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食品ロスの定義とは?日本の現状と、生産者による廃棄野菜削減アイデア

食品ロスの定義とは?日本の現状と、生産者による廃棄野菜削減アイデア
出典 : Koms / PIXTA(ピクスタ)

日本における食品ロスの量は、世界で飢餓に苦しむ人たちへの食糧援助量をはるかに上回るため、食品ロスの削減は喫緊の課題です。消費者や食品関係業者だけでなく、生産者である農家にも、フードバンクや6次産業化を活用した積極的な取り組みが求められます。

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食品ロスは消費者や食品関係業者、小売業者だけでなく、農家にとっても重要な問題です。手塩にかけて栽培した作物が食べられずに廃棄されてしまう食品ロス。その現状をまとめ、農家にできる対策について参考事例も取り上げながらご紹介します。

食品ロスとは?日本における食品廃棄の現状

売り物にならないミニトマト

北上 雷 / PIXTA(ピクスタ)

本来、食べられるのに捨てられてしまう食品のことを「食品ロス」または「フードロス」といいます。食品ロスは、世界的な食糧不足が懸念される一方で深刻化しており、消費者と生産者・食品業者がともに取り組まなければならない問題です。

以下、食品ロスの現状と問題点について解説します。そこから見えてくる生産者としての役割とは、どのようなものなのでしょうか?

食品ロスの現状

日本では近年、食品リサイクル法や食品ロス削減推進法が施行されるなど、国や自治体を挙げて削減への取り組みが進められています。

農林水産省と環境省では、食品ロスの状況分析や食品ロス量の推計を公表し、指標として2030年度までに事業系食品ロス削減目標273万トンを掲げています。

出典:農林水産省食糧産業局「日本の食品ロスの状況・食品ロス量の推移」

日本の定義では、食品ロスは「事業系」と「家庭系」に分類されます。

事業系とは、食品製造業・卸売業・小売業・外食産業の各過程で廃棄される食品を指し、家庭系とは家庭で食べられずに廃棄される食品を指します。

不思議なことに、この数値には生産段階にて規格外や需給バランスなどの理由で廃棄される作物は含まれません。

2017(平成29)年度の推計値によると、食品ロス全体で612万トン、そのうち事業系が328万トン、家庭系が284万トンにも上っています。国民1人当たり、1日にお茶椀1杯分の食糧を捨てていることになります。いったいなぜ、このような大量の食品が廃棄されてしまうのでしょうか。

なぜ食品ロスが発生するのか?3分の1ルールの実態

食品ロスの約半分を占める家庭系廃棄の主な原因は、買いすぎて食べきれずに捨てたり、野菜の皮や脂身などを過剰に取り除いたりすることです。消費者の食に対する意識の低さが要因と考えられます。

一方、事業系の食品ロスは、製造段階での規格外品や端材の発生、流通・小売り段階での余剰や破損、食べ残しや売れ残り、包装や印字の不良などが主な原因です。

事業系の食品ロスの背景には、消費者本位の品揃えや価格設定など、消費者至上主義の考え方があるといえるでしょう。その典型例として、「3分の1ルール」という商習慣があります。

3分の1ルールとは、製造元から流通を経て小売業者に納入されるまでの期間を、製造日~賞味期限の期間の3分の1とするもので、例えば賞味期限が半年の食品は、製造から2ヵ月経つと小売店に卸せなくなってしまいます。

納品期限は日本以外の国でもありますが、日本は消費者の鮮度に対する意識が強く、他国に比べてこの期限が短いのです。

こうした商習慣は、消費者のためのサービスとして定着してきました。しかし、大量の食品ロスは当然ながらコストを無駄にし、また廃棄にもコストがかかり、それが商品価格にも反映されるので、結局は消費者の利益にはならないといえるでしょう。

食品ロスの削減を目指す「フードバンク」という取り組み

野菜を受け取る親子

Mills / PIXTA(ピクスタ)

食品ロス削減の具体的な取り組みとして注目されているのが、「フードバンク」です。そのシステムと現状をご紹介します。

フードバンクとは?

