農薬散布ドローンの導入に補助金は使える?できる限り自己負担を減らす方法
スマート農業には欠かせない存在であるドローンですが、導入するにはかなりのコストがかかります。本記事はドローン導入時に利用可能な補助金・助成金制度について紹介しています。具体的な購入費用や維持費についても説明があるので参考にしてください。
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目次
農業の分野でも、農薬や肥料の空中散布でドローンの利用が広がっています。他の農機同様、ドローンも購入費用以外に、メンテナンスなどのコストがかかります。それらのコストを抑えるため、この記事では導入コストの詳細と、利用できる補助金制度について解説します。
農薬散布ドローンの導入には全部でいくらかかる? 必要な費用と金額の目安
kazuki / PIXTA(ピクスタ)
以前は無人ヘリコプターによる農薬の空中散布が主流でしたが、現在はドローン関連技術の進歩が目ざましく、日本では2016年頃から農薬散布でのドローン導入が増加してきました。作業負担とコストを大幅にカットできることが多いようです。
最新型ドローンで農薬散布を行うには、どれくらいのコストがかかるのか、この記事では、導入とメンテナンスにかかるコストを紹介します。
ドローン本体の購入費用
農業用ドローンの本体価格は、100万円を切るものから200万円を超えるものまで、メーカーや性能によって大きな価格差があります。
実際に販売店に問い合わせをしないと実売価格が分からない機体もありますが、農林水産省の農業用ドローンカタログによると、100~250万円ほどのものが主力商品となっているようです。
参考資料
農林水産省 基本政策>スマート農業のページに主要な農業用ドローンのカタログがあります。
■「農業用ドローンの普及拡大に向けた官民協議会」所収の「農業用ドローンカタログ 機体編 2020.11」
■「農業新技術_製品・サービス集」所収の「農業新技術 製品・サービス集 令和2年7月1日時点版 」(2021年4月更新)の「農業用ドローン【機体】」
広いほ場をカバーする場合は、作業効率を考えると、より大型で高性能な農業用ドローンが必要になります。しかし、その価格は乗用車に匹敵します。農業用ドローンは、決して安い買い物ではなく、慎重に検討すべき機材となります。
Ystudio / PIXTA(ピクスタ)
ドローン購入後のメンテナンスにかかるコスト
農業用ドローンを長期的に維持・運用していくためには、ほかの農業用機械と同様に定期的なメンテナンスが必要です。自動車の車検のように、法定の点検義務はないものの、定期的な整備をして機体寿命を延ばすことで総コストを下げることができます。
メンテナンスの基本は、年1回メーカーや専門業者の定期点検を受けることです。機体フレームと内部消耗品、モーターやバッテリーなどをひと通り点検・整備すると、年間で7~9万円程度のメンテナンス費用がかかります。
参考サイト:株式会社マゼックス「年次点検・メンテナンス」
操縦方法を学び実績も積める「スクール受講費用」
農業用ドローンは、購入後すぐに自己責任で飛行させてよいものではありません。紛失、損壊、第三者の身体・財産への損害などといったトラブルを避けるためにも、まずは基本的な操作方法を学ぶ必要があります。また、農薬の空中散布をする場合には、一定時間の飛行実績をもとに申請を行わなければなりません。
※農業用ドローンの使用規制などはこちらの記事「農薬散布にドローンを活用するメリットや規制などについて解説」の「使用に規制はある?導入前に知っておきたい基礎知識」の項をご覧ください。
※また、規制の詳細は、国土交通省「無人航空機飛行マニュアル」、農林水産省「無人ヘリコプターによる農薬の空中散布に係る安全ガイドライン」をご参照ください。
こうした技術と実績を得るために、ドローンスクールで講習を受けることが効果的です。その場合の受講費用は、一般的に20万円前後が相場となっています。
参考サイト:株式会社ワザモノが運営するDRONE SCHOOL NAVI 「ドローンスクールの料金が知りたい!料金相場やコース別料金をご紹介」
