場は、中国メーカーが牽引しています。
農林水産省によると、2018年時点の認定機種数トップのメーカーは、世界最大手とも言われる中国のドローンメーカー「DJI」です。
全体の約4割をDJIが占め、残りの6割は国内メーカーが分け合っています。農業用ドローンの普及拡大政策の後押しもあり、今後も国内の開発競争がより盛り上がることが予想されます。
出典:農林水産省「農業用ドローンの普及に向けて(農業用ドローン普及計画)平成31年3月」
DJIのドローンについてはこちらの記事もご覧ください。
「ドローンで農薬散布を効率化! DJIのおすすめ農業用ドローンと活用事例」
ヤマハ発動機はパワフルな散布性能が特徴
ヤマハ発動機「YMR-08AP」のジャガイモ(馬鈴薯)のほ場での農薬散布の実証実験
写真提供:ヤマハ発動機株式会社(2020年5月25日 【ニュースレター】農業を空から変える「自動飛行」のドローン)
日本国内の代表的なドローンメーカーの一つに、ヤマハ発動機が挙げられます。ヤマハ発動機は産業用無人ヘリコプターで市場を独占してきた歴史があり、農家にとって馴染み深いメーカーでもあるでしょう。
ヤマハ発動機の農薬散布用無人マルチローター(ドローン)|代表機種
ドローン市場に参入したのは2018年。農薬散布用無人マルチローター(ドローン)YMR-08を発売しました。
ヤマハ発動機の農業用ドローンの最大の特徴は、無人ヘリコプターのメーカーならではのパワフルな散布性能です。
上下二重反転するローターを採用することで、薬剤を根元まで深く届ける強力なダウンウォッシュを得意としています。
2020年にはオートパイロット機能を装備したYMR-08APを発売し、専用アプリケーションから散布ルートを生成すれば、自動飛行が可能になりました。
高度な操縦テクニックがなくても、効率的に散布作業を行える点で、ドローンに対する知見が未熟な農家も含め、多くの方が利用できるでしょう。
購入者向けの有料教習サービスの提供や、全国25カ所での実践的な訓練実施もしており、受講後に技能認定を受けることができます。
価格はYMR-08は275万4千円、YMR-08APは206万2,500円(発売時点の税込価格。YMR-08APは機体用バッテリー等が別売)となっており、一般的なドローンの価格帯である80万円~300万円を考慮すると、中間的な価格帯といえるでしょう。
ヤマハ発動機株式会社「ヤマハ産業用マルチローター YMR-08 AP」の製品ページ
無人ヘリの弱点を克服
ヤマハ発動機のドローン市場への参入には、無人ヘリコプターでは対応できなかった農家のニーズに応える狙いがあります。
無人ヘリコプターは購入に1,000万円以上かかり、操縦には高度な技術を要するため、個人農家が所有するには高いハードルがありました。そのため、JAや業者への散布の外注が一般的であり、同じ地域のほかの農家と業者への依頼が重なると計画通りに作業を進められないこともあります。
一方、個人農家でも購入・操縦が可能なドローンであれば、業者への外注はしなくてもよいため、作業計画を立てやすくなります。
データ管理サービスも展開
ヤマハ発動機は、ドローンと併用するシステム開発にも力を入れています。
「YSAP(Yamaha Motor Smart Agriculture Platform)」は、ヤマハのドローンや無人ヘリコプターの作業・運行をパソコンやスマートフォンでデータ管理できるシステムです。
このシステムをより農家に役立つものにするため、2019年3月に、農業向けのシステムやサービスを提供する3社との協業が発表されました。
協業する3社と協業分野:
・国際航業株式会社:衛星画像分析による生産性向上サービス「天晴れ(あっぱれ)」
・株式会社トプコン:可変追肥システム運用のための育成センサー「Crop Spec」
・ウォーターセル株式会社:農作業の工程データを一元管理できる農業支援システム「agri-note(アグリノート)」
協業企業の技術を組み合わせることで、生育状況をできるだけ正確に把握し、散布のタイミングや散布量の最適化をサポートすることをめざしています。
「YSAP」の概要
写真提供:ヤマハ発動機株式会社
静岡県浜松市の実証プロジェクトで採用
ヤマハ発動機のドローンは現在、浜松市の「中山間地スモールスマート農業実証プロジェクト」に採用されています。
このプロジェクトは、小規模で分散した中山間地の農地でのスマート農業普及をめざすもので、農家とヤマハ発動機などの農機メーカー、地域の農業団体などが協力して実証実験を行っています。
実証実験が実施されているのは、市内の中山間地域にある春野町。春野町では、機械を導入しにくい斜面での重労働や、農家の担い手不足が課題となっており、ドローンによる省力化が期待されています。
春野町内で特産の切り干し大根向けの大根を栽培している「笑顔畑の山ちゃんファーム」(山下光之代表)のほ場で、ドローンによる液体肥料の散布やセンシングによる生育管理などを実際に行っています。
2020年11月の見学会では、実際に約1,000平方mにドローンで肥料散布を行い、高い精度の肥料散布が5分程度で完了することが紹介されました。従来の手作業から大幅に時間を短縮できたといいます。
実験期間は2020年4月からの2年間。検証結果が明らかになれば、中山間地域におけるドローンの具体的な導入効果が明らかになるでしょう。
出典:静岡新聞「スマート農業で中山間地の課題解消 浜松・春野で官民協働実験」
浜松市の「中山間地スモールスマート農業実証プロジェクト」が実施されている山間地の耕作放棄地を再生した大根のほ場と「YMR-08」
写真提供:ヤマハ発動機株式会社
農業用ドローン導入に必要な手続きと費用
実際にドローンを導入するには、国への申請手続きが必要です。
飛行を予定している地域を管轄する空港事務所、または地方航空局へ申請書と必要書類を提出し、国土交通省の承認を得ます。
申請が受理されるまでには日数がかかるため、飛行開始予定日の10開庁日前までに手続きを済ませましょう。
国交省の承認には一定の技能・飛行経歴が必要になります。あらかじめ民間団体が開講している講習などを受けておくとよいでしょう。
必要な費用は、ドローン本体の購入費のほか、講習受講料、メンテナンス費、ドローン保険料などがあげられます。予算は最低でも100万円~200万円は準備しておきましょう。
コストを抑えたい場合は、周辺農家と共同購入しシェアリングする方法もあります。導入に関心を持っている農家がいれば、一緒に検討してみましょう。
ビジュアルジェネレーション / PIXTA(ピクスタ)
ヤマハ発動機を始め、メーカーの開発競争がさらに進めば、今よりも高性能・低コストのドローンが登場する日は遠くないかもしれません。導入を検討されている方は、国やメーカーの最新動向を引き続き注視していきましょう。
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西岡日花李
大学在学中より東京・多摩地域の特産・伝統文化などを取材し、街のローカルな魅力を発信するテレビ番組制作・記事を執筆。卒業後は大学院でジャーナリズムを学び、神奈川県のミニコミ紙記者として勤務。マスメディアでは取り上げない地域の課題を幅広く取り上げ、経験を積む。現在はフリーライターとして主に農業をテーマにした記事を執筆。農業の様々な話題を通して、地方都市の抱える問題や活性化への手立てを日々考察している。