フードバンクとは、NPO法人などのフードバンク団体が、本来食べられるのに業者や消費者の都合で行き場のなくなった食品の提供を受け、食べ物に困っている人や施設に届けるという社会福祉活動です。

取り扱う食品は団体によって異なりますが、主に缶詰などの加工食品全般や生鮮食品、米、パン、冷凍食品、防災備蓄品などです。販売可能期間が短い弁当や衛生上問題のある食べ残し、賞味期限切れの食品は扱いません。

食品ロスの削減だけではない、フードバンクがもたらす効果

フードバンクの目的は、食品ロスの有効活用と同時に、受益者(食べ物に困っている人や施設)に対して経済的な負担減と食生活の向上をもたらすことです。しかし、この活動で得られるメリットはそれだけではありません。

フードバンクの支援者となる企業(主に食品製造業、食品加工業者や小売業者など)にとってもさまざまなメリットがあります。不要となるはずの食品の廃棄コストがかからなくなるうえ、社会貢献や環境負荷の軽減となる活動は、企業のイメージや従業員の士気を大きく向上させます。

また、自社製品が無料配布されることで、商品が広く知れ渡るマーケティング効果も期待でき、そこから新規顧客の掘り起こしにつながる可能性もあります。

地域や行政にとっても、産業廃棄物が与える環境への負荷の軽減や、貧困家庭の生活向上による財政負担の軽減、地域の活性化とイメージアップなどのメリットが考えられます。住民の食への意識向上や相互扶助の思想の定着など、目に見えない効果も期待できるでしょう。

農家もフードバンクへの支援が可能!税制上のメリットも

フードバンクの支援者になれるのは、食品製造業、食品加工業者や小売業者などの企業だけではありません。農業法人はもちろん、個人経営農家でも支援者になることが可能で、前述のメリットを受けられます。


食品ロスの定義とは異なり、フードバンクで扱う食品には、市場に出すことのできない農産物も対象となります。これらの食品提供には、書類を作成し契約を交わすなどの手続きが必要ですが、料金は発生しません。

提供が決まったら、自己負担で食品を決められた場所に発送します。なお、提供に要する費用(提供した食品の帳簿価額やその発送費用)は全額、損金として計上できるという税制上の措置があるため、農家も支援者としてのメリットを受けられます。

農家には何ができる?廃棄野菜の有効活用を実現した成功事例

規格外のきゅうり

Fuchsia/ PIXTA(ピクスタ)

フードバンクのほかにも、食べられるのに廃棄されてしまう作物を有効活用する事例はたくさんあります。ここでは、そんな成功事例の1つをご紹介します。

廃棄野菜をピクルスに きゅうり農家が実現したフードロス対策

「これ、食べられるのになんで捨てるのだろう?」という素朴な疑問から、栃木県の若ききゅうり農家は、実家のほ場で廃棄されていた野菜の有効活用に取り組み、6次産業化を成功させました。

栃木県下野市で、きゅうり栽培や水稲栽培を営む若松農園の若松靖幸(わかまつ・やすゆき)さんです。

若松さんは始め、規格外のきゅうりを道の駅などの直売所で売ろうと考えましたが、売り先にも断られ、家族にも反対されて断念することになりました。

そこで視点を変えて、加工食品として売り出すことを検討します。勉強のため多くのイベントに足を運び、さまざまな人と交流するうちに、カレー店を営み志を同じくする、パートナーと出会います。

外食産業として直接消費者の反応を知るパートナーとともに、「食品ロスを少なくしたい」という共通の思いをコンセプトに、若い人や女性向けの味や香り、パッケージにもこだわったピクルスを完成させます。

資金調達には、テストマーケティングやPRを兼ねて、クラウドファンディングを活用しました。

このピクルスは、利益を上げるための商品ではなく、廃棄野菜の現状や自分たちの活動について知ってもらうためのきっかけにしたい、というぶれない思いが、2人の若者の成功を支えています。

若松農園のFacebookページはこちら

「6次産業化」が、ロスの削減と収益アップを同時に叶える一手となるかも

この事例に見られるように、生産者が作物の加工・流通・販売までをすべて行う取り組みは「6次産業化」と呼ばれ、国でも積極的に推進しています。

この取り組みに規格外の野菜などを活用することで、食品ロスの削減と収益アップが同時に叶えられる可能性が広がります。

食品ロスの削減は、消費者と食品関係業者に対応が求められています。しかし、手塩にかけて栽培した作物が食べられることなく廃棄されてしまう辛さは、農家にとっても同じことです。

食の源を生産する農家として、食品ロスに向き合い、積極的に削減への取り組みをリードしていきましょう。

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大曾根三緒

大曾根三緒

ビジネス、ペット、美術関連など多分野の雑誌で編集者として携わる。 全国の農業協同組合の月刊誌で企画から取材執筆、校正まで携わり、農業経営にかかわるあらゆる記事を扱かった経験から、農業分野に詳しい。2019年からWebライターとして活動。経済、農業、教育分野からDIY、子育て情報など、さまざまなジャンルの記事を毎月10本以上執筆中。編集者として対象読者の異なるジャンルの記事を扱った経験を活かし、硬軟取り混ぜさまざまなタイプの記事を書き分けるのが得意。

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