万が一に備える「ドローン保険」の加入料
万が一農薬散布中にドローンが落下したり、人や物に対して損害を与えたりした場合に備えて、ドロ-ン保険へ加入することも大切です。保険には自動車事故と同様に、対人・対物の賠償責任保険と、ドローン機体の損害を補償する機体保険があります。
大手損害保険会社の例を挙げると、賠償責任保険の場合、最高ランクの対人・対物10億円補償タイプでは、年間の掛け金がおおよそ10,000~14,000円程度です。機体保険はメーカーの機種ごとに料金設定が異なり、年間で約5,000~60,000円程度と幅があります。
例えば、東京海上日動火災保険株式会社の「ドローン保険」では、個人事業主を想定した最も手軽な「ライトプラン」で年間4,000~50,000円ほどに設定されています。(機種によって保険価額は異なります。実際の保険価額は見積を依頼することで算定します。)
現在多くの保険会社がドローン保険を取り扱っています。加入を検討するときは、補償内容や保険料などを詳細に比較してみましょう。
参考サイト:東京海上日動火災保険株式会社「ドローン保険」
自己負担を減らしたい!農業用ドローンの導入に使える補助金・助成金制度一覧
chaaaim / PIXTA(ピクスタ)
これまで見てきたように、農業用ドローンを購入して運用するためには、少なくとも百万円単位の投資が必要です。ここではその負担をなるべく減らすため、農家が利用できる補助金や助成金制度について紹介します。
農林水産省による農家向けの補助金「強い農業・担い手づくり総合支援交付金」
農林水産省が実施する「強い農業・担い手づくり総合支援交付金」の要綱で、ドロ-ンもスマート農機として補助金の対象であることが示されています。一般の農家がドローンの導入に活用できるのは、この中の「先進的農業経営確立支援タイプ」と、「地域担い手育成支援タイプ」の2つです。
主に耐用年数5~20年の農業用機械の導入に利用でき、補助率は10分の3以内です。日本農業全体の強化が目的の補助金なので、スマート農業の一環としてドローンを導入する場合、補助金の対象として適格性があります。毎年早い時期に公募が始まり、公募期間が限られているため注意が必要です。
農林水産省「令和3年度強い農業・担い手づくり総合支援交付金(生産事業モデル支援タイプ)の公募について」はこちら
個人事業主でも参加可能な「産地パワーアップ事業」
同様に、農林水産省が実施する「産地パワーアップ事業」は、農業での収益力強化を図る地域内で、農業機械や施設の導入に必要な資金を補助する事業です。ドローン導入の場合、機体購入価格の2分の1以内の補助金を受けられます。
対象者は、地域農業再生協議会などが作成する「産地パワーアップ計画」に参加することが条件です。年間を通してさまざまな補助事業が公募されているので、常に農林水産省のホームページなどでチェックしておくとよいでしょう。
農林水産省「産地生産基盤パワーアップ事業関係情報」のページはこちら
生産性向上のための設備投資を支援する「ものづくり補助金」
中小企業もしくは小規模事業者に該当すれば、農業でも経済産業省が実施する「ものづくり補助金」を活用できます。補助金の上限は原則1,000万円で、一定の条件を満たすと費用の3分の2、それ以外の場合でも2分の1が補助されます。
出典:ものづくり補助事業公式ホームページ「ものづくり補助金総合サイト」公募要領
ただし審査が厳しいことで知られており、詳細で正確な事業計画書や各種申請書の作成など、申請準備にかなりの負担がかかります。ドローンの販売会社の中には、申請サポートに対応しているケースもあるので、購入前に相談するとよいかもしれません。
参考サイト:株式会社WorldLink&Company 「SkyLink ものづくり補助金・申請サポートサービス」
低価格のドローン購入に使いやすい「小規模事業者持続化補助金(一般型)」
日本商工会議所が実施する「小規模事業者持続化補助金(一般型)」は、主に商業・サービス業・製造業などが対象の補助金制度です。しかし自身で生産した農産物を販売する場合、製造業として農家も補助金の対象になります。
補助金の上限は原則50万円で、補助率は費用の3分の2と少額ですが、低価格の農業用ドローンの導入なら、十分にコスト削減が可能になるでしょう。この事業も経営計画書や各種申請書など、詳細な申請書類が必要になるので、希望する場合は一度地域の商工会議所に確認するとよいでしょう。
日本商工会議所の「小規模事業者持続化補助金メニュー」のページはこちら
要確認!地域や自治体独自の助成制度が使えることも
地域によっては、ドロ-ン導入に独自の助成金制度を用意しているところもあります。一例としてJA香川県では2017年に、「農業所得増大・地域活性化応援プログラム」の一環で「農薬散布用ドローン導入助成事業」を実施していました。
出典:JA香川県 2017年6月「農薬散布用ドローン導入助成事業要領」
ドローン導入を検討するときには、地域のJAや自治体に相談することをおすすめします。
併せて検討したい、補助金以外の「導入ハードルを下げる方法」2つ
ドローンの導入を前向きに検討するなら、補助金以外にもコスト削減策を考えておくべきでしょう。予算が限られている場合は、購入する機体を可能な範囲で低価格のものに抑えたり、もしくは金融機関のローンを上手に活用したりと、計画的に検討することが必要です。
導入コストを大幅削減!必要な機能はしっかり備えた「低価格ドローン」も視野に
株式会社マゼックス 農業用農薬散布ドローン「飛助mini」
出典:株式会社 PR TIMES
現在の進歩する技術の中では、高額なドローンだけが高性能とは限りません。農業用ドローンは日々進化を続けていて、高性能化と低価格化が同時進行しています。導入コストを抑えるなら、ある程度機能を絞った低価格ドローンを選ぶのが効果的です。
農薬散布に必要最小限の性能に限定すると、一例として株式会社マゼックスの「飛助mini」なら税別55万円で購入できます。
東京ドローンプラス株式会社の「ヘリオスアグリ5」も、機体価格は税別65万円です。ほ場の広さや農薬散布の頻度によっては、これらの機種で十分対応できるかもしれません。
出典:
株式会社マゼックス 「飛助mini 農業用農薬散布ドローン製品一覧」
東京ドローンプラス株式会社 「農薬散布用ドローン『ヘリオスアグリ5』」
東京ドローンプラス株式会社 農薬散布用ドローン「ヘリオスアグリ5」
出典:株式会社 PR TIMES
初期費用の負担を軽減。農業用ドローンの導入に使えるローンの利用も検討を
補助金に頼らずにドローンを導入する場合には、なるべく低金利のローンを活用することをおすすめします。日本政策金融公庫のスーパーL資金(農業経営基盤強化資金)なら、0.16~0.30%の低金利での借り入れが可能です。
日本政策金融公庫「スーパーL資金」のページはこちら
また、JAバンクの「JAの農業融資」なら、さまざまなタイプの資金融資とローンが準備されています。ドローン導入計画の立案も含めて、一度相談してみるとよいでしょう。
JAバンク「JAの農業融資」のページはこちら
スマート農業を実践するうえで、農薬散布用ドローンは欠かせないパートナーになるでしょう。最新技術を搭載したドローンは、農作業の効率化に大いに貢献するはずです。
しかし、ドローンの導入にはかなりの投資が必要になることも事実です。補助金やローンなどを上手に活用して、なるべくコストを抑えながら、最新テクノロジーを駆使して一歩進んだ農業をめざしましょう。
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大澤秀城
福島県で農産物直売所を立ち上げ、店長として徹底的に品質にこだわった店づくりを行い、多くの優れた農家との交流を通じて、農業の奥深さを学ぶ。 人気店へと成長を遂げ始めたさなかに東日本大震災によって被災。泣く泣く直売所をあきらめ、故郷の茨城県で白菜農家に弟子入りし、畑仕事の厳しさを身をもって体験する。 現在は農業に関する知識と体験を活かしながら、ライターと塾講師という2足のわらじで日々歩みを進めている。